田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授)

 合成麻薬「MDMA」を所持していたとして、俳優の沢尻エリカ容疑者が麻薬取締法違反の疑いで警視庁に逮捕された。沢尻容疑者の事件自体、筆者は彼女の俳優としての将来性を大きく閉ざしてしまったことを残念に思っている。

 また事件を機に、日本での薬物事犯の検挙人数や件数の推移をチェックしたが、ここ数年、大麻の検挙者・件数の急増も受けて、総数で高止まりしている深刻な事態を確認することができた。沢尻容疑者が所持していたとされるMDMAなどの合成麻薬も、違法な薬物事犯の中で検挙件数も人員もなかなか減っていない。

 日本の経済学者は、違法薬物の売買を対象に含む、いわゆる「地下経済」について関心が低い。欧米では、経済ジャーナリストが麻薬カルテルを取材し、その経済合理的な組織運営に注目した『ハッパノミクス-麻薬カルテルの経済学』(邦訳、みすず書房)をはじめ、多くの研究が知られている。

 ただ、日本でもこの分野を持続的に対象としている学者がおり、その「権威」が経済評論家の門倉貴史氏である。門倉氏の推計によると、東京都内で流通している違法薬物の市場規模は、約4200億円だという。かなりの市場規模だが、これに加えて薬物使用がもたらす健康被害、社会的評価の損失などを換算すると数兆円に上るかもしれない。

 ところで、沢尻容疑者の事件をきっかけにして、ある種の「陰謀論」がインターネットを中心に巻き起こった。今までも、北朝鮮のミサイル発射と安倍晋三政権に関する政治問題が時期的に重なることで、ネット上で「安倍政権のスキャンダル隠しで、北朝鮮がミサイル発射して注意をそらした」といった根拠不明な陰謀論が流布されていた。

沢尻エリカ容疑者=2019年9月(矢島康弘撮影)
沢尻エリカ容疑者=2019年9月(矢島康弘撮影)
 一笑に付すべき話だが、実際にはこの種の陰謀論や根拠なき噂は後を絶たない。社会問題の話だけではなく、個人レベルでもこの種の陰謀論やデマの被害に遭っている人は多いだろう。

 筆者もその一人で、なぜだか一部の人たちの間で消費増税の積極論者になっている。この連載をお読みいただいている方々はお分かりだろうが、終始一貫して消費増税に反対を訴えている。