電気自動車の進化に必須といわれる「全固体電池」は実用化できない?

トヨタは2017年の東京モーターショーで、2020年代の早い時期に全固体電池を実用化すると発表。全固体電池は電気自動車の進化のカギになる技術として注目されるようになりました。はたして期待していいものか。電池研究の第一人者である雨堤徹さんに質問しました。

EVの進化に必須といわれる「全固体電池」は実用化できない?

全固体電池に「いいところはない」?

先日、テスラ『モデル3』で淡路島へ行ったのは、雨堤さんに取材するためでした。今回の「全固体電池」の話題に加え、「EV用リチウムイオン電池の必修知識」についての記事を後日ご紹介する予定です。

雨堤さんは三洋電機時代、後にテスラ車などに搭載されることになるリチウムイオン電池の開発に携わってきました。2010年に三洋電機を退職後、「Amaz(アメイズ)技術コンサルテイング合同会社」を淡路島で立ち上げ、原材料から生産まで、電池の技術開発全般にわたる技術コンサルティングを手がけている電池のスペシャリストです。


雨堤徹(あまづつみ・とおる)さん
Amaz技術コンサルテイング合同会社代表

1982年に岡山大学修士課程修了(無機工業化学)後に三洋電機入社。2008年に大阪市立大学博士課程修了(基礎電気化学工学)。一貫して電池開発に携わる。米テスラ社の黎明期には三洋電機側の窓口としてリチウムイオン電池を供給する契約を締結。2010年に三洋電機退社後、Amaz技術コンサルテイング合同会社を創業。

雨堤さんに質問してみました!

今、EVに関するテーマでもっとも注目を集めている分野が、全固体電池でしょう。2017年に全固体電池の話題に火を着けたトヨタは、今年6月の技術方針の説明会でも全固体電池に言及。今年9月には、2020年の東京五輪で全固体電池を搭載した電動モビリティを提供することを明らかにしました。

こうしたトヨタの動きに反応する形で、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が2018年~2022年に100億円を投入する開発プロジェクトを進めるなど、官民挙げての取り組みが進んでいます。

では、全固体電池の何がそんなにすごいのでしょうか。メディアでは、安全性が高まったりエネルギー密度が上がるなどと紹介されることもありますが、雨堤さんはどう見ているのでしょうか。

まずは素直に「全固体電池のどこが優れてるのか」と聞いてみました。即答で返ってきた答えは「優れているとは言い切れない」のひと言でした。

───全固体電池のどんなところが優れているんですか?
「優れているとは言い切れないです。何もいいところは説明されていないんです(笑)」
───え?
「みなさんが全固体電池が優れていると思うのは、トヨタがそう言ってるからですよね。トヨタとしては、全固体ができないと使い物になる電気自動車は作れませんよと言いたいのではないでしょうか。いわば、先延ばしのための言い訳とも感じてしまいます。なぜ全固体がいいのかという具体的な理由は、誰も説明していないんです。トヨタは自動車メーカとしては誰もが認める素晴らしい会社ですが、電池メーカとして素晴らしい訳ではありません」
───軽くなるという話は。
「なんで軽くなるんですか?(笑)」
───エネルギー密度が上がるとか……。
「なんで上がるんですか? 上がる理由がないんですよ。エネルギー密度は、下がることはあっても上がることはないです。だって、固体の方が液体より比重が重いでしょ」
───つまり、電極などの原材料が同じなら何も変わらないということですか?
「そうですね。例えば全固体電解質になることで、今まで使えなかったエネルギー密度の高い正極や負極活物質を使えるようになる、だからエネルギー密度が増えるんですよという人がいれば、『なるほどな』と思うか、『え、違うんじゃないの』っていう判断ができると思うんですけど、そういう話は出ていない。電解質を液体から固体に変えただけでエネルギー密度が増えることなんか、絶対にありえないです。電解質は電気容量を支配できないんです」

2016年に開催された『全固体電池最前線』というセミナーでは、ノーベル賞を受賞した吉野彰氏とともに登壇。雨堤さんは今回の話と同じ主旨の問題提起をしたそうです。

30年前に花形だった全固体電池研究

いきなりの全否定に少しひきつりながらも、雨堤さんの話を聞いていくと、素人にも合点のいくポイントがいくつか出てきました。まず、全固体電池そのものは決して新しいものではないということです。雨堤さんは次のように話します。

「みんな、全固体電池は新しい技術だと思っていますが、実は30年くらい前、全固体電池の開発は電池技術者にとって花形研究だったんですよ。だから我々の年代の研究者だと、固体電解質は経験があるんです」

「小容量の全固体電池は昔からあります。例えばペースメーカーの電池がそうです。ペースメーカーは体に埋め込むので、何があっても液が漏れないようにする必要があったからです。それが30年前です」

また雨堤さんは、「全固体」という呼び名は少し奇妙だと感じています。

「全固体電池の研究は1990年代にソニーさん(現村田製作所)が出したポリマー電池(ゲル状の電解質を使用)がひとつのソリューションとなって、研究開発が縮小していきました。今、ベンチャー企業が発表している全固体電池は、半分以上がポリマーです。ポリマーは固体ではないんですかっていう話ですよね。ポリマーを全固体とするならすでに世の中に出回っていることになります。最近では京セラさんが発表した電池を、半固体と呼んでいます」

ソニーのリチウムイオンポリマー電池は、ゲル状の電解質を採用して液漏れを防止すると同時に、外装材に金属を使わず、小型軽量化につなげた製品でした。また京セラは、伊藤忠も出資している米ベンチャー企業「24M」が基本技術を持つ粘土状の電極材料を採用した製品を発表しています。24Mはこの電池を「半固体(semi solid)」と呼んでいます。

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こうした事例を挙げながら、雨堤さんは次のように指摘します。

「私は、ソニーさんのポリマー電池を固体電池と呼んでもいいんじゃないかと思っています。〝全〟固体電池とは言っていませんが、液でも固体でもあまり変わらないということです。それから、ソニーさんは、ポリマー電池を作ってラミネート型にしたんです。当時は固体だからできる形状だということでした」

「でも今は、多くのラミネート電池はポリマーではなく液体の電解液が使われています。つまり、固体であることがメリットになっていないのです。固体にしたらこれが良くなるという明確な話が出てこない限り、固体にする必要はないと思います」

問題点を指摘する人が少ない

雨堤さんは、全固体電池の最大の課題について次のように話してくれました。

「量産化する上でいちばん問題なのは、固体と固体の接触面積をどうやって確保し、維持するかです。液状だから電極の接触面積を大きくできますが、形が決まっている固体電解質では難しい。それなのに、誰もそこにフォーカスしない。電解質の話ばかりで、接触のインターフェースの話はほとんど出ていません」

「ある東工大の先生は電解質の伝導率が高いと言ってますが、そんなの関係ないんです。電解質と正極、負極とでイオンのやりとりをしないといけない。そのためには接触面積をしっかり確保しないといけない。それがちゃんとできるかどうかが電池を実用化するための問題なんです。例えば、日立造船さんは、ものすごく高圧のプレスをして固体と固体の接触を改善しましょうという取り組みをしてますが、エネルギー密度など出ている数値は実用電池としてはまだ低い。それが実態だと思います」

今年6月、村田製作所は「業界最高水準の容量を持つ全固体電池」を開発したと発表しましたが、用途はウェアラブル機器などを想定していて、EVのような大容量、大出力のものではありません。雨堤さんは続けます。

「実験では、数ミクロンというすごく薄い電池を作っています。電解質を蒸着したようなものです。そのくらい薄くしないと性能が出ないんです。だから、容量の大きいものを量産する時にはどうするんですかって聞くと、数千層を積層しますって言うのですが、量産性を考えるとそんなのできるわけがないですし、逆にエネルギー密度は激減します」

「電池は、充電時には正・負極が膨張して、放電時に収縮します。電解質が固体だと膨張、収縮に十分追従できません。確かに実験室レベルでは全固体電池はできるので、ウソだとは言っていません。でも実用化のハードルはいっぱいあって、そこにメスが入れられず30年くらい前から悩んでいることが何も進んでないんです」

雨堤さんの愛車であるモデルSは、日本発売前にアメリカから個人輸入した希少な一台。

研究者がとられるのは問題が大きい

こうした話を聞いて思い出すのは、燃料電池のことです。

政府は2001年に「燃料電池実用化戦略研究会報告」をとりまとめて、2010年に累積5万台、2020年に約500万台の燃料電池車導入を期待するという目標を示していました。現状の保有台数は約3000台で、うち1000台は愛知県が占めています(2019年3月末時点)。課題は、燃料電池スタックの耐久性やインフラ整備で、20年近く経った今でもあまり変化はありません。

高い目標を掲げるのは悪くはないと思いますが、現実離れした数字は社会をミスリードすることになってしまうのではないかと危惧します。

雨堤さんは、関心と予算が集まっている全固体電池に研究者がとられてしまっていることが問題だと危惧しています。

「トヨタが独自に全固体電池をやるのはいいでしょう。でも周りを巻き込んで、貴重な技術者をとられるのは大きな問題だと思います。実際に日本の電池研究者がたくさん、全固体電池に流れています。毎年秋に開催される「電池討論会」(電気化学会主催)でも、全固体電池の話がとても増えていますね」

「全固体電池は安全だという話も出ていますが、今の液系リチウムイオン電池に大きな問題があるわけではありません。これで十分に成り立っているんです。それなのに、値段が高くて性能が落ちる全固体電池を誰が買うのでしょうか」

「トヨタとしては、次世代電池の解決策が出てこない中で同じことばかりはやっていられないので、いろんなことを探してくるのではないでしょうか。基礎研究としてリチウム空気電池をやったり全固体電池をやるのは重要なことだと思います。しかし、無責任に実用化が近い様なことを吹聴するのは、私から見ると、真摯な研究のあり方とは思えません。少ない研究者が全固体電池に振り回されて、実際に必要な、例えば正極材の新しい材料を開発するなどの研究が進んでいない。トヨタの発言は影響力が大きいので、もう少し現実的で実体のある取り組みにも注力してほしいですね。現状は、日本の電池研究の足を引っ張っているのではないかとさえ感じています」

辛辣な言葉で現状を語る雨堤さんの言葉を、ここではできる限り、そのまま紹介しています。

全固体電池に関しては、2018年に調査会社の富士経済(東京都中央区)がまとめたリポートに、2017年の21億円市場が2035年に2兆7877億円になるという試算が出るなど、日本国内の「熱」は上がりっぱなしです。

現在までに、トヨタの全固体電池の研究開発がどの程度まで進んでいるのか、詳細はわかっていません。来年あたり、雨堤さんもアッと驚くような成果が発表されるのであれば、それは素晴らしいことです。でも、電池研究に人生を捧げてきた雨堤さんの知見に照らせば、全固体電池に「EV用電池として明確なメリットはない」し、「量産実用化への壁はまだ何も解決されていない」のが現実であるということです。

夢を語るのもいいとは思いますが、地に足が付いた研究開発が大事なのは当然のこと。全固体電池が、ドタバタの「夏の夜の夢」にならないといいのですが、はたしてどうなっていくのでしょうか。

オフィスにあったモデルSのペダルカー。雨堤さんは、三洋電機(現在はパナソニック)がテスラに電池を供給することを決めた判断にも深く関わっていました。

(取材・文/木野 龍逸)


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