日米貿易協定の承認案がわずか十四時間の審議を経て衆議院を通過した。政府は双方が利益を得たとの立場だが肝心の自動車問題で不透明さが際立つ。国益が守られたとはとても言い難い状況だ。
安倍首相は今年九月、トランプ米大統領と協定に最終合意した際、日米に利益があるという意味で「ウィンウィン」と述べた。だが日本にとっての「ウィン」が何を指すのか、審議を経た上でもはっきりした形が見えてこない。
合意した協定では米国産の牛肉や豚肉、ワインなどの関税が下がることになった。一方、日本が望んだ対米自動車輸出の関税撤廃の扱いについては「継続協議」というあいまいな内容になった。
日本は関税撤廃が協議の前提との立場だが、米国からそれを明確に認めた発言は聞こえてこない。協定発効後に行う協議でこの問題が議題となるかさえ不透明だ。トランプ氏がちらつかせた日本車への追加関税や輸入の数量規制も心配だ。
政府は首脳同士が約束したとする。だが、農業と同様に米自動車産業の動向も米国の選挙に影響を与える。再選を熱望するトランプ氏が、自らの不利となる交渉に簡単に応じるとは思えない。むしろ有権者向けに追加関税実施に傾くシナリオすら否定できない。
さらに指摘したいのは衆院での審議経過だ。審議時間は米国を含めた環太平洋連携協定(TPP12)の際の二割程度。審議では野党が追加関税や数量規制について対米交渉の議事録を出すよう求めたが、茂木外相は拒否した。
政府は自動車関税が撤廃されたことを織り込んで協定発効の経済的影響を試算した。野党は自動車を含まない試算を出すよう要求したがこれも拒まれた。
国内でも自動車産業は裾野が広く、その浮沈は中小を含む多くの企業経営に影響を与える。にもかかわらず国会審議に必要な資料提供すら拒む政府の姿勢は、国民軽視と批判されても仕方がないだろう。同時に拙速ともいえる審議の末、採決に応じてしまった野党の姿勢も問わざるを得ない。
対米交渉での力比べに限界があることは誰もが承知している。ただ自動車や農業での交渉の行方は人々の雇用にも直結する。現状のままでの受け入れは困難だろう。
審議は参院に場を移す。問題点を鮮明に浮かび上がらせた野党の鋭い追及と、政府の丁寧な説明を強く求めたい。
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