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再浮上する路面電車延伸構想 岡山市中心部再開発、都心回帰が追い風

岡山市民の足として親しまれている路面電車。延伸・環状化の構想が再浮上している=岡山駅前電停
岡山市民の足として親しまれている路面電車。延伸・環状化の構想が再浮上している=岡山駅前電停
再浮上する路面電車延伸構想 岡山市中心部再開発、都心回帰が追い風
構想の背景には、現在の運行区間が短いこともあるという=東山線西大寺町電停
構想の背景には、現在の運行区間が短いこともあるという=東山線西大寺町電停
市民会館ができる予定の表町商店街南部。大雲寺電停-西大寺町電停ルートは、付近を巡るプランだ
市民会館ができる予定の表町商店街南部。大雲寺電停-西大寺町電停ルートは、付近を巡るプランだ
 岡山市中心部を走る路面電車の延伸・環状化構想が再浮上している。市が今年8月、新たなプランを公表。大型商業施設開業やマンション建設などの再開発で都心回帰の動きが見られる中、車を持たない高齢者にとって使いやすい交通機関としてのニーズがあるとにらむ。沿線に見込まれる地域からは活性化に弾みが付くと期待の声が上がる半面、整備スケジュールなどの具体的な検討は始まっていないのが現状だ。

■8ルート


 市が構想で掲げたのは8ルートで、うち6ルートは中心部内での整備を想定している。具体的には①「JR岡山駅東口-市役所」②「市役所-大雲寺電停」③「大雲寺電停-西大寺町電停」④「市役所-岡山大病院」⑤「岡山大病院-清輝橋電停」⑥「城下電停-岡山城付近」で、実現すれば、現路線とつながることで環状線が誕生する。ほかの2ルートは⑦「岡山駅西口-岡山大」と⑧「清輝橋電停-岡山赤十字病院」で、周辺部とのアクセス強化を図る狙いという。

 現在路面電車を運行しているのは、両備グループの岡山電気軌道(岡電)。岡山駅前を発着点に、東方面の東山線(約3キロ)と南方面の清輝橋線(約2キロ)の2路線を持つ。運賃が安い上に渋滞とは無縁のため市民の足として親しまれている半面、市役所や岡山大病院などの主要施設を十分にはカバーできていない。今回の延伸・環状化構想は、こうした現在の路線網が抱えている弱点の解消も、大きな狙いとなっている。

 「少しの距離を動くのに楽なので、表町に出掛ける時によく使う。路面電車は誰にでも分かりやすいコースを走るので、路線を延ばせば、市民だけでなく観光客にも喜ばれるのではないか」。岡山駅前電停で下車したばかりの岡山市北区、看護師女性(23)は話した。

■浮いては消え…


 これまでも路面電車の運行区間を延ばしたいとの考えは、浮いては消えたいきさつがある。地元財界は1994年、東山線と清輝橋線を結ぶ環状化構想を打ち上げたものの、岡電は採算面で懸念を示し、やがて立ち消えた。2001年には、市が「岡山駅前-市役所-岡山大病院」のルートを検討したものの、十分な調査に踏み込むことができなかった。

 路面電車の延伸・環状化のアイデアが今回再燃したのは、岡山駅付近で大型商業施設・イオンモール岡山がオープンし、高層マンションが目立つようになるなど、都市整備が進んでいることが背景にある。中心部の姿が様変わりする中、人口の都心回帰が見られ、岡山駅や県庁、市役所、裁判所などに囲まれたエリアは、2000年に2万人だったのが、15年後には2万7千人に増えた。さらに22年に新しい市民会館が完成すれば、その流れは加速する見通しだ。

 「運行区間が延びれば、中心部の移動がより楽になる。都心回帰を追い風に、交通機関への新たなニーズも生まれるはず」と市交通政策課。いわばリターンマッチとなる今回は実現の可能性を高めようと、道路混雑が悪化しかねない複線でなく、中央分離帯などを生かした「単線」での整備を想定する。1日の利用客数や整備費などを踏まえ、8ルートの整備を優先度の高い順に短期、中期、長期に区分した。

 市が短期に整備できると位置付けているのが、清輝橋線と東山線を結ぶ「大雲寺電停-西大寺町電停」のルートだ。距離は約600メートルと短く、9億円の概算整備費は8ルートの中でも安価。さらに沿線は、表町商店街南部・千日前地区で市民会館の建設が予定されるなど再開発のまっただ中にある。大雲寺電停-西大寺町電停ルートの沿線では、早くも歓迎の声が上がっている。

 表町商店街連盟の長谷川誠理事長は「商店街はにぎわいが北部に集まっている。市民会館と路面電車がセットで機能すれば、南部の存在感が高まるようになる」と捉える一方で、集客力がある店づくりにそれぞれが一層取り組む必要性も忘れない。約2100世帯が加盟する深柢地区連合町内会の飛岡宏会長は「マンション建設で住民が増えており、気軽に利用できる交通手段を充実させてほしい」と早期実現を求める。さらに「路面電車の路線網が充実すれば、県都のイメージアップにつながるのではないか」と続けた。

■すみ分け


 構想を打ち上げた市。19年度中に計画案をとりまとめる予定とはいえ、具体的な整備スケジュールを持っているわけではない。優先整備したい大雲寺電停-西大寺町電停ルートでさえも白紙状態というのが実情だ。

 構想が実現する上でのポイントは、市中心部を縦横に走る路線バスとの兼ね合いをどう取るかだ。市は現在、各社が持つバス路線の将来像を考える協議会も立ち上げており、市交通政策課の担当者は「いずれ路面電車とセットに議論したい」と話す。とりわけ注目されるのは、路面電車と路線バスの両方を走らせる岡電の反応。現在は静観の構えだ。仮に構想が現実味を帯びたとすれば、車両の確保なども論点になるとみられる。

 市は今秋、新設ルート案に対するパブリックコメント(意見公募)を行っており、市民がどのような反応を示しているのか、結果も注目される。「路面電車を短距離の移動手段に位置付け、バスと競合させないようすみ分けを図ることが理想」と、岡山大大学院の橋本成仁准教授(都市交通計画)は指摘する。ただ、検討課題は多く、実現の道は平たんではなさそうだ。

(2019年11月18日 13時55分 更新)