本間誠也

横浜・桜木町バス事故から1年――過酷なハンドルの現場は改善に向かっているのか

11/18(月) 8:50 配信

運転席の真後ろの席に座っていた男子高校生が亡くなったのは、1年前の10月28日である。横浜市のJR桜木町駅近くの交差点付近で衝突事故を起こした路線バスに乗っていた。16歳、死因は脳挫傷。一緒に乗っていた母親も全治約1年の重傷だった。被告の運転手を裁く刑事裁判で、母親は「息子が生きるはずだった年月と同じくらい、被告人には刑務所に入っていてほしい」と訴えた。その被告は「神経反射性失神」であり、運転中に意識を失っていたことも公判では明らかになっている。業務の過酷さが指摘される路線バス運転手。その健康管理を担うはずの会社側は、この疾病を把握し、配慮していたのだろうか。(文・写真:本間誠也/Yahoo!ニュース 特集編集部)

高校生の息子を亡くした母の訴え

ある事故や事件はどんな様子だったのか、なぜ起きたのか。発生直後は捜査も行き届かず、判然としないことが少なくない。公判になると、それは次第に明らかになってくる。「桜木町駅前のバス事故」もまさにそうだった。

横浜地裁

今年9月18日、横浜地裁。傍聴席がいっぱいになる中、検察側は冒頭陳述などを行い、事故の様子を再現した。この事故は死者1人、重軽傷者4人を出している。死亡したのは秋場璃雄(りお)さん。重傷を負った母親はバス内の通路を挟んで反対側の最前列に座っていた。再現は、母親の供述調書も元になっている。

検察官が口を開いた。

「最初の(コンクリート柱への)衝突の直前、バスは突然車線をはみ出すように進路を変えると、ワシャーと大きな音が響いて強い衝撃を受けた。運転手はハンドルに体を預けた体勢で、顔は下を向いて、体に力が入っていないようだった」

「続いて2度目の衝突があり、洗濯機の中でかき回されているような激しい上下、前後の衝撃を感じ、気が付くと、(母親は)バスの床に投げ出されていた。救急隊員から『息子さんは(横浜)市立大の救急センターに搬送されました』と告げられた」

璃雄さんと母親は2人だけの家族で、日曜の夜に親子で買い物をした帰りだったという。

路線バスは地域住民の足。乗客には、お年寄りや体の不自由な人も多い(イメージ)

過失運転致死傷罪で起訴され、被告になった神奈川中央交通の運転手(51)は、うつむきながらそれを聞いている。

検察側によると、事故の直前、被告は失神の前兆である目のかすみなどを自覚したのに、その時点で運転をやめず、そのまま気を失って時速40キロ超でコンクリート柱や乗用車に衝突したという。一方、被告・弁護側は「(検察側が指摘する地点では)正常な運転ができないほどの目のかすみではなかった」などとして、起訴内容を一部否認している。

続けて検察官は、母親の供述調書を朗読し、その心情を伝えた。

「(璃雄さんは)保育園のころから、大人になったらお医者さんになってママを治すと言っていた。事故の当日も医者になりたいと言って、医学部への入学に向けて勉強していた。息子あっての自分であり、息子がいないのに生きている理由が分からない」

「被告人には息子がこの先、生きているはずだった年月と同じくらいは、ずっと刑務所に入っていてほしい」

バスの座席(写真:アフロ)

璃雄さんは、なぜ医師を目指していたのだろうか。それは、身体に障がいのある母親を自分の手で治したかったからだという。親子が暮らした横浜市内のアパートの住民らは、母親の階段の上り下りを介助していた璃雄さんの姿を覚えている。

運転手は何度も「失神」、会社側は……

同じ日の公判で検察側は被告の疾病にも言及した。

「被告が最初に失神したのは、(神奈川中央交通の路線バス運転手になって間もない)15、16年前。同僚たちと食事中に視界のかすみを感じ、そのまま気を失った」

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