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【社説】

中国が教授解放 説明なき拘束を改めよ

 中国当局に拘束されていた北海道大学教授(42)が解放されたが、中国は解放まで拘束理由などを明らかにしなかった。他にも拘束されている邦人がいる。中国は説明なき拘束を改めるべきだ。

 北大教授が無事帰国できたことは歓迎したい。だが、中国が二〇一五年に国家安全法を施行し「スパイ行為」の取り締まりを強化して以降、教授以外に十三人が拘束され、少なくとも九人が拘束されたままであるとみられる。

 それだけに、教授解放で中国の恣意的(しいてき)にも映る邦人拘束の問題が決着したとは到底言えない。日本政府は他の邦人の拘束理由の開示を中国に求め、理不尽なケースは早期解放を強く要求するべきだ。

 北大教授の拘束について、中国政府は「国家機密にかかわる資料を集めていた」とし、「反スパイ法と刑法の違反に当たると認定した」と記者会見で明らかにした。

 だが、中国当局は日本側の報道で明らかになるまで、教授を九月に拘束したことすら公表してこなかった。中国は「教授が容疑を認め反省の意思を示したため、保釈した」と“温情措置”ばかり強調するが、具体的な違反行為などは一切明らかにしていない。

 今回の問題で、安倍晋三首相は十月末、訪日した王岐山国家副主席と会談した際に、直接解放を求めた。訪問先のタイでは李克強首相にも対応を求めた。首相と政府の努力は評価したい。

 拘束二カ月余での早い解放は、日中とも来春に予定される習近平国家主席の国賓としての訪日への悪影響を避けたいとの共通の思いが背景にあった可能性が高い。その意味では、今回の早期解放は特殊ケースと見るべきである。

 北大教授の拘束に対し、研究者グループ「新しい日中関係を考える研究者の会」は「理由が不明なままの拘束」に抗議し、情報開示を求める声明を出した。全国各地の研究者からも、学術交流への悪影響を懸念する声が噴出した。

 学者が研究対象国で詳細な資料を収集するのは当然である。何が国家機密に当たるか明確でなく、中国側の恣意的判断で拘束されるようであれば、危険が大きすぎる。重要な隣国についての研究が萎縮することを懸念する。

 中国出入国の際には、双方の国で公刊された書籍ですら「政治的に敏感」との理由で一方的に没収されることがある。邦人拘束の問題でも、中国には違法行為の明確化と情報の透明化を求めたい。

 

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