会話が無い。聞こえてくるのは仕事の指示や叱責のみ。そんなIT職場で働いた経験がある。
叱責が耳に付く職場だった。若手にヒステリックな声をあげている先輩社員も目立っていた。
筆者は外部の人間だったため多少の世間話は許された。しかし社員たちは雑談することなく黙々と作業をしていた。私がたまに雑談で声を掛けた時の、若手社員たちのうれしそうな(すがるような)瞳が忘れられない。彼ら/彼女らはその後そろって退職した。
雑談すらせず仕事に取り組んでいたのに、生産性が高いというわけではなかった。部課長や先輩社員から若手への叱責の内容を聞いていると、大半が意識違いや抜け漏れに起因する手戻りなのである。
「そういうことじゃない」
「なんで相談しなかったの?」
「普通こう対応するよね。常識だろ?」
この手の言葉がひっきりなしに飛び交う。
いやいや、雑談する隙すら無い職場環境で相談しないことを責めるのはあんまりだろう。「普通」も何も、常識はコミュニケーションによって知り得るもの。コミュニケーションの機会を与えずに、若手の非常識を責めるのは理不尽だ。
そんな環境で生産性が高まるわけがない。いや、目先の「作業」の生産性だけは高いかもしれない。雑談もせず、黙々と作業に集中できるのだから。しかしトータルの「仕事」の生産性は極めて低い。手戻りが多発する、一人で悩む行為に時間を奪われる。あるいは、新しい仕事やトラブル対応が入ったときに、誰に相談したらいいか分からない。すなわち、未知の仕事が舞い込んだときの対応力も低い。
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