フランス・リヨンで行われたフェミサイドに対する抗議行動。犠牲者は増え続けており、11月9日時点でその数は128名にのぼっている Photo: Nicolas Liponne / NurPhoto / Getty Images
Text by Asuka Kageura
男性による、女性を標的とした殺人「フェミサイド(femicide)」──。
その犠牲者の数が、ヨーロッパ各地で増加している。恋愛関係のもつれや夫婦間の家庭内暴力が主な原因となり、なかには「子供の目の前で元夫が元妻を射殺」や「殺した恋人をゴミ捨て場に捨てた」といったショッキングすぎる事件も相次いでいる。
その犠牲者の数が、ヨーロッパ各地で増加している。恋愛関係のもつれや夫婦間の家庭内暴力が主な原因となり、なかには「子供の目の前で元夫が元妻を射殺」や「殺した恋人をゴミ捨て場に捨てた」といったショッキングすぎる事件も相次いでいる。
94歳の夫に「杖」でぶたれて…
英「BBC」によると、フランスでは、夫や元夫もしくは家族によって殺害された女性の数が、今年9月時点で100人を超えたという。
100人目の犠牲者となった21歳の女性は、恋人に身体が変形するまで暴行を受けた後、ゴミ捨て場で無残な姿で発見された。また、101人目の犠牲者となったのは92歳の女性で、夫(94)に杖でぶたれて亡くなっている。なお昨年は計121人の女性がフェミサイドの犠牲となっている。
大統領も苛立つ「現実」
パリではこれに異を唱えるデモが行われ、フランス政府は家庭内暴力(DV)などから女性を守るための一連の対策の策定に乗り出した。
2020年から国内に1000ヵ所の避難用シェルターを設置するほか、400ヵ所の警察署で女性の被害届にどう対応しているかを調査する方針だ。さらに、加害者に電子タグを付けることで被害者への接近を防止し、子供への面会を拒絶する案も出ているという。

BBCの別の記事によれば、エマニュエル・マクロン大統領はキャンペーンの一環として、国立のDVホットラインセンターを訪問。しかし、皮肉にもその場で聞いた次のようなやり取りに、残酷な現実を突き付けられている。
数十年にもわたってDVを受けてきたある女性が、ついに勇気を振り絞って夫と別れることを決めた。身の回りのものを家に取りにいくために、警察官に同行してもらいたいと依頼するが、裁判所の許可がないと介入できないからと断られてしまう。実際にはこの警察官の説明が間違っていたが、ホットラインセンターには法的権限がない。それで結局、別のサポートグループにたらい回しにされてしまったそうだ。
この話を聞いて苛立ちを募らせたマクロン大統領が「こうしたことは頻繁に起こるのか?」と尋ねたところ、担当者は「はい、最近は特に」と答えたという。
スペインの現状もひどい。同国では、パートナーなどによる女性殺人事件の数が、2003年の統計開始から2019年6月までの累計で1000件を突破。犠牲者のうち607人はパートナーに、225人は元パートナーに、残りの168人は離婚・別居の手続き中の相手に殺されている。
リヨンでの抗議活動に参加する人々。プラカードには、何番目の犠牲者が何という名前で何歳だったのか書かれている Photo: Nicolas Liponne / NurPhoto / Getty Images
BBCの別の記事によれば、エマニュエル・マクロン大統領はキャンペーンの一環として、国立のDVホットラインセンターを訪問。しかし、皮肉にもその場で聞いた次のようなやり取りに、残酷な現実を突き付けられている。
数十年にもわたってDVを受けてきたある女性が、ついに勇気を振り絞って夫と別れることを決めた。身の回りのものを家に取りにいくために、警察官に同行してもらいたいと依頼するが、裁判所の許可がないと介入できないからと断られてしまう。実際にはこの警察官の説明が間違っていたが、ホットラインセンターには法的権限がない。それで結局、別のサポートグループにたらい回しにされてしまったそうだ。
この話を聞いて苛立ちを募らせたマクロン大統領が「こうしたことは頻繁に起こるのか?」と尋ねたところ、担当者は「はい、最近は特に」と答えたという。
犠牲者への追悼を拒否した極右政党
スペインの現状もひどい。同国では、パートナーなどによる女性殺人事件の数が、2003年の統計開始から2019年6月までの累計で1000件を突破。犠牲者のうち607人はパートナーに、225人は元パートナーに、残りの168人は離婚・別居の手続き中の相手に殺されている。
1000人目の犠牲者となった29歳の女性は、恋人と別れて新たな人生を歩もうと決意し、相手に伝えるために同棲していたアパートに行った際に窒息死させられた。そして翌朝、加害者の男性はバルコニーから身を投げて自殺したという。
また「エル・パイス」紙は9月、同国北西部のガリシアに住む女性(39)が車に乗っていた子供2人の目の前で元夫(41)に射殺されたと報道。元夫はさらに、家の中に侵入して元義妹と元義母の命も奪い、実家に逃走。その後、警察に自首した。ふたりは正確には離婚調停中だったが、それまでDVの被害などは報告されていなかったという。
「エル・パイス」の別の報道によると、マドリードで9月、フェミサイドの犠牲者となった女性(31)に黙祷(もくとう)を捧げようとの呼び掛けがあったことに対して、極右政党VOXが「左派のキャンペーンだ」と主張して拒否。同党以外のすべての政党の代表者がマドリード市庁舎での黙祷式に出席した一方、VOX党員は「暴力に性別はない」と書かれたバナーを掲げて現れたという。
VOXの党員はその真意について、「すべての暴力に反対」であり「左派を形成するジェンダー・イデオロギーへの反対」だと主張。これに対してマドリード市長が憤慨し、「これは実際に起きている問題で、対応が必要なものだ」と理解を求めた。
なお、この事件の被害者の女性は娘の目の前で元パートナーに殺されている。
また「エル・パイス」紙は9月、同国北西部のガリシアに住む女性(39)が車に乗っていた子供2人の目の前で元夫(41)に射殺されたと報道。元夫はさらに、家の中に侵入して元義妹と元義母の命も奪い、実家に逃走。その後、警察に自首した。ふたりは正確には離婚調停中だったが、それまでDVの被害などは報告されていなかったという。
「エル・パイス」の別の報道によると、マドリードで9月、フェミサイドの犠牲者となった女性(31)に黙祷(もくとう)を捧げようとの呼び掛けがあったことに対して、極右政党VOXが「左派のキャンペーンだ」と主張して拒否。同党以外のすべての政党の代表者がマドリード市庁舎での黙祷式に出席した一方、VOX党員は「暴力に性別はない」と書かれたバナーを掲げて現れたという。
VOXの党員はその真意について、「すべての暴力に反対」であり「左派を形成するジェンダー・イデオロギーへの反対」だと主張。これに対してマドリード市長が憤慨し、「これは実際に起きている問題で、対応が必要なものだ」と理解を求めた。
なお、この事件の被害者の女性は娘の目の前で元パートナーに殺されている。
マドリード市ではかねてより、全政党連名でジェンダーに基づく暴力防止に向けた条約を定めようという動きがあるが、VOXはこれも「男性差別だ」として拒否している。一方で、「家族暴力」として扱うべきだと主張することで、それに当てはまるケースの加害者の大半が男性であるという事実をぼかそうとしているかのようだ。
英国でも、DVで命を失った人の数が過去5年で最多となった。
英紙「ガーディアン」が参照したイングランドとウェールズの統計によると、2018年にDV関連のホミサイドで亡くなった人は173人と、前年から32人増加。そのうちの4分の3が、パートナーや元パートナーもしくは家族に殺された女性で、容疑者の大多数は男性だった。2014年は165人、2015年は160人、2016年は139人と減少し、2017年も141人にとどまっていたが、昨年になって一気に増加した。
DVの被害にあった女性と子供に専門的支援を提供する慈善団体「Refuge」の代表者は、「女性や女子に対する暴力の問題は、かつてないほど真剣に受け取る必要がある」と強調。
「この統計結果は、政治家や刑事裁判関係者への“ウェイクアップ・コール”になるべきだ」とし、必要な行動が取られなければ、このぞっとするような統計の数値が減ることはないと訴えている。
イギリスでも「DV犠牲者」が過去最多
英国でも、DVで命を失った人の数が過去5年で最多となった。
英紙「ガーディアン」が参照したイングランドとウェールズの統計によると、2018年にDV関連のホミサイドで亡くなった人は173人と、前年から32人増加。そのうちの4分の3が、パートナーや元パートナーもしくは家族に殺された女性で、容疑者の大多数は男性だった。2014年は165人、2015年は160人、2016年は139人と減少し、2017年も141人にとどまっていたが、昨年になって一気に増加した。
DVの被害にあった女性と子供に専門的支援を提供する慈善団体「Refuge」の代表者は、「女性や女子に対する暴力の問題は、かつてないほど真剣に受け取る必要がある」と強調。
「この統計結果は、政治家や刑事裁判関係者への“ウェイクアップ・コール”になるべきだ」とし、必要な行動が取られなければ、このぞっとするような統計の数値が減ることはないと訴えている。
相手を身体的・精神的にコントロールしようとする加害者と、報復を恐れるために表立った行動がとれない被害者。最悪の結果となってしまうそのときまで問題が明るみにならないことも、犠牲者が減らない理由の一つだろう。
政府レベルでの対策や法整備が必要不可欠で、外部からの介入や支援も欠かせない。その点で、少なくとも報道をきっかけに注目され、市民や政府の発言と行動につながっていることだけは、まだ救いがあると言えるのかもしれない。
政府レベルでの対策や法整備が必要不可欠で、外部からの介入や支援も欠かせない。その点で、少なくとも報道をきっかけに注目され、市民や政府の発言と行動につながっていることだけは、まだ救いがあると言えるのかもしれない。