注意:冒頭には先週投稿した第0.5話
novel/8351791(18禁で一部の人は読めない)の一部がそのまま載せられています。既に第0.5話を読んだ人は第一ページを(因みに悪堕ちはp9からなので、悪堕ち以外興味がないお方はp9まで)飛ばして下さい。お手を煩わせてすみません。
稲妻の速度で空を駆け、雷のような一撃を食らわせる琥珀のような美貌を持つ少女。『閃光のリリー』こと魔法少女、ゴールデンリリー。オーバーヘブン関西州支部でもトップクラスの実力を誇る『正義の味方』だ。
その正体は金澤百合子。長い金色の髪を持つ慎ましい体型のお嬢様で、オーケストラ部の部長でもある彼女は、授業が終わるや否や、いつも通りオーケストラ部へと向かおうとしていた。しかし、そんな彼女を呼び止める声が一つ彼女の耳に入って来た。同じオーケストラ部員であり、クラスメイトでもある雨夜美音子のものであった。
彼女に連れられ、人気のない場所へ向かった彼女がそこで知らされたのは美音子の幼馴染、紫藤大輔がアンダーアビスに誘拐されたと言う事実であった……。それを聞いた百合子――ゴールデンリリーはその光のような速度で空を駆け出した。紫藤大輔を救うために。
2017/07/06 0:17現在でのアンケート結果は……
ここはベタに洗脳 22回
いざと言う時の寝取り 7回
ちょっとニッチな精神浸食 20回
主人公が美少女の体を乗っ取る 21回
このようになりました! この中で最も票が多い『ここはベタに洗脳』をお題にした小説を9月までに投稿する予定です。
7/10 ピクシブ文芸でのランキングで一位を獲得することができました! これからも応援宜しくお願いしますm
1/20/2018 誤字のご指摘を受け、文の修正を行いました。……一通り直したつもりではいるものの、恐らく全て修正しきれてはいません。もし、ミスが残っていれば再びご指摘いただければ幸いです。
前話→
novel/8318821 (閑話)→
novel/8408180 次話→未定
「御主人様ぁ」
単離精製されたフルクトースの様に甘ったるい声を出し、俺に体を密着させてくる猫娘、ミッドナイトメロディー――改めトワイライトメロディー。
そんな愛くるしい彼女の柔らかい胸を堪能しながら頭を撫でてやると、彼女は「ふにゃぁ」と蕩けるような声をあげて、俺の胸に頬を擦り付けてきた。
メロディーを堕としてから既に一週間が経過しようとしていた。
女を堕とし、自分の『物』にする。数多の創作物で「またこれか」と飽きる程見た展開だが、実際にやってみると想像以上にいいものだ。
普通に生活していれば、SMやコスチュームプレイと言ったハードな変態プレイは勿論、体を重ねるどころか手をつなぐことすら出来ないレベルの超絶美少女。それになんでもいう事を聞かせることができるのだ。
絶望的に地味な幼馴染と、女っ気のない挙句口うるさいもう一人の幼馴染しか仲の良い女子がいない俺にとって、これほど素晴らしいことはない。
だが……。
「メロディー、お前料理とか作れる?」
俺は、エロい事ならどんなことでもしてくれる雌猫に問いかける。
「ご主人様。料理を作る性奴隷とかペットにゃんて聞いた事ありますかにゃ? そんな事をする暇があるにゃら一秒でも長くご主人様とイチャイチャしていたいですにゃ」
彼女は俺の頬をざらついた猫の舌でペロリと舐めた後、上目遣いで俺を見つめてくる。
漆黒の柔らかい毛が生えた手は、俺の股間へ当てられており、ズボン越しに逸物を揉んでいるのだった。
そう、トワイライトメロディーにはただ一つの欠点があった。
ありとあらゆる事よりも、俺の傍でべたべたする事を優先する。ということだ。
一見――いや、これはどこからどう見ても羨ましい事だろう。俺自身彼女のこういう所は大好きだ。考えてみろ、滅茶苦茶可愛い猫耳ゴスロリ美少女が、この世の何よりも俺と一緒に居てくれることを優先してくれるんだぞ? そしてありとあらゆるプレイを許容してくれるのだ。これ程素晴らしい事はない。ああ、これはこの上ない長所だろう。
だけど。
手料理作って食べさせてくれるとか、そういう典型的なラブラブシチュエーションが味わえないって思った以上に辛い!
いやいや。やっぱり彼女ができたら、朝起こしてもらって家の中でラブラブ、外でラブラブ、学校でラブラブ、家に帰る途中に寄り道してラブラブ、家に帰ってラブラブ、手料理作ってラブラブ、ベッドの上でラブラブという完璧な流れをしたかった訳だ。
なのに、メロディーがこの魔物感溢れる見た目のせいでアジトの外へは連れ出せない故に、朝起こしに来させることはできないわ、学校には連れていけないわ、街でデートすることもできない。その上、唯一一緒に居られるアジトに来てみても、四六時中べったりしているだけで料理なんて一切作ってくれない。作れと言ってもさっきの有様。なんか俺が想像してた『恋愛』じゃない!
俺はさっきから俺のムスコを揉んだり、俺の乳首をいじったりしてただひたすらに幸せそうな顔をしているメロディーを見ながらため息を吐き、頭をもたげた。
ああ、性欲を満たしたり、愛し愛されたりするにはメロディー一人いれば十分だろう。だが、前述の通り彼女には出来ない事があまりにも多すぎる。そろそろ他の事ができる女が欲しい。
何も知らないメロディーは、何の屈託もない純粋な笑顔を浮かべ、「ご主人様ぁ」と甘えるように俺の体をざらざらとした舌で舐めまわしている。くぅぅ! なんだこの可愛い生き物!? やっぱ最高だなこいつ。メロディーは俺の嫁!
そんな狂おしい程愛らしい彼女の姿を見て、ぎゅっと抱きしめて滅茶苦茶にしてやりたい、という衝動に駆られそうになるが、理性で強引に押さえつけ、思考を続けた。
……女を何人でも自分の『物』にする手段がある今、わざわざメロディーに固執する必要はないのだ。メロディーにできない事をできる女を新たに調達するのは決して悪くはないだろう。
そうとは決めたものの、さて、どんな女を手にしようか。
メロディーにできないこと。主にアジトでしか会えないという事と、俺に対する愛が強すぎて命令を聞いてくれないという事か。……そうだな。こうしよう。
高校の全女子生徒を俺の『物』にし、学校を俺のハーレムへと変える。
こうすれば、メロディーが命令を聞かないことによって発生する不都合を最小限に減らすことができる上に、メロディーを学校に連れていくこともできる。
俺は突如頭に舞い降りた名案に頬を綻ばせた。
耳が腐る程聞いたメロディーが校舎全体に鳴り響く。五限の終わりを告げるチャイムだ。
俺はファ・ラ・ソ・ドのファの音を聞くや否や、歌が終わっても尚メロディー垂れ流し続けるカラオケみたいに講義を続ける教師を無視し、後ろの扉からこっそりと教室を抜け出す。
あんなクソつまらない授業、最後まで受け続けたところで何かいいことがある訳でもないのだ。
サイン、コサイン、タンジェントまでは兎も角、コタンジェント、アークなんとか、ハイパボリックなんとかとかは絶対将来使わねえ。
廊下を歩きながら、すれ違う教室の中の風景を窓の外から伺う。
すると、咎めるような目で俺をじっと見つめる三つ編みの幼馴染と、机の上につっ伏して居眠りをするもう一人の幼馴染の姿が見えた。
居眠りしているはともかく、俺が授業から逃走した事に気づいた正義感が強い真面目ちゃんの方は厄介だ。
ジーッと追ってくる少女の視線から逃げるように、俺は歩を進めるスピードを早めたのだった。
教室を後にしてから数分後、俺は校庭に居た。
校庭の中でも正門に近い位置に。
部活動に所属していない故、授業が終わればもう学校に用はない。
早くアジトに向かって学校ハーレム化計画の次作戦の準備をしなければ。
と、俺はそそくさと学校を後にしようと門外へ足を踏み出した時だった。
「大輔、待って!」
聞き飽きた声が学校の敷地を出ようとする俺の背中を引っ張る。
俺は仕方なく足を止め、振り返った。
そうして俺の目に入ってきたのは案の定、先程授業から抜け出した俺を教室の中から睨んでいた少女だった。
俺より頭二つ分程低い背丈の三つ編み黒髪眼鏡っ娘。先程机に体を倒して寝ていた燈同様。俺の幼馴染である雨夜美音子だ。
はぁ、はぁ。と息を切らしながら「待ってぇ」と細い手を振る彼女。彼女と俺との距離が残り数歩までに縮まった所で、彼女は足を止める。
「どうしたんだ美音子。そんなに急いで」
曲げた膝の上に両手を置き、前かがみの体勢で肩で呼吸する幼馴染に問いかける。
彼女は俺の目を一瞥すると、浅く深呼吸を挟んで困り顔になった。
「どうしたもこうしたもないよ。先生とっても怒ってた。『授業を勝手に抜け出すなんてなんて奴だ! 出席点をゼロにしてやろうか!』って」
「どうせ今更真面目に出席しても出席点0なのは変わらんだろ。もう堕ちるところまで堕ちたんだ。これ以上成績が落ちることは無い」
「それを誇らし気にいう時点で色々察しちゃうね」
「ほっとけ」
俺は憐憫の視線から逃げるようにツバを返し、歩き始める。
そんな俺に続くように、すぐ後ろから美音子の足音が聞こえてくる。
「そういえば、最近大輔学校に来てすぐにどこか行くよね? どこにいってるの?」
俺の横に並び、問いかける美音子。その心配している表情はどこか上部だけ取り繕ったものに見えた。
建前では俺のことが心配。本音では俺に探りを入れて来ている。なんとなくそんな疑いをかけたくなるような表情だった。
最近、俺は彼女を含めた数人の人間にこんな顔で「最近忙しそうだね」だとか「昨日は◯◯の近くで見たけど何してたの?」と尋ねられる。
だけれども、素直に『悪の組織で活動してます』だなんて答えられる訳がない。故にそういった質問に対してはいつも嘘にならない程度にぼかした答えを返すことにしている。それは家族同然の幼馴染例外ではない。
「ああ、バイトだよ」
と適当にそれらしい言い訳をする。
「どんなバイト?」
「美少女に囲まれてきゃっきゃウフフするバイトさ。メイドカフェみたいなとこって言えばいいかな。いいぞぉ、一杯可愛い子がいるんだ。その誰もが俺を慕ってくれるし、俺もその全員が大好きさ」
「ふ―ん……」
そう答えると、美音子は少し不機嫌そうに頬を膨らませる。
「じゃあそのメイドさんみたいな人に『御主人様』とか呼ばせてたりするの?」
「当然。俺お気に入りのゴスロリ猫耳超絶美少女が毎日俺を『御主人様御主人様!』って慕ってくれるんだ。しかも何からナニまで世話してくれる超有能メイド」
「そ、そうなんだ」
今度は打って変わって顔を赤らめ俯く美音子。どうやらウブなこいつには刺激が強過ぎたようだ。
「じゃあ、大輔は職場の女の子の中ではその猫耳メイドさんが一番好きなの?」
「ん? まあそりゃな。人生で最初に欲しいと思って手に入れられたものだし、一緒にいる間はずっと俺に甘えてきて可愛いしな」
「……そうなんだ」
嬉しそうに、だけどれどもどこか哀愁漂う表情を浮かべる美音子。
「なんでそんな顔してんだよ」とツッコミを入れながら俺は苦笑を浮かべた。
彼女のリンゴのように真っ赤に染まった顔がこちらに向く。
「だって嬉しいんだもん。あの大輔にそんないい彼女さんができるなんて思ってなかったから。今まで彼女居た事なかったし」
「失礼なこと言うなお前」
「だって本当のことだし」
クスクス笑う美音子。だけれども体の周囲からは依然と薄い悲しみの色がにじみ出て居た。
こいつは昔から辛いことは全て自分で抱え込む女だ。どうせ今回もこの件でなんか思うところがあるのだろう。
どうせ訊いても答えないだろうけど訊いてみようか。そう思い、「美音子」と声かけたその時だった。
美音子はたったった。と小走りしながら俺の傍から離れていく。その顔からはもう先ほどの悲しさは伺えなかった。
「ごめんね大輔。そろそろバイト行かなきゃ!」
「お、おう」
「じゃあね!」
美音子はそう別れの句を放つと同時に勢いよく走り出した。
「お、おうまたな」
俺はただただ手を振りながら彼女の背中を見送ることしかできなかった。当然、彼女の真意を知るなどということは……。
建ち並ぶ薄汚れた建物。その周囲にあるのは整ったスーツを着て客引きをする男達の姿と、怪しく輝くネオンサインで彩られた看板。そして、車一つ通るのがやっとくらいの狭い道路。
そんな場所を行き交うは、男の情欲を糧に生きる汚い雌豚と、脳みそとチンコが直結した上っ面だけ綺麗な雄猿。そして自ら奴らの餌となりに来た哀れな負け犬どもだ。
美音子と別れて数分後、俺は一刻も早くアジトへ向かうべく、とある場所に来ていた。
『桃色通り』。先の説明でわかるだろう。所謂『夜の街』というやつだ。
なんでそんな場所に居るのかって? さてはその『男の情欲を糧に生きる汚い雌豚』相手に獣姦(まぐわり)に来たのかとでも思われているのだろうか?
いやいや。俺にはメロディーと言う俺専用の雌奴隷が居るのだ。俺があんな体のありとあらゆるところに病原菌を抱えてそうな女を相手にする訳無かろう?
俺がここにいる理由は。
俺は、ある建物の前で足を止める。
『奈落ビル』と書かれた看板が付いた五階建てのビル。ここの404号室、そこにあるアンダーアビス日本支部庁舎へと通じるワープ装置が俺の目的である。
「さて、今日もバイト頑張りますか」
そう呟きつつ、奈落ビルの中へと入ろうとした時だった。
「紫藤君? こんなところで何をしていらっしゃるのですか?」
この欲に塗れた下賤な街に似つかわしくない、純水の様に澄み渡った高貴な言葉が聞こえてくる。俺は、聞き覚えのあるその声の聞こえてきた方に、反射的に振り返り。そして強く後悔するのであった。
「げっ、委員長」
まずい。よりにもよってこいつに出会ってしまったか。
振り返った先。そこに居たのは気品あふれる金髪ロングの美少女だった。
まあただの金髪ロングの貧乳美少女というのなら、次の標的にしよう、程度の冷めた感想を抱くだけ抱いてそのまま背を向けるのだが、相手が知人となれば話は変わってくる。
後ろから声を掛けてきたこの少女。彼女の名前は金澤百合子。我がクラスの委員長であり、我が高校のオーケストラ部の部長である。
委員長は、不快そうに眉間に皺を寄せつつ、その金糸の様に美しい髪をさらりと掻き揚げた。
「何が『げっ、委員長』ですわ。さてはわたくしに見られてはいけない理由でもありまして?」
「いや、そういう訳ではないんだが」
単純に面倒臭い相手にあったからそういう声を出したんだよ。特に大きな意味はない。
引き気味の俺の顔に、彼女は人差し指を突き立てて詰め寄る。
「あら、その顔はなんですの? 『都合悪い』と思っている顔ですわ。間違いないですわ」
半分くらい当たってるけど違います。ただただ面倒くさいだけです。
「そ、そうか?」
「そうに決まってますわ。何故ならばわたくしは委員長。クラスの生徒のことなら住所や成績の事は勿論、趣味や癖まで把握してますわ。故に、クラスメイトの心を読むことなど序の口」
今、委員長には人の心を読む才能がない事が照明された。それはともかく、生徒の住所とか成績を知ってるとか本当か? これも嘘くさいな。
俺は彼女のおかしな言動に呆れ、苦笑を浮かべようとした。その時、彼女は「ですが」と逆接の単語を述べた。真剣な声色で。
「そんな事は今、どうでもいいですわ」
委員長の様子の変化に、俺は身構えるように肩に少し力を入れる。
間もなくして、彼女は真剣な面持ちで俺に問いかけた。
「紫藤君、貴方はここがどこかご存じでして?」
この場所。とはこのビルの事だろうか。それとも、この街の事だろうか。
どちらの意図だとしてもこのビルに関してはあまり触れない方が吉だろう。
「ああ。桃色通りだろ?」
真顔で答える俺。
委員長は数秒の間をあけた後、人差し指で頬を掻き、続けた。
「……ええ、その通りですわ。では、もう一つご質問を。貴方は今このビルの中に入ろうとしていましたが、ここにどのような用事があるのですか?」
事情聴取する警察のように目を光らせる彼女。
尖った氷柱のように冷たく、鋭い言葉。下手に取り扱おうものなら痛い目を見ることになる、と俺の本能が囁く気がした。
「バイトだ」
差し障り無い答えを返す。
「バイト? どのようなバイトですの?」
探るように彼女は細める。
「委員長に教える義務はない。黙秘権を行使させてもらう」
俺は正しく自分の意思を示すべく、日本人特有の輪郭が無いぼやけたものではない、硬い拒絶の意を伝える。
俺の言葉を受けた彼女は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべると、思考するように唸り始めた。
次はどうでる?
俺は手に汗を握りつつも、彼女に心情を悟られないようポーカーフェイスを貫く。
暫くした後、彼女は諦めるように「はぁぁ」と大きな溜息を吐きながら、その蒼い瞳で俺を睨んだ。
「……そうですわね。わたくしに貴方がどのようなバイトをしているか知る権利はありませんし、今回は見逃して差し上げますわ」
「『今回は』ってことはまた追及されるのか?」
「そういう事もあるかもしれませんわね」
彼女は顔に込めていた力を抜き、困ったような表情を浮かべた。
だが、それも一瞬。
彼女は、「ですが」の声と共に再び俺を尖った視線を向けた。
「それはそれ。これはこれですわ!」
「は、はぁ」
何が言いたいんだ此奴は。
いい加減この場から去りたいと熱望する俺に、彼女は咎めるように――というか咎めてきた。
「ここは貴女のような未成年が来ていい場所ではありませんわ! 不純異性交遊や違法薬物の使用が社会の秩序に反するということは貴方もご存じでしょうし、そのような事に手を出さないことはわたくしも知っていますので何も言いませんわ。しかしながら、ここは様々な犯罪が横行する治安が危ない所。学生が――いえ、真っ当な人が来ていい場所ではありませんわ!」
俺は、唾が飛ぶ勢いで叱る彼女を見て察した。
ああ、これはいつものか。いつもの面倒臭い説教か。
『いつもの』と言ったことから分かるように、彼女、金澤百合子は事あることに説教をしてくる面倒臭い女である。
その説教の対象は犯罪などの重度なものから、忘れ物や誤字と言った軽度なものにまで幅広く及ぶ。まあそれが彼女や周りに迷惑をかけるものだけならまだ理解できる。
問題は、彼女や周りの人に殆ど関係ないものにまでその対象が及ぶことということと、誰彼構わず説教するという事である。完全にお節介という奴だ。
昼食中の俺を横切るや否や、俺の弁当の内容に「野菜が少ないですわ! これではあまり体に良くありませんわよ」とケチ付けてきたことなんかは記憶に新しい。
こいつもそうだが、美音子といい燈といい俺の周りにはどうも世話焼きが多すぎる。
何度も味わった体験に俺は「またか」と思いつつ、飽き飽きとした表情で聞き流す事にした。
あ、もう一つ問題あったわ。その説教が滅茶苦茶長いってことだ。
勿論、今回の説教だけ短いなんてことは無く。かれこれ五分間色んな人に見られている中で説教され続けている。
「……という訳で、紫藤君の身に何かが起こってからでは遅いのですわ。貴方が居なくなれば美音子さんがどれほど嘆く事か。自分の事を自分だけの事と思わず、貴方の周りに居る人々の事だと思って、次からは気を付けて行動するべき欲しいですわ」
やっと終わった。
俺は心の中で短い溜息を吐きながら、「ハイハイ、わかりました」と投げやりな返事をした。
その返事に、彼女は案ずるような態度をしつつ、渋々ながら「わかったならいいですわ」と言い、続けた。
「では、これにてわたくしは失礼いたしますわ。紫藤君、今度からは気を付けるように」
そう忠告すると、彼女は軽やかにくるりと体を回転させ、どこかへと歩いて行った。
俺は、漸く彼女から解放されたという謎の解放感に満たされつつ、街の中へと消えていく彼女の背中に、聞こえない程度の小さな声で悪態を飛ばしてやった。
「お前こそなんでそんな『危ない所』にいるんだよ」
ってな。
ワープ装置によってアンダーアビスの日本支部庁舎の地下9階へ転移した俺は、エレベーターで『アスモデウス』の本拠地である2階へ昇り、色欲の間という名の部屋へと向かう。
他のものより一際大きく、豪華な扉を開けて、部屋に一歩足を踏み出す。
そうするや否や、俺の体に横から何かが飛びかかってきた。
「御主人様ぁぁぁ!!」
「うわぁ!?」
俺は、倒れないようにバランスを整えつつ、勢い良く飛び出してきた何か――もふもふな毛が生えた女性の体を抱え込んだ。
飛び込んできた女性は俺より頭一つ分背が小さかった。今俺の目に入っているのは綺麗な黒髪と、ぴくぴくと可愛らしく動く猫耳。――メロディーか。
「随分と激しいお出迎えじゃないか」
俺は半分呆れながらも彼女の首回りを撫でてやる。すると、彼女は心地好さそうにその尻尾をだらしなく垂らしつつ、顔を上げた。
「だってぇ。御主人様と会えて嬉しかったからにゃー」
「寂しがらないように俺の鼻かんだティッシュあげただろう」
「それは当然ですにゃー。御主人様の物はなんであれこのトワイライトメロディーのものですにゃー」
それが当然と言うように巨大な胸を張り、鼻を鳴らすメロディー。むしろ逆だろう。キャシーの頃からそうだがこいつは主従関係というものを理解しているのだろうか?
以前、立場を分からせてやろうと鬼畜調教をしてみたが、全くの意味をなさず、それどころかそれを嬉々として享受していた。
それ以来、このような「御主人様の全ては私のもの」系統の少し生意気なヤンデレ発言が増えるようになってしまったのだ。
それだけならまだ良いものの、最近は俺に近寄る女性隊員に対して威嚇のレベルを通り越した威嚇まで目立つ。
それに……。
俺に抱きつき、頬を擦り付けながらスキャンするように、ありとあらゆる場所を手で弄るメロディー。
その彼女の顔は何か――いや、お仕置きという名のご褒美を望んでいる牝奴隷のものと相違ない。恐らくお仕置きして欲しくてわざと生意気な態度を取っているのだろう。
俺は彼女の豊満な胸を片手で堪能しながら半ば諦めるように溜息を吐くのだった。
そんな俺をメロディーはからかうようにクスクスと笑うのだった。
「で、メロディー。頼んでいた例のものは?」
俺の言葉に、メロディーは一瞬名残惜しそうな表情を浮かべたが、直ぐにいつもの妖艶な笑顔に戻り、ポケットから一枚の紙を手渡した。
俺は胸を触っていない方の手で四つ折りになったそれを広げ、目を通して驚いた。
『例のもの』とは、メロディーに頼んでおいた北摂高校に在籍するオーバーヘブン構成員に関する調査の結果だ。今日の昼頃に、調査が一通り終わり、その結果をまとめた資料が完成したという連絡が来たため、それを受け取るために急いで来たのだが……なるほど、これは面白い。
そこに書かれてあったのは、我々アンダーアビスと何度もぶつかり合い、その全ての戦いに勝利した凄腕魔法少女、ゴールデンリリーに関する情報だった。どうやら、彼女の正体はうちの高校に通う生徒であるようだ。
流石はオーバーヘブンの元上位魔法少女だ。リリーとの交友があったのだろう。メロディーの資料の中には、アンダーアビスの凄腕忍者でさえ掴めずにいたゴールデンリリーの正体だけでなく、彼女に関する詳細情報や対策についてまでぎっしりと書かれてあった。
ククク。これだけ情報があればゴールデンリリーを倒すどころか俺のモノにすることさえもできるかもしれん。そうすれば俺の学園ハーレム化計画の障害を除くだけでなく、側室が増えることで学園ハーレム化計画も進む。あわゆくば魔王様から褒美を貰えることもあるかもしれないし良いことづくめだ。
「流石は我がペット妻。夜の相手以外だけでなく作戦の要にもなる。主人として誇らしいぞ」
多少昂った気持ちを抑えるようにメロディーの頭を荒く撫でて、頰に強いキスをしてやる。
彼女は「にゃぁ~」と嬉しそうに黄色い間延びした声を出したが、やがてしょげるように耳を倒したのだった。
俺は、資料の素晴らしい情報に目を通しながら横目で彼女を一瞥する。
「なんだ。これじゃ物足りないか?」
今度は服の上からでなく、直に彼女の胸を揉みしだいてやる。「にゃーっ!?」と彼女の脳に走った快楽のパルスの余剰分が言葉となって口から飛び出す。しかし、それでも彼女の顔はどこか晴れないものだった。
「不服か?」
「……そんなことありませんにゃー。とても幸せですにゃー」
口から出る言葉とは裏腹に枯れた花のように萎びている耳と尻尾。恐らく、本音は別のところにあにあるるのだろう。こういうところは美音子と同じ普通の女の子っぽい。
だが、こいつは相当骨を折る事になるものの、ベッドの上で無理矢理吐かせることができる分、美音子より扱いやすい。まあ今回はそんなことをせずともなんとなく察しはつくのだが。
「ああ、なるほど。さてはゴールデンリリーを俺のモノにすれば、俺に構ってもらえる時間が減ると思ってるんだな?」
ピクリと耳と尻尾を動かす。口こそ閉じたままだが、体が俺の言葉を肯定している。
「やっぱりそうか。お前も困ったペット妻だ」
「すみませんにゃー」
小さく頭を下げつつ、腕に込める力を強める彼女。がっしりと抱き締められる感覚がした。
さて困った。どうしたものか。俺は頭を抱えながらメロディーに渡された紙を見る。
「ふむふむ。ゴールデンリリー。その正体は北摂高校二年三組の金澤百合子――ってそれ委員長じゃねぇか!」
「にゃっ!?」
俺は衝撃的すぎる事実に驚き、勢い余って紙をついメロディーの体に叩きつけてしまう。
藪から棒に突かれたメロディーは甲高い驚き声をあげて、ビクンと小さく跳ねた。
「ううっ、すまんメロディー。驚きすぎてつい……」
「にゃぁ……」
謝りながら頭を撫でてやると、メロディーは深い息を吐きながら体の緊張を解いた。
にしても。
ゴールデンリリー。その正体がまさかあの金澤百合子だったなんて。
あいつが異常に強い正義感を持っていることは既に知っていたが、まさか正義のヒ―ロ―をしていたとは。
そういえばさっき、桃色通りに居た理由についてめちゃくちゃ追求されたなぁ。しかも説教付きで。
あれは悪の組織の幹部である俺にかかった疑いの真偽を確かめようとしていたのだろうか。そして、あんなところに居たのは調査のため、とな。
説教+理由追求はいつでもどこでも誰にでもしていることだから気づかなかった。
妙に納得しながら続きを読み進める。
なになに。心の弱点はその強すぎる正義感と責任感。だって? 実に完璧主義者の委員長らしい。でもそれ弱点って言えるのか?
だが、なんにせよリリーの正体が委員長ならば尚更都合がいい。人望が厚く、男女問わず他の生徒から人気があって、更にうちの学校で最も大きな部活であるオーケストラ部の部長。そんな彼女を俺の奴隷にすることができれば、ハーレム化計画が飛躍的に前進するのは間違いないだろう。何としてでも確実に手中に収めなければならない。
思考を巡らせつつ、色欲の間の中央に置かれた円卓の最も豪華な大椅子に腰をかける。
メロディーは定位置と言わんがばかりに俺の膝の上に体を倒した。
俺はメロディーの美しく大きなお尻を撫でながら指を鳴らし、部隊員召集の合図を掛けたのだった。
五限終了のチャイムが鳴る。本日最後の授業終了の合図だ。
ゴールデンリリーこと金澤百合子は、教師の指示の通り、「起立! 礼」と凛々しい号令を掛ける。そのどこか威厳と高貴さが篭った号令に、普段は猫のように背を曲げた陰気な少年も思わず背を伸ばしてしまう。
礼、の言葉と共に誰よりも華麗に頭を下げる百合子。腰まで真っ直ぐに伸びた金髪がはらりと揺れ、シャンプーの芳香が周囲に漂った。
無事、授業最後の号令が終わり、帰りの支度をし始める百合子。彼女の所属するオーケストラ部は大きな大会を控えているのだ。部長である彼女は早く後輩たちの面倒を見なければならないという責任感を胸にそそくさと部活へ向かおうとしていた。
そんな彼女の元に、彼女の級友、雨夜美音子が気の落ちた暗い表情で近寄ってくる。
百合子は、親しい人物の珍しい表情に目を丸めた。
「どうしたのかしら美音子さん。具合が悪いように見えますわ」
気にかける百合子に、美音子は弱い声で返す。
「百合子ちゃん、ちょっとこっちに来てくれない?」
教室の外側を指差す美音子。それに百合子は小首を傾げつつ彼女についていくことにした。
美音子に連れられて来たのは体育館の裏だった。百合子はどうしてこんな場所に、と疑問に思いながら美音子に尋ねた。
「一体どうしたのですか美音子さん。このような場所に呼び出して」
「えっと……それは……とりあえずこれを見て欲しいな」
美音子が提示したのは一通の手紙だった。
百合子はあまり気分の優れていない美音子からその手紙を受け取り、その中身を取り出した。
中に入っていたのは古風漂う羊皮紙だった。
なんだか嫌な予感がする。
百合子はゴクリと唾を飲みながら手紙を開いた。
「えっと……なんですって!? 紫藤君がアンダーアビスに……本当ですの!? 美音子さん!?」
「う、うん。今日いつも通り大輔を起こしに行ったら顔を真っ青にしたお母さんから渡されて……」
「なら、助けに行かないとですわ! 二人で行きましょう!」
手を引く百合子。美音子は自身の手を掴む百合子の手をやんわりと押しのけながら言った。
「ダメだよ。手紙には百合子ちゃん一人で来いって……」
「なんでわたくしをピンポイントで……」
怪訝な眼差しを美音子に向ける百合子。そんな彼女に美音子は小さい声で返した。
「罠だと思う」
「でしょうね」
ヒ―ロ―がたくさんいる中でわたくし個人を指定してくるということはわたくしを罠に嵌めたいに違いありません。百合子は確信する。
そして、美音子につばを返す
「どこいくの? 百合子ちゃん?」
問いかける美音子。だが、彼女には既にわかっていた。百合子が今から何しようとしているかなど。
そんな彼女の予想を裏切らず、さも当然のように百合子は答えた。
「わたくしは救える人は皆救うと決めたのです。それがクラスメ―トとなれば尚更」
「そう……なんだ」
美音子はその予想通りの返事を非常に残念に思うように肩を落とした。
「心配してくれてありがとう。美音子さん。ですが心配ありませんわ。わたくしはヒ―ロ―の中でもトップクラスの魔法少女。たかが悪の組織の一部隊に負けるはずがありませんわ」
優しく微笑む百合子。彼女は勢いよくパッと走り出す。知人を救うために。
対して美音子はただ無言で俯くだけだった。そして体育館裏に一人残された彼女は、とても悔しそうに呟くのだった。
「なんでいっちゃうの……」
百合子は走る。『閃光のリリー』の異名にふさわしい大きな速度で。
ある瞬間はある家の屋根に。
次の瞬間には三軒向こう側の家の屋根に。
消えて現れを繰り返すように移動する。
やがて、彼女の目に入って来たのは一軒の大きなビル。ここが指定された場所だ。
彼女は素早くビルの前に着地すると同時に瞬きより早く変身を解除する。そして、普通の少女を装いながらビルの中に入った。
ビルの中は案外普通だった。
広い広間に、そこを行き交うス―ツの人々。受付には心地のいい笑顔を浮かべた綺麗な受付嬢が2名。悪の組織がこの地下にいるかもしれないのに、そんなことを知らない人々は呑気に談笑しているのであった。
百合子は普段通りの軽い足取りで受付カウンタ―に行き、封筒に同封されていた紙を見せる。
すると、受付嬢は瞬時にそれを心得、通行許可証と地図を手渡してくれた。
百合子は親切な受付嬢に軽い謝辞を述べつつ指定された場所へと続く階段を歩き始めた。
鍛え上げられた体を持つガタイの良い警備員の許可を貰い、地下へと続く階段へ足を進めていく百合子。ちょうど地下二階の入り口の扉の前に立った彼女は「本当にここにアンダ―アビスの構成員はいるのかしら?」と疑いながらドアを押す。そして、彼女の「いないかもしれない」という疑念は「いる」という確信へと変わった。
白い床、白い壁、白い天井に白い光を放つ蛍光灯。
ここまでは普通の建物に相違ない。
しかし、多数の普通のドアが並ぶうちの一つにあからさまに異彩な雰囲気を醸す怪しいものがあった。
他の扉の二倍ほどの面積。金銀財宝多数の豪華な装飾品が施された扉。その斜め上の金色のプレ―トには『色欲の間』と変わったフォントで彫られていた。百合子は確信した。間違いないですわ。ここがアスモデウスの本拠地ですわ。
彼女は緊張しながら歩を進め、扉の前に立つ。
そして瞬間的な変身と共に、ドアを蹴破った。
「ゴールデンリリー参上ですわ! さぁ! 紫藤君を返しなさい!」
声をあげるリリー。しかし、ただその声が部屋中に反響するだけで、返事は何も帰ってこなかった。
薄暗く、静まり返った部屋。リリーは魔法で作り出した光を片手に周囲を警戒しながら一歩ずつ歩を進めていく。
そして部屋の奥深くに辿り着いた時、彼女は見つけた。椅子に縛り付けられ、ぐったりと意識を失っているクラスメ―ト紫藤大輔の姿を。
「紫藤君!」
救助対象を見つけた喜びで、リリーはつい走り出してしまった。
が、それが命取りになるとは彼女はその時気付いていなかった。
大輔のくくりつけられた椅子の前に飛び出すリリーだったが、そんな彼女に予期せぬ事態が起こる。
矢庭に魔法が発動する音が聞こえた。同時に彼女の視界から大輔の姿が消える。
「なんですって!?」
驚愕の声をあげ、狼狽えるリリー。咄嗟に手に持つ光を強めるが、意味はない。映るのはただ真っ黒な壁だけ……壁?
彼女は数歩前に進む。すると、頭が何かに軽く衝突する感覚がした。
「まさか……閉じ込められた?」
振り返り、後ろに光を当ててみる。
しかし、そこにあったのは同じく黒い壁。
右を向いてみる。同じだ。
左を向いてみる。何も変わらない。
上を向いてみる。天井がある。
下を向いてみた結果に至ってはいうまでもない。
彼女は大きな球状の壁に閉じ込められてしまったのである。
「壁に閉じ込められてしまいましたか……ですが破壊すれば良いだけです。問題ありませんわ」
彼女は直ぐに普段の冷静さを取り戻し、魔法を詠唱し始めた。
「電撃の槍よ!」
彼女の言葉に答えるように手中にあった光源が姿を球状から針状へと変える。ライトニングランス。彼女の中で最も攻撃力が高い攻撃魔法である。
「ライトニングランス!」
彼女は手にした太く、先の鋭い光の槍を持ち前の素早さで勢いよく投げる。
それは、瞬く間に壁へと向かい――溶けるように壁に吸収された。
「なんですって!?」
再び驚愕の声をあげるリリー。当然だ。壁に炸裂して破壊できないならまだしも、攻撃が成功する前に吸収されたのだ。それらでさえ驚くべきことなのだが彼女が驚く理由は他にあった。
「こんな方法で攻撃を無効にできる人なんてわたくしの知るところでは……」
わなわなと体と唇を揺らすリリー。その震える声帯から発せられる音に反応するように、壁が歪み――その中から人影が飛び出してくる。
ゴスロリ風の可憐なコスチュ―ムを身にまとった美しい黒髪ツインテ―ルの魔法少女だった。
「あなたは……ミッドナイトメロディー!……なの?」
壁を通り抜けて出てきた見覚えのある姿に一瞬だけ歓喜するように明るくなったリリーの表情。そこに陰りが射すまでには大して時間はかからなかった。
何故ならば、目の前に現れた自分の知り合いと思しき人物の姿は自分が知るそれとはあまりにもかけ離れていたいためだ。
確かに、そのゴスロリ風コスチュ―ムも、美しい漆黒のツインテ―ルも、そして彼女のチャ―ムポイントである猫目もリリーの知るメロディーのものと大した差はなかった。
しかし……。
「にゃーはは。久しぶりだにゃー。リリー」
嬉しそうに尻尾と耳を揺らすメロディーのような猫獣人。尻尾にくくりつけられた鈴がこの場に似つかわしくない可憐な音を立てた。
そう、リリーの前に姿を現したのは、彼女の知る無垢で純粋な可憐さを持つ魔法少女ミッドナイトメロディーなどではない。
たった一人の男の為だけに存在する淫靡で妖艶な怪しい美しさを全身から漂わせる邪悪な猫獣人だったのだ。
目の前にいるのがメロディーに似た何かだと理解したリリーは再び臨戦態勢に入る。
彼女の手に再び出現する雷の槍。それが周囲を照らし、淫乱な猫獣人の姿が鮮明になる。
そうしてリリーの目に明瞭に映ったのはやはりメロディーの姿に似た、だけれども一人の男の性欲を体現していると例えるに相応しい汚いメスの姿だった。
メロディーへの冒涜とも言えるその衝撃的な下賎な雌猫の姿にリリーは度肝を抜かれると同時に、眉間にシワを寄せた。
「なんて汚らわしい……アンダーアビス。まさか魔法少女を模した怪人を、しかもこんな見るに耐えない醜悪なもの作るだなんて!」
アンダーアビスへの憤りを露わにし、怒号を吐きすてるリリー。雷の槍を持たぬ利き手に雷の剣を出現させ、その柄を強く握りしめる。
「眩しいのにゃー。猫は暗いところが好きなのにゃー」
そんな緊張感溢れるリリーに対して、呑気な猫獣人は黒い毛がびっしりと生えたケモノの手で自身の目をゆっくりと覆い隠す。
メロディーには無いはずの双丘が柔らかい音を立てて弾む。
「悪趣味な!」
リリーは、オリジナルのメロディーにはない目障りなその部位めがけて勢いよくラントニングランスを放つと同時に駆け出した。
「おっと、あぶにゃーい」
紙飛行機が飛んできたとでも言うように軽い言葉を発しつつ、ライトニングランスめがけて小さく手を振る猫獣人。
瞬く間に霧散するライトニングランス。結局それは猫獣人の胸を穿つに至らなかった。だが、リリーの本当の狙いはそれではない。
「はぁ!」
リリーは、雷鳴の速度で猫獣人の横に回り、剣を振り下ろす。そう、先刻のライトニングランスは目を眩ませる囮に過ぎなかったのだ。
まるで電撃のように繰り出される素早い攻撃。これが決まれば猫獣人でも無事ではあるまい。
勝利を確信するリリー。
だが、現実はそう上手くはいかない。
「甘いにゃー」
「なっ!?」
リリーの刃の動きが止まる。
リリーの渾身の一撃を猫獣人は自慢の鋭い爪でやすやすと受け止めてみせたのだ。
それだけではない。
あれだけの速度で打ち出した斬撃を受け止めた猫獣人の体は一歩たりとも動いてないのだ。
その異様な光景に息を呑み、唖然とするゴールデンリリー。
猫獣人は、そんなリリーの表情を見て心底愉快そうに口元を歪めた。
「おかしいにゃぁ。『閃光のリリー』の実力も所詮はこの程度なのかにゃー?」
自身の空いている手を舌で舐め、毛繕いをする猫獣人。
強者の余裕に満ち溢れたその姿をリリーはただただ呆然と見つめていた。
リリーが我に返ったのは実に数秒後のことだった。
「つまらないにゃー。さっさと終わらせて御主人様のご褒美を貰いに行くにゃー」
猫獣人は、つまらなさそうに欠伸をし終えると、その表情をネズミを狩る狩人のものへと変貌させた。
この殺気溢れる視線こそが、リリーを我に返すきっかけだったのだ。
目を覚ましたリリーは防衛本能に従うがままにとっさに足に力を込め、距離を取ろうとする。しかし。
「遅すぎるにゃー!」
リリーが跳躍するより数フレ―ム程早く猫獣人の素早い蹴りがリリーの腹部に炸裂する。
猫獣人の足に捉えられたリリーの体は、そのまま腹部を中心にくの字に折れたかと思えば、次の瞬間にはバットに当たったボ―ルのように勢いよく吹き飛ぶと、腰から黒い壁へと激突した。
「がはっ」
あまりの衝撃に、昼に口にした食事の慣れの果てを口から放出するリリー。だが、猫獣人にそんなリリーへの攻撃の手を休める様子はない。
猫獣人は四つん這いになりながらリリーの胃袋から飛び出した吐瀉物を避けながら彼女に詰め寄ると、今度は爪を立てた両手で彼女の腹を十字に切り裂く。
続けて攻撃を繰り出すのは腕。
次に足。
次に頭。
そして最後は今までよりも強い勢いで子を宿すことになる場所を執拗に攻撃した。
一回、二回、三回、四回、五回、六回。まるで演奏を奏でるようにリズミカルに下腹部を攻撃するメロディー。
七回、八回、九回。メロディーの体が返り血で真っ赤に染まる。
十回、十一回、十二回。すでに意識を失い、物言わぬ人形となったリリーの頭を足で思い切り蹴飛ばしながらにゃーははと嗤う。
そして十三回。
不吉な数字と共に魔法少女ゴールデンリリーへのレクイエムはフィナーレを迎えた。
猫獣人は、リリーから一方離れ、ズタズタになった彼女の下腹部と、嘔吐物と血でできた汚い水溜りを交互に見る。
その途中に、自分の手の爪が血で汚れていることに気づき、舐める。
彼女の口の中に何度も味わった鉄の味がする。そして彼女は落胆した。
ああ、どれだけ強いと言われていてもこの娘はただの人間でしかないのだ。と。
「……なんだこれは」
戦闘終了の合図をメロディーから受け取った俺は、自分を縛っていた紐を魔法で解きつつ、メロディーの作り出した結界の中へ足を運んだ。
そこで見た光景はなんとも言えない悍ましいものだった。
辺り一面真っ赤な水たまりで覆われた床。その上にあるのは執拗に下腹部を攻撃され最早原型を留めていないリリーの肉体と、血濡れになった猫獣人の姿だった。
唖然とその光景を眺める俺に気づいたのだろう。メロディーは、こちらを振り向き、にっこりと満面の笑みを見せた。
「御主人様、任務完了しましたにゃー」
ぺちゃぺちゃと音を立てながら四つ足でこちらに歩み寄るメロディー。
歩くたびに彼女の黒い毛は赤黒く染まる。水たまりには大きな波紋ができる。
百獣の王ライオンでさえもビビって逃げ出すネコ科の動物の恐ろしい姿に俺は戦慄した。
そんなことはいざ知らず。
メロディーは背筋を凍らせ、立ち尽くす俺の首筋を、ざらざらとした舌でペロリと舐める。同時に、彼女の手についた真っ赤な血が俺の服を汚した。
「メロディー……少しやりすぎじゃないか?」
少し引き気味の表情を作って彼女に問いかける。
しかし、メロディーはそんな俺の本心には興味なさげに、ただただ満足気に尻尾と耳を動かした。
「そうですかにゃー? これくらいまで痛ぶらないとあれくらい意志の強い子は中々意識を失わないにゃー」
「……あれ、痛ぶるどころか死んでるような」
俺は微動だにしないリリーの体を一瞥する。
大きな十字の傷が入った手首と足首と頭部。
そして何よりズタズタにされすぎて見るに堪えないグロテクスな下腹部。
それにこの血の池を作るほどの出血量も相まって生きているようには到底思えなかった。
なのに、メロディーは平然としていた。
それどころか、その大きな胸を張る姿は、『生かして捕らえよ』という命令を完璧に遂行したと自負しているようにすら見えた。
「俺は生かして捉えよ。と言ったんだが」
「生きてるにゃー。魔法でちゃんと延命してあるにゃー」
俺は半信半疑でリリーの体に近寄り、胸部に耳を当てる。
すると、確かに微弱ながらも胸の鼓動が認められた。
「ちゃんと生きてるにゃー? にゃーの言った通りにゃー。それより早く褒めて欲しいにゃー」
俺の元に擦り寄り、喉をゴロゴロ鳴らすメロディー。
既に発情仕切っているのか。先ほどからその血濡れた手は俺の身体のありとあらゆるところをいやらしく弄り、とどまることを知らなかった。
「……よくやった。メロディー」
俺はただ一言そういい、この場を後にした。
負傷したゴールデンリリーが意識を取り戻したのはそれからかなり日を経た頃だった。
『ここは……』
リリーは心の中でそう呟く。
いや、声を出そうとしても出なかったから仕方がなく心の中で呟くに留まったと表現するのが適切だろう。彼女は猫獣人によって声帯が潰されたのだ。
リリーはかろうじて動く目を左右に動かし、今の状況を確認しようとする。
そうして彼女の目に映ったのは今まで見る機会が無かった、様々な奇怪な機械が置かれた部屋だった。
ここはかつてメロディーがキャシーと融合する際に使った『モンスター娘メーカー』を作った『アスモデウス』の実験室である。
『なんですか。ここは。アンダーアビスの施設だと言うのは何と無くわかりますけど』
「目が覚めたかにゃー?」
辺りを一望するリリーの元に、二重の意味で聞き覚えのある声が聞こえてくる。
片や友人ミッドナイトメロディーの声。もう片や。
「『憎たらしい猫獣人の声』とにゃー? ゴールデンリリー金澤百合子ちゃんの心の中はこのモニタ―から筒抜けにゃー」
『!? どこまで知って!?』
「どこまでって言われても困るにゃー。結構知ってるにゃー。お前の所属するオーケストラ部がコンク―ルでダメ金ににゃったこととか……」
猫獣人の言葉に先ほどまでの驚きの表情は一転、百合子の顔は絶望に歪む。
『……今なんて?』
「だから百合子ちゃんが責任もって指導する筈だった後輩がヘマやらかして金賞逃したにゃー」
嘲笑うように邪悪な笑みを浮かべるメロディー。
一方、百合子はその縦に裂けた細い瞳孔の奥深くに体が沈んでいくような感覚を覚えた。
『コンク―ル……もう終わって……ダメ金だったって……言うの?』
「そうにゃー。お前が後輩を一生懸命始動しますとか先生に土下座までして頼み込んだのにその仕事をサボったからにゃー」
棘のある言葉が百合子の心に突き刺さる。
百合子は締め付けられるような胸の痛みを感じ、手で押さえつけようとするも、その手が動かない。
体が布で十字架にぐるぐる巻きに縛り付けられているためだ。
彼女の瞳がじわりと潤う。目尻に水滴が溜まる。
百合子は責任感の強い女の子である。
言われた事はきちんと果たし、言った事も最後までやり遂げる。そんな女の子だ。
部活どころか学校を休んだ事すら一度もない。
成績は常にトップで、部活でも常に誰よりも素晴らしい活躍をしていた。
彼女は常に周りから頼られるリーダーだった。
それは彼女の誇りでもあった。
皆の為に誰よりも努力し、皆を笑顔にする。
それが彼女の目標だった。
オーケストラ部の顧問に一年生の指導を全て任せてもらえるように頼み込んだのも、同級生や上級生には練習に専念してもらい、下級生にはわかりやすく教えて楽器をうまく弾けるようになる喜びを知ってもらう為だった。なのに。
彼女は下級生に楽器の楽しさを知ってもらうばかりか、本来やる予定の無かった同級生や上級生に下級生の指導をさせてしまったのだ。
当然、そうなれば予定は総崩れ。
下級生に突然指導することになった上級生や同級生はきっとてんてこ舞いになっただろう。そうなれば同級生や上級生の練習の時間は必然的に減少してしまう。この結果は当然……。
『あぁぁぁああああ!? 私の、私のせいでぇぇええ!?』
狂気の混ざった無音の叫び声が文字となってディスプレイに表示される。
ある文字は大小大きさを変え続け、ある文字はくるくると三次元に回転する。
ディスプレイの上で踊る文字達を見るメロディー。その顔はその文字以上に狂気に満ち溢れた残忍な表情だった。
「にゃら、紫藤大輔を助けに来にゃければよかったにゃー」
軽くそう言いのけるメロディー。
その言葉を受け、百合子は自分の胸に渦巻いていた黒い感情を無理矢理抑えつける。
そして、いつも通りの引き締まった凛々しい表情に戻ると、鋭い目つきでメロディーを睥睨する。
『そうですわ! 私は紫藤君を助けに来たのですわ! 紫藤君をどこにやったのですか!? 彼は無事なのですか!?』
自分の置かれた状況も忘れ、救出しに来た他人の心配を始め、メロディーに詰問し始める百合子。
メロディーは音がしていないのにもかかわらず、耳を塞ぎ、五月蝿そうに表情を曇らせた。
彼女は無言でポケットから無線を取り出し、そこにあるスピ―カ―の声をかけた。
すると、間も無くして、メロディーと通話していた相手が部屋に訪れる。
「御主人様、お入りください」
メロディーは一瞬意地悪な目付きで百合子を一瞥した後、ドアに向かって声をかけた。
百合子は、何が何だかわからないというように戸惑いながらドアを凝視する。
二人の視線が集まる中。ドアは音を立ててゆっくりと開く。
その向こう側に居たのは押しぐるまを持った数人の側近を従えた紫ロ―ブの男だった。
アンダーアビスの刺繍が縫われた紫ロ―ブを被ったその男は高圧的な雰囲気を辺りに放ちながらずかずかと部屋の中へ入ってくる。
百合子は、その後を追う何か小さな箱を持った側近の事など全く目もくれないようにロ―ブの男をじっと見つめて居た。
男は、自信を見つめる百合子の視線に震えながら彼女の元へと近づいていく。
そして、彼女を縛り付けた十字架の前で男は立ち止まり、百合子の顔を見上げた。ロ―ブを外しながら。
俺がロ―ブを外すと、委員長の顔は驚きと困惑と憤りとが混ざった不思議な表情を浮かべた。
ふと横にあるモニタ―を見ればなかなか面白いことが書かれてあった。
『な、なんで……紫藤君が……アンダーアビスの幹部のロ―ブを』
体をわなわなと震わせながら問いかけてくる委員長。俺もそんな彼女を見て体を震わせた。
とても滑稽で面白かったからだ。
「くくく。クハハハハ! 委員長! 今更気付いたのかよ!? そう、俺紫藤大輔こそがアンダーアビスの『アスモデウス』の部隊長、ラストだ!」
俺は外したロ―ブを放り投げながら高らかに宣言する。
ロ―ブは高く舞い上がり、ひらひらとメロディーの手のうちに落ちた。
一瞬ロ―ブに姿を隠された委員長の姿が再び俺の目に入ってくる。
いやぁ、とても素晴らしい。
素晴らしい絶望の表情だ。
それこそまるで、自分の全てを捨ててまでやった行動が全くの無意味だったということを知った時のような。『ような』じゃないな。今がまさにこいつにとってその瞬間なのだ!!!
『そ、そんな……紫藤君がアンダーアビスの幹部だったなんて……ならそこにいるメロディーみたいな怪人は……』
ぎこちない動きで目線をメロディーに移す委員長。その視線の先には不快そうに舌打ちをするメロディーの姿があった。
俺は、そんな彼女に歩み寄り、よっこらしょとその小さな体をお姫様抱っこしてやる。
メロディーは嬉しそうにゴロゴロと喉を鳴らし、俺の腕を舐めた。
「ん? ああ、こいつか? こいつは俺が捕らえたメロディーとうちの愛猫を融合して作った俺のペット妻、トワイライトメロディーだ」
『そ、そんな!? その化け物がメロディー本人だというの!?』
「……今気づいたのか」
俺は予想外のところで驚いた委員長に呆れの眼差しを向ける。
しかし、委員長からするとあまりにも衝撃的だったのだろう。その揺れる眼差しはメロディーに釘付けになって居た。
『そ、そんな……なんてことを。他の人ならまだしもまさかメロディーに……』
「他の人ならまだしもって他の人なら良」
『メロディーは!!!』
ディスプレイの文字がでかでかと表示される。
委員長の顔も今までに見たことないほど悲痛なもので、彼女にとって俺がメロディーを堕とすことが如何にしてはいけなかったことであるかを物語っている。
それだけ彼女にとってメロディーは大切だったのだろうか?
訝しげに彼女の顔を見続けていると、ディスプレイに続きが表示された。
『メロディーは紫藤君にとって最も――』
彼女が何か大事な事をいいかけたその時だった。
メロディーが、突如俺の胸元から飛び降り、バネのように体を弾ませ、瞬時にディスプレイに近寄ると、強い蹴りをかました。
途端、ディスプレイは嫌な音を立てながら粉砕され、使い物にならなくなってしまった。
俺は暫く、穴が空いて使い物にならなくなったディスプレイを眺めて居たが、すぐに我に返り、メロディーに駆け寄る。
「こらメロディー! なんてことしてくれるんだ!」
「御主人様は知らにゃい方が幸せにゃのにゃー。それににゃーも知られたくにゃいのにゃー」
ふんっとそっぽを向くメロディー。どうやらよほど知られたくない事があるらしい。
こうなれば吐かせることは難しい。俺は委員長が言いかけた言葉の内容を追求するのを一時中断することにした。
こんなこと、別にドMで拷問が効果ないメロディーから聴き出さなくても後で委員長から聞き出してやれば良い。
そのためには……。
「メロディー、さっきの件は忘れてやる。部下たちと一緒に作業に取りかかれ」
「了解しましたにゃー!」
メロディーは小さく敬礼し、四足歩行で部下たちの元へと向かう。
俺はそんな彼女を横目にディスプレイの交換をしながら委員長を見やる。
「くくく。今からお前は俺の忠実な下僕となるのだ」
「……」
驚愕の表情に変わる委員長。
「そこで絶望するがいい! だが安心しろ。数時間語には今まで味わったことのない快楽と幸福を味あわせてやるよ」
委員長は目を一生懸命左右に動かし、拒絶する。だがもう遅い。
我が下僕へと姿を変えてしまうがいい。
俺は背後に控えるメロディー含む部下達に目配せをしてやる。すると、メロディーと部下達は運んできた荷台の上に置かれた箱の側面にあるボタンを押した。
すると、箱は以前メロディーを閉じ込めたそれと同様、組み立てる前のサイコロの様に展開し始めた。
その中から現れたのはひとの頭にすっぽり収まるほどの王冠を被った巨大な蜂だった。
それはそのまま飛翔し、その場を発つと間も無くして俺の前で滞空し始めた。ほぼ同時に、ディスプレイの交換が終わり、彼女の心の声が再び表示される。
『それは……蜂ですか?』
「ああ、そうだ。といってもこれはただの蜂じゃあない。これはパラサイトビ―と呼ばれる魔族や人に寄生する蜂さ。特にこいつはその蜂の中でも女王蜂。特殊な相手としか適合しないが、適合すればこいつは宿主に女王蜂として相応しい記憶と意志を植え付け、その者の心を女王蜂そのものへと変える。当然、身体は女王蜂らしいものに変化する」
『!? 何故そんな危ないものを放出するのですか!? 貴方も寄生されるかもしれないのですわ!?』
この場に及んでまだ他人の心配をするか? つくづく女王に相応しい女だ。
「ああ、それなら心配することはない。こいつは女王蜂だ。女王に相応しい魂を持つものにしか惹かれない。ここにいる女は委員長とメロディーだけだ。そしてメロディーには女王の素質はない」
「なんか間接的にディスられたにゃー」
不満げに頬を膨らませるメロディーを放置して話を進める。
「さぁ! 行けクイーンよ! お前に相応しい器の元へ!」
俺は勢いよく手を前に出した。
クイーンは、それに呼応するように一度体を上下させると、勢い良く委員長の元へと飛び去っていった。
『い、いやっ!? 来ないで!?』
体をなんとか動かそうとし、蜂の寄生を免れようとする委員長。
しかし、体が縛られているためか回避するに十分な動きはできない。『閃光のリリー』も縛ってしまえばこんなものだ。
そんな彼女との距離をどんどん縮めていくクイーン。
今となってはもう委員長の目と鼻の先にいる。
恐怖の眼差しで蜂を見つめる委員長。一方クイーンは見定めるように委員長の周りを飛んでいる。
そして、クイーンが最後に一回。素早く委員長の回りを一周した時に変化は起こった。
なんと、突然クイーンの体が突然爆発したかと思えば、そのクイーンの体の破片は光の粒子となってどんどんクイーンの被っていた王冠に吸収されていくではないか。
そう、あの蜂の姿を模した身体は魔法で作り出された仮初めのものでしかないのだ。
あの王冠こそがクイーンの本体であり、あの王冠が何者かの身体を乗っ取って初めてクイーンは真にこの世に誕生するのだ。
神々しい光を放ちながら、委員長の前に浮かぶ王冠。
それは、目を輝かせてそれを見つめる委員長の頭の上へとゆっくりと移動していく。王冠の移動に伴って描かれる光の軌跡は何者かの手のように見えた。
まるで戴冠式を連想させるその素晴らしい光景には、普段俺以外のものに一切の興味を持たないメロディーでさえ見とれているのが見えた。
そう、今ここで誕生するのだ。この世で最も美しく、この世で最も危険な女王が。
俺は誕生する女王を出迎えるように両手を大きく広げ、天を仰ぐ。
王冠が新たな器と一つになったのは間も無くしてのことだった。
『うっ!?』
王冠が頭に嵌ると同時に、器は苦悶の表情を浮かべた。
良く良く目を凝らしてみれば王冠から数本の触手が伸びているのがわかる。
その内数本は先の丸まったもの、内数本は先端に蜂の針がついたものだった。
恐らく、今あの王冠の中では数え切れないほどの後者の触手が彼女の頭を突き刺し、その奥にある脳みそ弄んでいるのだろう。
実際、今彼女は時に泣いたり、時に怒ったり、時に笑ったりと理解不能な言動を繰り返し行っているのが見える。
『いやぁあああああ!? 痛いぃぃぃいい! 止めてぇぇぇ!! あはっあはははははは! 許さないぃぃぃいいい!! 許してえぇえええ!」
モニタ―の中で荒ぶる文字達。その殆どが現れてはすぐ消え、また次の文字が現れるのを繰り返していた。
それはもう読めないスピードで、彼女の身に何が起こっているのか予測するのが困難になる程に。
一方、頭に関与していない触手は触手で非常に面白い動きをしているのが見える。
あるものは両耳に入り、あるものは鼻に入り、あるものは口に入る。
そしてあるものは巻きつけた布を丁寧に剥がしつつ、空気に晒された彼女の肌に謎の粘液を注入していく。
そして粘液の注入された箇所は瞬く間にその色を薄橙からマリ―ゴ―ルドの花を思わせる美しい黄色へと変えた。
最も触手の活動が顕著だったのは彼女の腰回りだった。
メロディーによってズタズタにされて結局そのまま放置されたままだったその部位に多くの触手が集中する。
腹側では数十もの針を持った触手が皮膚を突き破ってその中へと侵入し、蠢いているのが見えた。腹に棒状のうねうねした物が突き刺さり、蠢いているその姿はなんとも異様な光景だった。
特に皮膚の内側で何かが脈打つように動いている光景はと言えばただただホラ―映画の悪夢としか思えない不気味な光景だった。
一方、背側の腰回り、大体お尻の少し上の尾骶骨に位置する場所では、顕著な変化が見られる。
なんと、蜂のお尻のような、先端に鋭い針を持った器官がその付近から飛び出ているのだ。
良く良く目を凝らしてみると、その黄色と黒のストライプ模様のそれは肉の様に柔らかくぶよんぶよんと動いているのが見えた。
恐らく、腹側から彼女の体に入った触手のうち数本が腰側に貫通し、そのまま変異してできたのだろう。
その証拠に、腹側から生えているように見える数多の触手のうち何本かはどんどんと奥に侵入していく一方で、それにつれて蜂のお尻のような器官がどんどんと大きくなっていくのが見えた。
黄色と黒の縞模様の器官が人の頭一つぶんほどの大きさになった辺りで、次の変化が起こる。
謎の液体を注入され、黄色く染まった胸。まるで幼女のそれのように慎ましい貧相なそれが内部から風船のように膨らみ始めたのだ。
最初、その変化は気づけないほどゆっくりだった。
AAAカップからAAカップに。
ほんの少しだけ大きくなった。
だが、そこから先はまるで指数関数的にとてつもないスピードで成長し始めた。
AAカップはBカップに、Bカップは瞬く間にEカップに。
そしてEカップは瞬く間にIカップに。
どんどんありえないスピードで膨張していく。
その胸部の膨張が停止したのは膨張開始からたった十秒過ぎた辺りだった。しかし、その胸の大きさたるや、キャシーとの融合の際に人の頭に一つぶんほどに大きくなったメロディーのそれより遥かに大きい、奇乳と呼ぶに相応しいスケールへと変化していたのだった。
女王の器の奇乳に針を持つ触手が近づく。
それはまるで鞠で遊ぶかの様に彼女の記入を針で突きながらぼよんと弾力溢れるそれを押す。ちくっちくと何かの曲を奏でる様にリズミカルに。
針に刺された部分は色を鮮やかな黄色からメロディーの尻尾のような漆黒へと色を変える。
こうして、最終的に彼女の胸は、彼女の腰部分に形成された蜂の尻状の器官と同様の黄色と黒の巨大な構造物へと姿を変えたのであった。
「ああっ! わたくしの身体がぁあああ!?」
脳への攻撃が収まったのか、今まで支離滅裂で意味をなさない単語の羅列しか発さなかった器がやっとまともな言葉を口にする。
どうやら喉の修復もついでにやってくれたようだ。
ふと彼女の体を見回してみれば、手首にできた切り傷も、足首にできた傷も、そしてなによりメロディーのズタズタにされ見るに耐えなかった下腹部も、綺麗に修復されているのがわかった。
ただ、元どおりかと言えばそうではない。修復される過程で改造されていたのが一目瞭然だった。
元々のほっそりとした美しさはそのままに、真っ黄色に染まった手首から肘にかけて微細な金糸のような毛が鬱蒼と生えている腕。
足は、細く、引き締まった美しい脚線美はそのままに、踵から指先までハイヒ―ル状に尖った組織へと変化していた。そのまな板張りにのっぺらだった胸部について巨大な2つの袋と、腰についた巨大な蜂のお尻と黄色い体に施された黒い紋様も相まって彼女の体は最早人間のそれとは程遠い何かへと変化していた。
『人間』と辛うじて言える部位は最早その美しい顔と、まだ手の施されていない心だけだった。
あれだけ脳を弄られて、心の大半が残されたのは王女の気まぐれか戯れか、それとも最後の慈悲なのかわからない。
だが、体の変化に取り残された彼女の心が今にも砕けそうになっているのは自明だった。
『か弱き、けれども気高い心を持った人間よ。そなたの魂と肉体は素晴らしい! そなたという存在はまるで『私』のためだけに生まれてきたかのようにとても『私』に適している。この体を使えば、私はどこまでも大きなhiveを成すことができるだろう』
「そんなこと、わたくしに言われましてもっ!」
自分の脳内に直接話しかけてくる謎の声に駄々をこねるように百合子は怒鳴る。
しかし、彼女は分かっていた。
今更怒鳴ったところで何も解決しない。
例えこの場から逃げ切れたとして自身の体は既にローブで隠すことすら困難な醜悪な魔物の姿へと変化しており、以前の生活を送ることは100%不可能なのだ。
助けを求めてオーバーヘブンのアジトに戻ろうにも、この体では姿だけで敵と認識され、取り付く間も無く処分されてしまうだろう。
もし、話を付けることが成功したとして、数日後には密に処分されるのは確実だ。
現に彼女も魔物に姿を変えられた同僚の『処分』に立ち会ったことがあるのだ。
ああ、こんな事になるなら初めから素直に美音子の忠告を聞いておくべきだった。
彼女の忠告通り、わざわざ罠に引っかかるような真似をするのではなかった。
彼女は絶望の最中で、自分の誇りとしてきた正義感と責任感に対し、最初で最後の後悔をする。
罠だと分かっている場所へ一人で飛び込むのは最早勇気とは言いがたい。蛮勇と呼ぶに相応しい
彼女は嘲った。つまらないプライドと前のめりになりすぎた薄っぺらい正義感で行動した頭の悪い正義の味方の末路を。
「さあ、さっさとわたくしの意識を奪いなさいな。とっくに覚悟は出来てますわ」
鋭い視線を上に向けるゴールデンリリー。その顔は今までのどんな時よりも精悍で、美しくて、爽快として、覚悟に引き締まった顔だった。
だが、そんな彼女の美しい最期は棄却された。
この世で最も危険な暴君によって。
『くくく。くはははははは!』
「何が面白いの!?」
『面白いに決まっている。よもや人間、楽になれると思っているのか? だとすればそれは滑稽だ』
「なんですって!?」
『そなた、ラスト様の言葉をちゃんと聴いていたか? そなたの心は砕けたり消されたりすることはないのだ。そなたの心はこの冠に秘められた心と記憶を吸収し、徐々に変性していく。蜂の女王に相応しいものへと』
一体こいつは何を言っているのだ、と困惑の色を浮かべる百合子。
彼女には確かに昔から何一つ変わらない正義の心が残っている。
どこも侵食された形跡などない。ましてや得体の知れないものを吸収し、それに呑まれた自覚など一切ない。
戸惑う百合子に見兼ねたのか、彼女には今の状況を懇切丁寧に教えてあげる事にした。
冠の心、記憶、意思を全て吸い取り、女王へと生まれ変わった『百合子』が。
『喋り方を変えていたから気付かなかったようですわね。貴方が今聴いている声は決してこの王冠の声ではなくてよ』
「その喋り方……その声……まさか」
百合子の顔が一気に青ざめ、わなわなと震え始める。
間も無くして一転、百合子は「にぃ」と邪悪な笑みを浮かべて呟いた。
「そうですわ。私は女王蜂として生まれ変わったゴールデンリリー……いえ、クイーンリリーそのものですわ!」
バッと飛び出し、女王らしい威厳溢れるポーズを決めるクイーンリリー。
同時に、彼女の背中の皮膚を2対の蜂の羽根が突き破り、その姿を現わす。
百合子の中に僅かに残る『ゴールデンリリー』の心は今この瞬間に理解した。
女王蜂による心の侵食は既に取り返しのつかないところまで進んでいて、自分の心の大半が『クイーンリリー』のものになったことに。
「ああ、今更気付いたのですわね。遅いですわ。ああ、でも残念。貴女はあの快楽を味わわなかったわたくしなのですね。あのじわり、じわりと何者かの黒い意志と記憶が流れ込んでくる感覚! あれを味わえなかったとは、本当に可哀想ですわ」
おーほほほほと高らかに笑う女王蜂。
その手にはいつの間にやら黒色の縞模様が施された金色の錫杖が握られており、首には真紅のマントが巻き付けられていた。
『そ、そんな!? 体の自由が効かないですわ!?』
自分の意思に関わらず勝手に動き出す体にゴールデンリリーの心は困惑する。
その一方で、彼女はとても心地の良い気分を味わっていた。
頭の中に、というより心の中に何かが入ってくるのだ。
ドス黒い何かが。
偉大なる何かへの畏怖が。
そして自身こそがこの世を統べるに相応しいと思えるほどの尊大な自信が。
変わっていく。
自分の心がどんどんクイーンリリーのものへと変わっていく。
ああ、紫藤君――旦那様に抱かれたい。
そして我が夫との間に無数の蜂の子を作りたい。
我が夫と子供たちとでこの世を覆い尽くす巨大な巣を作りたい。
わたくしは見下したい、あのか弱き、下賎な人間どもを。
そして彼者共を踏みつけ、蹂躙したい。頭を強く踏み、手に握る錫杖で心の臓を貫きつつ、高らかに笑いたい。
そんな気持ちで満たされていく。
正義? 責任? それはとても大切な感情ですわ。
それは今までもこれからも変わらないですわ。
わたくしは貫き通しますわ。
我が夫ラストと子供のために全身全霊を尽くしますと!
「ふふふ……お―っほっほっほっほ! わたくしの全てがとうとうわたくしへと変化しましたわ! そう、これこそ! この美しい黄色と黒の姿こそがわたくしクイーンリリーの真の姿!! ああ、今まで何故あのような姿に甘んじていたのでしょうか! こんなにも素晴らしく、気持ちがいいのだというのに……かつてのわたくしはとても愚かでした」
クイーンリリーは、両手を広げ、天を仰ぎ、そう高らかに宣言すると、今度は俺の方を振り見る。
そして、一回舌舐めずりをすると、とても光悦とした表情を浮かべながら羽ばたき、こちらへと飛んできたのだった。
「ああ! 旦那様!」
俺の胸に勢いよく飛び込んでくるリリー。俺はとても誇らしい気分になりながら彼女を受け止めてやった。
「新たな妻よ、お前の誕生を祝おう」
俺はおめでとう、と祝辞を述べながら巨大な彼女の胸を堪能する。
メロディーの弾力の強い胸とは異なり、マシュマロのようにとてもやわらかい女王の胸は、それはそれでとても触り心地が良かった。
さわれば手が沈むとは正にこのこと。本当に少し力を加えただけで俺の手が彼女の胸に埋もれていくのが感じられた。
「旦那様」
委員長の顔で俺の唇にそっとキスをするクイーンリリー。
やはり学年一二を競う美少女と呼ばれただけはある。とても美しい。
俺は彼女の金糸のような長い髪の毛を手で梳きながら彼女の頭を俺の顔に強く押し付ける。
同時に、彼女の口に押しつけるように舌を挿入してやる。
何をやるべきか理解したのだろう。リリーもまた自ら舌を差し出し、俺の舌に絡ませてくるのだった。
ああ、これがディープキスと言うやつか。今まで味わったことのない感覚に俺はつい溺れてしまいそうになる。
快楽の海に沈めんとする俺の体を引っ張りあげたのは意外な人物だった。
「にゃー!」
「っ!?」
突如鳴き声がしたかと思えば、俺の背中に強烈な痛みが走った。
俺は慌ててリリーの体を押しのけ、後ろを振り見る。すると、そこには真っ赤に染まった爪を携えたメロディーの姿があった。
「お前! もっと空気読め! なんでこのタイミング引っ掻くんだ!?」
「いやぁ、浮気をしている旦那の目を覚ますのは妻として当然の役割にゃー」
悪びれない表情どころか、寧ろ憤りの混ざった表情で俺を睨むメロディー。
確かに、彼女にとってこの状況は好ましくないものに違いないだろう。だからといってなんの断りもなく引っ掻くのは論外だと思うが。
反論しようにも状況が状況故に反論できない。そんな俺を見かねてか、今先ほど俺の妻となったクイーンリリーが俺とメロディーの間に割って入る。
「あら、メロディー。わたくしがクイーンリリーとして生まれ変わった一因は貴女にもありますのよ。それで嫉妬するとは如何だと思いますわ」
大きな胸を張り、尊大な態度でメロディーに接するリリー。
メロディーはそんなリリーに負けじと大きくてなおかつ弾力の強い胸を張リリーリ―の少しだらしない胸に押しつける。
「にゃーは元からあまりこの作戦に乗り気じゃにゃかったにゃー! 御主人様の命令がにゃければにゃーはお前なんかあのままあの世送りしていた所だにゃー!」
頰を膨らませ、プンスカと怒るメロディー。普段のほほんとしたこいつがここまで怒るのは珍しい。
ずっと一人で噴火していた彼女は、暫くして急にしおらしくなり、呟くようにリリーにいった。
「それににゃーはこれ罠だから絶対に行くにゃって忠告したのにゃー……こうにゃることくらいわかってたからにゃー」
「おいお前、今さらっと作戦妨害したことを公言したな」
「!? しまった。これは失言だにゃー!? 忘れてくださいにゃー!」
耳を強く動かすメロディー。間髪入れずに彼女は颯爽と俺とリリーから距離を取ると、「すみませんにゃーああ!」と魚屋から逃げる猫のようにこの場を後にしたのだった。
その後ろ姿を俺とリリーは唖然と見守るのであった。
メロディーは放置しておくと何をしでかすもんかわかったもんじゃない。
それは『アスモデウス』部隊員全員の共通認識である。
女王蜂の箱を運んできた部下達は、ある種の火薬に等しいメロディーを慌てて追いかけ、部屋を後にするのだった。
俺とクイーンリリーがたった二人この場に残される。
「旦那様……メロディーは追いかけなくて大丈夫なのでしょうか?」
心配する面持ちで問いかけるリリー。それに対する俺は「いつものことだ。ほっとけ」とだけ返し、彼女に違う話を切り出した。
「そういえば、さっきなんて言おうとしてたんだ?」
聞きそびれたことを問いかける。
先程、メロディーは「罠だから行くなと忠告した」といっていた。リリーの情報を短期間にあそこまで詳細に調べられたという事からも考えて、二人は相当親しい間柄だったに違いない。なら、俺の知らないメロディーをリリーが知っている可能性は大いにある。
メロディー……よくよく考えてみれば不思議の多い奴である。
他の女達とは違い、素性も良く調べないまま俺の『物』にしてしまったから当然ではあるが。
アーニャもそうだが、メロディーもまた、活動時間以外では、警察やオーバーヘブンに怪しまれないようにすべく、元の生活を送るように命じてある。
今日も活動時間前は普通の少女として生活していたに違いない。
……はて、メロディーの『中の人』は、一体どのような人なのだろうか?
リリーは先ほど、「メロディーは紫藤君にとって最も」と言っていた。俺の身近な人物なのだろうか。
俺の中でメロディーの『中の人』に対する謎と好奇心が膨れ上がっていく。知りたい。
そんな俺の知的好奇心も、今すぐに満たされる事になる。
今のリリーは、ありとあらゆる知っている情報を嬉々として提供するだろう。
俺はそう確信めいた期待を込めた眼差しをリリーに向け、返事を待った。
そうして、彼女が返してきた答えは。
「教えられませんわ。そんなこと」
「うんうん……って、はぁ?」
俺は彼女の口から飛び出した不意打ちじみた予想外の返答に頭を打たれる。
ちょっと何いってるかわからない。
「教えられませんわ。そんなこと。大事なことなので二回言いますわ」
「参考までに理由を聞かせてくれないか?」
まあ最悪後でベッドの上で聞き出してやればいいか。さてどんな手段を行使しようか。と頭を悩ませながら理由を問いかける。
「そ、それは……それを教えてしまうと旦那様がメロディーに釘づけになって、私には見向きもしてくれなくなってしまうためですわ」
モジモジとしながらリリーはそう答えた。
彼女の口から飛び出してきた予想より可愛らしい理由に、俺は「なんだそりゃ」とただただ苦笑を浮かべるだけだった。