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 消費者にどのような新しい価値を提供できるのか。手にした力を不当に使わない歯止めはあるのか。巨大なデータを握る企業として、社会的責任が改めて問われる。

 ヤフーを運営するZホールディングスと、メッセージアプリのLINEが、来年10月をめどに経営統合すると発表した。売上高の合計は、楽天を抜き国内IT大手で首位になる。

 会見した両社のトップは、統合の理由として、米中の巨大IT企業に引き離される危機感を挙げた。技術を通じて日本の社会課題の解決に貢献し、「日本とアジアから世界をリードするAI技術企業」を目指すという。

 問題は今後の展開だ。顧客層、サービス、グループ企業、人材、投資額など様々な面で相乗効果があるとしたが、具体的な将来像は「統合後に考える」といった説明にとどまった。

 企業活動の規模や範囲の拡大は、使い勝手や利用コストの面で、消費者にとってプラスになる場合はある。ネットワークを生かし、スマホを入り口にするサービスでは、そうした側面も期待できるだろう。

 だが、特定の企業の優位が強まりすぎれば、競争を阻害し、消費者の利益を損ねる恐れもある。とりわけ利用者のデータが集まるネット上のビジネスでは、注意が必要だ。

 ヤフーは今年、利用者の信用度を点数化する「ヤフースコア」を導入した際、拒否しなければ自動的に同意したとみなす仕組みをとった。「説明が不十分だ」と批判が噴出し、同意した人だけにスコアをつける方式に改めた。こうしたことを繰り返せば、利用者の信頼を失うことになる。

 両社は「顧客のサービス利用を通じて生まれたデータは顧客のもの」「すべてのデータは日本の法令に基づき運用」と言明したが、実質を伴わねばならない。多数のサービスや関連会社があり、不透明になりがちなことを自覚する必要がある。

 一方、公正取引委員会は、様々なサービスを提供するプラットフォーム(土台)型のIT大手を念頭に、企業結合ガイドラインの改正を進めている。

 ヤフーとLINEは「統合後にシェアが著しく上がる分野はない。横にラインナップが伸びるかたち」と説明するが、データの扱いを含め、そうした統合をどう判断するか。競争当局にとっても試金石になる。

 両社はネット上でのニュースのプラットフォームとしても存在感が大きい。民主主義の基盤になるメディアにかかわる企業としての責任が重くなることも、忘れてはならない。

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