車上生活 社会の片隅で…
「車しか行き場がない」と道の駅の駐車場などで暮らす車上生活者たち。トラック運転手の職を失い、亡き妻との思い出が詰まった車で、食うや食わずの生活を続ける60代の男性。幼少期の虐待が原因で対人関係がうまく築けず、各地を転々とする20代の男性。認知症の妻が徘徊をするため「誰にも迷惑をかけたくない」と高速道路のサービスエリアで車上生活を送る70代の夫婦も。社会の片隅で車上生活を送る人々の実態を追う。
出演者
- 武田真一 (キャスター)
「車しか行き場がない」と道の駅の駐車場などで暮らす車上生活者たち。トラック運転手の職を失い、亡き妻との思い出が詰まった車で、食うや食わずの生活を続ける60代の男性。幼少期の虐待が原因で対人関係がうまく築けず、各地を転々とする20代の男性。認知症の妻が徘徊をするため「誰にも迷惑をかけたくない」と高速道路のサービスエリアで車上生活を送る70代の夫婦も。社会の片隅で車上生活を送る人々の実態を追う。
日本酒が世界で作られるようになり、驚きの進化を始めている。和食人気が広がるアメリカでは、SAKEを醸造するクラフトバーがニューヨークで人気を集め、コメも水もアメリカ産にこだわった新しいSAKEが。フランスでは、ワインの作り方を取り入れた、こだわりのSAKEが。世界で始まったSAKE革命ともいえる動きを追い、日本酒の可能性に迫る。
赤道直下の国、アフリカのウガンダ。
躍動する、こちらの日本人男性。岩手県にある老舗酒蔵の5代目蔵元、久慈浩介さんです。
今、新たな発想で、世界中にSAKEの魅力を広げようとしています。
南部美人 蔵元 久慈浩介さん
「日本の岩手県から来ました。日本の北部です。とても寒い場所です。純米吟醸。“吟醸”とは、とても洗練された酒という意味です。」
「とてもいいですね。味わいが豊かで香りもすばらしく、滑らかでした。」
南部美人 蔵元 久慈浩介さん
「最高に手応えを感じました。ウガンダで、日本酒が広まらない訳がない。絶対に広がっていく。」
現在、国内での消費量がピーク時の3分の1に減少している日本酒。海外での需要を増やそうと、久慈さんはこれまで、46の国と地域に日本酒を輸出してきました。
更に、世界各地で現地生産にこだわった“新しいSAKE”を生み出す取り組みも始まっています。
南部美人 蔵元 久慈浩介さん
「ニューヨークに来ると、『ただいま』という感じですね。」
久慈さんは、自らの酒造りの技を惜しみなく現地の人々に伝授しています。
南部美人 蔵元 久慈浩介さん
「酒のいいにおいがする。」
この日、去年から酒造りを教えている酒蔵を訪ねました。
ここで杜氏を務めるのは、元科学者の男性。経営者は、元金融マンです。2人は日本を旅行した際、日本酒の魅力に魅せられ、一緒に酒造りをすることに決めました。
ブルックリン・クラ 杜氏 ブランドン・ドーンさん
「日本の酒蔵で、出来たての日本酒をいただく幸運にありつきました。びっくりするほど、おいしかった。アメリカでも、同じようにおいしい酒を造りたいと考えるようになったんです。」
酒造りに必要な設備は、自前で用意。原料となる米や水、酵母も全てアメリカ産。その土地ならではの風味を生み出す“Terroir(テロワール)”を大切にしています。
醸造途中のSAKEを確認しに来た、久慈さん。発酵のスピードが遅く、甘すぎると感じました。
南部美人 蔵元 久慈浩介さん
「発酵が弱いかな。(発酵が)遅いのかな。」
発酵のための酵母をうまく作用させるには、糖分を薄める必要があると指摘しました。
南部美人 蔵元 久慈浩介さん
「糖が濃糖状態だと、酵母がエイ!といけない。これを薄めてあげると、追い水なんかで薄めてあげると、バランスがとりやすいかなと。」
ブルックリン・クラ 杜氏 ブランドン・ドーンさん
「なるほど、分かりました。」
ニューヨークの酒蔵で、柑橘系の爽やかな香りが特徴の“新しいSAKE”が生まれました。
ブルックリン・クラ 杜氏 ブランドン・ドーンさん
「久慈さんは、アメリカの寓話の主人公・アップルシードのよう。アメリカ建国当初、アップルシードは国中にリンゴの種をまいて回った。久慈さんは、まさに“SAKE版アップルシード”。世界中で酒造りの種をまいてくれる久慈さんは、私たちの大きな道しるべです。」
南部美人 蔵元 久慈浩介さん
「遠い先か、近い未来か分からないが、(外国産の“SAKE”が)僕らの酒のレベルまで、それを超えていく時代が来るかもしれない。そういうときが来たら、僕は初めて『日本酒って世界で認められるんだな』と言える。」
ワインの本場、フランス。
ここで、“Terroir(テロワール)”を追求した新たな酒造りが始まっています。
萬乗醸造 代表 久野九平治さん
「もう田んぼだよ。もう用意してある。」
江戸時代から続く酒蔵の15代目代表、久野九平治さん。
久野さんが米を栽培しているのは、フランス最大の米産地カマルグ。品種は酒米に向いた性質を持つ、「マノビ」を選びました。広大な土地で田植えをするフランスでは、トラクターを使って種をじかまきします。マノビの種は、鳥に食べられたり、風で飛ばされたりしないよう、鉄分で赤くコーティングされています。
久野さんが現地の米にこだわる理由。それは、ワインの本場フランスで“Terroir(テロワール)”が重視されているからです。
萬乗醸造 代表 久野九平治さん
「フランスでとれたお米だよ、あなたたちの国でとれたお米だよ。原料からアプローチのかかっているものじゃないと、すんなり受け入れてくれない。」
久野さんは今、試験的に日本で酒造りを始めています。しかし、味を左右するポイント、米を磨く精米作業で、思わぬ事態が発生しました。久野さんは日本の酒米の場合、50%から60%まで削り、雑味をそぎ落としています。ところが…。
萬乗醸造 代表 久野九平治さん
「もう、これ限界ですね。」
「(機械を)止めたいぐらい。」
マノビは日本米に比べてもろく、精米の途中で割れてしまう米が予想以上に多かったのです。
そこで久野さんは、米をあまり削らないことにしました。その方が、フランス米の個性を引き出せるという逆転の発想で、新しいSAKEを造れると考えたのです。
萬乗醸造 代表 久野九平治さん
「日本だと、50%ぐらい(米を)磨く。逆にフランスの米は磨かないほうが、フランスの米の個性が出る。どれくらいお米を磨いたほうがいいかを見つめるためのいい機会になった。」
こうした試行錯誤を経て完成したのが、このお酒。
果たして、現地の人の口に合うのでしょうか。
久野さんが向かったのは、フランスを代表する5つ星ホテル“リッツ・パリ”。このホテルのトップソムリエがテイスティングし、認められれば置いてもらえることになります。
リッツ・パリ ソムリエ エステル・トゥゼさん
「カマルグの米のお酒ですね。とても興味深い。日本の米で造ったものとは香りが全く違います。ミネラル感があり、後味に土壌の塩気が残る。フランス米のお酒は、爽やかで、ヨーロッパやフランスの人にとって、とても飲みやすい。フランス最高の米の産地のお酒ですから、受け入れられて当然でしょう。」
今夜はスタジオに、世界各地のTerroir(テロワール)を反映したSAKEをご用意。
一体どんな味がするのでしょうか。
武田:こちらはVTRにもありました、フランスのお米で造ったSAKE。音がいいですね。では、頂きます。
田崎さん:頂きます。
武田:あっ、これ独特ですね。
田崎さん:リッツ・ホテルのソムリエの女性が言っていたことが、よく分かりますよね。香りは米由来の香りと、中に少しバナナとか、洋なしとか、ほんのりライチのような香りが感じられたり。あとはグリーンのメロンのような香りが感じられるんですが、そのあとに酸味もフレッシュに感じるというよりは、溶け込んで、バランスよくなっています。全体が同じようなバランスで、甘みを感じながら、そのままやわらかく滑らかで、ずっと余韻まで持続をするという感じですね。
武田:さあ続いては、こちらいきましょう。ニュージーランドで造られたSAKE。これ「全黒」っていうんですけど、なんで「全黒」という名前か。
田崎さん:え~。米が黒米なんですか?
武田:違います。ニュージーランドで全黒。
田崎さん:ん?あ、オールブラックス。
武田:オールブラックスということで、全黒というふうに名付けられたそうなんです。
田崎さん:へえ~、難しいですね。そっちの方が難しい。
武田:いかがですか?
田崎さん:香りは華やかな印象と、穏やかに感じる米由来の香りとか、非常にバランスよく調和しています。ニュージーランドでもよく食べます、大きいロブスターを、そのまま特に何もつけずに塩味だけでボイルしたものを食べて、このふくよかでクリーミーなうまみで、さらに味を引き立てる、みたいな味わいですね。
武田:すばらしい表現ですね。私は、本当にひと言、うまいとしか言いようがないんですけれども。
田崎さん:でも、それはまず大事ですね。まず、おいしいっていうのが大事だと思いますから。
武田:VTRでは、Terroir(テロワール)という言葉が出てきましたが、こうして味わってみますと、それぞれ個性がありますよね。
田崎さん:そうですね。実際には、お米は同じ品種の、例えば山田錦でも、いま日本ではかなり各地で作られていますけど、作る場所によって、米の性格や性質が、最終的には品質が変わってくるわけですね。そうすると、米にもやっぱりTerroir(テロワール)があって、そして、日本酒造りって、水の性質も大事なので、その出来た米の場所で造ったとすると、そこの水質が味に影響するし、造ってる最中の気候なんかも非常に影響を与える。つまり、米と造った場所が同じであると、出来た酒はやっぱりTerroir(テロワール)を表現してるというふうに言えるんじゃないかということです。
世界で造られ始めたSAKE。アメリカやヨーロッパだけでなく、SAKEの醸造所が誕生しています。
武田:田崎さんは、こういった動きをどういうふうにご覧になってるんでしょうか。
田崎さん:すばらしいことだと思いますよね。先ほど、日本の酒蔵の方がおっしゃっていたように、もっともっとどんどん造っていくべきだと思いますね。もし世界中でこのSAKEが飲まれるようになると、日本国内で造る生産量では圧倒的に足りなくなる時代が来ますよね。それと、SAKEの面白さっていうのはTerroir(テロワール)にもあるんだということが理解され始めますと、それぞれの違った気候風土で育った米で、そこの水で、そこの気候で造られたSAKEの味というのが比較されながら、いろんな食卓で、いろんな形で提供されるようになってくるのではないかと思いますので、すごくいいことだと思いますね。そのお酒が、どんどん品質がよくなるに従って、日本の酒も同様に進化していくんじゃないかと思いますし、消費者にとっては面白みがものすごく広がってくるんじゃないかと思いますからね。
日本酒が世界で人気を集める理由の一つが、「うまみ成分」。ビールやワインに比べて、うまみ成分のグルタミン酸が多く含まれています。
武田:日本酒の中に「うまみ」って感じるものですか?
田崎さん:最初にまず甘み感じますよね?で、飲み込んだあとに舌全体、特に舌の両サイドに意識集中して頂くと、何か塩味を含んだような味わいが残ってますでしょ。
武田:ちょっとこう…よだれが出てくるような…。
田崎さん:あんまりいい表現じゃないかも…まあまあそんなような感じです。その味が「うまみ」です。
武田:これが「うまみ」か。
田崎さん:このやわらかい甘みを感じるような「うまみ」と、日本酒の中に含まれている糖分というか、甘みがうまい具合に調和して、いろんな食べ物の甘うまみをそのまま引き立ててくれるというので、合わないものはないっていう…。例えば、フランスで昔から、卵料理にワインは絶対に合わないというふうに言われてるんです。卵食べたあとにワインを飲むと、苦みを感じたり、ちょっと異様なにおいが出てきてしまったりとかで、卵料理は合わないといわれているんですが、日本酒というのは、卵の味をそのままふくよかにクリーミーに、香りも華やかに引き立てるというような点があったり、レタスとかキュウリとかトマトも含めた生野菜を食べるときもワインは難しい。でも日本酒を合わせると、全部の野菜の自然な甘みを引き立てながら、キュウリの香りも、ある意味メロンのように華やかな印象として引き立てるとか。
武田:日本酒は万能なんですね。
田崎さん:万能なんですよ。
武田:こんなにおいしいんですもんね。本当に世界中に広まってほしいなと思います。
さあ、各国でSAKEの現地生産が活発化する中、世界的に有名な、あのお酒を手がけてきた巨匠も日本酒造りに挑戦。これまでにない日本酒が生まれようとしています。
世界を魅了する高級シャンパン、ドン・ペリニョン。通称“ドンペリ”。長年、このドンペリを手がけてきた世界的巨匠が、日本で酒造りを始めることになりました。
リシャール・ジェフロワ氏。ドンペリの最高醸造責任者を、およそ30年にわたり務めたシャンパン界の帝王です。
ジェフロワ氏は今、日本人にはなかった発想で、新しい日本酒を生み出そうとしています。
「純米吟醸です。」
パリの一流すし店で、日本酒を楽しむジェフロワ氏。ドンペリのPRで日本を訪れた際、日本酒の虜になりました。
“ドンペリ”元最高醸造責任者 リシャール・ジェフロワ氏
「力強い香りですね。気に入りました。地球上のすべての人々に、日本酒の魅力を伝えたい。」
“人生の最後は、日本酒造りにかけたい”
ジェフロワ氏はフランスを離れ、富山県立山町を自らの酒造りの拠点に決めました。酒米を造る農家や、地元の酒蔵などが全面協力。町を挙げた巨大プロジェクトが動き始めています。
“ドンペリ”元最高醸造責任者 リシャール・ジェフロワ氏
「立山が、世界の中心になる。」
ジェフロワ氏は、ドンペリ時代に培った技で日本酒を造ろうとしています。
ドンペリを世界屈指の地位に押し上げたのが、フランス語でブレンドを意味する「アッサンブラージュ」の技。複数の酒を混ぜ合わせて、究極の味を生み出してきました。
“ドンペリ”元最高醸造責任者 リシャール・ジェフロワ氏
「アッサンブラージュ(ブレンド)によって、味や香りが異なる酒を混ぜ合わせ、対立させたり、補い合わせたりすることで、すばらしい調和が生まれるのです。」
アッサンブラージュによる酒造りを実現するため、ジェフロワ氏は3年かけて下準備を進めてきました。
まず、ブレンド用の日本酒を富山県の老舗酒蔵に特注。原料となる米の品種から酵母の種類に至るまで、全てジェフロワ氏の指示どおりに造られ、今年の春ようやく完成。ジェフロワ氏は、その中から15種類の日本酒を厳選。
“ドンペリ”元最高醸造責任者 リシャール・ジェフロワ氏
「この2つはナッツのような味で、舌に残る特徴があります。」
味の特徴を見極め、およそ半年、試行錯誤を繰り返し、ブレンドの配合が決まりました。
“ドンペリ”元最高醸造責任者 リシャール・ジェフロワ氏
「これまでの日本酒は、飲んでしばらく経つと、味や香りが徐々に弱まっていくのに対して、私の酒は、人々がその酒を口にすると、味や香りの特徴がどんどん強くなり、ふくらみを増すのです。」
武田:複数の異なるお酒をブレンドする、アッサンブラージュするという発想なんですけど、これは、今までの日本酒の世界にはあまりなかったことなんですか?
田崎さん:日本酒の世界では、ほとんどなかったと言えるんじゃないかと思います。1+1から3を生み、1+1+1から10をも生むみたいなイメージなんですね。
武田:ジェフロワさんとは田崎さんは長年親交がおありで。
田崎さん:そうですね。もちろんドン・ペリニョンを通じてですけど。
武田:実は、昨日お電話をされたということですけれども。どんなお酒になるというふうにおっしゃってましたか?
田崎さん:日本酒の全てのよさを持ちながらも、ハーモニーを築いていく酒を造ってるんじゃないかと思います。例えば、オーケストラのようなイメージで、それぞれすばらしい演者じゃないといけないわけで。でも、それぞれ違った音を出してるわけですから、それらをうまい具合に調合することで、一つの音楽を作り上げていくというようなイメージなんですね。最後に、スポイトというか、注射器で1滴ずつ垂らしながら加えてましたよね。
武田:あの一滴には何の意味があるんですか?
田崎さん:あれは、料理人さんがソースを完全に仕上げていくようなイメージ。特にはっきりと個性を持ったものを半分まで使ってしまうと、その個性に寄っていってしまう。そうではなくて、この強い個性を持った酒は、出来上がってある程度まとまったものだが、最後にこしょうをちょっと振った方がいいかなと思うような量をちょっと加えることによって、全体が、より芳じゅんに華やかになりながらも、ハーモニーを築くことができるという感じ。
武田:じゃあ、これはこしょうの役割だぞと言って一滴たらすと。
田崎さん:でも、それを食べた結果、こしょうが出過ぎちゃ駄目なんですよね。わぁこしょうが利いている、じゃ駄目で、こしょうを入れたことによって、全てがまとまるというような調合をしてるので。まさに、それはもうドン・ペリニョン、シャンパーニュで培った。シャンパーニュというのは、まさにアッサンブラージュありきの飲み物ですので。
武田:こうして見てきましたように、海外や外国人の人たちによって育まれている新しい日本酒の姿。これ、私たちが古来持っていた日本酒の魅力に、改めて海の向こうから気付かされたような気がするんですけれども。これから日本酒ってどう変わっていく可能性があるんでしょう。
田崎さん:まさに今おっしゃられたように、昔から日本人が日本酒を飲むというのは、フランス人が食卓でワインを飲むように、食事をもっとおいしく食べるためにワインを選ぶというのではなくて、日本酒を飲みながら適度に酔って、心地よくなって、コミュニケーションツールとする会話が弾んで、というふうにするSAKEが中心であった飲み方だったんですね。でも、ヨーロッパやアメリカなどで、自分たちが食べてきた食事と共に飲むことによって、食中酒として日本酒が認められたということになるわけなんですね。
武田:食中酒?食事中に飲む?
田崎さん:食事中に。その食中酒というのは、つまり食事がメインで、食事をよりおいしくするために、最後に口の中で調和することができる調味料とか、ソースのようなものということなんですね。ですから、肉で赤ワインを飲むのは、このアルコールの作用ではなくて、赤ワインにある苦みや渋みというのがスパイスの代わりとなって、肉をおいしく食べられる。魚に白ワインを飲むのは、酸味が強いですから、レモンをかけるようなイメージで、魚料理の白身魚の味がおいしくなる、というような意味合いです。日本酒は、フランス料理にもイタリア料理にも合うというふうなことになると、それが、海外から日本に戻ってきた時に、改めて日本人が日本食と日本酒のペアリングって実はどうなの、というふうなことに気付かせてもらえるかもしれない。そうすると、日本の食文化も海外から逆輸入された形で変わってくる可能性はありますよね。
武田:今、日本酒っていうと、一番高級なのが、純米大吟醸というのがありますよね。そういった、この日本酒のヒエラルキーと言いますか、体系。どうなんでしょう。日本酒の世界もやっぱり変わっていくんでしょうか。
田崎さん:そこが頂点ではなくて。ずっと下に純米酒があるということではなくて、大吟醸も吟醸酒も純米酒も本醸造も普通酒も、タイプであるっていうふうに。そこに、さらに熟成した古酒があったり、甘い日本酒の貴醸酒というお酒があったり、日本酒っていろんなタイプがあるということにしていった方がいいと思いますね。
武田:ますます、豊かな食とお酒の世界がどんどん広がっていく。
田崎さん:ものすごく広がってくる可能性を秘めてるということですね。
フランスで、また一つ新たなSAKEが生まれようとしています。
今年、日本人が初めてパリ郊外に酒蔵を建設。フランスの米を原料に、水も現地のものを使います。さらに、酒造りに必要な酵母も、ワインの醸造に使われるフランス産にこだわろうとしています。
「私たちはテロワールを反映させたいので、フランスの土地に合った酵母を探しています。」
究極のテロワールを目指しているのです。
WAKAZE 杜氏 今井翔也さん
「(フランスの)考え方も思想も技術も、日本酒の文脈に取り込みながら、新しい伝統を作っていく。」
さらに、アメリカでは、英語で酒造りを教える講座も。これまで、世界各地からおよそ2,000人の受講生が参加しています。
受講生
「ブラジルで、自分の酒を造ってみたいわ。」
世界で巻き起こるSAKE革命。
今後もあなたの想像を超える、新たなSAKEが生まれるかもしれない。
そんな未来に乾杯。
誰もがスマホを手放さず1日を過ごす現代の日本。ネット空間では大ニュースばかりでなく、身近で意外なキーワードが多くの人の関心を集め“トレンドワード”として日々浮上している。背後には普遍的な社会課題が横たわっていることも多い。番組では先週トレンドワードとなった数々の言葉の背景を取材してきた。そのなかには「何故これが?」という言葉に多くの人の関心が集中するケースも。その一つが「一重まぶた」。「まぶたの形によって不利益を被ったつらさ」を訴える当事者の声がつぶやかれ瞬く間に“炎上”した。取材班がその背景を深掘りしてゆくと、いま世界的に大きな社会問題となっている「ルッキズム=外見にもとづく差別」の問題が浮かび上がってきた。番組ではネット社会における“炎上”の構造を解き明かすとともに、「一重まぶた」というワードに象徴される若い世代の“生きづらさ”の問題やその解決策を、ネットで日頃から情報発信を行っている若い識者たちとともに考える。
先週、NHKの会議室。
今回私たち取材班は、Twitterのトレンドワードから番組のテーマを探すことにしました。
この日のトレンドワードは、前日、日本代表が勝利したこともあり、野球に関する言葉で占められていました。その中で、異質なワードにスタッフが気づきました。
プロデューサー
「“一重まぶた”というワードも、(きのうの)夜中に。」
「一重まぶた」。
12時間で1万件を超える投稿が集まり、その後も順位を上げていました。
プロデューサー
「(女性社員の)メガネ禁止もそうだし。」
記者
「(女性)アスリートの化粧禁止問題も、化粧とアスリートは関係ないだろうって炎上した。」
実はトレンドワードでは、女性の容姿にまつわるキーワードが、ほぼ毎月炎上していました。
こうした言葉の背景にあるのが、「ルッキズム」と呼ばれる、他人を見た目で評価する考え方。海外でも問題になっています。
今回、炎上のきっかけになったのは、前日夜の、ある男性による投稿。
“日本人はよく二重まぶたに憧れるけど、一重まぶたはかわいいと思う。みんなもっと自信を持って”
10分後、これに対して女性と思われる人からの投稿が。
“なにが一重まぶたはかわいいだ。私はただ二重まぶたになりたいだけなんだよ。お前らが良いと思っても私は嫌なんだよ。二度と口に出すな”
この投稿が人々の目にとまると、一気に拡散。批判や賛同が殺到し、7400以上リツイートされました。瞬く間に、大議論へと発展したのです。
このテーマに、取材班で最も興味を示したのが占部ディレクター。小さいころから一重まぶたに悩んできました。
占部ディレクター
「根が深いのは、二重信仰の呪いをどうすればいいのか。」
中学生のとき、母親から冗談まじりで二重の美容手術を勧められ、それ以来、今もコンプレックスを抱え続けています。
当事者である占部ディレクターが、このトレンドワードの深層に迫る取材を進めることにしました。早速、取材班のひとりが、このテーマを象徴する人物を見つけました。
「この人が“整形アイドル 轟(とどろき)ちゃん”っていう。」
YouTuberの轟ちゃん。これまでに、総額1000万円をかけて全身を整形。チャンネル登録者数は36万人に上ります。
YouTuber 轟ちゃん
「口の中に、何か機械を入れられています。」
みずからの手術を解説する内容や。
YouTuber 轟ちゃん
「はい、手術を終えて帰ってきました。1日目で~す。」
手術後の腫れや痛みなど、整形のネガティブな面も伝えています。これまで10回以上の手術を行い、理想の美を追い求める自分の姿をネットで公開。こうした人は、他にも増えているといいます。
一重まぶたという話題は昔からあるのに、なぜ、今その言葉が炎上するのか。轟ちゃんはどう考えるのでしょうか。
その夜、所属事務所で面会。明るい笑顔で向かえてくれた轟ちゃんでしたが、かつては自分の顔に強い劣等感を抱き、人と話すことも苦手だったといいます。
YouTuber 轟ちゃん
「(他人から)『幸せって何ですか?』っていうふうに聞かれたときに、毎回『顔から離れること』って言ったんです。『顔の美しさのしがらみから逃れて生きたい』っていうふうに、ずっと言ってて。」
初めて整形したのは、18歳の時。特にまぶたがコンプレックスだったため、一重から二重、さらに、ぱっちり二重へと手術を繰り返しました。
一重まぶたというワードが炎上した理由について聞いてみると。
占部ディレクター
「(一重まぶたは)なんで盛り上がったと思いますか?」
YouTuber 轟ちゃん
「一重の良さに気づいた人がいて、でも二重のほうがいいという人もいて、価値観がいろいろと分岐してきたから、みんなで争いが起こって、こういうことになっている。私的には、ちょっといい流れっていうのもあるのではないかと。」
轟ちゃんは、その後、思うところがあり、かつての一重まぶたに近い奥二重に、再び手術をして戻したといいます。
YouTuber 轟ちゃん
「私も踊らされていた側の人間だったんですよ、もともとは。そういうトレンドとかに。でも、いつ(一重の)呪いが解けたかっていわれると、世間一般が言う『美しい』って、自分の『美しい』に当てはまらなかったんだって、そのことに気づかされたというのが、今の(奥)二重に戻してから思うこと。」
武田:占部君は取材の企画の視点もユニークだし、本当にいいディレクターだと思っていて、そんなに、このまぶたを気にしていたのかなって。
占部ディレクター:鏡を見るたびに、こうやって(まぶたをこすって)直らねえかなって、ずっとやっていました。
武田:そもそもなぜ、このトレンドワードを取材してみようと思ったんですか?
占部ディレクター:SNSって、個人の心の中の声、本音が出てくる場所だと思っていまして、それでトレンドワードとはどういうものがあるのかなって、のぞいてみたら、昔からある価値観、当たり前と言われたものに対して、違和感であるとか、生きづらさを感じるものが結構集まっているなというのがあって。それって僕たちみたいなネット世代の人間にとっての、今の世の中の寄る辺なさというか、そうしたものを象徴しているんじゃないかなというのがあるんですね。
武田:実は、そこまで深く考えていたんですね。
占部ディレクター:先週1週間、僕らトレンドワードを取材してきまして、特に金曜日は「モデルハウス」というのを取材してきましたが、それがどんなものかというと、明るく快活な妻と、パパ大好きな娘を俳優さんが演じて、家族との暮らしを疑似体験できるものになっていると。これを取材したのが35歳独身の記者なんですけど、いわゆる固定的な幸せ、こういう家族が幸せだよねという定型に当てはまらない自分に苦しさを覚えたと。Twitterを見てみると、多くの人が普通と言われているファミリーに対して、違和感を覚えているからトレンド入りしたんですと。
僕たち、こうした内容をそれぞれまとめて、4本記事を出しました。どれを深く取材してほしいか視聴者の皆さんに聞いたら、一重まぶたを取材してくれという声が圧倒的に多かったという感じなんです。
武田:若い世代の寄る辺なさと言っていましたが、せやろがいおじさんもYoutubeで、見た目の問題というのを発信していますよね。どんな反応があったり気づきがあったりしたんですか?炎上したりしたんですか?
せやろがいおじさん:占部さんがおっしゃったように、容姿のことを言われると呪いになって、その人の人生に傷をつけてしまうというか、呪い化してしまうのがあるんですが、ある意味、笑いを取るために容姿いじりをして、その人に呪いを植え付けるのがすごくあるんです。芸人がやる容姿いじりを簡単にやるなよと言ったら、芸人がやっているそのいじりを見ても、私たち、うってなっていますよという声がものすごくいっぱいきて。さらに、お前らをまねして、笑いを、そういう取り方で取っている人たちが増えているという意見もあったので、俺らが呪いの大元になっているかもしれないとすごく思ったので。今、一重まぶたという話題もすごく広がって、僕も動画にすごくコメントをいただいたということで、見た目いじりや見た目に関する意見の発し方は、世の中全体でちょっと不具合があるタイミングなのかなと思っています。
武田:もうひと方、ラッパーやアーティストとして幅広く活動されている、なみちえさん。ご自身の見た目の特徴みたいなものっていうのは、ネット上でいろんな情報が流れてくると思いますが、どういうふうに対じしているんですか。
なみちえさん:私は基本的に、ふかん視することが多くて。できるだけ離れて見て、例えばTwitterだったら、タイムラインの流れとかには乗って一緒に言葉を発していくのはできるだけ避けて、なおかつ今回の一重まぶただったら、あまりにも表面的なことに感じてしまって。なので、私は遠くから見るようにしていました。
武田:遠くから見るというのは、ある種、自分を守るためとかそういうこと?
なみちえさん:そうですね。自分を守るためでもあるし、食らってしまうということが、ちょっと自分にとってきついなって思うこともあるので。
武田:やっぱり傷つくこともあるし、だったら見ないほうがいい、遠くから眺めていようということですね。
なみちえさん:そう思っています。
武田:石井さん、容姿を巡るトレンドワードっていうのは、実は一重まぶただけじゃなくて、本当に頻繁にネット上に上がっているらしいんですよ。このことをどういうふうに捉えていますか?
石井さん:ネット上の言葉というのは、一種の記号なんですね。だから、1つの意味しか持っていなくて。例えば、僕は髪の毛ないんですけど、ないことに対してよくないとか、そうなる。これは、人とのコミュニケーションになったときに全然違ってくるんです。例えば映画の「ダイハード」でブルース・ウィリスが出てくると、今度は、強くて男らしい象徴になってきたりするんですね。こういうコミュニケーションの中で、人の特徴っていうのはいろんな意味を持ってくるものになっていくんです。本来は、ネットの中では弱点と言われていても、その人が例えば、生き方と照らし合わせたときに、その人の特徴がどう見えてくるかはまったく別。長所にもなると思うんです。ただ、ネットの社会というのは、情報、記号の言葉だけのやり取りになってしまうので、どうしても一義的にならざるをえないところは出てくる。そうなってくると、どうしても美化、醜化という議論になってしまったり、それで人を無意味に傷つけてしまう。そういったことが多々あると思います。
武田:一重まぶたを巡る議論はどういうことになっているのか、もうちょっと深く見ていきたいんですが、整形Youtuberという方々に取材した記事をネットに公開したところ、視聴者からさまざまな意見が寄せられました。特に多かったのが、「SNSで人の外見を批判している人の話を聞きたい」という言葉でした。実際の炎上の内側で、どのような議論があるのかのぞいてみました。
せやろがいおじさん:おーい!一重まぶたを巡る議論がどうなっていったか、一緒に見ていこう!せやろがい!
12時間で1万を超えた投稿。
まずは、一重まぶたに否定的な意見の話を聞きたいと考えました。20人近くにアクセス。そのうちのひとりとやりとりができました。
“整形二重と一重男の子はブサイク”
この投稿をしたのは、東京在住30代の女性でした。その真意を尋ねると。
“SNSで発言する理由は、自分の考えに対して、他の人の意見を知りたいからです。共感が得られるかorもしくは別意見が聞けるか、が知りたかったです。”
つまり、一重まぶたを揶揄するつもりはなかったということか、聞くと。
“そこまでdisる気持ちはなかったですね、話題になっていたのでついでというところです。一重まぶたで悩んでいる人に対面で直接言ったりはしません。”
“個人が特定されないところで、あくまでも私見としていうぶんには、それは価値観の問題かと思います。”
論争を見て、一重まぶたの娘の将来を強く意識するようになったという人もいました。30代の会社員、たろさんです。たろさんは、勤め先で人事を担当。女性が就活の際に、容姿や身なりなどで不利な扱いを受けるケースは、今も存在するといいます。
たろさん
「やっぱり、娘、一重だから、何かで選ばれなかったり、そういう場面に遭遇する恐怖ですかね。娘に、なんでこんな一重に生んだんだみたいなことを言われたとしたら、どうですかね、想像もつかないです。」
一方、一重まぶたの論争を目にしたことで、価値観が変わったという人もいました。
40代の女性、星空さんです。
“自分は二重まぶたで、娘が一重。今回はじめて、娘に対して、親の私から一重の呪いをかけてしまっていたのかも、と思った”と言います。
“長女は現在17歳。中学生のころ、夫の仕事の都合でフィリピンで暮らしていたのですが、その頃は、一重でモテていました。でも、日本に戻ってきたら「二重がいい」と言って、毎日テープで二重にしています。考えてみると、私が娘に「二重にすれば?」ってしょっちゅう言っていたような気がします。私の両親も兄弟もみな二重ばかりだったので、そう思い込んでいました。今回、親である私が、娘に自分の美の価値観を押し付けてきたことに気づき震えました。今後は、価値観を押しつけないよう気をつけたいと思っています。”
武田:今の声、もちろん賛成できる意見ばかりじゃないんですが、コンプレックスというのは、なかなかこれまで口に出して言うことができなかったことだと思うんです。それが、ネット上でいろんな人の声が聞けて、それに気づく、反省するようなこともあるというのは、1つの意味はあるのかなと僕は思いましたけど、占部さんはどうですか?
占部ディレクター:僕も取材してみて思ったのが、これ、怒っていいんだと思ったんですよ。今までいじられてきて、そういうふうに立ち振る舞ってきたんですが、自分だけの問題だと思っていて、ほかの人の声を見たら、これってひどくない?みたいな。こんなことなっている社会、許している社会っておかしくない?みたいになると、ふつふつとおかしいっていう怒りがあったので、それは議論があって、それを見たから、そう思えるようになったんです。
実は、こうしたネット上の議論というのは、大きな影響力を持つインフルエンサーという人たちがたびたび参加してくると。番組では、そうした人たちに、今回トレンドワードになった一重まぶたについて話を聞いたんですけど、まさしく社会、何が問題なの、という話については、「女性の『二重まぶた神話』がメディアによって形成されている」とか、「『美』が社会的な強迫観念・同調性を帯びている」とか。「男性が容姿で判断され、仕事が正当に評価されないことも」と。
どうすべきなんだというときに、例えば、「一面的な『美』を押しつけていないか?」ということで、「ガイドラインを作るべき」とか、リクルートスーツだとかで「画一性を押しつける『制服』の撤廃」をしたほうがいいんじゃないかという話もすごく出てきています。
武田:ネット上の議論ですが、我がこととして感じることもあって、メディアによって、こういった美の概念みたいなものを押しつけられているのではないかと、私なんかはすごく刺さるんですが、なみちえさんは、どうですか?
なみちえさん:私は特に、二重まぶた神話はメディアによって形成されてるというのは、そうだなと思って。私が感じるのは、ハーフメイクとか、外国人風メイクだとか、そういうのって一般的に、目がぱっちりであることを売りにしていたり、人の変えられない見た目を似せようとしている。似させるってこと自体がアイデンティティーの喪失になると思っているし、自分が思う本質的な美しさから離れていると思う。それが結局、商業的に扱われることで社会が動いているということに対して、とても問題があるなと感じています。
武田:美しさ=外国人風と言われることに関する違和感。
なみちえさん:違和感はありますね。
せやろがいおじさん:この人種が美しいという価値観を作ってしまったら、そのほかの人種はどうなのって感じになるし、その差で利益を生んでもうけようという法則が不気味ですよね。
なみちえさん:2項対立を生むことによって作り出している気がして、ちょっとなんともいえないです。
占部ディレクター:社会以外にも、家族とか友人にも問題があるんじゃないかとか、「無意識のルッキズムや悪意の無い容姿批判がまだまだあることを共有する」。
そういうことに対しては、「教育現場に『多様性』の価値観を持ち込む」と。それは、個人、自分たち自身についても、どうしてもルッキズムはしょうがないものだと諦めている人が多いんですけど、そうじゃないよと。それはちょっと目を遠くに向けると、「コミュニティーや業界によって『美』の基準はさまざまであることを知る」べきだし、「SNSによる多様な価値観の受け入れが広まるのを期待する」という声も上がっています。せやろがいおじさんはどうですか?
せやろがいおじさん:ちょっと見ていて思ったのが、見た目というのは自己肯定感を左右する1個の要素でしかないんです。見た目がどうでも、ほかのところで好きといってもらえるかもしれなくて、今、見た目に関して、自己肯定感の影響力が高すぎるというか、割合が多すぎると思うんですね。さらに、この人種に近づきたいとかがあっても、近づけないし、白人の方でも、より白人に近づこうと思って頑張ったりとか、ルッキズムを突き詰めていったときに自己肯定感が高まるというところに行き着かないことが多すぎて、ルッキズムという考え方は不毛な路線やなというのはすごく感じさせられましたね。
武田:こうやってインフルエンサーの皆さんに論点をいろいろ出してもらうと、なるほどなというふうにも気づけるんですけど、ただ、あらゆるネット上の情報って整理されているわけじゃないですよね。石井さんは、どういうふうに向き合えばいいと思いますか?
石井さん:僕はネットの情報というのは、ある種、荒い海のようで、いろんな情報が飛びかっていると思います。インフルエンサーの人たちが、その中からうまく情報を抽出して、社会的な議論にすることは大賛成ですし、やっていくべきだと思うんです。一般の人もそれができればいいと思うんです。ただ現状としては、それができないまま、荒海の中で苦しんでいっている人たちがたくさんいる。例えば、傷ついて、本当に学校に行けなくなるとか、あるいは批判されることによって、会社が潰れてしまうとか、そういう人たちはいると思うんです。こういった人たちはどうすればいいのかという問題は、また別にあると思っていて、先ほど、ふかんして距離をとっているんだとおっしゃっていたのですが、逆に僕がお聞きしたいのは、なぜ、どうやってそれができるようになったのかを教えていただきたいです。
武田:ふかんすること自体も難しいですもんね。
なみちえさん:私は自分が東京藝術大学に在学しているのもあって、自分の身体を離れて、見るもの、見られるものを作るっていう、表現者としてのアウトプットが糧になっていて。特に私が小さい頃から作っていたのが着ぐるみで、着ぐるみって、ある意味、自分のアバター的なもので、変身するとか、いったん自分のアイデンティティーを忘れて、でも、なおかつ見る、見られるという構造をより顕著にさせるものだと思っていて。それが、一重まぶたの問題とはまた違うんですが、自分だったら肌の色とか、髪形とかでいじめられることもあったりしたので、表現とか芸術とか、自分の新しい視点を持つということが、自分にとって大事なことになっていました。
武田:ネット上の情報みたいなものを自分なりに昇華して。
なみちえさん:解釈方法の多様性を作るというか。
武田:自分自身の積極的な表現みたいなものに変えることで対処している。なかなか普通の人は難しいかもしれないけど、そういうふうなこともできる可能性はあるということですよね。
せやろがいおじさんも発信する立場ですよね。どんなことを今日は考えました?
せやろがいおじさん:やっぱりネットって、不毛な議論が行われているようで、意外に発見があったり、その発見をもとに自分の考えが更新されていくということはあると思うんですね。受け取る側でいる場合は、発見や更新を目指して、受け取って発する場合は、汚い言葉とかディス的な言い方で言うと、自分のを受け取った人が発見に結びつかなかったり、更新まで至らなかったりするので、できるだけ受け取りやすい言葉に加工してお送りするということが非常に大切だなと思う。そして、やっぱり社会が抱えている問題が、今回はトレンドワードで一重まぶたとして表出しただけで、美醜のルッキズムという考え方が根底にあると。トレンドワードを見ていくことで、今、社会が抱えている問題というのがだんだん見えてくるのかなというのも思ったりしました。
武田:石井さん、私たちはどうやって、情報の海の中から身を守ればいいのか。あるいは、そこから何を得ればいいのか、難しいですね。
石井さん:可能性はたくさんあると思います。その中で、自分の価値観とか、自分の人生をいかに積み上げていくかだと思います。