左派が反緊縮でなく「消費増税に賛成」する理由

「道徳」として語られてしまいがちな財政問題

MMTに賛同する左派が「消費増税」に賛成する理由とは?(写真:freeangle/PIXTA)
内外で議論の最先端となっている文献を基点として、これから世界で起きること、すでに起こっているにもかかわらず日本ではまだ認識が薄いテーマを、気鋭の論客が読み解き、議論する「令和の新教養」シリーズ。
前回に続き、経済評論家でクレディセゾン主任研究員の島倉原氏が監訳をつとめた『MMT現代貨幣理論入門』を基に、同氏と中野剛志(評論家)、佐藤健志(評論家・作家)、施光恒(九州大学大学院教授)、柴山桂太(京都大学大学院准教授)の気鋭の論客4人が、主権、言語、宗教などを切り口に同書をめぐって徹底討議する。

MMTと左翼

島倉原(以下、島倉):MMTの議論に賛同する学者は、なぜみんな左派なんでしょうね。

『MMT現代貨幣理論入門』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

佐藤健志(以下、佐藤):保守、ないし右派が新自由主義に走ったことに対抗したいのでしょう。先進自由主義諸国では1970年代後半から「福祉国家路線など続けたら行き詰まる。小さな政府で民活路線だ」という風潮が強くなった。日本でもこれが「新保守(主義)」などと呼ばれ、のちの構造改革路線につながります。そんな状況の下「大きな政府で社会保障と格差是正を」と主張したい左派が、理論的基盤としてMMTを見いだしたのだと思います。

柴山桂太(以下、柴山):確かに、左派が「緊縮財政」に対抗する論理を模索するなかで、MMTが出てきたという印象はありますね。

中野剛志(以下、中野):MMT派経済学者のビル・ミッチェルが「MMTはディスクリプティブ(記述的)な理論で、政治的な右左は関係ない」といっていましたが、実際にMMTを唱えている人たちはこの本の著者のランダル・レイを含め、イデオロギー的には完全にリベラルです。ただナショナリズムを強く出しつつMMTを語ることも可能で、MMTはニュートラルだそうですから、私はそっちのほうで語らせてもらっています(笑)。

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  • 四代目73b72e9f4556
    井上準之助ですね。「男子の本懐」では美しく書かれていましたが、私もあの金解禁は世界恐慌という台風の最中に窓全開みたいな「自爆的緊縮政策」と思ってます。でも作家目線では美しい日本人なのですね。

    なので今回の増税が海外で「自傷行為」とまで言われたことは変に納得感があり、もう国民性だからダメかも知れないとも感じます。

    ただ一点既に1000兆円の国債のうちほぼ500兆円は日銀保有となっていて、実質の財政健全化が完了していることにより、いよいよという時の財政対応力はあるという点は良いことです。
    もちろん財務省・マスコミともに絶対に日銀保有国債の話題には触れませんが。
    up11
    down1
    2019/11/19 13:26
  • とろける味噌6a40a71c8121
    日本の左派はMMTじゃないよなぁと思って、じゃあなんだと考えてみた。
    結果、あいつら反安倍してるだけで何も考えて無いと再認識しただけだった。
    up18
    down11
    2019/11/19 07:10
  • マヒロ7c75c1de0ce1
    国民経済計算上、各部門の収支は政府=経常収支―民間であり、民間資産減少が政府赤字縮小をもたらす。理の当然として、民間から多く召し上げれば政府は黒字となる。
    しかし、民間=企業+非営利+家計で構成される。今の日本、非営利は存在感がなく、家計貯蓄率はゼロ近辺。政府赤字は、企業黒字の映し鏡となる。国債1000兆の内、日銀保有分を除けば、企業の内部留保とほぼ等しいのは偶然ではない。
    家計は貯蓄率マイナスを継続できないため、負担を家計に転嫁する消費増税は財政赤字縮小に不向き。
    右派左派問わず、この辺りの理屈は誰もが分かるはず。アベノミクス成功と増税を絡めた財務省の立ち回りが総理を金縛りとし、消費増税を実現させた。
    なお、MMTは打ち出の小槌ではない。政府が幾ら通貨を創造しJGPに注ぎ込んでも、短期的には労働力・技術水準などによる供給制約が生ずる。経済はこの制約を超えて成長できず、物価だけ上昇する。
    up6
    down2
    2019/11/19 14:07
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