2019年11月21日公開
2019年11月21日更新
フリーランスが天国か地獄かは現職しだい。フリーに転身して破滅する人の特徴とは(トイアンナ)
フリーランスは天国だ。だが、あなたにとっては地獄かもしれない。外資系企業に数年務めたのちにライターとして独立したライター・トイアンナ氏が、安易なフリーランス転向に警鐘を鳴らす。
フリーランスは天国だ。
だが、あなたにとっては地獄かもしれない。私は社会人になって7年、うち3年をフリーランスとして働いている。独立してからも会社員時代と年収、業務面で大きな変化はなく、取引先にも恵まれてやってきた。
……が、これはかなりの例外だ。会社員からフリーランスに転身するなら、多くは収入減を覚悟することとなる。フリーランスになるメリットばかりが強調される昨今、見過ごされているリスクの話を書いていきたい。
そもそも、フリーランスになるメリットは自由度にある
そもそも、フリーランスになるメリットは何か。まずは、圧倒的な自由度だ。たとえば私はいま、「朝11時に起床して、13時から働く」サイクルで生活している。会社員としてこの生活ができる企業はそうない。夜型にとっては天国のような環境だろう。
また、人に会うのが苦手な人も、フリーランスなら働きやすい。業務によっては自宅で受注できるからだ。私は営業も好きなのでガンガン外へ行くが、同業者にはネットですべて完結させる人も多い。口下手だったり、お酒の席が苦手だったり……。技術はあるが社内政治が苦手な人は、フリーランスの方がほっとできるかもしれない。
そして、フリーランスは年収も自分でコントロールできる。会社員にとって、年収とは業界の相場や会社全体の業績に左右されるもの。自分が働いた量や質で、翌年の昇給は狙えても毎月の給料は変わらないはずだ。フリーランスは、働いたらその分収入が増える。
私のやっているフリーライターなんかは顕著で、「原稿をあと1本書けば〇〇〇円の収入になる」とハッキリ月収が見える世界だ。来月は出費が多いから多めに働き、再来月は休みたいから仕事を減らして旅行へ……なんて自由度は、フリーランスならではだろう。
だが、フリーランスになると手取りが減るリスクが大きい。その理由は2つある。
手取りが減る理由1 企業の経費が自腹になる
たとえばライターなら、パソコンや文房具、プリンター、出張交通費、打ち合わせ先の飲食費が自腹になる。ライターとして本気で働くなら、パソコンの寿命は約2~3年。会社支給のパソコンを使うのと、自腹でパソコンを買うのだけでも大きな差が出る。イラストレーターならAdobeの高価なソフトを自腹で購入することとなるため、これだけでも手取りが減ってしまう。
さらに、会社でこれまでなら手に取って調べられた資料も、これからは自分で購入せねばならない。会社にいたころは会議室を使えたが、フリーランスはカフェや貸会議室にお金を払う。必然的に、飲食のコストも増える。
手取りが減る理由2 福利厚生がなくなる
福利厚生が手厚い会社からフリーランスになったせいで、年収が1/3以下まで減った事例がある。
この男性は、前職でホワイト企業に勤めていた。家賃補助、地方勤務手当、さらに外部セミナーの費用まですべて会社負担。それを当然としてきた。だが、いつまでもぬるま湯にいてはいけないと、一念発起してフリーランスに転職したのだ。
彼の場合、年収が800万から400万に半減したのだから、手取りが減るのも当たり前。だが、彼は年収が「せいぜい半分」になるだろうと考えていた。ところが経費がかさんで、手取りは1/3以下になってしまったのだ。
本人は「年収800万のサラリーマンから、思い切って年収400万のフリーランスになろう。年収が半分になる覚悟はいるけれど、若いころは年収も低かったんだし、あの時の水準で暮らせばいい」と考えていた。
ところが、フリーランスは「会社員として同じ年収だったあのころ」と同じ暮らしにはならない。日本の伝統的な金融機関やメーカー、商社は、福利厚生がかなり手厚い。家賃補助や転勤手当などは「もらえて当たり前」なうえに、年収に乗っていることを忘れがちだ。
さらに、社会保険料も会社員は企業が一部を払ってくれる。だが、フリーランスは自分ですべてを支払わねばならない。
そして、年収を下げる転職なら必ず覚悟してほしいのが「社会保険料は前年の年収ベースで請求される」ことだ。年収800万から400万になっても、社会保険料は「あなたって、年収800万ですよね? これくらい払えますよね?」と巨額の請求がくる。年収を減らし、さらにフリーランスになると、自腹の経費と社会保険料がダブルパンチになるのだ。
結果としてこの方はフリーランスとして続かず、半年で会社員として復帰した。彼は復帰できたからよいが、後戻りできないキャリアの場合は悲惨な末路が待ち受けている。
フリーランスでも楽に感じる人はブラック出身者に多い
ところが、こういう話はフリーランス界隈であまり聞かない。むしろ「手取り? 会社員時代とあまり変わらなかったよ~」なんて人もいる。それは、フリーランスの前職がえてしてブラック企業だからだ。
フリーランスになるきっかけには、前職がブラックすぎて「これ、自分でやったほうが儲かるんじゃ?」と気づいた【ランボー怒りの独立】パターンも多い。前職がブラックだと、先ほどのような福利厚生がほとんどない。それどころか、つらい話、法律に触れる話がどんどん出てくる。
以下は、私が実際に聞いた事例だ。
――Webデザイナーだったが、Adobeのソフトは全部自腹だった。会社ではメモリ4GBのWindowsしか支給されず、イラストレーターを起動するだけで固まってしまうので仕方なく自分で買ったMackintoshを使っていた。あまりに理不尽なため上司に相談したら「お前の実力がないから会社のパソコンで絵が描けないんだ」とキレられた。今もパソコンやソフトウェアは自腹だが経費にできるので、やる気が出る。
――営業だったが、交通費を支給されたことがない。接待もすべて自腹だった。残業もすべてサービス。一番嫌だったのは、採用の手伝いで内定した学生を歓待する際、ご飯をおごらされたこと。さすがにそれくらい出してほしかった。深夜残業でもタクシー代が出ないため、会社に寝泊まりしていた。フリーランスになってからは交通費や接待交際費が経費計上できて所得税が減るので、独立してよかった。
――新卒でベンチャーに就職したが、まさかのPCは自宅から持ち込み。セキュリティが不安だった。社会保険料も払ってもらえず、国民健康保険で全額払っていたのでフリーランスになっても変化はなかった。
このように、ブラック企業出身者にとってのフリーランス転身は「前と同じ、もしくは経費になるだけよかった」変化となる。しかし、この手の体験談をうのみにして、「なんでも経費計上できるから所得税が減って助かる」と思い込み、もともと経費がふんだんに支給される会社から転職すると大変な苦痛を味わうだろう。
ホワイト企業出身者はフリーランス転身より転職を考えて
そんなわけで、ホワイト企業に勤めているあなたはフリーランスの転身前にじっくり考えたほうがいい。ここでいうホワイト企業とは、こんな定義だ。
- 会社から家賃補助が月3万円以上出る
- 関連業務のセミナー、書籍代が支給される
- 社割で高価なもの(住宅や車など)が購入できる
- 出張や接待の経費が支給される
- 飲み会は会社負担だ
- 残業代は原則として全額支給
- 有給休暇を取得した日は、一切働かなくてよい
- 社用携帯、PC、ソフトが支給されている
- 転勤したら手当が月5万円以上出る
半分以上に当てはまった方は、いきなり独立しないほうがいい。あまりの落差に暮らしていけなくなるリスクがあるからだ。
切磋琢磨したい、自分の力でやっていきたいなら、まずは成果主義の会社へ転職しよう。外資系コンサルティングファームは前代未聞の大量採用が数年続き、未経験者も入りやすくなっている。
リクルートをはじめとするメガベンチャーは、厳しい環境だが周囲のサポートもある。また、大手ベンチャーへの転職であれば転職に失敗しても退路がある。
実質フリーランスの転職先に注意
ただし、実力主義をうたう企業への転職でも、契約形態が業務委託だったり、社会保険適用がなかったりと「実質フリーランス」の職場には注意したい。毎日会社へは通勤するものの、社会保険料を全額自腹、経費もナシ、残業代もつかないなら、先ほどの「ランボー怒りの独立」コースまっしぐらだ。
意外と大手企業でも業務委託契約なのにマネージャー採用だったり、契約社員(3か月毎に更新)なんて不安定な契約だったりするブラックな職場がある。大手だから安心と、雇用契約書も読まずサインをせぬよう十分に注意してほしい。
特に「やりたい夢をかなえるため、修行のつもりで転職する」ときほど、人は雇用形態を無視しがちだ。どんな夢をかなえるための修行でも、年収は高いほうがいいし、福利厚生はあったほうがいい。
「転職だからいい」「フリーランスだからリスクがある」のではなく、雇用形態や実際の手取りを常に意識して転職していこう。
この記事を書いた人
トイアンナ
外資系企業に数年務め、のちにライターとして独立。最高月間50万PVを記録したブログ『トイアンナのぐだぐだ』や、その他10以上の媒体で連載中。6月に新著『恋愛障害 どうして「普通」に愛されないのか?』を発売。女性のキャリアや生き方やを主なテーマとして執筆活動を展開している。