今週のお題「戦国時代で現代人が成長する物語」
登場人物:オババは私の姑。ディズニー狂で元気一杯の76歳。以前の【結婚と毒親】シリーズでは、多くのオババファンができました。そして、今回は戦国時代に意識が飛び、他人の身体をアバターとして生きるオババ&アメリッシュのお話です。
(前回までのあらすじ:戦国時代の母娘と意識が交換されてしまった私と姑オババ。アバターである女性を生かすため兵隊になる決意。明智光秀軍で補給部隊にはいる。7人の仲間とともに戦場へと物資を運ぶことになった)
戦場への道
大きな俵を乗せた2台の荷馬車が私たちホ組の担当だった。満杯の荷車を駄馬が引いていくんだけど、
こんな量を馬1匹で引っぱれるのかい?
すごく不安になったね。だって、私が見上げるほどの量だよ。
私たちと一緒に行く荷車は全部で10台ほどだったけど、それぞれ満杯に荷物をのせていて、引いてる馬は口元に白い泡を吹いてるほどの老いぼれ馬が多いんだ。
きっと数年、いや数ヶ月後には、この世を去っていそうな老馬たちが、こんな苦役に駆り立てられるなんて、今こそ、どっかの保護団体の出番だって思ったよ。
その上に、付き従う兵は60人ほどなんだけど、それがまたヨボヨボの老兵と女ばかり。補給などの仕事は戦闘には役に立たない人間を使うのだろうか。
「兵士は女と老人ばかりじゃないか」と、オババが小頭トミに話しかけてた。不安に感じたと思う、私だってそうだから。
「ああ、そうだな」
トミの顔が怪訝そうに歪み、それから、ボサボサの頭をがさつに掻いた。ちょっと気になった。いや、ちょっとどろこじゃなく気になった。
「いつもこうなのか?」と、オババがさらに問い詰めると、
「おっし、出発だ! 遅れてるぞ」とトミが怒鳴った。
荷馬車2台が小荷駄隊ホ組の担当で、そして、最後尾だった。私とオババが身支度に手間取ったんで、遅くなったんだと思う。
荷車には小学生みたいなハマがのり、もう一台の手綱はカズが取った。体重の少ないものが乗っているようなんだ。
ともかく、馬で驚いたことがあってね。現代のサラブレットのような美しい馬ではなく、ごつくて小さい。北海道で見た道産子の馬みたいなんだよ。
よくこの小さな体でこんな荷を運べるなって同情するくらいだった。
もちろん、戦国の世だから舗装道路なしの、でこぼこした道で砂煙を撒き散らしながら歩くわけで、荷車の横を歩きながら、すぐへきえきしちまった。
「荷台に1人なら、わたしたちは何のためについてくんですか」
「そのうち、わかる。荷車で通れへんところとか、馬車から下ろした荷を担ぐ人間が必要や。特に橋のない川の浅瀬を渡るときなんかな、それから用心棒としても」と、言ってからトミは独り言のように「今回の荷は大きいな」と呟いた。
「どこへ行くんですか」
「それは、わからん」
「知らないのですか」
「先頭の道案内が知ってるわ」
それから、トミはギロっと睨むと、こう言い放った。
「あんま、聞くなや。疑われるで」
「疑われるって」
「あのな。こういう荷を運ぶときには密偵が潜んでいるもんや。そいつらに行き先を知られんことも必要さ」
そういうことか。行列は途中で遅くなるものもいて、徐々に縦に長くなった。のどかな道を歩いていると、ここが戦下だって忘れる。オババを探すと、少し遅れて歩いていた。
「行き先、知らないって、スパイを警戒してた」
「ありそうなことだ」
「今は春だとすると、1月に足利将軍が挙兵して信長と和解した時期ですよね。この夏の7月に、足利将軍は再び挙兵します。武田信玄が病死したという情報を知らなかったようで、武田軍を当てにしたんです。その辺のこと、グーグルで検索したいですね」
「グーグル検索できれば便利だな、まあ、信長は勝つのだろう」
「ギリギリでした。それにこの地帯を収めていた三好勢が、しつこくゲリラ戦をおこなって、織田勢を苦しめていたと史書で読みました」
以前に琵琶湖周辺を支配していた三好家は名門の家柄だったんだ。
ほら、よくあるでしょ。
伝統に踏ん反り返って威張ってた奴が、いざって戦いになると、スタコラ逃亡して。それから、プライド高いから、いつまでも根にもってコソコソと嫌がらせするって類がさ。この時期の三好がまさにそれ、織田軍へのゲリラ攻撃で兵を削いでいた。
「なるほど。つまり、この行軍は危険があるということか」
「光秀の本体はどこを攻めているのか。石山城か、今堅田城かわかりませんが、そこへの補給を狙うってありそうです」
「なるほど」
「ここに電話はないし、携帯もスマホもないですから、通信手段としては人しかないですから、さっきのスパイの話もありそうです」
「情報が、それほど大事なのか?」
「明智光秀は将軍の家臣を辞めるとは言ったんですが、将軍側は聞き入れてないです。いつ将軍は光秀を諦めたか、その正しい情報を得ることも難しいでしょうし。それで各々の戦略も変化するでしょう」
「戦国時代も情報戦か」
「情報戦です」
私たちは歩いた。もう、こんなに歩いたことはないってくらい、ただただ歩き続けた。最初は口笛まじりで話しながら、それから無口になって、息が上がり、そのうちランナーズハイっての、なんだか歩くのが気持ちよくなってきた。
ここが戦場で、戦国時代なんて思えないほどで、蝶がひらひら舞い、鳥のさえずりが聞こえ、車輪の回るガタガタという音が続く、砂埃さえなければ、ゆったりした気分になれたろうな。
途中から山道に入ると、そこは一本道で左側は絶壁、右が林道で険しくなった。平坦な道でも辛いが坂道はさらに息が上がった。
山道に入る前に休憩をとったので、半日くらい歩いたろうか。しばらく坂を登っていくと前方から騒々しい音が聞こえてきた。喧騒はさらに大きくなってくる。
「オババ!」
「ああ」
私たちが気づくより早く、あのやばいテンが荷台の上に飛び乗っていた。
「敵だ!」
テンが叫んだ。
「止まれ! 荷馬車、止めろ! テン、敵の数は」
トミが怒鳴った。
テンの指がまるでピアノを弾くように踊っている。
「50は超える、いや。もっと、100、120」
「まずいな」
オババは持っていた槍で、荷物を突いた。
「やはりか」
「どうしたの、オババ」
「トミ。奇妙だ!」
大声でオババが叫んだ。
「どうした」
「この部隊の荷、多すぎると言ったろう」
「ああ、普通はこんなに荷台に乗せん」
「見ろ!」
トミが来た。
オババが米俵を裂くと、そこには木材が。
「なんだこれは」
「やはり、変か」
「木を運んでるのか」
「米俵に入れてな」
「なぜだ」
「トミさん、こんな老人と女ばかりで荷を運ぶことはないと言ったな」
「ああ。普通はない」
「オトリじゃないのか? 我らは敵を引きつけるオトリじゃないのか」
三好勢によるゲリラ戦が多く織田軍はそれに悩まされていた。
私は、慌てて荷台にのると上に立った。
「オババ、敵は先頭を攻めてる。もうすぐ、こっちにくる!」
「火打ち石だ!」
オババが叫んだ
「へ?」
「この荷はニセモンだ。これに火をつけても問題ない! 火をつけて、そのスキに逃げよう。戦っても勝てんだろう。120対50。それも老人と女しかいない」
トミの決断は早かった。その瞬間の判断と、最後尾だったことが幸いした。
「すぐ、荷台から馬をはずせ! 荷に火を! テン、時間を稼いでくれ!」
全員がトミの指示に従った。
私は敵を監視した。
ハマとカズが馬を外している間、トミとヨシが、それぞれの荷台に火をつけようと、火打ち石を叩いている。
敵は前から襲いかかり、最初の3台はすぐに敵に囲まれ、そうして、味方が落ちていく。
そこへ向かってテンが走った。
私は彼女の華麗な動きに見惚れた。驚嘆すべき動きだった。まるでダンスを踊っているかのように、一分のすきもないパフォーマンス。
数メートル先に数人の敵がせまると、
テンは体を低くめ、すっと前に踊り出て、敵の一人に的を絞り、長やりの間に体を沈め、そして、足首あたりをすり抜けた。
一連の決まった技巧的なダンスのようだった。
次の瞬間、男が前に倒れた。足の腱を切ったのだろうか、すばや過ぎて目で追えない。
テンは、すでに次の獲物の下に潜りこんでいる。
「火がついたぞ!」
私とオババは火を大きくするために、陣笠で仰いだ。
乾燥していたのが幸いして、荷車はすぐに火の車になっていた。
「テン!」
トミが、するどく指笛を吹き、テンを呼んだ。
私たちは荷車を横にして、火車で道路をふさぎ、後方へ走ったんだ。左側はジャングルのような樹林で追うには不向きだし、右側は絶壁、馬も使えないってことが幸いしている。
「逃げろ! 走れ!」
馬に乗ったカズとハマの後ろをひたすら追いかけた。
後ろを振り返る余裕なんてなかった。
トミの怒号が飛ぶ。
逃げる。それしか考えれなかったんだ。
どれくらい走ったのか。
時間がわからない。なにもわからない状態って不安だ。こんなときにスマホって、つい考えてしまう。
テレビ、いやラジオでもいいって。
ああ、それよりも警察を呼びたい。110番したい!
周囲は夕闇に包まれはじめている。
「止まれ!」
トミが号令した。
「おい! カズ、ハマ公、止まれ!」
その声に、ほっとして倒れこんだ。声も出なかった。
隣でオババが汗を拭きながら、やはり倒れいてる。
逃げ切れたのか?
「もう、大丈夫だろう。道から外れよう、その方が見つからんし水も必要だ」
トミの判断はなかなか的確だった。
「馬は」とカズが聞いた。
「引いてけ」
私たちは森に入って下った。しばらくすると、水のせせらぎ音が聞こえてきた。
「水だ!」
ヨシが叫ぶと同時にそっちに向かった。そして、躊躇せずにその水をガブガブ飲み始めた。
私、オババと顔を見合わせていた。
川の水、飲めるんだ。そうか、公害で水を汚すのは先の話だった。
まあ、でも喉の渇きは異常で、たとえ毒水だったとしても私は飲んだろうけどね。川水を手ですくった。
ひんやりして氷水のように冷たく、そして、これほど美味しい水を飲んだことがない。もちろん、喉も乾いていたけど、それだけじゃないと思う。
「テンは?」と、オババが聞いた。
「あれは戻ってくる」
「そうか、で、これからどうするの」
「坂本城へ戻るよ。逃げると村の家族に迷惑がかかる。くそ、あいつら、オラたちをオトリにしやがったんだな」
「怒っているのか」
フンって感じにトミは鼻で笑った。
「それにしても、あんた、あの状況でオトリと判断して、荷馬車を燃やすってよう考えたな」
「生き延びたい理由があるから」
「そうか」
トミは、それ以上は聞かなかった。
「じゃ、ここからどうやれば、坂本城に帰れると思う」
「アメ」
「琵琶湖に戻るなら帰る方向はわかると思う。まず、川を遡れば琵琶湖に着けるから・・・、その場所から方向は北が正しい。もうすぐ日も暮れそうだし、北極星の輝く方向に行けば帰れる」
「だそうだ」
「ほ? ほっきょく?」
「北極星」
「なんだそれは」
「北側に輝く星です。その方向が北だし、ここは坂本城からみれば南に位置してる。だから北へ行けば戻れる」
「それは正しいのか」とトミが聞いた。
「間違いなく」
トミが私をみて、それから視線をオババにうつし、再び私を見た。
「お前たち、いったい何者なんだ!」
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つづきは、ごめんなさい。しばらくお休みして、日曜日にアップする予定です。
*内容は歴史的事実を元にしたフィクションです。
*歴史上の登場人物の年齢については不詳なことが多く、一般的に流通している年齢などで書いています。
*歴史的内容については、一応、持っている資料などで確認していますが、間違っていましたらごめんなさい。
参考資料:#『信長公記』太田牛一著#『日本史』ルイス・フロイス著#『惟任退治記』大村由己著#『軍事の日本史』本郷和人著#『黄金の日本史』加藤廣著#『日本史のツボ』本郷和人著#『歴史の見かた』和歌森太郎著#『村上海賊の娘』和田竜著#『信長』坂口安吾著#『日本の歴史』杉山博著#『雑兵足軽たちの戦い』東郷隆著#『骨が語る日本史』鈴木尚著(馬場悠男解説)#『夜這いの民俗学』赤松啓介著ほか多数
ドラマ『グランメゾン東京』について
もう木村拓哉ドラマは見ないって思っていました。だって旬も過ぎ、SMAPもなんだかホコリにまみれ。
でも、ドラマの1回目だけは見ようかって、そして、見て、涙腺崩壊したんです。今期クールドラマ内の最高傑作じゃないかなって思う。
制作スタッフが力を入れて作るドラマって素晴らしい。
フレンチレストランの根性物なんですけど、ともかく見応えがあります。料理も演技も、そして、キムタクの顔芸も。
いいドラマ、ハマっています。