歌詞の中でNo.1に輝いたこのアーティスト。

栄光は必ずしも幸福を運んでくれるものではありませんでした。

私生活が派手になったのでしょう、過去に付き合っていた女性と疎遠になってしまいます

音楽家の売れない時期を支えていた女性が成功ともに切り捨てられるという話題はよく耳にするものです。

浜田省吾は私生活の話題を売り物にするようなアーティストとは真逆。

彼の暮らしぶりは漏れ伝わることもなく、想像することもできません。

それでも様々な愛の場面を歌詞で描いてきたアーティストです。

人生の酸いも甘いも噛み分けてきたのでしょう。

音楽界の栄華の陰で起こる出来事を見つめていたのかもしれません。

主人公はいつか失われた愛の尊さに気付きます。

かつて忙しい日々の中で失った愛を取り戻すために女性のもとへ急ぐのです。

主人公の心の奥底では失われていなかった愛。

成功した主人公の胸にぽっかりと空いた隙間を埋めるものはこの愛だけでした。

成功しても遠い愛

アメリカ録音の成果

浜田省吾【終りなき疾走】歌詞を徹底解説!成功した男が今夜求めるのは?すりかえられた夢を吹き飛ばせ!の画像

俺は見つけたい
金で買えないものを oh oh もう一度

ねぇ、寒くはないかい?
君の夜をおくれよ俺の朝をあげるから

出典: 終わりなき疾走/作詞:浜田省吾 作曲:浜田省吾

2つのラインの間にギタリストのスティーヴ・ルカサーによる圧巻のギター・ソロがあります。

当時、これほどの速弾きを決められるのはアメリカやイギリスのごく一握りのギタリストだけでした。

このアルバム「Home Bound」のプロデューサーである水谷公生も日本では凄腕のギタリストです。

ただ、こうした抜けてくるいい音でここまで複雑な速弾きができたかどうかは分かりません。

本当の愛が欲しかった

浜田省吾【終りなき疾走】歌詞を徹底解説!成功した男が今夜求めるのは?すりかえられた夢を吹き飛ばせ!の画像

本当の愛に生きることを思い出した主人公は一直線に女性のもとへ向かいます。

成功すればあらゆるものを手にできるのではないかと思っていたのは幻想に過ぎませんでした。

金銭では手に入れないものが人の心や誠実な愛だったのです。

忘れられなかった女性のために夜の高速道路に車を走らせたのかもしれません。

主人公は彼女と一夜をともにすることを求めます。

過去に自分勝手に去っていった側面があるのが気になりますが女性の方も彼の気持ちに応じるのです。

彼女が夜を持ち寄り、彼が朝を持ち寄るこの表現は斬新に響いたでしょう。

当時、浜田省吾アルバムを聴いて衝撃を受けたのは主に10代の少年少女です。

そうしたリスナーにとっては少し背伸びした大人の世界の話題に感じられたでしょう。

しかしロック・ミュージックの歌詞はアーティストがリスナーに、大人の世界を垣間見せることが多いです。

リスナーは届けられた歌詞の世界に想像力を羽ばたかせて少しずつ世界を知っていきます。

誠実な愛を分け合う夜

現代の女性の意識との乖離

浜田省吾【終りなき疾走】歌詞を徹底解説!成功した男が今夜求めるのは?すりかえられた夢を吹き飛ばせ!の画像

俺たちに残された時間
あともう残り少ない
わかち合えるのは愛だけ
拒まないで!

出典: 終わりなき疾走/作詞:浜田省吾 作曲:浜田省吾

お互いが慰めあえる時間はわずかなようです。

腰を据えてじっくりと今後のことを語り合いながら、この先も愛を育むこともできたはずでしょう。

しかし、一度は終わってしまった愛でもあるのです。

一夜限りの復活愛なのかもしれません。

女性の意識が高くなった現代の感覚では少し受け入れがたい側面もあります。

1980年は後のバブル経済に向けてひたすらに経済成長を続けている最中です。

しかし、女性の社会参加はまだ進んでいませんでした。

また、男性のロック・ミュージシャンが女性の意識に気配りする習慣も稀でしょう。

この辺りの時代の制約のようなものはしっかりと踏まえておきたいです。

一方で多くの青少年が男女問わずこの曲に新しい時代の息吹を感じました

昭和歌謡で歌われるような愛とは違うものを教えられたのです。

浜田省吾に熱狂した青少年の中には尾崎豊などの次世代のレジェンドもいました。

浜田省吾がいかに日本の音楽界にとって大切な宝物であるかを知る思いです。

「終わりなき疾走」の衝撃

新時代のプロテスト・ソング

浜田省吾【終りなき疾走】歌詞を徹底解説!成功した男が今夜求めるのは?すりかえられた夢を吹き飛ばせ!の画像

立ち上がって踊ろう
俺の肩にもたれていいよ倒れやしない
吹きとばせ!きつい日々の生活を
吹きとばせ!すりかえられた夢駆け抜けろ!
闇と光のはざまで揺れる時の流れを乗り越えて

出典: 終わりなき疾走/作詞:浜田省吾 作曲:浜田省吾

言葉がほとばしり出る勢いを感じます。

あっという間にこの曲のクライマックスまで到着いたしました。

バックのミュージシャンたちもカタルシスを感じているような高揚感で応えます。

主人公にとってのきつい日々と、女性が感じているきつさはすれ違っている印象もあります。

しかし、いずれにしても毎日はきついものであると歌ってくれることはリスナーを勇気付けます。

学園や家庭、またはアルバイト先などの職場でティーンネイジャーが抱えているストレス。

このストレスはロック・スターが抱えるものとは違う種類のものでしょう。

それでも社会的な地位に違いはあれ、毎日の生活に不満を抱いていることはシェアできます

そうしたストレスや不満など跳ね返してしまえと浜田省吾は歌ってくれたのです。

ティーンネイジャーにとっては頼もしい先導者のように思えたでしょう。

現代では反抗するスタイルの音楽は敬遠されがちかもしれません。

しかし1980年という時代はプロテスト・ソングの伝統がまだ根強かったです。

浜田省吾はそうした伝統に忠実でありながら、当時にしてはラウドなロックに乗せて語ります。

日本語の感覚もそれまでのプロテスト・ソングの見本であったフォーク・シンガーとは一線を画すのです。

イギリスではすでにパンク・ムーブメントからニューウェーブへと移り変わっていました。

アメリカでもNYパンクの面々が新たな音楽を模索しています。

日本はようやくパンク・ムーブメントが遅ればせながらメインストリームに登場しました。

また、佐野元春のような浜田省吾と並び称されるようなアーティストが日本語表現を変えます。

いずれも新しい音楽を応援して熱狂していたのはこの時代のティーンネイジャーたち。

日本の音楽家は新しいリスナーを前に歌を紡いでいく時代になったのです。

新しい時代のプロテスト・ソングを創り出したのが浜田省吾の大きな功績のひとつでしょう。

一方で「終わりなき疾走」はラブソングでもあります。

プロテスト・ソングとラブソングの融合といえるようなものを編み出したのです

愛というテーマは浜田省吾にとって生涯追い求められるもの。

大事なことは愛のために生きることであり、そのために日々の重圧に抵抗しようと歌った革新性

それが「終わりなき疾走」の最奥の秘密です。

新しい時代の扉を開いた傑作である証に今一度光を当てましょう。

キラキラ光るエレキ・ギターをガラス越しに眺めていた少年の成長物語。

成功した先に不足していたものはお金では買えなかった誠実な愛

かように様々なドラマを詰め込んで、浜田省吾は新時代の日本のロックを高らかに歌い上げたのです。

ロックにあまり元気がない時代になってしまいました。

それでもこの先もキラキラしたロック・ミュージックが届けられることを信じたいです。

ここまで読んでいただいてありがとうございました。

OTOKAKEで振り返る浜田省吾の軌跡