景気対策の側面から急ごしらえの準備でポイント還元制度を立ち上げた経済産業省。店舗側の対応が追い付かなかったことだけが、キャッシュレス化が進まない理由ではない。もっと深い「闇」が日本にはある。複雑すぎる業界構造そのものである。
「2025年までにキャッシュレス決済の比率を40%に高める」。こんな目標を経済産業省が打ち出したのは、18年4月のことだ。まだ、消費増税対策としてのポイント還元など政策課題にもなっていなかった時期。従来は27年の達成を目指していたが、2年前倒しした。
日本円での現金決済に慣れない外国人観光客への対応も狙いの1つだが、経産省が注力するのは、キャッシュレス化が生産性向上に役立つとみるからだ。
店舗なら営業終了後にレジの現金を数えたり、銀行に預けに行ったりする手間を省ける。銀行でも店舗間で現金を輸送したり、ATMに現金を補充したりといった業務の負担を減らせる。こうした現金決済を支えるためのコストは年1兆円を超えるとされる。キャッシュレス化が進めば、店舗の省人化や、決済データの利活用による新ビジネス創出にもつながる。徴税当局にとっては資金の動きが把握しやすくなる。
キャッシュレス決済の手段として既に普及しているのはクレジットカードだ。そのカード会社の担当者が経産省のキャッシュレス化に対する本気度を確信した出来事がある。
40%目標を掲げてから4カ月後の18年8月。経産省の担当者から「キャッシュレスパッケージのポイント」というタイトルの1枚の紙を差し出された。目標達成に向けた取り組みをまとめた資料だったが、そこにキャッシュレス決済が進まない一因として「加盟店手数料の高さ」が挙げられていた。
加盟店手数料とは、飲食店や小売店などのクレジットカード導入店舗が、決済額に応じてカード会社に支払う手数料のこと。カード会社は一般に決済額の3~6%を徴収しており、収益源としている。経産省はこの手数料を下げろとカード会社に迫ったと、この担当者は受け止めた。
経産省の手数料へのこだわりは、今年10月に始まったポイント還元制度でも垣間見える。カード会社を含むキャッシュレス事業者に対して、手数料の上限を決済額の3.25%にすることを求めたのだ。この上限を守らなければ、還元制度には参加できない。
カード会社にとっては、収入が目減りしかねない条件だが、参加しなければ、利用者や加盟店がQRコードなど他の決済手段に流れる恐れがある。手数料収入の減少と顧客流出、どちらの損失が大きいか。結局は多くのカード会社が還元制度への参加を決めた。
経産省がキャッシュレス普及の阻害要因と決めつけているようにも見える手数料。その問題意識はあながち、的外れではない。
コメント31件
丸刈太
日本のクレジットカード決済手数料が高いのは、日本のクレジットカード利用者がクレジット会社からあまり借金をしないので、クレジット会社の金利収入が少ないことを埋め合わせしているせいだと思っていました。
なので、日本のクレジットカード利用者がじ
ゃんじゃんクレジット負債と利息支払いを増やせば、店舗のクレジットカード手数料が下がるかもしれません。目出度哉。...続きを読むbasementape
4ページにさらりと『消費者の「お財布」を握ったアリババは決済データから個人の「信用スコア」をはじき出すようになり、それを軸に投資商品の販売や個人向け小口融資事業なども手掛けるようになった。』と、あたかも「あるべき姿」のように書かれていますが
、この個人情報ヒステリーの国で、そんなこと誰か望んでいるんですか。
...続きを読むこれ(ビッグデータの商業利用)ができるならば、今ひとつ信用ならないQR決済に頼らず、既に世界的なネットワークが完成しているクレカであっても充分に店舗の手数料負担が減らせるはずで、キャッシュレス化の推進には十二分だと思います。
ここはいちばん、20年近く続いた「個人情報ヒステリー」を反省して、日経グループの総力を挙げて「ビッグデータ活用」キャンペーン張って下さい。
z
無職
通貨って、言語や宗教を、つまりは文化を背負っているものですので、人形の首を取り替えるようにササッとできるものではないと思います。
「**pay」にいたっては必要性がないどころか、手数料やクレカ情報の流出といった害をともないますし。
cashless worker
consultant
現金代替手段を、ITで実現しているキャッシュレス関連の人々を差して、「決済マフィア」と表現するのは、余りに読者の好奇心を煽る表現として、行き過ぎた表現だと感じます。この記事を書いた記者には、今後の生活を全て、現金で過ごして頂きたい。そうすれ
ば、ご自身の生活と切っても切れない関係になっていることに、恩恵を感じると思うし、そういう価値を提供している人々に対して、「決済マフィア」は行き過ぎた表現が非礼であることを感じるはずです。
...続きを読むR. Ono
アーリー・アドプター
「キャッシュレス大国アメリカに“Payブーム”がまったく来ないワケ」
QRを用いた「ほにゃららPay」は、機能劣後なので当然でしょう。
しかしながら、スマホを用いたNFC決済は、「カードの代替として」漸次普及していくものと思われます。
スキミングの懸念がある国では、消費者は自分のカードを店員に預けたくありません。レストランであれ物販であれ、見えるところで、自分で処理するほうが安心です。
...続きを読むその際に、磁気カードのスワイプではなくて、ICカードでPINを打つ、非接触処理(VISAタッチ、MCコンタクトレス等)する、あるいはモバイルで指紋/顔認証+非接触決済する、というプロセスのほうが、圧倒的に利便性・安全性が高いです。
米国でEMVが100%になった=磁気ストライプからICカードが可能なCATに置き換わった=とありますが、結局のところこれが契機になって「クレカであれ、モバイル端末であれ、非接触決済を行う」動きに置き換わっていくものと思われます。
米国の決済手段はクレジット=37%、デビット=26%ですが(2016年)、これら合計60%強の決済に対して、デバイスとして『プラスチックカードを使うか、(カードを登録した)スマホを使うか』という構造なのです。スマホを使うのが8%で少ない、というのは利用方法なだけで、スマホ決済の裏側はクレカかデビットかペイパルです。
ApplePayが3,800万で少ない、という記載ですが、アメリカ3.2億人のなかでトップシェアです。2位のスターバックスの2,520万、3位のGoogle Payの1,210万人、4位のSamsung Payの1,080万人が続くようです。
日本では、ドコモdポイント、ナナコ、Tポイント、楽天、WAON、ポンタなど、5,000万から9,000万ほどの顧客基盤がありますから、人口比からは健闘しているほうだとは思います。ただ、ポイントカードとして使っている人が大半でしょうから、決済に使っているのは肌感覚で2割くらいですかね。
米国でのアリペイ、WechatPayは、あくまでインバウンドの中国人向けのもの。また、中国本国でも銀聯のコンタクトレスに移行するでしょう。QRのカード決済よりも、非接触のほうが圧倒的にUXが良いですから。
コメント機能はリゾーム登録いただいた日経ビジネス電子版会員の方のみお使いいただけます詳細
日経ビジネス電子版の会員登録