アップルのワイヤレスイヤフォン「AirPods Pro」は、ジョブズ時代を思わせる驚きに満ちている:製品レヴュー

発売されて以来、かなりの人気が続いているアップルのワイヤレスイヤフォン「AirPods Pro」。その実力は人気に違わず、質から使い勝手、フィット感、そしてノイズキャンセリングの性能まで素晴らしいものだった──。スティーブ・ジョブズの“あのセリフ”が思い浮かぶ、『WIRED』US版のレヴュー。

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アップルの新しいワイヤレスイヤフォン「AirPods Pro」は、よくできている。あまりにもよすぎて、ねじれた小さなゴルフティーが耳からぶら下がっているような奇妙な見た目や、ほかのワイヤレスイヤフォンと同じくおそらく数年もすればバッテリーがだめになってしまうことを忘れてしまうくらいだ。つけている姿がいかにも金持ちみたいだという理由でネット上でミームにされても、構わないとさえ思ってしまう。

ここでは不満を並べ立てるのではなく、このAirPods ProがこれまでのAirPodsの2つのモデルと比べて、いかに優れているかを語っていくつもりだ。新しいシリコーン製のイヤーチップは本当に快適で、アクティヴノイズキャンセリングを使えばお菓子売り場の幼児の叫び声もほとんど聞こえなくなるのは最高である。ランニングには耐水性能は欠かせないし、Siriはあらゆる要求にしっかり応えてくれる。

アップルがiPhoneから“勇敢”にもヘッドフォンジャックを廃止して以来、これがアップルのイヤフォンのあるべき姿だった。

使い勝手もフィット感も向上

まず、フィット感は申し分ない。イヤーチップは従来のモデルよりも大きく人間工学に基づいたデザインになっていて、シリコーンのおかげで耳の密閉性は素晴らしい。アップルは以前までのモデルと同じく自然な着用感を維持しつつ、イヤフォンに通気孔を設けることによって耳の内外の圧力を解消することに成功している。これによりイヤフォン着用時の圧迫感がなく、軽いのでほとんど耳に何も着けていないような感覚だ。

軸部分は短くなってより湾曲が増し、マイク部分がやや口元に近くなった。これにより少し通話品質が向上し、全体として耳から突き出している部分も少なくなった。これは安定性向上にもつながっている。従来のAirPodsは耳につけていて不安になることが多々あった。通勤電車で誰かに肩をぶつけられただけでイヤフォンがどこかに飛んでいってしまうのではと、いつも不安になるくらいだ。AirPods Proでは、そういった心配はない。

AirPods Pro

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操作性もよくなっている。これまでのタッチ操作では、イヤフォンの位置を調整しようとして誤って操作してしまうことがあったが、このモデルは軸部分に感圧式のセンサーが搭載された。軸部分をつまむようにして押し込み、その押し込む時間の長短によって楽の再生や一時停止、曲の変更、周囲の音を聞くことができる外部音取り込みモードの切り替えなどが行える。イヤフォンを片耳だけ外せば自動で一時停止し、旧来のBluetoothヘッドセットのように片耳だけで使うこともできる。

充電ケースはこれまでのAirPodsに比べてやや大きくなったが、これはイヤフォンの形状によるものだろう。それでも小型でポケットサイズであることには変わりなく、小さすぎて普段は役に立たないジーンズのポケットにも入れられるほどだ。アップルによると、充電ケースのバッテリー容量は本体1回分の充電に加えて19.5時間ぶんとなっており、実際に使ってみてもほぼそれと同じくらいの稼働時間だと感じた。

満足ゆく音質と完璧なノイズキャンセリング

従来のAirPodsは、やや物理の法則に抗いすぎているきらいがあった。イヤーチップがしっかりしたものでなかったので、音量を思い切り上げない限りいい低音を得るのは難しかったのだ。そのせいで、これまでのAirPodsの音はこもりがちで、低音域は強調され高音域は弱いので、耳障りがよくないうえバランスも悪かった。

これはイヤーチップの影響が大きいのだが、AirPods Proの音質ははるかに満足できるものになっている。

ビートルズの「Oh Darling」では強くパンするギターの音が見事な解像度でかき鳴らされつつも、左側で鳴っているポール・マッカートニーの陽気なベースラインやピアノのきらめくような和音をかき消してしまうことがない。リンゴのドラムもパンチが効いていてキレがあり、両サイドの音にかぶることなくステレオの中心で反響している。この曲はそのよさを最大限に引き出すのが難しく、これまでのAirPodsでは中音域がごちゃごちゃでこもってしまっていた。

ノイズリダクション機能も完璧だ。個人的に移動時のお気に入りであるソニーのワイヤレスイヤフォン「WF-1000XM3」と間違いなく同等で、現状ではワイヤレスのアクティヴノイズキャンセリングイヤフォンとして唯一のライヴァルと言える。AirPods Proも同じように不気味なほどの静寂を与えてくれるのだ。

関連記事ソニーのワイヤレスイヤフォン「WF-1000XM3」は、ノイズキャンセリング性能が恐るべき水準にある:製品レヴュー

これはオフィスや通勤中、スーパーなどで使うにはうってつけだ。一方で長時間のフライトに関しては、個人的にはまだオーヴァーイヤー型のもっと大きなノイズキャンセリングヘッドフォンを使っていくのではないかと思う。

外部音取り込みモードも搭載されている。軸部分を長押ししてオンにすれば周囲の音が聞きやすくなるので、道路を渡ったり周囲に気を配ったりしなければならないときには特に有効だ。

数少ない弱点はバッテリー

AirPods Proにもやはり欠点はある。ノイズキャンセリング起動時の充電1回あたりの駆動時間はわずか4.5時間で、ノイズキャンセリングを使わなくても駆動時間は30分しか延びない。これは従来のモデルと比較してもさらに短い。

それだけバッテリーがもてば十分だという人や、そもそも4.5時間以上も音楽を聴くことはないから気にしないという人もいるかもしれない。しかし、長寿命バッテリーの真価は数年後に発揮される。バッテリーが優れていればいるほど、製品の寿命は長くなるのだ。

AirPods Pro

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スマートフォンと同じように、完全ワイヤレスイヤフォンに内蔵されているリチウムイオン電池は時間とともに劣化し、充電時の保持力がゆっくりと減っていく。これまでのAirPodsから考えると、AirPods Proは数年くらい定期的に使い続けた場合、1回の充電につき2時間ほどしか駆動しなくなってしまうだろう。その変化ははっきり分かるはずだ。

また、Androidユーザーにもお薦めできない。AndroidではSiriの素晴らしい音声アシスタント機能は使えないし、バッテリーの残量も表示してくれない。これは大きな違いだが、アップルにとってはおそらくどうでもいいことだろう。これまでのAirPodsと同じく、AirPods ProもほぼiPhoneやiPadオーナー専用と言える。

iPhoneユーザーなら「買い」

AirPods Proは、何かひとつの用途に限った場合は最高のイヤフォンとは言えない。しかし、あなたがiPhoneをもっているなら、サウンド界のスイスアーミーナイフのように活躍してくれるだろう。これはおそらく、アップルのハードウェア帝国のなかでは「Apple Watch」以来で最高の新製品かもしれない。

250ドル(日本では税別27,800円)という価格はほかのモデルに比べてやや高額だが、だからといってアップルに文句を言うものでもない。ソニーのWF-1000XM3もほぼ似たような性能で、あちらのほうが少しバッテリーのもちがよく、価格が20ドル安いといった程度だ。iPhoneをもっているなら、従来のAirPodsに100ドルを上乗せしてこちらを買う価値は間違いなくあるだろう。AirPods Proはそれくらい優れているのだ。

使っていてこれほど満足できるアップル製品に出合ったのは、10年以上ぶりかもしれない。多くの点でAirPods Proは、いまよりよかった過ぎ去りし日々のアップルを思い出させてくれる。タートルネックを着たスティーブ・ジョブズが真っ黒なステージに立ち、夢中になっているオーディエンスに向かって「One more thing(最後にもうひとつ)」と言ってAirPods Proを差し出す姿が思い浮かぶ。奇妙なことに現在のアップルは、このAirPods Proをプレスリリースだけで発表したのだ。

AirPods Proは完璧ではない。それでもアップルは、間違いなく誇りをもっていいだろう。

※『WIRED』によるアップルの関連記事はこちら

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ポルシェのEV「タイカン」は価格にふさわしい性能だが、「ポルシェらしさ」は薄い:試乗レヴュー

ポルシェ初の完全なる市販EVとして登場した「タイカン」は、その高価格にふさわしい最良ともいえるEVである。その一方で、クルマとのコミュニケーションを通じて自らクルマを操っているのだと実感できる、そんな「ポルシェらしさ」は感じられなかった──。『WIRED』US版による試乗レヴュー。

TEXT BY ERIC ADAMS
TRANSLATION BY GALILEO

WIRED(US)

Porsche's Taycan

ポルシェ発の完全な電気自動車EV)となる「Taycan(タイカン)」。その最高速度となる時速162マイル(同約259km)を上回るクルマは多いが、タイカンほどあっさりと最高速に到達するクルマは少ない。PHOTOGRAPH BY PORSCHE

ポルシェの完全な電気自動車(EV)「Taycan(タイカン)」をドイツのアウトバーンで走らせると、あまりにあっけなく最高速度に達する。

ハンブルクから少し北で追い越し車線が空いたところを見計らって、ペダルをぐっと踏み込む。タイカンの最上位モデルである「ターボS」は一気に加速し、それに合わせてスピードメーターの針も上がっていった。

試乗した「ターボS」は真っ白なボディで、同じく白の21インチホイールを履いている。そのボディは「ポルシェ911」を前後に引き伸ばしたような印象だ。

タイカンの加速は、まるで電磁兵器を思わせるような推進力である。その一気に解き放たれたエネルギーによって、同乗者どころかドライヴァーまでが不意をつかれてしまう。なにしろターボSは、たったの2.6秒で時速60マイル(同約96km)に達するのだ。

驚くほど滑らかな走り

しかし、その加速力と同じくらい衝撃的なのは、路面が滑らかな高速道路では、サスペンションがほとんど影響されないことだろう。時速120マイル(同約192km)になると、空気の流れによって車体が押し下げられる様子が感じられる。それでも風切り音はまったく聞こえてこない。空気抵抗係数のCd値が0.22で、ポルシェの歴史上で最も優れているおかげだ。この値はテスラの「モデル3」をも上回る。

通常のクルマなら時速140マイル(同約224km)にもなれば、まるで終末を思わせるような風切り音とロードノイズが聞こえてくるはずだ。ところがタイカンの場合、室内は現実とは思えないほど静かで落ち着いている。

そして時速160マイル(同約256km)では、前方に見えていたクルマが一瞬で後方に飛び去ったように見えるほどだが、最高出力750馬力、最大トルク774lb-ftという途方もないパワーのターボSは余裕たっぷりだ(このスペックは標準モデル「ターボ」の616馬力から、さらに引き上げられている)。

リミッターがかかる最高速の時速162マイル(同約259km)に達したところで、ふと考えた。タイカンだけでなく、ポルシェや他のメーカーからも続くであろう高性能EVという方向性が、これから進むべき道であることは間違いない。実際にロータスやピニンファリーナ、リマック・アウトモビリ、テスラといったメーカーから、さらに速くて滑らかに走るハイパーカーのプロトタイプが登場している。

クルマと人間のコミュニケーションに変化

実際に乗ってみて、たったひとつ現時点で望んでいることがある。それは、まるで浮遊する幽霊のごとく走るこのクルマを、多少なりとも「走る挑戦」を感じられるものにしたいということだった。それには最高速があと時速35マイル(同約56km)でも速くなればいいのだろうか? いや、いずれは誰もが、こうしたつかみどころのないイージーさと、見事なまでの優雅さを好むようになるのだろう。

そして、タイカンはスポーツセダンであり、本格的なスポーツカーではないことも指摘しておきたい。ポルシェの未来は、やはりスポーツカーにある。それはおそらく、もっとアグレッシヴで、感覚に訴えるものになるはずだ。

しかしタイカンにおいて、やはり大きなジレンマが残る。わたしが求めていたような昔からの「ポルシェらしさ」が感じられないのだ。当然のことながら内燃機関は搭載されていないのだから、サウンドはどうしても異なる。実際のところ、2基の永久磁石同期式モーターが発するヒューンという音を増幅したサウンドも、決して悪いものではない。

これまでポルシェのクルマには常に危険と背中合わせという感覚があって、クルマが「きちんと機能している」ような印象だった。クルマとドライヴァーは、ペダルやシート、ステアリングに伝わる振動を通じてコミュニケーションをとり、それが音やクルマの挙動と同じように大切なフィーリングを生み出してきた。

それがタイカンの場合は、クルマと人間との間に距離があるように思えた。ただ乗せられているような感じだ。このクルマの運転には何の努力も要しない。曲がりくねった道でも舞うように簡単に走るが、タイヤのグリップと性能の限界に近づかない限り、本当にエキサイティングというわけではない。そして、いざ限界に達するとコンピューターが介入して、楽しみに“天井”をつくってしまう。

ポルシェならではの優れたエンジニアリング

「世界で最も先進的なクルマ」のドライヴに伴うトレードオフは、そういったところだ。確かにテスラには半自動運転機能「オートパイロット」があるが、この技術は未成熟であるという意見もある。それに、テスラのクルマのクオリティは、長い歴史と実績をもつ自動車メーカーのクルマを下回っているのが実情だ。

それに、いまや最高速度がタイカンを上回るクルマは数え切れないほどある。なにしろブガッティ「シロン」の最高速度は公称値で時速305マイル(同約488km)なのだ。それでもタイカンのように、あっさりと最高速に到達するクルマは稀である。それはポルシェの総合的な設計とエンジニアリングのプロセスが優れている証しとも言える。

実際にポルシェのテクノロジーは、他社と比べて群を抜いている。タイカンについても、テストコースのコーナーとストレートで完璧なパフォーマンスを発揮するように、あらゆる部分が磨かれてきた。そのパワートレインは芸術の域に達している。

ポルシェはタイカンに2基のパワフルなモーターを搭載した。そのリアモーターには業界初となる2速トランスミッションが組み合わされており、鋭い加速と最高速度の引き上げに貢献している。容量93.4kWhのバッテリーは、シャシーのフロアに組み込まれている。

800ボルトの電源システムは、高速運転の繰り返しによってほかのEVが音を上げ始めるような場面でも、安定したパフォーマンスを維持してくれる。

高速な充電

この高い電圧のおかげで充電も高速だ。タイカンは最大270kWまでの急速充電に対応している。今回の試乗でも、欧州各地に展開されている「イオニティ(IONITY)」の充電ステーションを使えば、20分未満で80パーセントまで充電できた。

アウトバーンでの高速走行のあと、バッテリー残量がわずか1パーセントになったところで充電ステーションに入ったのだが、実はアグレッシヴに走らせたほうが充電には有利になる。温度が上がると充電も速くなるのだ。

ただし、大きなバッテリーを積んでいることで車両重量は重く、約2,310kgもある。その重さは、強力なモーターとしっかりしたサスペンションによってカヴァーされているが、タイカンはコーナー手前でブレーキをかけるのが遅れると、明確なアンダーステアに陥る傾向がある。

その重量感を感じたのは、デンマークのどこかの田舎道でのことだった。ちょっとした起伏の頂上を“不適切”な速さで通過してクルマが着地したときのことである。このような場面で大打撃を逃れることができたのは、ブレーキのおかげだったかもしれない。

EVらしくないブレーキシステム

ブレーキは、ポルシェが既存のEVとは一線を画している点のひとつだ。ほとんどのメーカーは、ドライヴァーがアクセルを戻すたびにモーターの回転抵抗によってクルマを減速させ、同時にバッテリーに充電する回生ブレーキを採用している。これによって、いわゆるワンペダルドライヴが可能になる。

これに対してタイカンでは、アクセルを戻すとコースティング(惰性走行)状態になり、従来のブレーキを意識的に作動させたときにのみ回生ブレーキが働く。クルマにパフォーマンスを求めるドライヴァーが期待するフィーリングを提供するには、そのほうがいいという考えからだ。

ポルシェによると、ペダルによるブレーキ操作の約90パーセントでエネルギーが回生されるという。とはいえ、ワンペダルで走行できる機能を気に入ったEVドライヴァーの多くが、これに失望するのは間違いない。

あくまでパフォーマンス優先

もちろんEVファンのほとんどは、タイカンの「ターボS」の18万5,000ドル(約2,000万円)は言うまでもなく、「ターボ」の15万900ドル(1,680万円)も払おうとは考えないだろう。これはポルシェであり、平均的なEV購入者の好みよりパフォーマンスを優先したクルマなのだ。

インテリアもいかにもポルシェらしく、タイトでサポート性に優れ、スマートにデザインされている。さらにオプションで、助手席専用のディスプレイを追加できるマルチスクリーン・インフォテインメントシステムも用意されている。外観のデザインはスタイリッシュでセクシーだ。このクルマは現時点で最も高価な量産EVであり、そして最良のEVでもある。

※『WIRED』によるポルシェの関連記事はこちら

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