公的統計データなどを基に語られる“事実”はうのみにしてよいのか? 一般に“常識“と思われていることは、本当に正しいのか? 気鋭のデータサイエンティストがそうした視点で統計データを分析・検証する。結論として示される数字だけではなく、その数字がどのように算出されたかに目を向けて、真実を明らかにしていく。
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日本は、貧困国でしょうか。
「貧困」と聞いて大勢の人がイメージするのは、アフリカの貧困国のように、極端に背が低くガリガリに痩せ細った子どもたちの姿かもしれません。しかしGDP規模が米国、中国に次ぐ第3位の日本において、そのような光景を目の当たりにすればそれは「事件」です。
そうした貧困は「絶対的貧困」と呼ばれ、世界銀行では「1日1.90米ドル(約200円)未満で生活する人々」と定義されています。2015年には全世界で約7.36億人いると試算されています。
米国に次いで高い日本の「相対的貧困率」
貧困にはもう1種類、「相対的貧困」と呼ばれる指標があります。その国の文化・生活水準と比較して困窮した状態を指し、具体的には「世帯の所得がその国の等価可処分所得の中央値の半分に満たない人々」と定義されています。
日本の相対的貧困率は、12年は16.1%、16年は15.7%もありました。約6人に1人は「相対的貧困」なのです。「OECD経済審査報告書(2017年)」には、国別の相対的貧困率が掲載されています。日米欧主要7カ国(G7)のうち、日本は米国に次いで2番目に高い比率になっています。
「昔はもっと貧しかった」と主張される方もいます。では、ご自身の学生時代を江戸時代と比較して「あなたは昔に比べて裕福だった」と言われたら、どのような気分になるでしょうか。それと一緒で、成長を続ける現代において昔との比較は意味がありません。
相対的貧困とは、あくまで相対的なものであり、概念であり、目で見えにくい。だからこそあまり注目を集めず、今も苦しんでいる人たちがいます。ちなみに国立社会保障・人口問題研究所が17年7月に実施した「生活と支え合いに関する調査」によれば、「ひとり親世帯(二世代)」の約36%が食料の困窮経験について「あった」と回答しています。
持続可能な社会を目指すなら、相対的貧困は低い方が良いといわれています。実際、SDGs(持続可能な開発目標)では、「目標1」として「あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる」と掲げるだけでなく、「目標10」に「各国内および各国間の不平等を是正する」と掲げ、相対的貧困層の減少を訴えています。
それは、なぜでしょうか?
コメント42件
けーしー
データ解析を業務としたことがありますが、ある仮説を検証したいがために、データの多面性に目をつぶる危険を軽視してはいけないと思います。つまりデータには一つの真実が隠されていると期待してはいけません。判断を誤りますし、恣意的な主張を補強する道具
に使われることもあります。記事にはいくつか腑に落ちない点がありました。
...続きを読む相対的貧困は無くせないのでは?
中央値の半分は、最低値がいくら上昇しても必ず存在しますので、この相対的貧困の割合で、国民の豊かさ(豊かでない国民の割合)を議論するのは適切ではないのでは? 極端な話、全国民の所得レベルが同じで1億円あっても、その4分の1は貧困とされてしまいますね。相対的貧困率から分かるのは、所得水準が高い人が多い傾向があるか低い人が多い傾向があるか、程度ではないでしょうか。格差の幅や、分布の偏りなども現れない数字なので、文化的生活を営めない人の数、割合が多い少ないの指標にはなっていないかと。グラフを見ると、相対的貧困率が低くても所得レベルの高くない国も見受けられます。
若年者の所得が少ないのは、職業上の地位が低いため当然と感じます。高齢者も年金と蓄えで生活していれば収入が少なくても困窮しません。片親世帯が子育てを優先して稼げる働き方ができないのならば、社会的なサポートが必要な課題ですが、これらを収入の多寡で一括りにはできないように思います。
収入と進学の件も、貧困と言える層だけ進学率が下がるのならば問題であり原因と考えられますが、そうではなく困窮していなくても収入と進学率は常に相関しているので、因果は逆で学歴と収入が相関しており、生活スタイルが親から世襲される傾向があるとすれば、貧困は原因ではなく、結果であるように見えます。従って低所得世帯に、学力が高く進学する者がいても当然と考えられます。
生活保護の件は、地域別に所得にも物価水準にも差が有ることから収入の少ない地域は物価も安く暮らしやすく生活保護の必要性も低い傾向なのでは、と考えれば整理できないでしょうか。
H Imagine
会社員
そもそも生活保護の基準が不明確なのに、その数値に意味はあるのか?パチンコ三昧、ベンツ乗り回している生活保護受給者も多いと聞く。都市伝説かもしれないが、そこを無視して形だけの数値に走るのはいかがなものか?
子青
エンジニア
「相対的貧困率」自体について、もう少し考察を加える必要を感じました。定義を見ますと、「等価可処分所得(世帯の可処分所得を世帯人員の平方根で割って調整した所得)の貧困線(中央値の半分)に満たない世帯員の割合」とのことで、要するに、収入の少ない
人の割合、のようですが、筆者が「主に10代後半~20代前半の若者と70代以上の高齢者の相対的貧困率が高いと分かります。70代後半の女性の4人に1人が相対的貧困というのは、なかなか衝撃的な結果です」と言及されていますが、10代後半~20代前半の若者は無収入の学生が多いでしょうし、70代以上の高齢者も少ない年金暮らしの方が多いでしょうから、むしろ当然の結果のように見えますが、いかがでしょうか。また、収入は少なくても、親からの支援や、それまでに築いた資産があれば、必ずしも、貧しい、とは言い切れないように思います。国毎の貧富の比較を概観する際に、マクロな指標として、「相対的貧困率」、を使うことに意義があるのかもしれませんが、国内の事情を、世代毎に区切って、この指標を使っても、世代間の貧富の事情を的確に表しているとは言えないかもしれません。...続きを読む本論とは離れてしまうかもしれませんが、収入だけではなく、保有資産も含めた世代間格差、地域格差、就労産業別格差などにも興味があります。持続可能な社会を目指すには、相対的貧困を減らすべきだ、とのことですが、その為には、資産格差を減らす必要が有り、相続にメスを入れる必要があると思います。ただ、悲観的なことを言えば、資産家は資産を守るように政治を含め、世の中を動かそうとするでしょうから、保守的な世の中が続けば、格差は広がるように感じます。
KAWAWAKI
①絶対的貧困(1日1.90米ドル(約200円)未満で生活する人々)
②相対的貧困(等価可処分所得の中央値の半分に満たない人々)
これに加えて、
③生活的貧困?(1日19米ドル(約2000円)未満で生活する人々)
等の新しい明確な指標が必要で
は?と考えます。...続きを読む先進国で絶対的貧困は存在せず、相対的貧困はあくまでポジショニングとなってしまいます。
現在の物価で、もしも国が超豊か(例えば相対的貧困層の可処分所得が1000万円)であれば「貧困は存在しない」と言えなくもないわけで、
相対的貧困の数字は議論し難いと感じました。
racking my brain
著者は、
>捕捉率の把握を目的とした継続的な統計データは無いのです
>これではいろいろな要件を加味した実際の捕捉率は分かりません
としながら、戸室論文の捕捉率算定方法に何ら言及せず、それを正しい数値として引用していますが、「データから
“真実”を読み解く」と題した記事としては、不適切なのではないでしょうか。戸室論文の捕捉率の的確性についてまず述べるべきだと思います。
...続きを読むなお、生活保護は単純な制度ではありません。記事では貯蓄について触れていますが、それ以外にも、株はもちろん持ち家や自家用車があれば、原則として「まずそれを売って、そのお金で生活してください」と言われ、生活保護は適用されません。生命保険も解約して現金化することが求められます。「今解約するより何年か後に解約する方が得だ」と言っても、聞いてもらえません。もちろん、これらの対応について例外はありますが、収入や貯蓄だけではなく、そういう要素も含めて生活保護の捕捉率がどのように的確に推計されるのか、興味があります。
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