「助けます」を意思表示 小学生の優しさが生んだ『逆ヘルプマーク』"大好きなお兄ちゃんを助けてくれる人への恩返し..."
2019年11月07日(木)放送
東京都が考えた「ヘルプマーク」。これは外見ではわかりにくい障がいがある人や、お腹が膨らむ前の初期の妊婦さんなど、配慮を必要としていることを周りの人にさりげなく伝える手段として考案されたもので、赤い札に白い十字架とハートが描かれている。この「ヘルプマーク」をヒントに、静岡県に住む心優しい小学生たちが「逆ヘルプマーク」というものを考えた。この小学生に考案のきっかけなど話を聞きに行った。
「逆ヘルプマーク」作った4人の小学生
富士山を北東方向に臨む静岡市清水区。この街に県内ではちょっと名の知れた小学生がいた。静岡市立清水有度第二小学校6年生の千葉さゆりさん、米田海乃梨(みのり)さん、小川啓介君、山本康太君の4人組だ。テレビ出演は3回目だという4人。有名になったきっかけは、このチームで考えた『絵』にあるという。
見せてくれた紙に描かれた2種類のマーク。一つは、今から7年前に東京都が考案した赤色がベースの「ヘルプマーク」。外見ではわかりにくい障がいがある人やお腹が膨らむ前の初期の妊婦さんなど、周りの人に配慮を必要としていることを知らせるマークとして、現在ほとんどの道府県で認知されている。
しかし、もう一つのマークはデザインは似ているが、そのベースは緑色…?静岡だけに、お茶に関係があるのか?このマークは、何という名前か聞いてみると…
「『逆ヘルプマーク』です。助けたいのに意思表示ができない、しにくいから、それを改善するために『助けますよ』という意思表示をするマークです。」(チームのリーダー 米田海乃梨さん)
「ユニバーサルデザインのことについてみんなで考えようってなったんですよ。その後に海乃梨さんがこの『逆ヘルプマーク』について提案してくれて、こういう感じで発展していったよね。」(小川啓介君)
リーダー海乃梨さんが提案した『逆ヘルプマーク』。実は彼女には、このマークを作りたかった理由がある。
発想は日常から…「恩返しがしたい」
海乃梨さんの自宅にお邪魔すると、兄弟を紹介してくれた。
「お兄ちゃんの豊祝(とよのり)です。」(海乃梨さん)
海乃梨さん(12)の3歳上の兄・豊祝さん。先日、15歳の誕生日を迎えた。9歳の時に、国が難病に指定する先天性の病気「ムコ多糖症Ⅲ型」と診断された。進行性の病で、豊祝さんの場合は脳の前頭葉と側頭葉が萎縮していくのだという。
「小学1年生になってから、覚えていたはずの言葉も忘れてきて、そのうちお父さんお母さんも言わなくなって。一時も座っていられないような状態にもなり、『何も治療しなければ20歳を迎えられない子も結構います』ということを言われました。」(母親・米田真由美さん)
海乃梨さんは、だんだんと思い通りに動けなくなっていく兄と、懸命に介護をする両親の姿をずっと近くで見てきた。だから『逆ヘルプマーク』の発想は、海乃梨さんの日常生活の中から自然と生まれたのだという。
「お兄ちゃんと一緒に出かけると助けてもらうことが多くて。でもお兄ちゃんがいない時は『(障がいがある人を)助けたい』という気持ちはあるけど、いざその場にいると、話しかけていいのかすごく不安でもどかしい気持ちになるので、お兄ちゃんを助けてくれた人に対しての感謝の気持ちも込めて、『逆ヘルプマーク』を作って、その人たちに恩返しがしたいなと。」(米田海乃梨さん)
海乃梨さんの母“あまりにも素敵な発想だったものだから”「逆ヘルプマーク」をSNSで発信
『いつも兄を助けてくれる人を自分が助けられたらいいのに…その思いがパッと見て伝わればいいのに…』。そんな願いが、福祉活動がテーマだった4年生の時の総合学習で具体化することになる。
2年前の授業で「逆ヘルプマーク」を発案し、色が緑である理由は「赤の逆は緑」と決まった。そして副リーダーでイラストが得意な千葉さゆりさんが下絵を描き、海乃梨さんと2人で一気に色を塗ったそうだ。
真剣に取り組む子どもたちの作品を見た時のことを海乃梨さんの母・真由美さんはこう振り返る。
「あまりにも素敵な発想だったものだから、会う人会う人に言ってたんですね。『子どもがこんなの作ってくれた』と…。そしたら、『これは本当にあったらいいのにね』という話をしてくれた人たちがたくさんいて、ちょっと嬉しくなってブログに載せたりとか、その後フェイスブックに載せたりしました。」(母親・米田真由美さん)
発案から2年…「逆ヘルプマーク」が県議会で取り上げられる
事態が動き出したのは海乃梨さんたちの発案から2年が経った2019年9月。お母さんの投稿が県議会議員の目に留まったのだ。
「逆転の発想『逆ヘルプマーク』について、県の所見を伺います。」(盛月寿美県議・2019年9月の静岡県議会)
県の担当者は「ほかの自治体などの取り組みも参考に検討して参ります」と答弁。これが地元の新聞やテレビなどに取り上げられて話題になった。実際、静岡一の繁華街・呉服町で聞いてみると…
「この間テレビでやってて、『助けることができるよ』っていう証明ですよね。」(静岡県民)
「この間ニュースで、子どもさんたちが提案したマークだって。『逆のヘルプマーク』だっていう…」(静岡県民)
こうして、地元ではちょっと知られた存在になった『逆ヘルプマーク』。すると、この発想に共感し新たな提案をしてくれる人も出てきた。
「『色覚障がいの方が見分けがつかないから緑じゃないほうがいいんじゃないの』という意見も目にして。『青色だったら大丈夫なのかね?』と青色も塗ってみたりしていました。」(母親・米田真由美さん)
今も試行錯誤を繰り返しているという米田さん親子。日本全国には、逆ヘルプマークと同じ発想を持つ団体もあり、いずれ交流もしたいと考えている。
海乃梨さんの将来の夢は?
この日の米田家はピザパーティー。料理が得意な父・成正さんが子どもたちにお手製のピザを焼いてくれていた。海乃梨さんがピザの具材の生ハムを豊祝さんにあげようとしたが…
(母・真由美さん)「生ハムはダメ。」
(海乃梨さん)「ダメ?」
(母・真由美さん)「食べられない。」