ーー太陽が堕ちてきた、とでも形容すべきだろうか。
天を焼き尽くし、ビル群を呑み込み、終いには大地さえ熔解させる。
さながら『星が星を喰っている』様な光景を、彼はただ見ている事しか出来なかった。
「……また、か。」
ーー熱い、痛い。
巨大な瓦礫がハウスダストみたくパラパラと舞い、人々の命を刈り取っていく。
彼もその例に漏れず、熱さを感じた次の瞬間、目の前に灰色のアスファルトが広がった。
ばちゃり、と。
命の弾ける音が近くで聞こえる。
彼の意識は、闇に包まれた。
■□■
述べ三億人が犠牲となった同時多発隕石災害。
その日を境、世界各国に『ドミネーター』と呼ばれる怪物達が降り立った。
奴らは互いに殺しあい、その遺骸を喰らう。
そしてその“ドミネーター“は強化されるのだ
そして最後まで生き残った制圧者及び制圧地帯が、この星の覇権を握る、と。
アメリカのワシントンDCには、“空を覆う赤色の大樹“が。
中国の北京には、“液体状の炎“が。
イギリスのロンドンには、“災禍の星“が。
韓国のソウルには、“抉る幽霊“が
ロシアのモスクワには“荒ぶる剣神“が
……そして、日本にはーー
(どうしてこうなった……!?)
ーー何かの間違いで『ドミネーター』の仲間入りをしてしまったこの俺。“無貌の騎士“が、君臨している。
■回想~
「ッ、ァ……?」
目を開くと、何故か若干狭くなった視界に光が流れ込んでくる。
上体を起こし辺りを見回すと、正に『阿鼻叫喚』という感じで、人々の悲鳴と慟哭が、崩れた文明の中で響き渡っていた。
そうだ……確か隕石が降ってきて。それで吹き飛んできた瓦礫にぶつかって……あれ。
(そういや、なんで生きてんだろ俺……)
明らかにヤバそうな音したけど、助かったのか?手当てされたとか?
だが、ここは病院ではないし、ましてや事故現場だ。
助けてくれたっぽい人も居ないし、謎が深まる。
「た、す、けて……っ!」
俺が頭を抱えていると、どこからか助けを求める声が聞こえた。
かなり切羽詰まっている声色だ。
……助けに行った方が、良いよな。
試しに手をグーパーしてみると、力はちゃんと入る。むしろ入りすぎるぐらい。
足に力を込めると、ちゃんと立ち上がれた。
目線がかなり高い気がするが、多分混乱してるだけだろう。
悲鳴の主は、意外とすぐに見つかった。
女の子が、倒壊したコンクリートの下敷きになっていたのだ。
顔から血の気が引くのを感じる。早く助けなければ。
俺はそこに駆け寄り、瓦礫に手を掛ける。
そしてーー
「ぐぉぉぉ!」
ーー彼女を安心させるために『大丈夫ですか!?』と言おうとしたら、獣みたいな呻き声が出た。
「きやぁぁぁっ!?」
瓦礫の下にいる女の子が、俺を見て悲鳴をあげる。
まるで、ジャミラに苦戦していたらハイパーゼットンが来た。みたいな顔をしている。
とにかく、絶望がより深くなったのは間違いない。
な、なんでだ!?俺ってそんなにグロメンなの!?
マジで傷付くんですけど!死にかけてるんだから、普通どんな奴が来ても喜ぶよね!?
「な、何ですか貴方!コスプレイヤーか何かですか!?」
「ぐおっ!(違うよ!)」
「日本語しゃべって下さいよぉぉぉ!」
現在進行形で瓦礫に潰されてるのに元気だなこの子。
と言うか、なんで喋れないんだ俺。
どれだけ頑張っても『ぐお!』とかしか出ない。
国語の成績は低かったが、言語能力はマトモだった筈だ。少なくともさっきまでは。
「た、助けてくれるんですか?」
瓦礫に手を掛けた俺を見てか、恐る恐る、という感じで少女は言った。
ああそうだ。早く助けなきゃ。
……と言っても、これ撤去できるのか……?
一人の人間の動かせるサイズじゃないだろ……
そう思いながらも、瓦礫を握る指に力を籠める。
「ぐおっ!?」
ーーすると、パキ、と音を立てて、握っていた場所が俺の指の形に抉れた。
まるで、千切られたみたいに。
な、なんだ?ここだけ脆くなってたのか?
「あの、無理なんですよね!?できれば私のお墓は海の見える丘の上に……うわぁぁぁん!やっぱり死にたくないよぉぉぉ!」
死に対する恐怖で頭がおかしくなったのか、少女が叫び出す。
こ、こうなったらヤケクソだ!全力で押してみて駄目だったら大人しく他の人を連れてこよう!
そう決意し、俺は助走を付けて瓦礫に突進した。
「ひゃぁぁぁっ!?」
ーー瞬間、耳元で何かの砕け散る音が聞こえた。
何事かと思い後ろを見ると、そこには驚く先程の少女と、バラバラになった瓦礫の残骸が散乱している。
「……ぐぉ?(……へ?)」
俺のタックルで、コンクリートブロックが砕けた?
……いやいやいや!?どうなってんだよ!?
思わず頭を抱えていると、後ろから男の声が聞こえる。
「ちょっと君。そんな格好で何してるの?」
「ぐおお……?」
ーー振り向くと、自衛隊らしき迷彩柄の男が訝し気な目で俺を見ていた。
……あっ、そっか……そりゃ災害なんだから、救助とかに来るよね。
自衛隊ってほんとに有能だな。こんな早くに来てくれるなんて。
俺も助けてもらおう!
「ぐぉ、ぐおぉ、ぐおっ!(なんか、目が覚めたら喋れなくて困ってたんですよ!いやー!良かった!自衛隊さんが来てくれたなら安心ですよ!ほんと!)」
「とりあえず。手錠させてもらうよ。」
カチャッ
「ぐぉっ!?(ヘアッ!?)」
「お兄さん多分、クスリとかやってるよね?それにそんな……騎士みたいな格好、どう見てもヤバイ人だよ」
き、し……?あの、『騎士』か?
誰が、俺が?
「あ、あのっ!待ってください!その人は私を助けてくれたんです!変な格好ですけど、多分、きっと、恐らく、悪い人じゃないです!」
人生初めての手錠に俺が唖然としていると、先程の少女が自衛隊へ向かってそう叫んだ。
いや、『多分きっと恐らく』の三段活用って……そんなに自信無いの……?
「じゃあ、輸送車に行こうか。」
「ぐぉ……(ハイ……)」
自衛隊の人に引っ張られ、俺は近くに停めてある車の方に歩いていく。
……はあ。どうなるんだろ俺……状況が全く分かんないし。
そもそも俺が騎士ってどう言う事だ?
輸送車のドアが開き、俺は車内に無理やり入れられた。
「あれ、先輩どうしたんですか……ってなんですかその人!?」
「ああ。なんか、不審者っぽい。手錠はしてあるから、お前が見張っといてくれ。」
「ちょっ、せんぱっ……ああもう!いっつもあの人面倒ごとばっかり押し付けるんだから……」
俺を手錠ごと座席にくくりつけた自衛官は、そそくさとどこかへ行ってしまった。
車内に残されたのは、俺ともう一人の自衛官のみ。
場を、静寂が支配した。
「……あのー。なんかしちゃったんですか?それにその服装?カッコいいですね。」
気まずさに耐えかねたのか、自衛官が振り向いて俺に話題を振ってきた。
黒髪青目の女性で、外国人とのハーフなのかもしれない。結構可愛い。
……いや、それは良いとして。仮にも自衛官が不審者と世間話しようとすんなよ。
そもそも俺、なぜか今喋れないし。
……紙とかあれば、意思疏通はできるのかな……
「ぐお、ぐおぉ。(紙と、ペンって無いですか?)」
俺は身ぶり手振りで、『紙』と『ペン』をジェスチャーしてみる。
「えっ……食パンと、ウィンナーですか?そう言えば今日お昼ご飯食べてないな……」
違う違う!なんで食い物と結び付けんだよ!
「ぐおぉぉ……」
「あ、すいません電話来たので後にして貰っても良いですか?」
女自衛官は、携帯を耳に当て、その向こう側にいる誰かと会話を始めてしまった。
あぁ……ほんとにどうしよう……
「……え?ドイツが消滅?怪物によって?あははは!え、ちょっと、冗談きついですよー!あははは…………え、マジですか?……なんですかドミネーターって。」
なんか前の方から凄い会話が聞こえてきている気がするが、今はそんな場合じゃない。
これから自分がどうなるかを考えなければ。
「現場に変な怪物みたいなの居なかったかって?え、私の後ろに、騎士っぽい鎧着た変な人居ますけど……捕まえちゃいましたよ。……へ?それが、日本のドミネーターだって?うぇ、ちよっ、切らないでっ!」
ブツリ、と音を鳴らした携帯を座席に置き、女自衛官が、ギギギと効果音が付きそうなぐらいの速度でこちらに振り向いた。
物凄い形相で、冷や汗をダラダラかいている。
「ぐぉ?」
「あ、ぁ、あの。ぅあ、っ、えぇ、と、てててて、てじょー、はずしししししっ!」
「ぐぉぉ!?」
テンパり過ぎて、女自衛官は舌が回らなくなってしまった。
小刻みに振動しながら、『ててててて』と言っている
ど、どうしたんだ!?怖いぞ!?
「ぐおっ!(深呼吸、深呼吸!)」
「ぇ、あっ、あ、ありがとう、ございます?」
肩に手を乗せてあげると、少し落ち着いたのか振動は止まった。
よ、良かった。人間が高速でバイブレーションする光景は、中々ショッキングなものがあったからな。
「あ、あの。私の事、殺すんですか?」
「ぐお!?(は!?)」
ナンデ!?ジエイカンナンデ!?
殺すってなに!?俺、虫さえ潰さずに窓から逃がす派の人だよ!?
つか誰を殺すの!?この人を!?なんで!?
「ぐおおん!(殺さないからね!?)」
「あっ……殺さないんですね。なんとなく何言ってるか分かるようになってきました……」
ほっとしたのか、『はぁぁぁ……!』と溜め息をついて女自衛官はへにゃへにゃと座席からずり落ちた。
俺が大丈夫かと聞こうとすると、窓が外からドンドンと叩かれる。
窓ガラスの向こうには、若い男がいた。
「無事か!?結城二士!」
何事かと思いながらも、俺は窓を開ける。
「ぐぉぉ!?(なんですか!?)」
「うわぁぁぁ!化物ぉぉぉ!」
「ぐぉっ!?(なんでさ!?)」
俺の顔を見た自衛隊員は、泡を吹いて倒れてしまう。
車の周りはかなりの数の自衛隊員が包囲しており、臨戦態勢、という感じだった。
「ぐぉぉ……(俺が何をしたって言うんだよ……)」
ーー誰か助けてくれ。いやマジで。