なぜ Day One は Markdown を捨てたのか
Day One が Markdown をやめて WYSIWYG に移行した話は前書いた。
Day One がクソになった
Day One 、このブログでも度々言及していて、 Markdown で日記が書けて便利だったんだけど、最近のバージョンアップ( Mac は 2.8 以降 、 iOS は 3.0 以降)でプレー...
portalshit.net
自分が知っている範囲でアンチ Markdown 勢は Scrapbox くらいしか思い浮かばず、 GitHub や Trello などのグローバル勢に加え、 Qiita やはてなブログなど日本国内向けのサービスでも当然のように Markdown が共通言語として使われているのに、その Markdown を捨てて WYSIWYG 化する1という戦略は疑問だった。
ひと前の WYSIWYG は最悪で、Word での文書作成や Google Docs にも良い思い出がない。とにかく文章が書きにくい不自由なツールだった。
WYSIWYG 勢が力をつけてきている
一方で、お洒落な UI で話題になった Notion を使ってみると Markdown の要素を残した WYSIWYG だった。 Dropbox Paper も Markdown 風 WYSIWYG 、 Slack も最近段階的に WYSIWYG 化しつつある。
Changes to message objects on the way to support WYSIWYG
New features, recent happenstance, and happenings across the Slack platform
api.slack.com
どうやら WYSIWYG の波が到来しつつあるようだ。
なぜ WYSIWYG なのか
Markdown は HTML を書いたことがない人には難しい
エンジニアやデザイナーなど、 HTML を理解している人からしたら Markdown は簡単だが、そうでない人には難しい。組織内に非エンジニア・非デザイナー( HTML を書けない人)が増えてくると、途端に社内ドキュメント管理ツールがカオス( ・
や全角空白
で装飾された文書が氾濫)になる。
プレーンな Markdown では、リストの概念や文書を構造化するということに対する理解がないと読みやすい文書は書けない。プレーンテキストベースの Markdown には読みやすく構造化された文書を書けるようになることを助ける仕組みが欠落している。
普通の人が Web 系のように働きはじめている
Slack は DAU が 1200 万を超えたらしい。もはやエンジニアだけのツールだけではなくなってきているようだ。
大切なのは DAU の「U」! 生産性向上の鍵は真のエンゲージメント - Several People Are Typing
この記事を英語 (英国)、英語 (米国)、スペイン語 (スペイン)、スペイン語 (ラテンアメリカ)、ドイツ語、フランス語、ポルトガル語 (ブラジル) で読む。 今、職場でのコラボレーション方法に世代交代が起きています。コミュニケーションはメールからチャンネルへの移行が進み、プラットフォームでも、業務ツール間の連携が弱いレガシースイートから、連携しやすくカスタマイズ可能な新しい製品への乗り換えが進んでいます。2019 年 9 月、Slack の日間アクティブユーザー数が遂に 1,200 万人を突破し、前年比で約 37% の増加。さらに、有料プランの利用数は 600 万を超え、Slack を日々アクティブに愛用してくれているユーザーは急速に増え続けています。 DAU (日間アクティブユーザー数) はよく話題に上る指標ですが、実際に重要なのは何でしょうか?私たちが最も重要視しているのは DAU の「U」、つまり実際にどれだけ「Use = 使用」されているかです。そして「エンゲージメント」 こそが Slack がその真価を発揮する鍵であると考えます。私たちは、Slack によって皆さんのより良い働き方へ貢献したいと日々開発に取り組んでいますが、どんなに便利なツールでもそれを実際に活用してもらえなければ何の効果もありません。そういう点においても、Slack のエンゲージメント促進に大きく貢献してくれる、Slack プラットフォームでアプリやインテグレーションを構築している皆さんには大変感謝をしています!Slack とともに Slack 開発者コミュニティも成長し、このエンゲージメントの糧となる豊かなエコシステムを創出しています。現在、Slack のインテグレーションとアプリの構築に従事する開発者向けの年次カンファレンスである Spec に向けて準備を進めており、このコミュニティをベストな方法でサポートすることに集中的に取り組んでいます。 使われてこそ、良いコラボレーションツール Slack を仕事に活用する全世界数百万人のユーザーの皆さんのため、私たち Slack と 1 日あたり約 60 万人にのぼるアクティブな登録開発者の皆さんが、Slack を活用したよりよい方法を日々創りだしてしています。それにより様々な企業の間で濃厚かつ持続的なエンゲージメントが生み出され、つながりが希薄な他の方法から Slack への移行が進み、使い続けられる存在になっています。 米国を拠点とするユーザーへのアンケートでは、87% のユーザーが Slack により組織内のコミュニケーションとコラボレーションが向上したと答えました。有料プランのお客様の場合、ユーザーは 1 …
slackhq.com
チャット、 Wiki 、社内ブログ、タスク管理ツールなど、文章を入力させる系の SaaS が徐々に IT 産業以外の職場でも普及しつつあり、そのような環境でも受け入れられやすいようにプレーンテキストの Markdown ではなく、 Markdown 風の WYSIWYG を入れてきているのだと推察する。
普通の人でもぐちゃぐちゃにならないように文書を書くための仕組みとして WYSIWYG が注目され直しているのだろう。
抑制された WYSIWYG
Dropbox Paper や Notion の UI はシンプルでクール
MS Word や Google Docs など昔ながらの WYSIWYG はボタンが多く、出来ることが多すぎて逆に不自由だと感じる場面が多かった。一方で Dropbox Paper や Notion の WYSIWYG には悪い印象がない。Paper や Notion の WYSIWYG はできることが限定されていて、制限されているがゆえの使いやすさがある。 MS Word のような大小の文字が入り乱れ、文字が七色に輝いているような文書は書けない。
ぐちゃぐちゃな文書を書かせない仕組み
Paper や Notion はアウトライナーを WYSIWYG 化したような感じで、文章を並べ替えたり入れ子にしたりできる。
文章を構造化することに慣れていない人でも、まぁまぁ読みやすい構造化された文章を書ける、あるいは構造化された文章の書き方を学べるようになっている。
WYSIWYG 化で失うもの
文書のポータビリティー
WYSIWYG の前提として、下書きする場所と最終的な出力をする場所が同じだということが挙げられる。でないと独自の装飾フォーマットが使えない。
Notion で書いた文書は Notion でしか読めないし、 Dropbox Paper で書いた文書は Dropbox Paper でしか読めない。 Markdown で書いたテーブルならほかのツールに取り込めるが、 Notion で書いたテーブルは Notion でしか使えない。入れ子にしたり装飾したりする便利な機能も Notion で使うからこそ約束されているものだ。その場所でしかその書き方はできない。
だから、ローカルのお気に入りのテキストエディター( Vim など)で書いたあとにクリップボードにコピーしてブラウザーに貼り付ける、という使い方が出来なくなってしまう。
いまこの文書は Notion を使って書いているが、プレーンテキストでコピーできない2のでブログにこの記事を投稿するときは一旦 Markdown フォーマットで書き出して Vim で開き、コピーしてブラウザーのブログ記事入力欄にペーストする必要がある。
冒頭に挙げた Day One も Markdown で文章をコピーすることができなくなった。文書作成・管理プラットフォームとして考えたときにはこれは正しい戦略で、 Markdown ではない独自のフォーマットで文書を書かせることでユーザーをロックインできる。ひとたび Notion や Dropbox Paper に文章を書きため、その独自フォーマットに慣れてしまえば、データと記法の両方によってロックインされてしまうわけだ。
Notion や Dropbox Paper はよくできていると思う。特に Notion は WorkFlowy のようなアウトライナー的な側面を持ち、いわゆる「ファイルの壁」問題を解決しつつ Markdown のサポート、画像の埋め込みや表の挿入などにも対応している。良いなと思う反面、一人のインターネットユーザーとしては、オープンかつ自由なフォーマットで書くことができる Markdown がやっぱり好きだとも思う。