貌無し騎士は日本を守りたい!


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作:マクギリス・バエル
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9.【DMTー058FR『英雄人形』】


アンケでリクエストが多かった、人形のエピソードです。二日ぐらい人形の名前で悩んでたせいで更新遅れました。すんません。


「……ハッ!」

 

フランス、パリ。

隕石災害によって崩れた建物が瓦礫となり、以前の絢爛な町並みはその気配さえ残していない。

 

「どうなって、いるのですか……?」

 

その中心に、この『変なの』は横たわっていた。

旧式のフランス軍服に身を包み、顔は【・×・】という雑な作りでありそしてその体は木製の人形という、誰が見てもUMA判定間違い無しの不思議生物。

だが今は隕石により文明が崩れ人々は混乱を極めている。

彼の存在を騒ぎ立てる者はいなかった。

 

「……そうだっ!我が主は……!?」

 

人形は弾かれた様に立ち上がり、あたふたした後に辺りを見回す。

自分を作ってくれた少女と、その家族。そして他の同僚がいる筈の家はーー他の民家と同じく崩壊していた。

 

「ーーノォォォッ!?マイマスタァァァッッッ!!??」

 

何故か動いてくれる体を良い事に、瓦礫を砕きながら人形は必死に主の姿を探す。

元より病弱な少女だった。潰されれば、即死は免れないだろう。

その現実に気が付かないフリをして、ただがむしゃらに瓦礫の山を引っ掻き回した。

 

「ーーおいおい、ボナパルト。そんなに取り乱してどうしたんだよ?」

 

「ハッ、あなたは……」

 

そんな彼の肩に後ろから、ぽふり、と。柔らかな手が置かれた。

振り返ると、そこにあったのは可愛くデフォルメされた熊の顔。

人形……名称ボナパルトの『同僚』だった。

 

「てっ、テディ先輩!なんで動いて……っ!?」

 

「ああ……外から轟音が聞こえたと思ったら、体の自由が効くようになってたんだ。そう言うお前は……なんか、デカくなってんな。」

 

 

無駄にハードボイルドな声で、テディベアが自分の状況を説明する。

ボナパルトは一瞬だけ唖然としたが、すぐに主の危機を思いだした。

 

「そうだ……!早く主を救い出さなければ……っ!」

 

「ふっ……お前は俺が、”俺達”がマスターを守り損ねるような不手際をやらかすと思うか?『最終防衛プラン、押しくら饅頭』を発動したぜ……」

 

片目を瞑り、棒状の枝を煙草の様に咥えたテディベアが親指でグイっと後ろを指す。

ボナパルトがそれを目線で追うと、そこには無数のぬいぐるみによって構成された人間サイズの球体があった。

その隙間から、内部にいる少女の物であろう小さく白い手が助けを求めるように突き出されている。

 

「ぅ、え、毛玉が、凄っ……もごっ……く、苦しいよ……」

 

「主よぉぉぉッ!!」

 

「マスタァァァ!?」

 

ぬいぐるみゆえにその全身から発生する毛玉によって窒息しかけている少女を見て、体に鎧の如く纏わりついていた数多のぬいぐるみ達は離れていく。

 

「けほっ、けほっ……!」

 

「す、すまねぇ、マスター。皆、あんたを守るのに必死でアフターケアまで気が回らなかったんだ……」

 

『うんうん!』と他のぬいぐるみ達も凄まじい勢いでテディの言い訳に同調する。

みんな、敬愛する自分の主に嫌われたくなかった。

 

「ぅ、え、あー……?」

 

「ど、どうされましたか?我が主よ。」

 

うわ言の様に呻き声を漏らす少女に、ボナパルトが膝を着いて目線を会わせる。

その瞳はしっかりとボナパルトの【・×・】顔を写しており、更にはぬいぐるみ軍団の『最終防衛プラン・押しくら饅頭』が功を成したのか目立った怪我も無い。

なら、何だと言うのか。自分が普段から共に過ごしていた玩具達が動き出したのだから、驚きや恐怖はあれど困惑はしないだろう。

 

「ーーおにいさん、誰ですか……?」

 

「……へ?」

 

予想外の返答に、ボナパルトは呆けた声を出す。

胸の内から、言い表せない焦燥に似た感覚が込み上げてきた。

それに抗えず、体が勝手に動き出してしまう。

 

「ひっ……!」

 

「わっ、ワタシです!我が主よ!あなたに作られた、あなたの人形です!忘れたのですか!?この顔も、この名も、あなたがワタシに授けてーー!」

 

「やめろ!ボナパルト!」

 

大声で喚き散らしながら少女に詰め寄っていたボナパルトを、テディが制止する。

ハッと。ボナパルトは我に返った。

 

「マスター、泣いてんだろ……!」

 

「ーーえ?」

 

存在しない心臓が波打つのを感じて、ボナパルトは自身の足元にうずくまる少女を見下ろした。

人形とは言え、自身の倍近い体格を持つ存在に怒鳴られながら詰め寄られた恐怖からか、少女はその空色の眼からぼろぼろと涙を溢れさせている。

 

「ごめんなさい……ごめんなさい……!」

 

「っ……!」

 

ーー自分の過失で、主に不快に思いをさせてしまった。

その上、その主に謝罪させるとは何たる不敬か。

被造物(おもちゃ)、失格だ。

 

「……おうおう、同僚がごめんな。マス……”お嬢ちゃん”。」

 

立ち尽くすボナパルトを無視して、テディが少女の頭を撫でた。

その手の柔らかな感触のお陰か、少しずつ涙が引いていく。

 

「ある、じ……?」

 

「……まだ気付かねぇか?鈍いヤツだな……」

 

呆れ混じりの声色でテディが言う。

そして深呼吸をし、悲しげな顔でこう告げた。

 

「……恐らくだが、今のマスターには記憶が無い。」

 

ーーボナパルトは、その言葉を理解出来なかった。

 

『記憶』という概念は知っている。それがとても大切な物だという事も。

だが、それが消える?理解不能だ。人の持つ『脳』という器官は、そんな致命的な不具合を起こすのか、と。

 

「……こうなった理由に、一つだけ心当たりがある。」

 

他のぬいぐるみ達に少女の相手を任せたテディが悼ましい表情で、地に膝を着くボナパルトの前に座り込む。

 

「テレビで偶然見たんだがな。アメリカに、親友が死んだショックで記憶喪失になった男がいたんだ。……人間の記憶ってのは、一気に許容量を越えるストレスを浴びると、イカれちまうんだよ。」

 

それと主の記憶に、何の関係がーー?

そう言い掛けて、ボナパルトは()()()()()姿()()()()()()事に気が付いた。

 

「ま、さか……」

 

「……ああ。多分ビンゴだ。マスターは、目の前で瓦礫に潰される父と母を見てる。俺達は、守り切れなかったんだよ……!」

 

ーーボナパルトは絶句する。

あの暖かな家庭が、消え去ってしまった。

病弱ゆえに友人も居なかった少女の、唯一の肉親がこの世から居なくなってしまったのだ。

……束の間、彼はーー

 

「Comment impitoyable……!(なんと、無情な……!)」

 

ーーこの世界を、本気で憎んだ。

 

「……なぁ、ボナパルト。不敬なんだろうが……俺は今、マスターの記憶が消えてる事に正直ほっとしてる。」

 

「っ……!」

 

確かにそうだ。とボナパルトは思った。

この少女が、両親が死んだ事など知ればきっと壊れてしまっていた。

だが、今は記憶が無い。両親の死は今の少女にとってさしたる問題ではないだろう。

 

「だからよ。俺達がその穴を埋めなきゃならねぇんだ。両親と同じ、いやそれ以上に……一緒に笑ったり泣いたりしてやらなきゃ駄目なんだよ。今それを出来るのは、俺達しかいないんだ。」

 

「今の主の助けになれるのは、我々だけ……」

 

ボナパルトは、自分の胸に熱が宿るのを感じる。

それは主を絶対に守り抜くという決意であり、かつての動く事さえ不可能な自分では絶対に出来なかった『主のために何かできる』事への喜びでもあった。

 

「ああ。だから笑え。マスターの前でだけでも。下僕として、親として……友として。あの人の心を支えろ。」

 

そう言うとテディは、自分の頬をぐいっと押し上げて表情を笑顔にした。

 

「……ええ、笑いましょう!主を、少しでもーー」

 

「動くな!」

 

その時、ボナパルトの背後から見知らぬ声が聞こえる。

振り向くと、そこには武装した集団が黒い筒をこちらに向けている姿があった。

 

「え?」

 

「ばっ、化物め!その子に何をした!?」

 

どうやら、その集団はボナパルトの事を少女の事を襲おうとしている怪物だと思ったらしい。

困って隣にいるテディに助けを求めたが、動かずにただのぬいぐるみのフリをしていた。

なんとも要領の良い熊である。

 

「ち、違うのです!ワタシは……」

 

「撃て!」

 

「ノォォッ!?」

 

空気の弾ける音と共に打ち出された弾丸が、ボナパルトへ向かって進む。

なぜかゆっくりと見える弾丸に、ボナパルトは自らの死を悟った。

 

ーーが、それは杞憂に終わる。

 

「なんですと……!?」

 

自らの頭を撃ち抜く筈だった弾丸は、直前で塵になって消えた。

状況が分からずに混乱していると、向こうが第二射の装填をしている事に気が付く。

 

とりあえず反撃しなければ!と思いボナパルトが地面を蹴って武装集団へ走っていくが、後ろから聞こえた主の言葉によってそれは失敗した。

 

「”攻撃しないで”!」

 

「ムムッ……!?」

 

ーー体が、動かない。

まるで物理法則が敵に回ったかの如く。

全身が得体の知れない大きな力によって押さえつけられている。

 

「チャンスだ!撃ち方用意!」

 

「ちょっ、待っ……アッー!」

 

先程の倍近い量の弾丸が、身動きの取れないボナパルトを襲う。

ダメージは無かったが、精神的にキツイ。

 

「ノォォォ……」

 

……フランス人形、ボナパルト。

彼に明日はあるのか。

それは、誰にも分からない。

 

 

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【DMTー058FR『英雄人形(ボナパルト)』メタレベル:NoTice(脅威なし)】

 

【膂力、防御力共に貧弱だが、人類に友好的。特筆すべき点としては、とある少女の命令に”絶対服従”する事である。これは人形自身の意志に関係無く、物理的に不可能な筈の命令にさえ”絶対服従”する。反動は大きいが■■■■を行う事さえ可能であり、その少女が戦闘における的確な指示を『英雄人形』に下す事が出来ればかなり強力なドミネーターになると予想されているが、『英雄人形』がフランス政府に協力する条件として『主に普通の少女としての生活を送らせる事』が指定されているため、現時点では少女への戦術指導などは難しいと思われる。】

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