日本人が「国境なき医師団」で実は重宝される訳

作家のいとうせいこう氏に聞く

作家のいとうせいこう氏が見た「国境なき医師団」のリアルな活動風景とは(撮影:今井 康一)

崇高で立派で正直近づきがたい存在、と思ってはいないだろうか。著者も最初は“ぼんやりとした尊敬の念”だけだった。事の発端は「男用の日傘が欲しい!」とSNSで発したメッセージ。それが転じて、ハイチ、ギリシャ、フィリピン、ウガンダ、南スーダンの現場取材へ。あまり知られていない組織やスタッフたちの姿を等身大でリポートする。『「国境なき医師団」になろう!』を書いた作家のいとうせいこう氏に詳しく聞いた。

スタッフの半数は「非医療者」

──「国境なき医師団」(略称、MSF)とは、紛争地や被災地へ駆けつける医療関係者有志、くらいのイメージでした。

実はスタッフの半数がノンメディカル(非医療者)なんです。現地で活動するにはライフラインの確保、テント・タンク・浄水装置・食糧・毛布・車両・発電機等々が必要になる。インフラづくりや安全管理、裏方全般を担当するロジスティシャン、経理・人事担当のアドミニストレーター、チームをまとめるプロジェクト責任者など、実に多種多様なバックグラウンドの人が参加しているんです。

もう1つの特徴は徹底した独立性。活動資金の9割が個人からの寄付で、政府や製薬会社など企業からの援助は基本断る。何らかの協力を得ても企業名の表示など見返りはなし。あくまでも独立性を担保する。そこに患者を選ばない中立性、民族・宗教・政治的信条を分け隔てなく受け入れる公平性を加えた3点が確保できない場合は、撤退することもあるんです。

──崇高な方々、みたいな冷めた決めつけも間違っていたようです。

現地で働くスタッフは「毎晩ビール飲んで、愚痴言ってケンカしまくってる。そんな人間が集まって、何とかしようとしてるのが私たちなんです」って言うんです。不満があれば解決策を徹底的に話し合うから、気持ちが満足してる。「忙しいというストレス以外、ストレスがまったくない」って話す人もいた。もちろん悔しいこともたくさんあって、この赤ん坊はもう助からない、とギリギリの決断を迫られる。そうやって向き合っているんだなと思うと、一人ひとりがいとおしくなるというか。

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  • Tam05c661b8da55
    寄付をあまりしない方ですが国境なき医師団には時々寄付してます。行動原理が素直にカッコ良かった。
    はした金くらいの寄付でも助かる人がいるので、気が向いたときにでも皆さん是非。
    up28
    down1
    2019/11/18 17:28
  • qb8089b983e12
    能動的に人間対人間のコミュニケーションができる日本人は、
    一定数存在している。

    実際この記事の通りで、
    宗教や文化や貧富にこだわりがなく誰とでもフラットに話ができ、
    適度に自分を抑えて集団の利益を優先させる事ができることができるから、
    欧米を含め海外のインターナショナルな場ではそうした日本人は好かれて重宝されがちだ。

    しかしこの記事の通り、日本に帰るとそれがキャリアの役に立たないどころか、妬み僻み嫉みに晒される。

    思考停止で幼稚で自己中で性格が悪いから英語が話せない系日本人は、
    こうした人に英語コミュニケーションを決して教わろうとしない。
    自分たちと違うと除外して存在をないことにする。
    時々こうした記事が、
    上っ面を猿真似したら自分も同様に評価されるかも、という欲望を煽る。
    そんな甘くはないからうまくいかないが、すると英語脳・・的な理屈をこしらえて流布し、既成事実にする。
    典型だ。
    up7
    down7
    2019/11/18 20:38
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