桜花聖域の巫女「私は?」
残念ながら出てきません
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女とそれより幼い少女を前に、全身鎧に身を包んだ者は剣を振りかぶった。
一撃で命を奪うのが慈悲であるとでもいわんばかりに、大きく振り上げられた剣が日差しを反射しギラギラと輝く。
少女は目を閉じた。
その下唇を嚙み締めた表情は、決して望んでの姿ではない。ただ、どうしようもなくてそれを受け入れたに過ぎない。
もし少女に何らかの力があったなら、目の前の者に叩きつけ逃がれただろう。 しかし──少女に力は無い。
だからこそ結末は一つしか残されていなかった。
少女はここで死ぬ。
剣が振り下ろされ──
──痛みはいまだ来なかった。
ぐっと固く閉ざしていた瞼を開く。 少女の世界に最初に飛びこんで来たのは、泣き笑いの仮面を被った黒衣の魔法詠唱者と魔法詠唱者に付き従い、騎士を殴り飛ばした絶世の美を湛えた黒髪のメイドだった。
「あ、なた達は――」
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ナザリック大地下墳墓。
10階層によって構成される巨大な墳墓であり、凶悪を知られる有名なダンジョンである。
かつてギルド連合合わせて1500人という、サーバー始まって以来の大軍を第8層で迎撃し、そして全滅させたという伝説を生み出したギルド アインズ・ウール・ゴウンのギルド拠点でもある。
―――そんな墳墓の第9層、たった一人残ったギルドメンバーであり、ギルド長であるモモンガは最下層にある王座へと向かおうとしていた。
身に包むのは世界級を除けば実質最上位の等級の装備である神器級の装備。
手に持つのはギルド アインズ・ウール・ゴウンのギルド武器である世界級に匹敵する力を秘めた
「……作りこみ、こだわりすぎ」
作り上げられてから一度も持たれたことの無かった最高位のスタッフは、ついにユグドラシルのサービス終了を迎えるに当たって、本来の持ち主の手の中に納まったのだ。
モモンガはさらに自らのステータスが劇的に上昇するアイコンを確認しながら、寂しさもまた感じていた。
どうせ最後だからと宝物殿から取り出し、インベントリにセットしていた11個の世界級の中でも装備が可能なものを身に着けていく。
「行こうか、ギルドの証とギルドの宝。いや──我がギルドの全てよ」
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最下層たる第10階層に降りてすぐにある広場、そこには抜身の刀を思わせる老人と六人のメイドがいた。
ただ、普通のメイドとは装備しているものがまるで違った。
銀や金、黒といった色の金属でできた手甲、足甲をはめ、漫画のようなメイド服をモチーフにした鎧を身に着け、頭にはヘルムの代わりにホワイトブリム。
それに各員がそれぞれ違った種類の武器を所持している。メイド戦士と呼ぶに相応しい格好だ。
髪型もシニョン、ポニーテール、ストレート、三つ編み、ロールヘア、夜会巻きと多彩で、共通していえるのは皆、非常に美人だということか。
美しさも妖艶、健康美、和風美と多様であるが。
「それにしても随分と作り込んであるな、設定は·····」
かつての仲間が残した―――ある種性癖の塊とも言えるメイドNPCの設定に興味を惹かれ、コンソールを操作して設定を閲覧する。
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「―――へぇ、メコン川さんがこんな設定つけるなんて意外だな、次は····」
膨大でありながらよく考えられた設定を読むのが面白く、ついつい読みふけってしまい―――
23:59:58、59――
0:00
「·····え?」
凝り性な者が多いアインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバーが考えたキャラクターテキスト、そんなものを六人分も読もうとすれば当然、時間がかかる――と、いうことだ。
「なっ――――」
星輝く夜空に静謐なる草原――――ユグドラシルの終了に際し、意識が一瞬途切れた
「はぁ?! えっちょ、処理落ち!? いやいや、勘弁してくれよ、明日仕事早いんだって······」
0:01:18
0時は確実に過ぎている。そして時計のシステム上、表示されている時間が狂っているはずが無い。
モモンガは困惑しながらも、GMが何かを言っている可能性がある。モモンガは慌てて今まで切っていた通話回線をオンにしようとして手が止まる。
システムコマンドが一切出ない。
やばい、やばいやばいやばいやばい―――――、
「ど、どうございましたか、モモンガ様? それにここは·····」
「―――は?」
鋼の執事「私は?」
でないよ
次回
モモンガのセクハラがユリを襲う―――