[3-26] 母屋を乗っ取らんとする者はまず軒を借りよ
"岩壁に這う白蛇"の部族からシエル=テイラ亡国への回答は……消極的承認。
大っぴらに同盟関係を宣言することはないし、肩を並べて戦うこともない。水面下で通じ合い、表向きはただ同じ戦場に偶然現れて各々戦う……それならば構わないという、虫が良いと言えば虫が良い返答だった。
提案に対して更に一歩引いた位置で首を縦に振ったというところだろうか。
「ま、向こうも拒否るのは厳しいよね。帝国もまたいつ攻撃仕掛けてくるか分かんないわけだし」
即席の地下秘密基地があった場所には、もはや何も憚ること無く堂々と、建て売りの一軒家程度の大きさをした土の城が建っていた。
これもやはりエヴェリスが地の元素魔法で作り出したものだ。戦闘に使えるほどの強度は無いが、大森林の南側となるこの場所は前線から遠く、いきなり帝国青軍の大砲がぶちこまれるような事はおそらく無いので問題無い。
屋根の上には血薔薇の軍旗が翻る。そのためか、周辺を治める領主の騎士団も冒険者たちも手出しをしようとはしなかった。
煌々と照る月の下で白刃の煌めきが舞う。ウダノスケがカタナ一本でミアランゼとトレイシーを相手にして稽古を付けているのだ。
自らもカタナ(本場が近いせいか割と簡単に手に入った)を振るうミアランゼは気合いと共に打ちかかるも、ウダノスケの愛刀ドウチョウアツリョクは刃毀れ一つ残さずそれを受け流す。分身しているとしか思えない挙動で隙を突こうとするトレイシーのナイフが、ドウチョウアツリョクの柄で打ち返され続く一閃で弾かれる。
ルネとエヴェリスはそんな光景を、二階のバルコニー(ベランダと言う方が適切かも知れない)から見下ろしながら話をしていた。
話題は、今後の方針について。ゲーゼンフォール大森林をどうやって手に入れるのかについてだ。
「できるだけ反対勢力をあぶり出してから立場を失わせたいよねー。それも、エルフの皆さんご自身の手で」
「当面の方針は『強引に、あからさまに、しかし礼は失さない』ってところかしら」
「んだね、森の中でなんかしてたら絶対に人目に付く。みんなが私らの存在を意識させられる。
私らとの協力はアリか? ナシか? 里を真っ二つに割った論争とかになったら愉快で良いよね」
狙うは、ゲーゼンフォール大森林の完全掌握。
この森を巨大な砦として使うのであれば
しかし、全員が全員というわけではない。部族のナンバー2であるジバルマグザさえ、森を守るためにルネと協力するべきか迷っていたのだから。
なら、こちらになびく者だけ手に入ればそれでいいというのがルネの考えだ。
反対勢力はルネ自ら手を下すのではなく、エルフ社会の中で居場所がなくなるように仕向けていきたい。他の者らがルネを崇めるようになれば、反対勢力は肩身が狭くなっていく。
その結果として自らの主張を引っ込めて付和雷同するのか、森に居られなくなって出て行くか。とち狂って戦いを挑んでくるとしても、それならルネが堂々と手を下す大義名分になる。
そんな絵図を思い描いて、ルネたちは次の一手を捻じ込もうとしていた。
「一応、私らに批判的な勢力を帝国の内通者に仕立て上げるシナリオも準備はしてるけどさ。
別に手を下すまでもなかったりするかも」
「それじゃ、次は既成事実を作りに行きましょうか。まずは森の中に入るところからね」
月に照らし出されたゲーゼンフォール大森林は、じっと息を潜めているかのようだった。
* * *
月の下、先日と同じように、ゲーゼンフォール大森林の端にほど近い場所で会談が取り持たれていた。
集まった顔ぶれもほぼ同じ。ただし教導師ジバルマグザは
天幕は張られているが、壁に当たる部分が存在せず吹きさらしの状態だ。ルネは前世の日本で見た運動会のテントを想像した。これは、天幕だの陣幕だので視界が遮られている状態では余計な警戒心を抱かせるだろうと気遣い、あらかじめエルフの側に打診した上での設営だった。
ルネは足を組んで人骨の玉座に座しており、代わってアラスターが話をする。
「命の力を湛えるゲーゼンフォール大森林は、堅牢なる要塞でもある。
それが何故、帝国軍に一方的になぶり者にされていたのか。
その答えはもうお分かりだろう。これの存在だ」
芝居がかった、見る者を惹き付ける完璧な所作でアラスターは指差す。
天幕の脇に置かれた銀鼠色の大砲を。
先日の戦闘で青軍に奇襲を掛けた際、収納用のマジックアイテムごと強奪したものだ。
「戦場で、一般的に言って最長の射程を誇る攻撃手段は大砲。
その中でもこれは特に射程を重視した設計になっている最新型魔動砲。
貴君らは弓と魔法ばかりを頼りにしていたため大砲に勝てなかった」
ジバルマグザの連れている護衛のうち数人が、苦い薬でも飲まされたような顔をした。
侮辱的な指摘だが、しかしそれは事実だった。
弓も魔法も届かない場所から昼も夜も無く大砲を撃ち込まれて、森は少しずつ削られ、部族の者たちも疲弊していったのだ。
「だが、今、貴君らはその大砲の火力を手に入れた。
堅く守られた森の中から、帝国青軍が撃つものと同じ射程・同じ威力の弾が飛んで反撃するのだ。
さらに、我らには『地脈を確保している』という優位性がある。
遠く離れた地より魔石として燃料を運ばなければならない青軍と異なり、我らは大砲がただそこにあるだけで利用可能だ」
蕩々とまくしたててから、アラスターはちくりと針で刺すように視線を射かける。
「無論、貴君らが協力的であるならという前提の上でだが」
水を向けられてもジバルマグザは表面上揺らがなかった。
流石のポーカーフェイスだが、内心で様々な考えを巡らせているらしいことは『感情察知』の力を持つルネには筒抜けだ。
「どうあっても、森に入らねばならぬか。我らがそれを使うというわけにはいかんのか」
「まず第一に、この兵器は大切な姫様の財産。我らが責任を持って扱うべきもので、貴君らに委ねるわけにはゆかぬ。
第二に、この兵器を貴君らが十全に扱えるとは思えぬ。我が軍には
アラスターはただ淡々と慇懃無礼に理由を述べる。
大砲だけ貸せというのはいくらなんでも虫が良すぎる話だ。当然ジバルマグザもそれを分かっている様子。
エルフたちは森の木々という防壁を、そして大砲を動かすための魔力を提供する。
シエル=テイラ亡国は兵力と火力と技術を提供する。
この二つが合わさってようやく、ゲーゼンフォール大森林は帝国青軍を押しとどめることができるのだ。
「なに、我らも必要以上に森のことに関わろうとはせぬ。
触れてはならぬものや、立ち入ってはならぬ場所があるなら貴君らの要望を可能な限り酌もう。
その代わり、戦い勝つための方策で妥協する気は無い。具体的な段取りを話し合おうではないか」
ジバルマグザは睨むような表情で沈黙する。
それは、苦い承諾だった。
「ああ、それと。我らを攻撃してきた光の人影については何か分かっただろうか」
アラスターがその一言を発したときにルネがエルフたちから感じ取った感情の動きは、これまでで最も激しいものだった。
この場に来ているエルフたちは皆、既に事情を承知している様子で、驚いているわけではない。
後ろめたさ、屈辱、そして自己正当化。
それは、誇りを踏み躙られてなお生きる、力強い負け犬の心だった。
「あれが……現れないようにすることならできよう。ただ、あれは我らにも制御できるものではない。
そちらが刺激せぬよう行動してくれるなら、おそらく安全なはずだ」
「承知した。ならばその件も含めて今後の方針を詰めるとしようか」
アラスターは胸に片手を当て、もう片方の手を軽く広げて見せながら会釈をした。
ジバルマグザも遅滞なく同じ態勢になる。これはエルフの流儀。人間に喩えるなら、これで握手を交わしたに等しい。
何食わぬ顔をしているジバルマグザだが、エルフの流儀に合わせる憎い演出に内心では舌を巻いた様子だった。
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