答えはみつからないし、なんて伝えればいいかわからないけど

過去の経緯から、「どうしたら人を憎まずにいられるか?」に悩んでいる相談者。ノドに手羽先が刺さるような質問に、幡野広志さんはどう答えるのでしょうか。

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高校生から29歳まで祖母から暴力を受けていました。 年寄りの力ってすごいですね。とても老人から受けたものと思えない怪我をたくさんしました。 私は離婚して出戻ったシングルマザーの娘だったので、母の実家が自分の実家です。 逃げるところはありませんでした。 逃げようとしましたが、結局母が泣きながら家に残っておばあちゃんを守るとか抜かすので、ずっと諦めていました。母は好きだったので、その時は1人にしたくないと思っていました。
28歳の時に母が脳腫瘍で倒れました。1人で面倒を見ました。 母が回復してしばらくして、私は実家を離れました。母が身の回りの事はできるようになっていたのと、祖母は母に暴力を振るわないのでまあいいかと思いました。耐えられなかったんです。母の事は好きですが、私が側にいると何でも私にやらせるところは嫌いでした。祖母と共依存していることも。

29歳の時に祖母が肺がんにかかりました。大嫌いだったけれど手伝いくらいはしました。
祖母はすぐ死んでくれましたが、葬式をしなくてはいけなかったので、母の弟である叔父がでしゃばってきました。叔父は長男ですから喪主をしました。祖母の金も全て持って行きました。メインで面倒を見た母の苦労はなかったことにされ、たまにお見舞いにきただけの叔父は寄与分など無視してただ等分した金を母に渡しました。

30歳。結婚式に叔父を招待したところ、招待の時期が遅い・祖母の喪中なのにふざけているのか?と断られました。叔父の娘も同年に結婚式を挙げています。
どうやら叔父は母が嫌いで、母の娘である私も同列に憎たらしいようです。

先日、叔父の娘が出産したと聞きました。
私は、その時、脳腫瘍が進行しうんこをこねるようになった母のパジャマを洗っていました。

私は祖母のサンドバッグになり、祖母が死んでも私が母の娘であるという理由で叔父にひたすらバカにされてきました。貧乏育ちで、学校を出るのに奨学金も沢山借りました。先日は私の知らない私名義の奨学金が新しく見つかりました。母が勝手にやったらしいです。
一方叔父の娘は金持ちの家に生まれ暴力も振るわれず悠々と幸せに生きています。私はブスですが叔父の娘は誰もが認める美人です。正直殺してやりたい。本来叔父を攻撃すべきですが、私は叔父に苦しんで欲しい。

私のお腹にも子供がいます。こんなに憎しみを抱えた母から、心の優しい子供が生まれ育ってくれるものかと悩んでいます。
子供は親と別の人間ですから、どう育ってくれても構いません。
私は暴力も振るいませんし金銭的にも不足なく育てる用意がありますが、それでも結果的に私同様に人を憎むようになるならそれでも仕方ないと思っています。でも、子供がどうしようもない環境にいる間は、私のストレスを浴びずに育って欲しいんです。
なので、どうしたら人を憎まずにいられるか、そういう頭にするために踏むステップを教えていただきたいです。

知らない人からしたら私が狂っていて、全て人のせいにしているのかもしれません。
私は人から見たら全然頑張っていなくて、辛い思いもしていなくて、かわいそうな私を演じたつもりで自己憐憫に浸る人にしか見えないのかもしれない。
ただ、出産の連絡を受けてから私は生まれて初めてモノに当たりました。バスタブをガンガン蹴りました。モノに当たると言ってもそんな程度ですが、一度始めたら最終的に無意識に人に暴力を振るいそうで恐ろしいです。
こんな祖母みたいな暴力的なことは絶対にしたくなかった。何かが壊れたような気がします。

(ストロング鬼殺し 31歳 女性)


いつも「なんでぼくに聞くんだろう?」って心からおもうんですけど、ここ一年半ぐらいで4000件ぐらいの悩み相談が届きました、たぶんおおいのだとおもいます。

恋愛のことや家族のこと、病人や医師や看護師からだったり、指名手配されているという人からなども相談がきたことがあります。ぼくの本業は写真家なんですが、写真の相談ってほぼきません、びっくりです。

人生相談に人生のすべてを費やしてしまうと、人生がつまらなそうだし、ぼく自身も悩んでしまいそうだから一週間のうち2~4時間程度しか人生相談に時間を費やしていません。

人生相談いがいの時間は写真を撮ったり文章を書いたり、病院で治療をしたり、子どもと遊んだり、一人で旅行にいったり、料理をしたり掃除をしたり、美味しいものを食べたり、すぐ疲れるのでよく寝ています。

意図的に、人生相談のことを日常の中では考えないようにしていますが、たくさんの相談に目を通していると、手羽先の骨がノドに刺さるような相談があります。

今回の相談はまさにそんな手羽先で、ここ数日はふとしたときに考え込んでいました。どんなに考えても答えは浮かばず、なんて伝えればいいのかもわからず、寒くなった空気で可視化された白いため息をみつめながら書き始めます。

まずは結婚と妊娠おめでとうございます。あなたは金銭的にとても苦労されたみたいだけど、お子さんにたいしては金銭的に不足なく育てる用意があって、あなた名義の奨学金が出てきても動じていないところをみると、いま現在は金銭的に余裕があってのことなんでしょう。

努力したところで抜け出せる問題でもないのですが、きっとあなたが人並み以上にがんばった結果なのだとおもいます。

もしかしたら旦那さんの収入なのかもしれないけど、旦那さんがあなたを好きになったわけですからね。どちらにしてもすごいことじゃないですか、何をいえばいいか悩んでいたけどこれをいちばん最初に伝えようとおもいました。

あなたは理不尽のなかで生きてきて、あなたは何も悪くないということも伝えたいです、本来であれば経験しなくてもいい苦労を強制的に受けてしまったんです。あなたに非はありません、あなたの周囲にいた大人が悪いんです。

その上ではっきりと伝えないといけないのですが、結婚して出産した従姉妹にたいして殺意を抱くことは大間違いです。ただの逆恨みです、とても醜いものです。あなたの従姉妹はあなたと同じようにまったく非がありません。

ぼくがあなたのいとこの旦那さんだったら、オメーが死ねよっておもうでしょう。ぼくは自分の子どもの人生が大切です、子どもの人生に大切なのは母親です。子どもを守るということは妻を守るということでもあります。

あなたの殺意がどこまで本気かわかりませんが、自分の妻が殺されるぐらいなら様々な方法で先手をうちます。家族を守るというのは、そういうことです。

ここから先はちょっと……どころじゃなく、とても伝えづらいことです。

あなたが祖母から暴力を受けているとき、お母さんはあなたを守ってくれましたか? もしもぼくの息子が祖母から暴力をふるわれていたら、殴り返すか身をていして守ります。あなたを逃すことも、守ってくれることもなくお母さんは祖母を守りましたよね。

孫娘の性格に影響を与えるほどの暴力をふるった祖母です。あなたが生まれる前の暴力のターゲットはあなたのお母さんと叔父ですよ。年齢も若いわけですから、おそらく激しいものだったでしょう。

祖母はお母さんに暴力はふるわなかったそうですけど、それはあなたに矛先が向かっていたからです、それでお母さんは安心していたり祖母からの愛情を感じていたのではないですか。DV夫が子どもを虐待しても妻が止めない、止めないどころかDV夫の共犯になってしまう構図と似ています。

あなたのお母さんは、祖母の共犯です、これはあなたも感じていることですよね。以前は好きだったかもしれないけど、あなたはもうお母さんのこと嫌いでしょ。

叔父があなたのお母さんを嫌っている理由も、もしかしたらこれじゃないですか。お母さんと叔父で平等に虐待を受けていたのではなく、虐待に差をつけられていたんでしょう。もちろんだからといって、叔父があなたまで嫌う理由にはならないのだけど。

搾取子と愛玩子という言葉があります、虐待をする親が兄妹間で一方にはムチを与えて、もう一方はアメを与えるというものです。

日常的にあるユルいところでいえば「お兄ちゃんなんだから、お姉ちゃんなんだから」という上の子にガマンさせることです。キツいところになるとジャイアンのお母さんです。妹のジャイ子にはマンガを描かせたりと自由に好きなことをさせて、兄のジャイアンには暴力でやりたくない店番をさせます。そりゃジャイアンは憂さ晴らしにのび太をボコボコにします。

ムチをうけた搾取子の矛先はアメをうけた愛玩子にむかいやすく、愛玩子は虐待する親を守りやすくなります。つまり親は安全に虐待がしやすくなるんです。

いまの日本の社会だって、いわゆる勝ち組と負け組という構図がありますけど、負け組は勝ち組に矛を向けて支配層には無関心、勝ち組は支配層を守るわけです。これは話がちょっとそれるけど、虐待家庭の兄弟と似ているなってぼくはおもいますよ。

ちなみに、あなたと従姉妹の関係だっておなじですよ。あなたが搾取子で従姉妹が愛玩子。本来なら叔父に……といいつつ従姉妹に殺意抱いてるでしょ。んで、さらっというけど叔父にたいして殺意抱くもの間違いだからね。

話を戻しますけど、なんであなたにこれがとても伝えづらいかというと、すでにお母さんの介護をしているからなんです。虐待の連鎖って言葉がありますけど、あれってなにも親から子どもへの育児虐待だけではないんです、親に復讐をしてしまう介護虐待だってあるんです。

あなたみたいに自分のされたことに疑問を感じて、被害を認識できている人は子どもを守るんですよ。理不尽な暴力を受けても誰かに恨みを抱いても、自分の子どもには心の優しく育ってほしいって願ってるわけじゃないですか。

ただ、自分の子どもを守れば守るほど、苦しくなるんです。なんで子どもだった自分は誰も守ってくれなかったんだろうって、なんで子どもに暴力をふるったんだろうって。

ぼくは子どものころに親や周囲の大人から愛情をうけたという認識はほとんどなくて、それを反面教師にして子育てをしています。なんでぼくの親はいまのぼくができたことができなかったのだろうと、ふと考え込んでしまいます。

子どものころのぼくを、大人になったいまのぼくが育ててあげたい。そんな意味のないことを考えたあとに、いつもため息がでます。

子育てにおいての虐待の連鎖を止めることができても、介護においての虐待の連鎖を止めるのはとても苦しいことだとおもいます。そして一度でも暴力をふるってしまえば、一気に崩れてしまうのだとおもいます、バスタブにあたっただけで何かが壊れるような感覚になったわけじゃないですか。

だからもしも暴力をふるってしまいそうなら、介護をやめるというのが大切です。 扶養の義務はあっても介護の義務はありません。扶養だってない袖はふれないわけです。孤独死をしている老人ってたくさんいます、社会問題になっていて被害者のように扱われていますが、そこに過去の虐待や毒親問題が潜んでいることも多いと思っています。

あなたが守るべきは、これからうまれてくる子どもです。うまれてくる子どもにとってもあなたは大切です。あなたは大切な存在なんだから、旦那さんからも自分からも守られないといけないの。

これからとても大変だとおもいます、耐えたりがんばるということいがい答えが見つからないんですよ。耐えたりがんばるいがいに方法があるならぼくも教えてほしいです。でも、お互いいつか答えが見つかるかも、だからそれまで一緒に頑張りましょう。

今週の幡野さん

11月だけど白熊を食べました。上からみると白熊になってますって店員さんに説明されたけど、全然わからなくてクルクルとまわしたけど、全然わかりませんでした。味は普通です。


この連載について

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幡野広志の、なんで僕に聞くんだろう。

幡野広志

写真家・幡野広志さんは、2017年に多発性骨髄腫という血液のガンを発症し、医師からあと3年の余命を宣告されました。その話を書いたブログは大きな反響を呼び、たくさんの応援の声が集まりました。想定外だったのは、なぜか一緒に人生相談もたくさ...もっと読む

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