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冥府ワナヴィ KDP自治区

〈某月某日〉

 ここに着いてからかなりの年月が経った。

 冥府ワナヴィは様々な人種の入り混じった闇の向こうにある一角である。

 この国(?)では誰もが何者かになろうとしており、見る側よりも表現したい側の人間が圧倒的に多い。

 それはあらゆる分野にわたっており、音楽だろうが演劇だろうが舞台の上は通勤ラッシュの山手線真っ青なほどに人がいるにも関わらず、観客席には地方の廃駅にも至らない人間しかいない。

 この少数の観客から喝采を得るべく、舞台上の人間達は足を引っ張りあう。

 私がいるのはKDP自治区と言い、作家になりたい人間が自意識をこじらせ合う地獄の三丁目である。

 先日ここにいた八幡謙介氏の作品が他の自治区から出たと聞いている。

 彼もこの地区で散々嫌な目に遭って旅立っていったクチだったが、聞くところによると移動先のトゥイート自治区でも大層嫌な目に遭ったようで、いよいよここから出て行こうと思い始めた私に「他へ移っても大して状況は変わらないのではないか?」という絶望を投げかけている。

 初めてここへやって来た時には希望でいっぱいだった。

 文学賞を獲らなくても世に作品を送り出す事が出来て、印税をもらう事が出来る。それがたとえ少額でも、自分の生み出したもので呑める酒にはロマンがあった。

 だが、気付けば周りも自分も自意識にかられた怪物と化しており、そうとは知らずに互いの足を引っ張りあっている。かつて見たキラキラした夢はどこへやら、裏街道であるゴチャン・ネールでは作家になれなかったオッサンが希望に満ちた作家志望を自分の側に引き寄せようと手をこまねいている。

 新しい作家が出てきても、プロになっていなくなるのならともかく、周囲からの見えざる圧力やら軋轢に嫌気がさして遅かれ早かれ出ていく流れが繰り返されている。

 進歩の無い沼。そこにはまり込んで、その一員となってしまった私にはこの境遇はいかんともしがたい。

 そんな折に届いたのが八幡謙介氏の新作である。もう絶望しかない。地獄を出たら他の地獄へ行くだけである。

 この冥府はどうやら未来永劫続く模様である。法も無く、秩序も無いここには自意識と罵倒の銃弾が飛び交っている。

 今日もわずかな賞賛をめぐって醜い人間達が殴り合っている。

 ここで生き抜くには、贅沢品である賞賛は無視して暮らしていくしかないようである。


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月狂 四郎

Author:月狂 四郎
月狂 四郎(つきぐるい しろう)と申します。

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入間失格第弐篇 雨とカーネーション
入間失格 総集編
プロミス・リング
紅い雨、晴れてのち虹
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