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トルコライスは大人のお子様ランチ 人気洋食3種盛りカツ丼礼賛(8)

さて「トルコライス」といえば、知っている人はすぐに長崎が思い浮かぶだろう。東京で「トルコライス」という名前で提供されている料理は、多少のアレンジはあっても、基本的にピラフ、カツ、スパゲティのそろった長崎系のトルコライスがほとんどだ。ところが、大阪には全く別のトルコライスが存在する。

「イスタンブール」のトルコライスはカツのせオムライス、デミソースがけ

大阪のトルコライスはいわばカツのせオムライスのデミソースがけ。大阪のトルコライスの発祥は定かではないが、老舗有名店のイスタンブールの「ポークトルコライス」は人気の看板メニューだ。

こちらは創業昭和39年の老舗。もともとは違う店名だったそうだが、看板メニューのトルコライスが有名になったため、25年ほど前に「トルコ」にちなんでイスタンブールに名前を変更したとのこと。オムライスの中身は味がしっかりついているが、決して濃すぎることのないチキンライス。ご飯にはみりんの割り下を使っているとのことで和風のテイストもある。

越前市武生「伊万里」のボルガライス やはりオムレツが入る

ちょっとわき道にそれるが、この大阪トルコライスによく似た料理が福井県の越前市武生(たけふ)に存在する。「ボルガライス」という料理だ。武生のボルガライスも発祥説や名称由来が複数あり、成り立ちがはっきりしない。昭和61年創業の「伊万里」はそうした店の一つだ。

「ヨコガワ分店」のボルガライス 包み込むスタイルのオムライスが特徴

もう1店印象に残る名店、昭和44年創業の「ヨコガワ分店」を紹介したい。分店というからには本店があるのかと聞くと、もう閉店してしまっているとのこと。お客さんからも「分店を取ったら?」といわれるそうだが、このままでいいのだと言われるとても謙虚なご主人のお店だ。

トルコライスに戻ろう。続いては神奈川のトルコライスだ。こちらは横浜と川崎。長崎のトルコライスとは違う。

「さし田」のトルコライス 一見ただのチキンライス

現存の店はどちらも発祥の店が別々にあり、系統は少し違うようだが、カツをトッピングするのではなく「ケチャップライスとカツをまぶす」という切り口では同じカテゴリーに感じる。まずは横浜の「さし田」。

一見すると色のきれいなチキンライスだが、真ん中あたりにちらっと見えているのが洋食系のポークカツレツのテイストのトンカツだ。一口サイズに刻まれていて、ケチャップライスに隠されている。

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和洋折衷料理の最高峰ともいえるトンカツは、丼と出合うことで「カツ丼」という名メニューが生まれた。どんぶり飯とトンカツという組み合わせだけでも実に様々なバリエーションがあるが、洋食系のトンカツアレンジメニューまでその視界を広げると、さらに魅惑の世界が待っている。

洋食系のカツアレンジメニューの代表といえば長崎のトルコライスだ。

カレーピラフなど調味されたライスにトンカツがのり、その上にデミグラス系ソースがかかる。さらにそのわきにはスパゲティナポリタン、サラダなども鎮座する。言うなれば大人のお子様ランチ。味のワンダーランドである。

トルコライスは発祥も名前の由来も諸説あるが、その中でも有力と言われる発祥の歴史を受け継ぐお店が「ビストロボルドー」だ。こちらのお店では「トルコライス」ではなく「トルコ風ライス」と言うメニュー名。

昭和30年代、店主の父が神戸の「シルバーダラ」と言う将校クラブに勤めているころ、冷やご飯を焼き飯にして出すのに、外国人向けと言うこともあり、トルコの「ピラウ」というピラフの語源となった料理に似せて、考案した料理とのこと。

当初のスタイルはピラフがメインで、おかずとしてカツとスパゲティをのせていたらしい。ちなみにトルコライスの名前の由来として、カレーピラフ、スパゲティ、カツが三大陸にまたがる食文化だから、地理的に「トルコライス」とした説。そして三つの料理の三色をトリコロールに見立ててそれがなまって「トルコライス」という説があるが、この両説は数十年前、地元タウン誌の編集会議でたてた仮説であったことを、当時の編集者が後に明かしている。

なおトルコはイスラム教の国で豚肉は食べないのでもちろんトルコに「トルコライス」はない。

地元で人気のトルコライスといえば、大正14年(1925年)創業の「ツル茶ん」の名前がまず出てくる。九州最古の喫茶店と言われる歴史あるお店だ。こちらには数種類のオリジナルトルコライスがあるが、ノーマルのトルコライスは、バターライスに細めのパスタ、カツにカレーがかかったもの。バターライスは軽くあっさり仕上げてある。カツのサクサク感が心地よく、カレーソースは欧風カレーっぽくやや辛め。全体のボリュームはかなりのものだ。

他にはチキンやシーフード、ビフテキがカツの代わりにのせられるオリジナルトルコライスがある。「フリカンデルトルコ」という聞きなれないメニューの「フリカンデル」とはオランダ風ハンバーグ。江戸時代、出島に伝わったと言われているフリカンデルをアレンジしたとのことで、それぞれ素材に合うソースがかけられている。

さて「トルコライス」といえば、知っている人はすぐに長崎が思い浮かぶだろう。東京で「トルコライス」という名前で提供されている料理は、多少のアレンジはあっても、基本的にピラフ、カツ、スパゲティのそろった長崎系のトルコライスがほとんどだ。ところが、大阪には全く別のトルコライスが存在する。

大阪のトルコライスはいわばカツのせオムライスのデミソースがけ。大阪のトルコライスの発祥は定かではないが、老舗有名店のイスタンブールの「ポークトルコライス」は人気の看板メニューだ。

こちらは創業昭和39年の老舗。もともとは違う店名だったそうだが、看板メニューのトルコライスが有名になったため、25年ほど前に「トルコ」にちなんでイスタンブールに名前を変更したとのこと。オムライスの中身は味がしっかりついているが、決して濃すぎることのないチキンライス。ご飯にはみりんの割り下を使っているとのことで和風のテイストもある。

ちょっとわき道にそれるが、この大阪トルコライスによく似た料理が福井県の越前市武生(たけふ)に存在する。「ボルガライス」という料理だ。武生のボルガライスも発祥説や名称由来が複数あり、成り立ちがはっきりしない。昭和61年創業の「伊万里」はそうした店の一つだ。

もう1店印象に残る名店、昭和44年創業の「ヨコガワ分店」を紹介したい。分店というからには本店があるのかと聞くと、もう閉店してしまっているとのこと。お客さんからも「分店を取ったら?」といわれるそうだが、このままでいいのだと言われるとても謙虚なご主人のお店だ。

トルコライスに戻ろう。続いては神奈川のトルコライスだ。こちらは横浜と川崎。長崎のトルコライスとは違う。

現存の店はどちらも発祥の店が別々にあり、系統は少し違うようだが、カツをトッピングするのではなく「ケチャップライスとカツをまぶす」という切り口では同じカテゴリーに感じる。まずは横浜の「さし田」。

一見すると色のきれいなチキンライスだが、真ん中あたりにちらっと見えているのが洋食系のポークカツレツのテイストのトンカツだ。一口サイズに刻まれていて、ケチャップライスに隠されている。

ケチャップライスを食べていくと中から一口サイズのトンカツが現れる。ケチャップライスがこってりしすぎず、カツといいバランスだ。

川崎・武蔵小杉の「かどや」のトルコライスはまた少し違う。創業は昭和23年。現在の店はきれいなビルに入っているが、3代目が継ぐ老舗。店には中華食堂との看板がかかる。洋食メニューもある中華系大衆食堂のスタイルは、昭和レトロなお店には必ずしも珍しくはない。

さてこのトルコライス、役者はケチャップライスとトンカツなのだが、こちらはケチャップライス+トンカツデミグラスソース+ケチャップライスという三層構造だ。カツサンドのご飯版、いやカツライスバーガーか。どんぶり飯ならウナギが隠れたうな丼などがあるが、皿盛りでこうした形のメニューはにわかには思い浮かばない。

最後は日本最北のまち稚内。稚内のトルコライスの存在を知ったのはつい最近なのだが、昭和30年代後半ごろからトルコライスは存在していたようで、稚内市民のソウルフードだったとか。いくつか有名店があったようだが今はすべて閉店。現在食べられることが確認できたのは「車屋・源氏」一軒だけだった。

衝撃のルックスである。ライスにチキンカツがのり、カレールーとデミグラスソースが半々にかかる。大人でもわくわくするようなこの組み合わせは、子供にも人気が高いはずだ。

「車屋・源氏」は昭和28年創業。トルコライスは平成元年、現在のお店を建て直したときに、元祖といわれている「香蘭」の味を再現したものだそうだ。その「香蘭」のトルコライスは、長崎のトルコライスが元なのだとか。

現在の長崎のトルコライスとはかなり違うビジュアルになっているが、これが稚内独自のトルコライスだということであれば面白い。ほかのお店ではトンカツだったり、チキンライスだったりと店によってバリエーションが違っていたらしい。とても個性的なメニューなので、提供店が増えれば稚内の名物となりうる。まちなかの食堂などで食べられるとなれば、観光客ももっとまちの中に入ってくるのではないだろうか。

(一般社団法人日本食文化観光推進機構 俵慎一)

本コンテンツの無断転載、配信、共有利用を禁止します。

和洋折衷料理の最高峰ともいえるトンカツは、丼と出合うことで「カツ丼」という名メニューが生まれた。どんぶり飯とトンカツという組み合わせだけでも実に様々なバリエーションがあるが、洋食系のトンカツアレンジメニューまでその視界を広げると、さらに魅惑の世界が待っている。

洋食系のカツアレンジメニューの代表といえば長崎のトルコライスだ。

カレーピラフなど調味されたライスにトンカツがのり、その上にデミグラス系ソースがかかる。さらにそのわきにはスパゲティナポリタン、サラダなども鎮座する。言うなれば大人のお子様ランチ。味のワンダーランドである。

トルコライスは発祥も名前の由来も諸説あるが、その中でも有力と言われる発祥の歴史を受け継ぐお店が「ビストロボルドー」だ。こちらのお店では「トルコライス」ではなく「トルコ風ライス」と言うメニュー名。

昭和30年代、店主の父が神戸の「シルバーダラ」と言う将校クラブに勤めているころ、冷やご飯を焼き飯にして出すのに、外国人向けと言うこともあり、トルコの「ピラウ」というピラフの語源となった料理に似せて、考案した料理とのこと。

当初のスタイルはピラフがメインで、おかずとしてカツとスパゲティをのせていたらしい。ちなみにトルコライスの名前の由来として、カレーピラフ、スパゲティ、カツが三大陸にまたがる食文化だから、地理的に「トルコライス」とした説。そして三つの料理の三色をトリコロールに見立ててそれがなまって「トルコライス」という説があるが、この両説は数十年前、地元タウン誌の編集会議でたてた仮説であったことを、当時の編集者が後に明かしている。

なおトルコはイスラム教の国で豚肉は食べないのでもちろんトルコに「トルコライス」はない。

地元で人気のトルコライスといえば、大正14年(1925年)創業の「ツル茶ん」の名前がまず出てくる。九州最古の喫茶店と言われる歴史あるお店だ。こちらには数種類のオリジナルトルコライスがあるが、ノーマルのトルコライスは、バターライスに細めのパスタ、カツにカレーがかかったもの。バターライスは軽くあっさり仕上げてある。カツのサクサク感が心地よく、カレーソースは欧風カレーっぽくやや辛め。全体のボリュームはかなりのものだ。

他にはチキンやシーフード、ビフテキがカツの代わりにのせられるオリジナルトルコライスがある。「フリカンデルトルコ」という聞きなれないメニューの「フリカンデル」とはオランダ風ハンバーグ。江戸時代、出島に伝わったと言われているフリカンデルをアレンジしたとのことで、それぞれ素材に合うソースがかけられている。

さて「トルコライス」といえば、知っている人はすぐに長崎が思い浮かぶだろう。東京で「トルコライス」という名前で提供されている料理は、多少のアレンジはあっても、基本的にピラフ、カツ、スパゲティのそろった長崎系のトルコライスがほとんどだ。ところが、大阪には全く別のトルコライスが存在する。

大阪のトルコライスはいわばカツのせオムライスのデミソースがけ。大阪のトルコライスの発祥は定かではないが、老舗有名店のイスタンブールの「ポークトルコライス」は人気の看板メニューだ。

こちらは創業昭和39年の老舗。もともとは違う店名だったそうだが、看板メニューのトルコライスが有名になったため、25年ほど前に「トルコ」にちなんでイスタンブールに名前を変更したとのこと。オムライスの中身は味がしっかりついているが、決して濃すぎることのないチキンライス。ご飯にはみりんの割り下を使っているとのことで和風のテイストもある。

ちょっとわき道にそれるが、この大阪トルコライスによく似た料理が福井県の越前市武生(たけふ)に存在する。「ボルガライス」という料理だ。武生のボルガライスも発祥説や名称由来が複数あり、成り立ちがはっきりしない。昭和61年創業の「伊万里」はそうした店の一つだ。

もう1店印象に残る名店、昭和44年創業の「ヨコガワ分店」を紹介したい。分店というからには本店があるのかと聞くと、もう閉店してしまっているとのこと。お客さんからも「分店を取ったら?」といわれるそうだが、このままでいいのだと言われるとても謙虚なご主人のお店だ。

トルコライスに戻ろう。続いては神奈川のトルコライスだ。こちらは横浜と川崎。長崎のトルコライスとは違う。

現存の店はどちらも発祥の店が別々にあり、系統は少し違うようだが、カツをトッピングするのではなく「ケチャップライスとカツをまぶす」という切り口では同じカテゴリーに感じる。まずは横浜の「さし田」。

一見すると色のきれいなチキンライスだが、真ん中あたりにちらっと見えているのが洋食系のポークカツレツのテイストのトンカツだ。一口サイズに刻まれていて、ケチャップライスに隠されている。

ケチャップライスを食べていくと中から一口サイズのトンカツが現れる。ケチャップライスがこってりしすぎず、カツといいバランスだ。

川崎・武蔵小杉の「かどや」のトルコライスはまた少し違う。創業は昭和23年。現在の店はきれいなビルに入っているが、3代目が継ぐ老舗。店には中華食堂との看板がかかる。洋食メニューもある中華系大衆食堂のスタイルは、昭和レトロなお店には必ずしも珍しくはない。

さてこのトルコライス、役者はケチャップライスとトンカツなのだが、こちらはケチャップライス+トンカツデミグラスソース+ケチャップライスという三層構造だ。カツサンドのご飯版、いやカツライスバーガーか。どんぶり飯ならウナギが隠れたうな丼などがあるが、皿盛りでこうした形のメニューはにわかには思い浮かばない。

最後は日本最北のまち稚内。稚内のトルコライスの存在を知ったのはつい最近なのだが、昭和30年代後半ごろからトルコライスは存在していたようで、稚内市民のソウルフードだったとか。いくつか有名店があったようだが今はすべて閉店。現在食べられることが確認できたのは「車屋・源氏」一軒だけだった。

衝撃のルックスである。ライスにチキンカツがのり、カレールーとデミグラスソースが半々にかかる。大人でもわくわくするようなこの組み合わせは、子供にも人気が高いはずだ。

「車屋・源氏」は昭和28年創業。トルコライスは平成元年、現在のお店を建て直したときに、元祖といわれている「香蘭」の味を再現したものだそうだ。その「香蘭」のトルコライスは、長崎のトルコライスが元なのだとか。

現在の長崎のトルコライスとはかなり違うビジュアルになっているが、これが稚内独自のトルコライスだということであれば面白い。ほかのお店ではトンカツだったり、チキンライスだったりと店によってバリエーションが違っていたらしい。とても個性的なメニューなので、提供店が増えれば稚内の名物となりうる。まちなかの食堂などで食べられるとなれば、観光客ももっとまちの中に入ってくるのではないだろうか。

(一般社団法人日本食文化観光推進機構 俵慎一)

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