韓国・文在寅政権が陥った悲劇「ネロナンブル=独善主義」の自縄自縛

ルポ・日韓関係「泥沼」の内幕
牧野 愛博 プロフィール

協議は、韓国が徴用工判決問題で日本に譲歩することを確約するものではなかっただろうし、何よりも、対立の長期化に伴って首脳間の信頼関係が破壊されていたことが影響したとみられる。

ここで、文在寅政権は再び態度を硬化させ始めた。スティルウェル米国務次官補と面会した韓国大統領府の金鉉宗国家安保室第2次長は「我々は何度も和解のメッセージを送っているのに、まったく日本側が受け付けない」と不満を爆発させた。李洛淵首相も7日の国会答弁で、日韓首脳対話を巡る日本政府の発表について「日本の発表は国際的な基準に合うとみていない」と答弁した。

せっかく訪れたネロナンブルから脱却する機会を、文政権は自ら放棄したように見える。どうして、こんな悪循環が続いてしまうのか。

 

「政治家には不向きな人物」

文在寅政権のトップ、文在寅氏とはどういう人物か。

文氏と直接会ったことがある人々の証言を総合すれば、「人としては謙虚で暖かみがあるが、政治家には不向きな人物」ということになる。

文氏は、朝鮮戦争の時に韓国側に避難した両親の間に生まれた。ソウル大には合格できなかったが慶熙(キョンヒ)大に進み、司法試験に合格した。長く、釜山で人権派弁護士として活躍した。このときには、徴用工訴訟も扱っている。

弁護士仲間だった盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領の要請により、50歳のとき、大統領府民情首席秘書官に抜擢された。その後、大統領秘書室長も務めた。

本人は政治活動を続ける考えはなかったが、盧武鉉氏が退任後に自殺したこともあり、「政治殺人を犯した保守を倒したい」という盧武鉉支持者たちの懇願から大統領選に打って出た。2012年選挙は朴槿恵氏に敗れたが、朴政権の崩壊によって17年5月、大統領に就任した。ざっと、こんな経歴だ。

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大統領就任当初、「国民と意思疎通に努める」と約束した文氏のポリシーにウソはない。

文氏と会った人間によれば、文氏は相手の話を遮るようなことはせず、いつも最後まで話を聞き届ける。相手を気遣う姿勢もある。首相官邸周辺によれば、安倍晋三首相も初めて文氏と会談した後、「なかなか良い人物ではないか」と周囲に語っている。

同時に文氏が抱える問題が幾つかある。