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北のノベルゼロが死んだ

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ノベルゼロが死んだ。

まだ公式HPは現存しているし、休刊という声明は出ていないが2019年4月を最後に半年以上新刊が出ていないから、つまりはそういうことなのだろう。

近年のラノベレーベルにおいて、ノベルゼロほどネタにされたレーベルはなかったと思う。

「大人の男のための熱い物語」を壮大にぶち上げたのは良いものの、全く上手く行かず萌えとなろう系に路線変更し、それでも上手く行かなくて終わってしまった。

ノベルゼロの敗因は、「男性向けライト文芸」というノイジーマイノリティを本気で相手にしてしまったことだと考えている。

少女小説やBLと合流してライト文芸が女性向けに傾きつつあるなかで、「硬派な/なろう系じゃない/古き良き」男性向けライト文芸を作ってほしいという声こそあれど、実際は誰も買わないのだから。

今も生き残っているレーベルでこれに近いと思われるのがハヤカワJAだが、早川書房伊藤計劃や伴名練を「大人の男のための物語」として売っていないから仕方ないね。

そもそも「大人の男のための熱い物語」というテーマがあまりにもふわふわしすぎていて、編集部や作家ですらあんまり良く分かってない状況で書いていたんじゃないかな……と思っている。

レーベル初期の作品を眺めてみると、ファンタジーであったりハードボイルドであったりミステリであったり青春小説であったり時代劇であったり特撮ヒーローであったりが雑然と並んでいて、まるでそれは「大人の男のため」というよりは「ラノベレーベルで撥ねられた/商業的に出せない作品のごちゃ混ぜ」のようにも見えた。

個人的な評価になるが、レーベル全体で見れば打率はそこまで高くなかった。まあテーマ的には面白いと思うのだが、「この題材ならもっと詰められるだろ!」とどこかモヤモヤした感情を抱いたまま本を閉じてしまう作品が多かった。

路線変更後はあまり読みたいと思うような作品が少なく、食指が動かなかった。

よくノベルゼロは異世界禁止だとか、大人の男が主人公じゃないといけないとかいう制約があるように語られているけれど、別にそんなことはない。異世界転生ものもあるし、未成年の少年が主人公の作品だってある。

そういう風説がまかり通ってしまうほど、ノベルゼロは読まれていなかった。

読まれていなかったから、廃刊もむべなるかなといった気持ちになっている。

ここまでノベルゼロへの悪口みたいなものをつらつらと書いてきたが、はっきり言って悲しい気持ちでいっぱいです。

こういってはなんだが、私は世界で一番ノベルゼロを愛している読者だと自負している。

私はレーベルそのものに愛着を持たない傾向があるのだが、ノベルゼロだけは別だった。

男性向けライト文芸の道を模索する姿勢。

続刊が絶望的だった『MONSTERDAYS』の続きを出してくれたこと。

カクヨムコンテストで異世界転生を禁止する一方でなろう系作品を出す迷走ぶり。

これはどう考えても売れないだろ……と思うようなあらすじ。

面白くなりそうで面白くならないモヤモヤ感。

あとライト文芸にしては珍しく挿絵が付いていてちょっとお得だった。

私はノベルゼロを、レーベルとしてダメな部分もひっくるめて愛していた。

そうそう、たまにすごい名作を出してくれたことも記しておきたい。

モンスターデイズ先輩こと『人魔調停局』の2巻はファンタジー世界でかなり本格的なポリティカルアクションをやったのが嬉しかったし、

『魔獣調教師』は特殊設定ミステリの短編連作集としてミステリ界隈でもっと注目されるべき快作だし、

『ハードボイルド・スクールデイズ』は中学生の切ない恋愛と暴力を描いた青春小説として出色だし、

これらはもっと読まれてほしいと心の底から思う。

レーベルが死んでもまだ当分本は出回ると思う。幸いにしてkindle版もある。

今からでいいから、ノベルゼロという初期設定から何かズレてしまったレーベルに埋もれた名作を見つけて、読んでほしい。

さようなら、ノベルゼロ。

安らかに、ノベルゼロ。

お前と歩んだ3年間、楽しかったぜ。

そして星海社FICTIONSとガガガ文庫ハヤカワ文庫JA、後は頼んだ。