ウェブサイトを見るだけで“小遣い稼ぎ”に? 広告収入をユーザーに分配、ついにブラウザー「Brave」が実装

ウェブブラウザー「Brave」がプライヴァシーに配慮した独自の広告を表示し、収益をパブリッシャーとユーザーに分配するという目玉機能が、米国などでついに実装された。「個人情報をアップロードしないターゲティング広告」と「ブラウジングするだけで小遣い稼ぎになる」という二大機能を実装したBraveは、ブラウザーの未来を変えることになるのか。

ILLUSTRATION BY SAM WHITNEY; MIRAGEC/GETTY IMAGES

過去に何かと物議を醸してきた開発者のブレンダン・アイクは、新しいウェブブラウザー「Brave」を2016年に発表した。アイクは、JavaScriptの生みの親であり、Mozillaの元最高技術責任者(CTO)である。

このときの発表内容はシンプルだが、野心的なものだった。Braveは、じゃまな広告やユーザーに不利益となる追跡スクリプトをブロックする。代わりに、プライヴァシーに配慮した独自の広告を表示し、そこから得た利益をパブリッシャーとユーザーに双方に分配するというのだ。

それから約4年後、ついにこのヴィジョンが現実のものとなった。

グーグルの「Chrome」ブラウザーのオープソース版をベースに開発されたBraveは、19年4月にデスクトップ版とAndroid版で審査済み広告を表示し始め、10月には広告を見て獲得したデジタル通貨をユーザーが売却できるシステムを完成させた。これは仮想通貨交換所の運営企業であるUpholdとのパートナーシップによって実現した機能だ。

iOS版のブラウザー自体は数年前にリリースされていたが、Braveの広告システムがiOSで使えるようになったのは19年11月13日に配信されたアップデート版からである[編註:11月19日の段階で利用可能な地域は、米国、英国、カナダ、フランス、ドイツのみ]。

このパズルの最後のピースがはまったことで、Braveはついに「ヴァージョン 1.0」のリリースを公式に宣言した。これはつまり、Braveブラウザーがアーリーアダプターだけでなく、一般ユーザー向けの製品としても完成したというメッセージである。

広告プログラムには大手メディアも参加

iOS向けのBraveは、iOS向け「Firefox」のフォーク版(別ヴァージョン)で、ほかのiOSアプリと同じようにアップルの「WebKit」を利用して開発された。ただし、報酬を受け取るプロセスは、ほかのプラットフォーム版とほぼ同じとなる。

まず、ユーザーはBraveの広告プラットフォームをオプトインしなくてはならない。また、受け取ったトークンを米ドルに交換したい場合はUpholdでアカウント登録をする必要があり、これには顔写真付き身分証明書のコピーの提出が求められる。

現在、Braveは870万人の月間アクティヴユーザーを誇っている。Braveの最高製品責任者(CPO)のデイヴィッド・テムキンによると、ユーザー数は毎月約10パーセントの割合で伸びているという。

当初、Braveは通常の広告を自社の審査済み広告に差し替えて表示することを検討していたが、実際に提供開始されたBraveには差し替えではなく、プッシュ通知型の広告をときどき表示している。この広告プログラムは比較的新しいものだが、Braveの平均的なユーザーは毎月5ドル(約550円)相当の「ベージック・アテンション・トークン(BAT)」を獲得できる、とテムキンは試算している。

新聞業界はBraveの計画にはじめ乗り気ではなかったようだが、結果的に米公共ラジオ局(NPR)やウィキペディア、『ワシントン・ポスト』などのビッグネームがBraveの利益共有プログラムに参加中だ。テムキンいわく、Braveはこれまでに450万ドル(約4億8,900万円)相当のBATをコンテンツクリエイターに支払ったという。なお、仮想通貨情報サイトの「CoinMarketCap」によると、11月12日時点でのBATの価格は、1トークンが24セントだ。

個人情報をアップロードしないターゲティング広告

ヴァージョン 1.0のリリースは、「オンライン広告モデルに風穴を開ける」というBraveの目標に近づく大きな一歩である。

従来、広告主はウェブサイトに広告を掲載するために、パブリッシャーや広告ネットワークに広告費を支払っていた。Google ChromeやMozilla Firefoxなどのウェブブラウザーは、ただ指示に従って広告を表示するだけである。

だが近年、こうしたブラウザーは表示するコンテンツを決めるにあたり、以前より積極的な役割を果たすようになっている。

Chromeは、ユーザーにとって特に目障りな動きをする広告を自動的にブロックするようになっている(Chromeの場合、グーグルが巨大なオンライン広告企業であるという点が状況をさらに複雑にしているのだが)。一方、Firefoxやアップルの「Safari」は、ユーザーに不利益な追跡スクリプトのブロックに力を入れている。

もちろん、世の中には拡張機能やプライヴァシー重視のブラウザーもあり、それらを使えばFacebookやPinterestといったサイトの見た目を変えるだけでなく、広告を完全にブロックすることも可能だ。グーグルはChromeに変更を加え、広告ブロック機能をつくりづらくしようとしているが、いまのところ広告ブロックを完全に禁止する方針は定めていない。

関連記事ウェブでのプライヴァシーは、ブラウザーを変えて守る:トラッキング技術に対抗できるアプリ6選

一方、Braveは広告をすべてブロックする代わりに、パソコンやスマートフォン上の閲覧履歴を分析することで、クラウドに個人データをアップロードすることなくターゲット広告を表示できると仮定している。言い換えれば、Braveは気色悪さを感じさせずに、ユーザーが本当に関心のある広告を表示できるのだ。

Braveはこの仕組みによって、従来の方式であらゆる広告をブロックしたいと考えていた人々を充分にひきつけられると期待している。

ここからシェアは伸びるのか?

成長中とはいえ、Braveはいまだメインストリームからほど遠い。ブラウザーのシェアを公開している「StatCounter」によると、Google Chromeは依然としてほかに大差をつけていちばん人気だ。それどころかChromeは、19年はじめに61.6パーセントだった市場シェアを、10月に64.9パーセントまで伸ばしてさえいる。

続くSafariは、同期間中に市場シェアを15.1パーセントから16パーセントへと増やした。しかし、StatCounterが集計しているほかのブラウザーのほとんどは、今年シェアを失っている。StatCounterはBraveの集計値を公表していないが、「その他のカテゴリー」に入るブラウザーのシェアは、全部でたったの2パーセント前後である。

さらにBraveは、広告業界のあらゆる企業が直面しているのと同じ壁に取り組まなければならない。フェイスブックとグーグルがデジタル広告市場を支配しているという問題である。

テムキンは、Braveがマイルストーンであるヴァージョン1.0を達成したいま、マーケティング活動を強化していくことになる、と語る。「まだプレリリースであることを考えると、Braveの普及具合には満足しています」

なんといっても、ネットサーフィンで小遣い稼ぎができるという目玉機能は、まだ実装されたばかりなのだ。

RELATED

SHARE

そのスマート家電は、来年も“スマート”なのか? IoT機器に常在する「サポート終了」というリスク

米国の大手家電量販店ベスト・バイが、あるIoT機器シリーズのサポートを修了した。購入者の手元に残った「スマート」家電は、この日を境に「バカ」になる運命を背負わされたのである。こうした企業による突然のサポート終了は、消費者だけでなく、環境やコミュニティにとっても大きな問題だ。

TEXT BY LOUISE MATSAKIS

WIRED (US)

PHOTOGRAPH BY BEST BUY

スマート家電が、まったくスマートではなくなる“事件”が、再び発生した。

家電量販店のベスト・バイは11月6日、「Insignia Connect」シリーズのサポートを終了した。Insignia Connectは、冷蔵庫や冷凍庫、スマートプラグ2種類、スマートライトスイッチ、ウェブカメラなどからなるスマート家電シリーズだ。

サポート終了にあたり、ベスト・バイは購入者への全額払い戻しではなく、購入額の一部をギフトカードで提供するという対応をとった。ほとんどの製品にはまだ使える機能が残っているが、そもそも購入の目的だったはずのスマート機能は失われることになる。ウェブカメラにいたっては、完全なる機能不全に陥った。

スマート製品の購入という「賭け」

この一件で、われわれはあることを再認識することになった。インターネットに接続されたデヴァイスを購入するという行為は、その製品を手がけた会社が今後も対応ソフトウェアをサポートし続けるという可能性への賭けなのだ。ここでいうサポートとは、最新スマートフォンとの互換性を確保するためにアプリを定期的に更新したり、バグを修正したりといったことを指す。

しかし、どのブランドが競合他社より長く生き残り、どのブランドが業務を停止し、買収され、方向転換するかを事前に見極めることは不可能だ。あるとき目を覚ますと、あなたのスマート冷凍庫がいきなり“無能”になっている可能性がある。

「大きな問題のひとつは、消費者がこのような取引を『製品の購入』と理解していることです。しかし、その認識はあまり正しくありません」と、オハイオ州のケース・ウェスタン・リザーヴ大学の法学教授で、『The End of Ownership(オーナーシップの終焉)』の著者であるアーロン・パーザナウスキーは指摘する。

例えばスマートプラグの購入は、メーカーとの継続的なサーヴィス関係を結ぶことでもある。「消費者が売り手に主導権を奪われているという意味で、人々は売り手に束縛されています」と、パーザナウスキーは言う。

『WIRED』US版は、Insigniaのサポート終了の影響を受けた消費者のひとりに話を聞いた。Insigniaについてツイートしていた人物で、本人の希望によりツイッターのハンドルネーム「@captmotorcycle」とだけ記載する。

この人物は、「通知を受け取ったとき、サーヴィス終了にかなりショックを受けました」と打ち明ける。10月後半にInsignia Connectのアプリをたまたまチェックしたとき、所有するふたつの「Insignia ライトスイッチ」の機能が打ち切られることに気づいたという。「それ以前に注意喚起はありませんでした。メールも何も受けとっていないんです」

ベスト・バイは9月に打ち切りを発表していたが、注意喚起の通知をそれぞれの顧客が受け取ったかどうかは不明だ。ベスト・バイにコメントを求める複数のリクエストを送ったが、返答は得られなかった。

消費者へのフェアな対応とは何か

スマートホーム機器の生産中止を突然決断したのは、ベスト・バイだけではない。

大手ホームセンターのロウズ(LOWE’S)は2019年はじめ、同社のスマートホームプラットフォーム「Iris」のサポート終了を発表。「CNET」が記事で指摘したように、「顧客の手元には高価なレンガが残った」のである。

また、16年にグーグルのスマートホーム部門ネストに買収されたRevolvは、300ドル(約33,000円)のスマートホームハブのサポートを終了した。さらにそのあと、900ドル(約98,000円)のソーシャルロボット「Jibo」の市場撤退という悲劇も起きている。

これは消費者だけの問題ではない。使い物にならなくなったスマートガジェットは埋め立て処理場行きになることが多く、環境や周辺コミュニティに大きな損害を与えるからだ。

ベスト・バイの場合、インターネットとの接続を切断されたスマートガジェットのほとんどは、主要機能を保っている。Insignia Connectの冷凍庫は引き続きアイスクリームを保存できるし、スマートライトスイッチは最後にプログラムされたスケジュールをもとに電源を付けたり消したりする。

しかし、パーザナウスキーの考えでは、ベスト・バイによる一部払い戻しという措置では(あるいは全額払い戻しだったとしても)、製品を購入した人々へのフェアな扱いとは言えない。「消費者は時間をかけて製品を調べ、製品のセットアップに労力を費やします。さらに、このような製品は多くの場合、家庭のスマートデヴァイスのエコシステムの一部となっているのです」と、パーザナウスキーは語る。

「確かに払い戻しはかなり一般的になっていますが、企業はこのような行為を何度も繰り返しています」と指摘するパーザナウスキーは、連邦取引委員会や州検事総長に、長期間サポートできない製品を販売し続けてはならないと企業に伝えてほしいと考えている。

実際、連邦取引委員会はネストがRevolvのスマートホームハブを終了したときに調査を始めたが、最終的に措置を講じることはなかった。以来、規制当局はこの問題についてはほぼ干渉しない立場を貫いている。

Insigniaの生産中止がもたらした影響は、多くの人にとって比較的小さいものだった。ツイッターアカウント@captmotorcycleの人物は、機能しなくなったInsigniaのスイッチの代わりに、別ブランドのスマートスイッチを購入したという。

しかし、ベスト・バイの決定は、スマートガジェットの利便性に魅了されたすべての人への警告となるべきだ。スマートガジェットは、購入から数年後でさえ機能し続けている保証はない。一方で、最初からスマートではないガジェットには、スマートガジェットと同じような魅力的な機能はないかもしれないが、企業の判断で突然使い物にならなくなることもないのだ。

RELATED

SHARE