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プレスセンターまで用意

 このように中文大学でも理工大学でも結果として抗議者は籠城し、警察と対峙することとなった。大学における抗議活動はこれまでの抗議活動と様々な意味で違うと前回の記事でも書いたが、抗議者や警察が取り得る作戦という観点でもかなり違うことがこの2つの大学の例から分かる。

 これまでの抗議活動は公道上が中心で「Be Water(水になれ)」というスローガンの下、警察の攻撃が強まったら抗議者は一瞬で消え去っていた。警察にとって彼らの逮捕は容易ではなかっただろう。四方の包囲が容易な理工大学に拠点を構え「テリトリー」の防衛戦という選択肢を取ったことで、抗議者が逃走しにくくなった。

 一方、抗議者にとってのメリットもある。それは具体的なテリトリーを持つことで警察を近寄らせずに、様々な作戦・分業が可能になるからだ。中文大学でも理工大学でもキャンパスに入るためのゲートでは、手荷物や学生証のチェックが行われ、警察側の人間は入れない状態が維持された。火炎瓶の生産拠点にもなるし、学食を利用すれば抗議者に食事提供も可能だ。さらに安全な休憩所・救護所・プレスセンターも整備した。シフトを組んでそれぞれの「仕事」をすれば全体の疲弊を軽減することもできるだろう。

プレスセンターの様子。中継が流され大学周辺の状況が一目で分かる。
中文大学の「国境」検問所

 中文大学も理工大学も抗議者によってその大学の構内を「統治」しようとしていた。彼らのテリトリーに入るには「入国審査」が必要だ。それぞれが仕事を見いだし、分業を行う。そしてそれはオンライン・オフラインの話し合いで決定される。さらに必要に応じて防毒マスクや食料、武器などが無償で配給される。抗議者は時に記者会見も行い、自らもメディアとなってテレグラムなどで情報発信を行う。

 そうした様を見ていると、彼らは自らが統治できる空間への憧れがあるのではないかと感じた。しかし、明確なリーダーのいない抗議活動において領域を持ち、長期的かつ戦略的なプランを設定することは、道路上で一時的な抗議活動を繰り広げるよりもはるかに難しい。

 リーダーがいないことで広がった香港の抗議活動は、リーダーがいないが故の限界に直面しているようにも見える。