逆に、こうした「担がれた大統領」だったことが、文氏の政策形成で弱点になる。
信用できる子飼いの側近がいない。わずかにいた知人たちとも、その潔癖性から大統領就任と共に関係を断った。このため、「民族主導」という左派の論理を掲げる人物たちが周囲を固めることになった。それが任鍾晳(イム・ジョンソク)前大統領秘書室長であり、曺国前法相らだった。
もともと、積極的に他人と交わる性格ではない文氏は、こうした「陣営の論理」を振りかざす人々に周囲を固められ、柔軟性を欠くようになった。それがネロナンブルと言われるスタイルに行き着く悲劇を招いた。
文在寅政権は2017年5月の発足後、5年の任期の折り返し点を迎えた。今、文氏はネロナンブルという政治スタイルから脱却しようともがいている。
曺国氏を巡るスキャンダル、日韓GSOMIA破棄を巡って揺らぐ米韓同盟、破綻寸前の南北関係、そして「イルチャリ(働き口)大統領」を自称しながらも好転しない経済情勢などが、次々と文大統領の両肩にのしかかっているからだ。
だが、すでに過ぎた2年半の任期中に展開してきた過去の政策が、我が身を縛っている。政策の転換を図れば、有権者の3割とも4割とも言われる、進歩系の「コンクリート支持層」が黙ってはいない。来年4月に控えた総選挙もあり、わずかに見えた、ネロナンブルからの脱却はすんなりと進みそうもない。
GSOMIAの行方は、まだ最後までわからない。今週は、主要20ヵ国・地域(G20)外相会議が名古屋で行われる。そこで、GSOMIAの破棄を凍結したうえで、徴用工判決や輸出措置の問題を継続協議とする可能性もわずかながら残っている。事実、日韓外交当局はそのわずかな可能性にかけ、必死の調整を続けている。
どんな選択をしようとも、文在寅政権を待つのは茨の道しかない。