「どう、めい……?」
「おうよ、同盟だ。そのドミネーター、なぜか人間に友好的なんだろ?それに加え、あの苛烈なまでの戦闘能力。ぜひ俺達と協力して欲しい。」
俺へ目線を移しながら、大統領……もといアンドレアは言った。
山吹は怪訝そうな顔をしながらも、『私の権限では何も決められませんので……』と、返す。
それを聞き大統領は困惑した表情になった。
「あれおかしいな……日本のアニメーションだったらここで、『ああ!手を取り合おう!』とか『貴様なんざと仲間だと!?ふざけるな!』とか熱い返答が返ってくるはずなんだが……」
「大統領ッ!フィクションでその国の国民性を決めるのは少々アレかとッ!!!」
早くも復活を果たした人形が、大袈裟なポーズをしながらアンドレアへツッコンだ。
「まぁ、といっても日本政府にはもう話を付けてあるんだがな。とりあえずフランス大使館にでも送ってくれ。メシ食いてぇし。」
「大統領ッッ!!私もご一緒にッッッ!」
「車内でお前のテンションは流石にキツイからやめてくれ。」
「ノォォォッッ!!??」
またもや地面に崩れ落ちる人形を無視し、アンドレアは適当な輸送車の中へ入っていった。
間もなく車が出発し、海辺には俺と人形と自衛隊だけが取り残される。
「……アノ、ノンシェイプナイトさん?」
「……ぐおっ?(なんだ。)」
「ワタシは、これからどうすれば良いのでしょうか……?」
捨てられた子犬みたいな目で人形が見つめてくる。
俺はその肩へと手を乗せ、力強くサムズアップした。
「ぐおっ。(とりあえず、駐屯地に行こうか。)」
「ハ、ハイッ!」
人形が、ビシッと敬礼する。
俺達は、二人で輸送車の中に乗り込んだ。
■□■
「その時降り注ぐ隕石ッ!自由に動く様になったマイボディッッ!少女の作りし矮小な人形はッッ!この世に生を受けたのですッッッ!」
話を聞く限りこいつは元々普通の人形だったのだが、なぜかドミネーター化してしまったらしい。
だが、自分の持ち主兼制作者である少女から大切にしてもらった記憶が残っているため、他のドミネーターと違って人類に好意的なのだ、と。
この内容だけの話を車中三時間かけて話したものだから、駐屯地に着く頃に俺達は人形を除いて皆疲れきっていた。
「……着いたぞ……アセビ……こいつらを……収用施設に……連れていけ……」
「どうしましょう……耳が物凄くキンキンします……」
俺はもう人間じゃないから平気だが、至近距離で人形の大声を聞き続けた自衛官たちは皆体調を悪くしていた。主に聴覚。
ふらふらしながら車から降りていく皆に、俺は同情した。
「トウッ!おや!ここが日本の基地ですかッ!ヘボいですねッ!」
車から降りるなり、駐屯地を初めて動物園に来た子供の如く走り回る人形。
他の自衛官に、それを止める気力はもう残っていない様だった。
「特にこの車ッ!形状がぜんっぜんセクシーじゃなァァァばばば!?」
「ぐおっ。(静かにしろ。)」
何か事故が起きてからじゃ遅いから、俺は人形に雷撃を浴びせて大人しくさせた。
そしてビクビク痙攣するそれを引きずって、収容所の方へと歩いていく。
■
「うわぁぁぁん!負けたもぉぉぉん!!!」
「ぐお……(うるせぇ……)」
「あはは……(うるさいです……)」
収容所、俺とアセビと人形は、某オールスターゲーム。スマプラをやっていた。初めはアセビが一人でプレイしていたのだが、人形が皆でやりたいと騒いだため、三人で対戦している。
ところがこの人形、とにかく弱い。どのぐらいかと言うと、レベル一のコンピューターと死闘を演じるぐらいに弱い。
そして負ける度に絶叫するものだから、流石の俺でも聴覚が限界に達していた。
「……何やってんだ、お前ら。」
「大河さんっ!来てくれましたか!」
「ぐおぉぉん!(山吹ィ!)」
その時、ドアから分厚い書類の束を持った山吹があきれた顔をしながら出てきた。
助かった!このままじゃ俺はともかくアセビは聴覚を失う所だったぞ!
「はぁ……フランスの大統領から、ドミネーターの生態に関する色々な情報が入ってきた。どうやら、そこの人形で色んな実験をしたらしい。」
「そうなんですか!?」
「そうなのッ!?」
「ぐおお!(なんでお前が知らねぇんだよ!)」
「……どうやら、随分と仲良くなったみたいだな。」
頭を掻きむしりながら、山吹が言った。
その手に持った書類を気怠そうな手つきで目の前に持ってくる。
「まず大前提として、ドミネーターには地球に現存するあらゆる物質による攻撃が、全く通用しない。被弾する前に、塵になって消えるらしい。」
「ああ、そう言えばヘリコプターの中で護衛の人に色んな素材のナイフで百回ぐらい刺されかけました。アレ実験だったのですね……」
人形は項垂れ、複雑そうな顔になった。
小声で『マジさげぽよ……』と呟いている。
時代錯誤にも程があるだろ。
「あともう一つは……死んだドミネーターの心臓部から、とあるモノが発見されたんだ。」
そう言いつつ、山吹はどこからか二つの赤いビー玉らしき物を取り出した。
それをコトンと地面へ置き、俺へ向かって口を開く。
「食え。」
「……ぐぉ?(え?)」
「食え。」
「ぐ、ぐぉぉ……?(えぇ……?)」
「食うんだっ!ドミネーター!」
「ぐおぉぉぉっ!?(えぇぇ!?)」
ズイズイ迫ってくる山吹を押し退けながら、俺は部屋の隅へと退避した。
な、なんで!?流石にビー玉は食いたくない!新手のイジメかよ!?
「おや、それは
人形はビー玉を摘まみ、そう言った。
ヴィニ……なに?
「ぐお?(なんだそれ?)」
「ご存知ないのですか?ならばワタシが説明しましょうッ!”ヴィニトル・コア”とはッッッ!」
俺から顔文字用のスケッチブックとマジックペンを奪い取りながら、人形は高らかにそう宣言する。
紙にペンを走らせ、そこに大きくイケメンな人形を書いた。
心臓部は赤く塗られており、『これがヴィニトル・コアですッ!』と叫ぶ
「ドミネーターの心臓部であり動力源と推測されるこの機関は、特定条件下において核融合の数百倍以上の熱エネルギーを発揮しますッ!そしてなんと!これを他のドミネーターが取り込むとッ!そのドミネーターは飛躍的に強化されるのですッッッ!」
「ぐぉぉぉ……?(お前、食った事あるのか……?)」
「ありますともッッ!ワタシ、こう見えて既に三体の敵対性ドミネーターを倒しているやり手の人形なんですよッ!」
「ぐお……?(あの強さで……?)」
「ムムッ!?疑っていますねッ!?言っておくとワタシ、とある条件下ではクソ強くなりますからねッッッ!!!」
必死な声色で自らの強さをアピールする人形を尻目に、俺はその二つの赤いビー玉を手に取った。
固く冷たいが、どこか温もりを感じる。
火の無い灰の様な感覚だった。
「ぐ、おっ(むぐっ……)」
それを口に入れ、飲み込む。
妙に肉感的で、不快だった。
ーー刹那、俺の中へ何か異物が流れ込んでくる。
「ぐおっ……!?」
一つは、人々を救おうと自らのすべてを捧げた『赤衣を纏った聖者』の物語。
一つは、ちっぽけな爬虫類が病床の主人のため『何か』を探す物語。
時代も種族も、主人公も違う、二つの物語が、俺の頭に入ってきた。
……これは『天使の聖骸布』と、さっきの黒龍の記憶か?
あいつらは言葉を話さなかったが、発音できないだけで俺みたいに思考能力はあったのかもしれない。
殺した今はとなっては確かめようが無いが。
「……どうした?ドミネーター?あの大統領、まさか嘘の情報を……」
「……ぐお。(……大丈夫だ。)」
俺は手の平を握り絞めながら、そう言った。
……力が、溢れる。
自分の中に、破壊衝動のような何かが芽生えたのが分かった。
「ぐぉぉ……(駄目だ駄目だ……)」
体から力を抜き、深呼吸をする。
そうすると心に燻った危険な熱はだんだんと冷めていき、後には増幅した力だけが残った。
……よし、大丈夫だ。
まだ、”ヒト”でいられる。
体感的に以前の倍ぐらい強くなった気がするが、この……”ヴィニトル・コア”を食いまくるのはかなり危ないだろう。
ほんの一瞬、理性が飛びそうになった。
改めて、自分の体が人に仇なす化物なのだと実感する。
「……ぐおっ、ぐお?(人形、お前がこれを取り込んだ時、どんな感じがした?)」
「え?美味しかったですよ?」
……いや、なんだコイツ。