「子どもたちの心と体がおかしい!」これは、教育現場では、20年以上も前から言われている。
それでも、いまだに言われ続けているのは、子どもたちのその時代その時代の「なんだかおかしい」が十分に対応されないまま、さらなる変化が社会の中で起き続けているからである。
もう少し言うならば、「子どもたちの心身課題が変化してきた」と言われていた時代の子どもが、すでに親となり次の世代を生み育てていることが、この問題に拍車をかけている。
筆者は元養護教諭(保健室の先生)であり、25年にわたって、小中学校で勤務していた。その25年の間にも、子どもたちの心身の健康問題が、多様化してきた。それまでにはなかった子どもたちの様々な訴えに、多くの養護教諭が「子どもたちの心と体がなんだかおかしい!」と感じ始めていた。
転ぶ時、手が前に出ないため、前頭部を打撲し、前歯を折る子。
平熱が35度台の子。アレルギーを持つ子。
全校朝会で倒れる子。背中がぐにゃぐにゃして、まっすぐに立てない子。
肩がこると言って大人にマッサージしてほしいという子。
人とのかかわりがうまくいかず、教室へ行かなくなる子。
ネットトラブルの増加。すぐにキレる子。
ネット依存で、昼夜逆転する子。
自律神経失調症と診断される子。
発達に偏りがあり、集団になじめない子……、こんな子どもたちが増えた。
筆者が教職を退職したのは平成20年3月であるが、この12年の間には、子どもたちの心身の健康の課題はさらに深刻化している。先ほど記載したものの他にも、虐待、ネグレクト、子どもの貧困など。
家庭の中で満たされない子というのは、どの時代にもいるのだが、その質が変わってきている、と、全国で出会う養護教諭の先生が口をそろえて言うのである。
子どもたちが保健室で訴えることに耳を傾けると、そこには、大人の都合、大人自身の満たされない心理などが見え隠れする。もちろん、社会経済を優先させた結果が子どもたちの心身に影響しているという社会的原因(ゲーム依存、子どもたちがスマホを持つことによるネットトラブル)も大きな要因として考えられる。
さまざまな問題を抱えた子どもに対応するという意味で、今の保健室は「児童相談所」に通じるものがある。まさに、保健室は、社会の縮図が見える場所だと、感じている。