文政権の外交は北朝鮮政策が中心だった。
米国に米朝首脳会談の開催を勧め、安倍政権が渇望する日朝首脳会談実現のため、北朝鮮人脈を紹介もした。逆に日本が北朝鮮への圧力を強めると、「韓国の邪魔をしている」として日本と距離を置くようになった。
朴槿恵前政権へのアンチテーゼや、日本の朝鮮半島統治への反発もあり、日本企業に元徴用工らへの損害賠償を命じた韓国大法院(最高裁)判決を支持した。安倍政権が7月、韓国に対する輸出管理規制措置の強化に踏み出すと、逆に「信頼関係が壊れた」として日韓GSOMIAの破棄を決めた。
一連の行動は、日本ばかりでなく、韓国内の保守派からもネロナンブルの論理として批判を浴びた。すなわち、日本の輸出規制措置を引き起こした背景には、徴用工訴訟判決を巡る協議を拒み続けた文在寅政権にも責任があるのに、自分の問題点には全く触れない姿勢が独善的だというわけだ。
ただ、日米韓の関係者によれば、今年9月から10月にかけ、文氏の姿勢に変化が現れ始めた。契機は、側近の曺国(チョ・グク)元法相を巡るスキャンダルだった。
10月3日、ソウル中心部の光化門に「曺国辞任、文在寅政権下野」を掲げて、40万人以上の市民が集結した。
文氏は10月7日の幹部会議で「国民の多様な声を厳粛に聞いた」と語った。与党関係筋は「反対意見を尊重するという意味。こんな発言は、大統領就任後初めてではないか」と語る。
事実、曺国氏は法相を辞任した。時を同じくして、韓国大統領府は日韓関係改善にも乗り出した。
天皇即位礼で来日した李洛淵首相は10月24日、安倍首相と21分間にわたって会談。関係改善の雰囲気作りに奔走した。
李首相は温厚なイメージがあるが、実は短気な性格。周囲が仕事でもたつくと、容赦なく叱責することで知られる。その李首相が2泊3日の滞在中、一度も顔をゆがめることはなかった。
22日、羽田空港に到着した際は豪雨だった。タラップを降りる際、強風で李首相一行の傘を吹き飛ばしたが、李首相の笑顔は崩れなかった。その執念が、安倍首相との会談でも現れた。一度も日本を刺激する言葉を使わず、10分の予定だった会談は21分に伸びた。