韓国・文在寅政権が陥った悲劇「ネロナンブル=独善主義」の自縄自縛

ルポ・日韓関係「泥沼」の内幕
牧野 愛博 プロフィール

文在寅大統領「三つの弱点」

その第一は、強すぎる信念だ。

文在寅氏の信念は「弱者のための政治」であり、それ自体は悪いものではない。ただ、政治は現実の世界でもある。異なる意見を調整し、最善の結論を導かなければならない。政治家としての経験が不足している文氏はこれができない。

韓国の歴代大統領で、こうした柔軟性に富んだ人物は、金泳三(キム・ヨンサム)、金大中(キム・デジュン)、盧武鉉の各元大統領だった。いずれも政治家としての経験が長く、清濁併せ呑む気風があった。文氏を大統領府幹部に起用した盧武鉉氏も生前、「文氏は政治家には向かない」と周囲に語っていた。

 

第二に、温厚な性格が逆に足を引っ張っているという現実だ。文氏は、相手が自分の意に染まない発言をしても、決して途中で遮らない。我慢して聞いている。わずかに、「同意した」とは言わないことで、自分の信念を貫いている。

安倍氏との会談でも、常にこのスタイルを貫いた。文氏は日韓首脳会談ごとに、自説をまくし立て、なかなか議論の余地を与えない安倍氏のスタイルに辟易し、徐々に安倍氏に嫌悪感を抱くようになっていったという。

また、文氏と面会した韓国政府元高官は「外国首脳との会談では、逆にはっきり意見を伝えた方が良い時もある。相手が誤解すると逆に不信を招きかねない」と語る。実際、安倍氏だけでなく、金正恩朝鮮労働党委員長も文氏との会談を重ねるうちに、「(文政権が勧めた)米朝協議をやっても、何も成果が得られないではないか」として不信感を抱くようになったという。

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第三は、望まない形での大統領就任であったことだ。

文氏自身、自分が政治家に向かないことを知っていた。ただ、盧武鉉氏が検察捜査の末に自殺すると、盧氏の支持者たちが文氏に大統領選に出馬するよう懇願した。

韓国の大統領選では、人物の識見や能力よりも、その人が持つストーリーが重視される。現代財閥で活躍した李明博(イ・ミョンバク)元大統領は「不況に沈む韓国経済を復活させるCEO大統領」だったし、朴槿恵(パク・クネ)前大統領は「漢江の奇跡を実現させた朴正熙(パク・チョンヒ)大統領の娘」だった。盧武鉉氏の最側近だった文氏も「政治的殺人を犯した保守に復讐する主人公」というストーリーがあった。