侮辱的な報酬額の大学講師の仕事依頼がやってきた。その額なんと月2.7万円
https://cpplover.blogspot.com/2019/11/blog-post_17.html
https://ezoeryou.github.io/blog/article/2019-11-17-insulting-job-offer.html
(元記事の人はわかってて書いているのだと思うが、一応業界の事情を補足しておく。)
仕事の量と質に見合った金額ではないという主張には同意するが、実際問題として大学の非常勤講師の報酬/給与の相場は、ここで言われている額からかけ離れたものではない(月2.7万は安い方だとは思うが)。それゆえ、オファーした側は特別「侮辱的」な額を提示しているわけではないし、失礼な依頼だとも思ってないだろう。
なぜ非常勤講師の給与/報酬額が(常識的な感覚からすれば)極端に少ないかは、制度の歴史的な経緯で説明されることが多い。本来非常勤講師は、自校の教員だけではカバーできないような幅広い教育を学生が受けられるように、主に他校の専任教員を招待して講義してもらうという制度だったようだ。招待される教員は自身が所属する大学から十分な給与をもらっており、また自分のところの大学でも同じように他校の教員に非常勤講師をお願いするという関係上、わずかな額面であってもオファーを受けたのだろう。そうやって制度が回っていた時代があった。
しかし現在では事情が違っている。いまでは他大学の専任教員よりもむしろ、いわゆるポスドクが専任の職を得るまでのつなぎとして非常勤講師をすることが多い。専任になれなければ、そのまま一生非常勤講師の掛け持ちをして生活したり、可能なら別の職種に就いたりする。
別の定職がないかぎり安い額面だと当然辛いのだが、非常勤講師のなり手が減ることはない。なぜかと言うと、専任教員に応募するための要件として「大学での教育歴」が求められるのが普通だからだ。要するに、専任教員を目指すポスドクが足元を見られて買い叩かれる構造になっている。
そういうわけで、待遇が悪くても供給量が減らず、結果として給与/報酬も上がらない。この問題はアカデミア業界の関係者全員が理解しているだろうが、供給側から、つまりポスドクや万年非常勤講師の側から変えていくのは難しいだろう(個人的な考えでは、どれだけ足元を見られようとも酷い条件の仕事はすべて断れと思うが)。オファーを引き受ける人間が「まともでない」わけでも「山師」なわけでもない。わかりやすい搾取の構造が出来上がっているのだ。
非常勤講師の待遇の悪さの責任は大学運営側にある。だが、財政難を理由に何も改善しようとしていないのがほとんどの大学の現状だろう。少子化や文科省の悪政が言い訳として持ち出されるのが通例だが、例えば、非常勤講師に比べれば圧倒的に高給取りである常勤教員の給与や退職金をカットして非常勤講師の給与/報酬に充てるといった対策が検討されることはまずない。多少の良識があれば、財政難は極端な待遇格差があることの正当な理由にはならないということがわかるはずだが、大半の常勤教員や理事はこの問題について見て見ぬふりをしている。
ついでに言えば、ある大学の専任教員が別の大学の非常勤講師をやるというケースはいまだに少なくない。ポスドクと違ってどういう動機で引き受けているのかわからないが、純粋に供給量を押し上げているという意味でこの買い叩き構造に実質的に寄与している。「労働力の不当廉売」としてまず非難すべきは、ポスドクや万年非常勤講師ではなくこちらだろう。