この記事では…
・漫画「ONE PIECE」の中で落語が元ネタになっているシーンを調べました。
・最新話(960話)までに見つけた計20個のシーンを紹介します。
・ついでに今後ONE PIECEに登場するであろう落語を予想します。
漫画「ONE PIECE」には落語が元ネタになっているシーンがいくつもあります。
なので、全部調べてみました。
ONE PIECE全94巻+少年ジャンプ掲載分から、落語を元ネタにしているシーンを抜粋します(2019年11月14日時点)。
1〜45巻:ナシ!
落語が元ネタになっている描写はありませんでした。ただONE PIECEを楽しく読んだだけになっちゃった。
企画倒れを覚悟しましたが、後半でたくさん出てくるのでよしとしましょう。
よ〜く読めば「これはひょっとして…?」と言える箇所もあるのですが、ややこじつけ気味なので保留しておきましょう。おまけページで網羅してますのでおヒマな方はそちらをどうぞ。
ちなみにONE PIECE内で落語ネタが初めて登場したのは5巻でした。
SBS(コミックスだけに載っている読者質問コーナー)で、赤髪のシャンクスの副船長についての質問に答えた時です。
まず、副船長の名前は「ショーフクテイ・ネズミ」。あーそれでネズミ顔なんですね。ってウソップがいってました。ウソです。
──尾田栄一郎 ONE PIECE 5巻より
急な角度からのボケで面食らいましたが、一応これが初出です。
ベン・ベックマンがワノ国出身…みたいな裏設定があったりしたら「ほぅ…!」と思うかもしれませんが、そんなことはないでしょう。
46巻:厩火事
「この女は昔婚約していた大富豪の主人の愛を試す為に 主人の宝物の十枚の皿を全て叩き割った所 婚約破棄され
顔にハナクソをつけられて追い出されたという不幸な過去を持つ 皿嫌いの使用人シンドリーちゃんだ」
──ドクトル・ホグバック ONE PIECE 46巻より
この巻で描かれているのはスリラーバーク編と呼ばれるストーリーなのですが、これはONE PIECEの中でワノ国(日本をモデルにした作中の舞台)の登場人物が初めて描かれた巻です。
ONE PIECEでは「ワノ国」というキーワードが出てくると落語ネタも増える傾向があります。作中での落語ネタの初出もちょうどワノ国初出と同じタイミングでした。
ここでは「主人の愛を試すために大事にしている皿を割った」というキャラ、シンドリーちゃんが登場します。
このエピソードの元ネタは…厩火事という落語です。
【厩火事のあらすじ】
夫婦喧嘩のたえない旦那に嫌気がさして仲人に愚痴る奥さん。すると、亭主の愛を試すために、夫が大事にしている皿を割ってみろというアドバイスを受けた。
もし、割れた皿を気にかけず女房の体を心配したら愛は本物だ。逆に女房を気にかけず皿の心配ばかりしているようなら離婚すればいいとのこと。
さっそく家に帰って試してみることに…。
「主人の気を試すために皿を割る」という設定に加え、のちのONE PIECE50巻で「お前が無事なら皿のことなんかどうでもいい!」というハッピーエンドが描かれていたりするので、明らかに厩火事が元ネタになっていると思われます。
「何をいってるんだ 皿なんてどうでもいい!! ケガはないか!? とにかく祝おう!!」
──マルガリータの主人 ONE PIECE50巻より
ちなみに落語「厩火事」の方は、安易にハッピーエンドとは言い難いようなウィットに富んだオチになっているのでぜひ聴いてみてください!
落語「厩火事」の聞きどころは「喧嘩しつつも結局旦那のことが好きな奥さんの可愛げ」です。
旦那の愚痴を言いながらも、他人に旦那を悪く言われるとちょっとムッとしちゃう感じ。多分、落語界で一番可愛い登場人物な気がします。
47巻:首提灯
「大丈夫です…もう決着はついてますから …”鼻唄三丁”…”矢筈斬り”!!!!!」
──ブルック ONE PIECE47巻より
剣豪リューマとブルックが披露する必殺技「鼻唄三丁 矢筈斬り」
あまりに早い剣筋に相手は斬られたことにすら気づかないという速斬りの技です。
この必殺技の元ネタは…首提灯という落語です。
【首提灯のあらすじ】
酔っ払いの男が道ゆく侍と口論に。調子に乗って顔にツバをかけたものだから、さすがの侍も激怒して、居合抜きでズバッと首を両断してしまった。
ところが、あまりの腕前に男は斬られたことにも気づかずにそのまま街へ…。
この落語では、辻斬り(武士が町人で試し斬りするというめちゃくちゃな行為)についての説明があるんですが、そこに白井権八という凄腕の剣士が「鼻唄三丁 矢筈斬り」という剣技を持っていたという話が登場します。そのままの単語ですね。
斬られても気づかないまま鼻唄を歌いながら三丁ほど歩いてしまう…みたいな意味らしいです。
落語「首提灯」の聞きどころは「斬られた後の仕草」です。だんだん首がズレていったり、声が漏れたりして男が「???」となってる様子がまあおかしい。
男が斬られたことに気づくまでの時間が楽しいのですが、CDなど音だけだとなんのことやらわかりません。映像で観れるチャンスがあればぜひ!
60巻:一眼国
「腕の関節が一つしかねェ珍しい人間達を母国に連れ帰れば 見世物にして大儲けできたのに!!」
──手長族 ONE PIECE 60巻より
この巻では「手長族」という関節が2本ある種族が登場します。
(彼らから見ると)世にも珍しい関節が一つしかない人間を捕まえて、見世物小屋で披露しようと言っているシーンです。ウィットに富んでいますね。
このくだりの元ネタは…一眼国という落語です。
【一眼国のあらすじ】
目が一つしかない「一つ目の人間」だけが住む国があると聴いた男。「一つ目小僧をさらってきて見世物小屋で大儲けしよう!」と企み、一人で乗り込もうとするが…
言ってしまえば、逆にこの男が一つ目の国で捕まってしまい「うわ!こいつ目が二つもあるぞ!」「珍しい!見世物小屋に売りとばそう!」という羽目になる…というオチです。
ONE PIECEの方では目ではなく関節にはなっていますが、珍しい生き物の視点にたてば、我々も奇怪な生き物に見えるという構図についてはまんまこの落語が元ネタと言えるでしょう。見世物というワードも出てきてるし。
一眼国という落語は結構珍しい噺なので、なかなかお目にかかる機会はないかもしれません。小噺くらいの短い落語なんですが…。
66巻:胴斬り
「じゃ元から下半身だけなのか!?」
──ウソップ ONE PIECE 66巻
トラファルガー・ローというキャラの能力によって、生きたまま頭・胴体・下半身と3分割にされた侍が登場します。
冷静に考えるとグロい話なんですが、特に「ひえっ…」と思わせないのは漫画の持つ力なのかもしれません。
このシーンの元ネタは…胴斬りという落語です。
【胴斬りのあらすじ】
辻斬りが横行する時代。居合の達人に斬られてしまい、上半身と下半身が真っ二つになってしまった大工がいた。
常識はずれの腕前だったためか命は助かったものの、体が二つになってしまった以上、大工は続けられない。仕方なく上半身は銭湯の番台に、下半身はこんにゃく屋でこんにゃく玉を踏む仕事に就くことに…。
体がぶった斬られてなお生きているというトンデモ設定・下半身だけなのに喋っている・要所要所のクスグリ(小ボケ)など、明らかに胴斬りが元ネタです。
冷静に考えるとグロい噺なんですが、特に「ひえっ…」と思わせないのは落語の持つ力なのかもしれません。
落語「胴斬り」自体は短い噺なので、割と手軽に聴ける落語です。落語らしいSFチックな展開も楽しめるのでオススメ。
余談ですが、下半身側が「胴体の方に言っといてくれ。女湯ばっか覗いてんじゃねえ、迷惑するのはこっちなんだってな!」と愚痴るパターンとかもあるらしいです。エッチですね。
76巻:夏の医者/抜け雀
「萵苣だ食うか?」「イヤ いらぬ おぬしのは腹に障る」
──カン十郎&錦えもん ONE PIECE76巻より
「出でよ!! ”抜け雀”!!!!」
──カン十郎 ONE PIECE76巻より
「描いた絵が実体化する」という能力を持ったカン十郎が登場。ワノ国出身のキャラです。
絵に描いたチシャ(レタスのこと)を振る舞おうとしたり、雀を描いて実体化する技「抜け雀」を披露しています。
このシーンの元ネタは…夏の医者・抜け雀です。
【夏の医者のあらすじ】
山道を行く医者が巨大な蛇に丸呑みにされてしまった。胃袋の中で下剤をばら撒くことでなんとか脱出し患者の家にたどり着くものの、蛇の胃の中に肝心の薬箱を忘れてきてしまったことに気づき…。
【抜け雀のあらすじ】
宿屋に泊まっている一文無しの男。宿代も払えないので、その代わりに見事な雀の絵をプレゼントした。
実は凄腕の絵師だったためその雀は絵から抜け出してあたりを飛び回るように。世にも珍しい抜け雀の姿に客が殺到、「雀のお宿」と名がつき大繁盛するのだが…。
この二つに関しては、尾田先生本人が「元ネタだよ」と公言しているので知っている人もいるでしょう。どちらも結構渋い噺なので尾田先生がマジの落語好きなんだということが伝わります。
「チシャは腹に触る」という落語と同じセリフだったり、「抜け雀」というまんまのネーミングだったり。この辺は結構露骨にパロディしてますね。
90巻:蝦蟇の油
ここからはワノ国編に突入です。明らかに落語ネタが登場するペースが上がります。
「だがお立ち会い!! この傷口に ガマの膏をちょいとつければ ほらこの通り 血もぴたり!!」
──ウソップ ONE PIECE90巻より
ウソップが身分を隠して「ガマの油」という薬を売る商人になりすますというシーン。
このシーンの元ネタは…蝦蟇(がま)の油という落語です。
【蝦蟇の油のあらすじ】
秘薬「蝦蟇の油」を売る薬売り。その伝統芸とも言える見事な売り口上で今日も飛ぶように薬が売れた。気を良くした男は、酒を飲みすぎてベロベロに。
その勢いでまた薬売りを始めたが、今度は酔いも回って全くうまくいかず…。
蝦蟇の油売りは江戸時代から実在した薬売りなので、落語だけに登場するものではありません。
とはいえ、作中の売り口上といい、ウソップというキャラクターといい、落語を元ネタにしていると判断してもいいのでは?
落語「蝦蟇の油」の見所は、何と言ってもその売り口上。まさに立て板に水と言えるプロの話芸は一見の価値ありです。
91巻
ここでは1巻に複数の落語ネタが登場するので、とりあえず1話ずつ紹介していきます。
今までのようにストーリーに絡ませずに、落語からワードを拝借しているだけ…というちょいネタも増えてきます。
911話:真打
「”真打ち”!! やはりありました!! 不法入国の船です!!」
──下っ端の敵 ONE PIECE91巻より
敵幹部の呼び名に「真打ち」という単語が登場します。
元ネタは落語用語真打ちです。
「真打ちという落語がある」という訳ではないのですが、明らかに落語用語の「真打ち」を元ネタにしているので、一応ご紹介します。よく「真打ち登場!」とか言いますよね。あれです。
簡単にいうと落語家の階級のこと。
「前座→二ツ目→真打ち」と出世していき、「真打ち」になれば寄席のトリを締めくくれる・弟子を持てるなど、落語家として一人前と認められます。
余談ですが、昔の寄席ではラストを締めくくる落語家がロウソクの芯を打って(ロウソクを切って消すこと)いたことから、芯打ち→真打ちとなったらしいです。へ〜。
913話:邪含草
“邪含草”をすぐに煎じておくれ!!
──お鶴 ONE PIECE91巻より
体の毒を消す特効薬「邪含草」というアイテムが登場します。
この元ネタは…蛇含草という落語です。
【蛇含草のあらすじ】
大蛇が人間を丸呑みした後にぺろぺろなめて消化を助けるという草「蛇含草」を手に入れた男。
これさえあればどれだけ食べても満腹にならない!と、さっそく大食いチャレンジに挑むが…。
ワードがまんまですから、そりゃ元ネタでしょう。腹痛を治すという効用も同じですしね。
オチが難解というか、初めて聴いたときは「???」となる確率が高いように思います。これは考えオチというパターンで、観客がちょっと頭で考えて「…あぁ〜なるほど」と笑うタイプの落語です。
その分、「あぁ〜はいはい。そういうことね」となった時のおかしみは気持ちがいいです。まだご存じない方はぜひ味わってみてください。
917話:あたま山
「最近の農園での盗みも お前ら「頭山盗賊団」の仕業だろう!!」
──ホールデム ONE PIECE91巻より
頭山盗賊団というワードが登場します。
この盗賊団の棟梁は「酒天丸」という男で、頭から桜の木が生えているという見た目は愉快なキャラクターです。
この元ネタは…あたま山という落語です。
【あたま山のあらすじ】
さくらんぼをタネごと飲み込んでしまった男。すると、体内で発芽したのか頭の上から桜の木が生えてしまった!
春になると満開の桜を求めて大勢の花見客が押し寄せることに…。
そのまんま頭から桜の木が生えてますし、何よりONE PIECE94巻のSBSにて尾田先生本人が元ネタだと公言しています。
多分ですけど、酒天丸についても「頭に桜が生えているのは、さくらんぼのタネを飲み込んでしまったから」みたいな設定があるんだろうなと予想しています。ONE PIECEっぽいですよね、この設定。
ONE PIECEは一旦おいといて、この「あたま山(別名:さくらんぼ)」という落語は本当にすごいので、ぜひ一度調べてみてください。尾田先生もシュールと称していましたが、そんな言葉じゃ収まらないくらいすごい。常人じゃ思いつかないめちゃくちゃなストーリーです。
余談ですが、ONE PIECEにおいても、この頭山盗賊団の酒天丸はなかなかのキーポジションに位置している要注目キャラでもあります。
ココヤシ村のゲンゾウさんの風車のように、ほんのちょっとしたネタにナイスなエピソードが込められてるパターンもあるので、彼の頭の桜の木についてもあたま山で予習してみては?
920話:粗忽の使者
「拙者 かつての”希美”が旗本 地武えもんと申す者!!」
──地武えもん ONE PIECE91巻より
「地武えもん」という名前のキャラが登場します。ほんのチョイ役で、今後作中に登場するかも微妙な存在感ではあるのですが…。
この名前の元ネタは…粗忽(そこつ)の使者という落語です。
【粗忽の使者のあらすじ】
粗忽者(超うっかり屋…みたいな意味)の侍がお屋敷に伝令にやってきたが、肝心の中身を忘れてしまった。
「物忘れをした時はお尻をつねられるとその痛みで思い出す」という変な癖があるらしく、お屋敷の家臣にお尻をつねるように頼む。ところが、どれだけ強くつねっても尻が固すぎて全く痛みを感じないという…。
なんだこの珍妙なあらすじは。
この落語に登場する侍は「地武太 治部右衛門(じぶた じぶえもん)」という名前。ONE PIECEの地武えもんと同じです。珍しい名前なのでまさか偶然ということもないでしょう。
やや長めの噺な上に「粗忽者」というパーソナリティが理解しにくい気もするので初心者にはオススメしづらいかもしれません。ざっくり言うと「レベル100のうっかり屋さん」なのですが、あまりに度が超えているので初見では「?」となりがちです。
ただ「粗忽の使者」自体は、尻をつねるために一般人の大工がお屋敷に潜入するシーンや、渾身のパワーを込めてペンチで尻をつねるシーンなど、どうあがいても笑ってしまう爆笑噺でもあります。
「粗忽者」という概念さえのみこめれば、基本的にタイトルに「粗忽」という名前のついた落語はハズレなしです。
余談ですが、アニメ「ONE PIECE」でメイン役の声優さんがちょい役の声を当てる時に「粗忽屋」という名義を使ってましたね。
92巻:落語メドレー
「あーそうだ 勉強するって長屋のクマ五郎だ! 間違ェねェ」
──質屋の主人 ONE PIECE92巻より
屋敷図を求めてフランキーがたらい回しにされるシーンで大量の人名が登場します。多分もう二度と作中でも出てこないチョイ役です。
登場する名前は「クマ五郎」「幸ベエ」「きせ川ちゃん」「時ジロー」「らくだ」の5名。彼らの名前の全てが落語を元ネタにしているので、ざっとご紹介しましょう。
長屋のクマ五郎の元ネタ「熊五郎」
落語によく登場する名前です。あらゆる落語に出てくるのでコレという例が挙げづらいのですが、「粗忽長屋」「子別れ」「猫と金魚」とか…まあ色々です。
大家の幸ベエの元ネタ「幸兵衛」
落語「小言幸兵衛」の主人公。ずっと小言ばかり言ってるクソ大家というリアルに考えると結構嫌なキャラ。ONE PIECEで描かれた幸ベエさんは落語とは対照的にニコニコしているキャラです。
芸者のきせ川ちゃんの元ネタ「喜瀬川花魁」
落語に登場する花魁の名前。いくつかの落語に登場するのでコレとは言えませんが、例えば「お見立て」「三枚起請」「五人廻し」などです。
時ジローの元ネタ「時次郎」
落語「明烏」の主人公 時次郎。女遊びとも無縁な堅物な性格なので、それを心配した父親が息子を騙してエッチなお店に連れて行くというだいぶロックな噺。
吉原という江戸時代の風俗についての知識が必要なので初心者にはオススメしづらいのですが、内容はそりゃもう面白い逸品です。
らくだの元ネタ「らくだ」
落語「らくだ」の登場人物。「らくだ」というあだ名をつけられた男が死んだことから噺が始まる壮絶なブラックコメディ。
以上です。
余談ですが、この5人にたらい回しされている描写は、なんとなく落語の「五人廻し」をオマージュしてるような気もします。
あと、同じ話の中でもう一つ…
92巻:目黒のさんま
「脂ののった最高のサンマが」「サンマは好物♡」
──黒炭オロチ ONE PIECE92巻より
諸悪の根源、ワノ国のラスボスである将軍オロチの登場シーンです。将軍でありながら「サンマは好物♡」らしいです。
この元ネタは…目黒のさんまという落語です。
【目黒のさんまのあらすじ】
外出中のお殿様がひょんなことからサンマを焼いている庶民と出くわす。「庶民が食べる下魚なので、殿が食べるものではない」と制するお供を無視して一度食べてみると、その味に感激。それ以来、豪華な御膳を見ても頭に浮かぶのはサンマのことばかり…。
「殿様×さんま」という組み合わせの時点でどうしても連想してしまいます。ちなみにこの落語は「サンマはやっぱり目黒に限る」という有名なセリフがあります。
一方で、ONE PIECEにおいても、サンマのシーンの直後に…
「刺身はマグロを」「マグロに限る!!」
──黒炭オロチ ONE PIECE92巻より
というセリフがあるので、これはもうオマージュしてると断定していいんじゃないでしょうか?
「目黒のさんま」という落語自体はやや有名なので、知ってる人も多いかも? それでいて会話ではなくナレーションがベースになっているというやや変化球の地噺(じばなし)というタイプの落語でもあります。
落語家の語りが直接味わいやすいジャンルなので、機会があれば聞いてみてください!
94巻
948話:古今亭菊之丞
「ワノ国一の美青年剣士”残雪の菊の丞”と同じ面!?」
──モブ ONE PIECE94巻より
「菊の丞」という名前のキャラが登場します。
見た目は綺麗な女性なんですが、実は男性…というキャラ。あとめっちゃ背が高い。性癖を何枚抜きするつもりなんだ。
このキャラの元ネタは…落語家古今亭菊之丞です。
まんま名前が同じです。
それだけではなく、菊之丞師匠自体が男性ながらも歌舞伎の女形を思わせる艶っぽい師匠なので、ONE PIECE内の「女性と思いきや男性だった」というキャラ造形も納得感があります。
余談なんですが、現代の落語界は、今風にアレンジしたりオリジナルの落語を作ったりと新風が吹きまくってるんですが、その中で菊之丞師匠は古典に真っ向から挑んでいる硬派な落語家の一人です。
それでいて、その落語は小難しくなく綺麗で面白い…そんで、高座での姿形がもう日本画みたいにすらりと美しい…現代における最高峰の落語家の一人であることは間違いありません。聴いたことがない人はめちゃくちゃもったいないのでぜひ!
953話:七度狐
第953話 ”一度狐(いちどきつね)“
この話では一匹のキツネが化けて…というストーリーが展開されます。ネタバレになるので詳細は割愛しますが、この話のサブタイトルは「一度狐」です。
タイトルから察するに元ネタは…七度狐という落語です。
【七度狐のあらすじ】
とある二人の旅人がポイ捨てしたゴミが、道端で昼寝をしていた狐の頭に命中!
実はこの狐は「一度ひどい目に合わされたら、その相手を七度も化かして復讐する」という、その名も七度狐だった…。
タイトルからしてまんまです。
落語の方は7種類の壮絶な化け方で旅人を懲らしめるんですが、ONE PIECEの方はたった一度化けるのみで、人を救ういい話となっています。
タイトルだけ拝借した感じでしょうね。
フルバージョン(7回分の化かしを全部演じる)はだいぶ長いので聴くなら結構な覚悟がいるかもしれません。中身もこってり大容量。
とはいえ、「狐が妖術で旅人を7回騙し切る」というストーリー自体は単純で、二次創作が捗りそうな気がしています。
騙してくると予想しているから、裏をかいてあえて騙さない…という形で騙す、みたいな展開を作っている落語家さんもいるので、これを元ネタに現代風のストーリーを作れそうな気がしませんか?
コミックス未収録分
少年ジャンプには掲載されたけど、まだコミックスに収録されていない分になります。
960話:壺算
「で…最初にこれ買った時30銀払ってあるから この鍋と足して60銀!! デカイの貰ってくよ」
──傳ジロー ONE PIECE960話より
鍋を買う際に、口先だけでうまいことごまかして半額で鍋を買い取るというシーンです。
このシーンの元ネタは…壺算という落語です。
【壺算のあらすじ】
買い物上手と言われている兄貴分を連れて壺を買いに来た男。横で見ていると鮮やかな手口でなぜか半額で壺が手に入った。
店の主人もどうも怪しいことに気づくが…。
ONE PIECEでは鍋になっていますが、詐欺の手口はまんま壺算。落語オマージュの中では結構有名な噺です。ドラえもんでもこの噺を元にした回があります。
多分落語を聞いているだけでは、どうやってお金をごまかしたのか理解できないと思います。正直いうと、僕自身この詐欺の仕組みをいまいち分かっていません。
でもまあ、この噺のキモは「値切って詐欺る手口の鮮やかさ」と「カモられた店員のリアクション」なので、あまり気にしなくていいんじゃないかな…。ダメかな。
聴いたら誰かに話してみたくなるような…THE・落語って感じの落語です。
ONE PIECEに登場する落語ネタは以上です!
最新話まで調べましたが、少なくともこの20個は確実に落語をオマージュしているはずです。
他にも「おや…?」というネタもありましたが、ほとんどこじつけに近い気もするのでそれはおまけでご紹介しましょう。
別に落語なんか知らなくてもONE PIECEは面白いのですが、せっかくなら元ネタになっている落語に触れてみてはいかがでしょうか?
また、皆さんも「アレも落語が元ネタなのでは?」という描写があったらぜひ教えてください!
さて…。
次にONE PIECEに登場する落語を予想しよう!
ここまで調べ尽くしたので、落語を元に今後のONE PIECEの展開や小ネタが予想できるのではないでしょうか?
最新話まで調べた結果ですが、大まかな傾向として
・ストーリーにがっつり絡んでくるネタにはならない(ほんの小ネタとして使われている)
・人物の名前や技の名称など、キーワードだけ拝借するパターンもある
・ベタな落語より玄人好みな落語をチョイスする
…という流れがありそうです。
また、SBS内で尾田先生が好きな噺家として
柳家小三治・柳家権太楼・柳家喬太郎・立川談志・立川志の輔・三遊亭金馬・桂文珍・桂雀三郎・古今亭志ん生・古今亭志ん朝
を挙げています。挙げすぎでは?
これらを踏まえて、今後ONE PIECEに登場するであろう落語を予想しましょう。
居残り佐平次
【あらすじ】
一文無しの男が遊郭で豪遊。店の者から代金を請求されるも、口八丁でケムに巻いた上に最終的には「金? 持ってないよ?」と開き直る始末。
お金の算段がつくまで店に拘束する「居残り」という処置で対応するも、男は勝手にお店の手伝いをはじめ、その人柄と持ち前の芸で店の人気者になってしまう。実はこの男は、「居残り佐平次」という異名を持つ居残りの常習犯だったのだ!
噺も長いし、遊郭についての知識も必要だし、オチも現代人には一切理解できないし…と、決して初心者にはオススメできない落語です。
ただ、一文無しのくせに人間力だけで世間を渡り歩くこの「佐平次」という男がめちゃくちゃカッコいい。多分、落語の登場人物の中で一番カッコいいと思います。
尾田先生も数多の落語ファンと同様に、この粋で無頼な男のことを特別な目で見ているはず。
なので、少なくとも「佐平次」という名前は登場するのではないかと予想します。
居残り佐平次は古今亭志ん生・志ん朝、立川談志などの大師匠が手がけてきた落語です。尾田先生が好きな落語家として名前を挙げていた方々ですね。
中でも談志師匠の居残り佐平次がものすごいです。談志師匠に佐平次が取り憑いたような…というとチープな表現に見えるかもしれませんが、豪快で痛快でめちゃくちゃ魅力的な落語なんです。
野放図なエネルギーがカッコよすぎて憧憬の念がカンストして泣けてくるほど。せっかくなので一度聴いてみては?
火事息子
【あらすじ】
ある質屋の大店には小さな頃から火事が大好きが若旦那がいた。好きが高じて臥煙(がえん…ヤクザな火消し屋)に憧れていたが、父親と意見が合わず勘当され家を出てしまう。
そんなある日、その質屋が火事騒ぎにあう。店の旦那は颯爽と現れた火消しの男に助けてもらうが、偶然にもその男はかつて勘当した自分の息子だった…。
これも江戸時代の火消しについての知識が必要なので、初心者にはオススメしづらいかも…。でもいい噺なんです。好き。
口では「火消しなんぞになりやがって。とっとと帰れ!」と言いつつも、結局は息子と再会できたことを嬉しく思う複雑で可愛らしい親心がジンとくる噺です。ドクトリーヌを彷彿とさせる気がしますが、僕だけでしょうか。
具体的には、火事息子の中には「勘当した息子と会えてめっちゃ喜ぶ母親と、内心嬉しいくせに素直になれない父親」という描写があるんですが、そこでのエピソードがONE PIECEの作風と親和性が高そうだなと感じています。
せっかく会えたから…と、母親が息子に着物やお金などを渡してあげようとするんですが、父親が「誰がやるもんか。そんな奴に渡すくらいなら店の裏に捨てた方がマシだ」と意地を張るんです。
「それはあなた強情ですよ」と母親が怒ると、ぶすくれたように「…捨てておけばどっかの誰かが拾ってくだろ」とか言うんです。もぉ〜! 江戸っ子お父さん!!
この記事を書いている時点では、ONE PIECE最新話にて「光月おでん」という男が父親から勘当されるシーンが描かれていました。
勘当というキーワードがある以上、作中でこれをやらない手はないと思うんです。多分あると思うんだよな〜、勘当した息子のために着物やら何やらを捨てるシーン。こういう粋な感じ、ONE PIECEにピッタリじゃないですか。
芝浜
【あらすじ】
酒に溺れてろくに仕事もしない魚屋の男。女房に叩き出されてしぶしぶ仕事に向かうと、誰もいない海岸で一生暮らせるほどの大金を拾う。
有頂天になった男は友達を集めて酒盛りをするが、翌日女房に起こされて「それは夢だった」と聞かされる…。
ストーリーもわかりやすいし、泣けるいい噺だし、初心者にもぜひ聴いてほしい落語です。時間は長いけどね。
この男は文字通り夢と消えたお金の一件で心を入れ替え、お酒を絶って真面目に働くようになります。それから3年後の大晦日に、奥さんからとある話を聞かされる…というストーリーです。
ラストシーンでは、幸せを噛みしめる男に奥さんが「3年ぶりにお酒を飲んだら?」と勧めます。
盃に手をかけるも気が変わって飲むのをやめる男。
「どうしたの? 私のお酌じゃ気に入らない?」
「いや…また夢になるといけねえから」
…と、これが落語「芝浜」のオチです。美しいですね。
話変わってONE PIECEといえば宴のシーンが有名です。大きな戦いが終わると海賊らしくどんちゃん騒ぎの宴で締めるのがお決まり。
なので、ワノ国でも酒宴のシーンはいずれ描かれることになると思うんですが、そこにはこの「芝浜」のラストシーンになぞらえた小ネタが入ると予想しています。
少なくとも「夢になるといけねえ…」というセリフを覚えておけば大丈夫です。多分これはやると思います。
「芝浜」は初心者にもオススメできる素敵な噺です。なんだったら、いろんな落語家の芝浜を聴き比べてみるのも楽しいと思います。
一通り聴いてみたら、よきところで立川談志の芝浜をご視聴ください。こちらは、ある程度「芝浜を知ってることを前提に演じる芝浜」なので初心者にはオススメしづらいのですが、これを観ると落語に流れる文学性の手触りがわかると思います。
特に2007年よみうりホールでの一席は、談志師匠をして「芸術の神が降りてきた」と言わしめる傑作。落語ファンの間でも有名な芝浜です。
とはいえ、個人的にはそれ以前のやや定型を保っていた頃の演出の方も好きです。とにかくどれでもいいので触れてみてください。「談志 芝浜」で調べてください。早く!!
芝浜を聴いていて「奥さんの3年間」に思いを馳せたことはなかったんですが、立川談志の芝浜にはそれが浮かび上がるような演出論と感情の圧力があるような気がしています。そういう意味で、彼の芝浜が一番オススメです。
長々と書き連ねてきましたが、最後に! 最後にこれだけ紹介させてください!
三枚起請
【あらすじ】
「花魁としての役目を終えたらあなたと結婚します」という約束を取り付ける起請文(きしょうもん)を見せびらかす男。吉原のマドンナ喜瀬川花魁と夫婦になれると有頂天。
しかし、そこへ同じ起請文をもつ男が現れた。これはどういうことだと困惑していると、また一人同じ起請文をもつ男が。
「結婚するという嘘に踊らされて、金を貢がされていたのか!」と気づいた3人は喜瀬川を懲らしめてやろうと一計を案じる…。
吉原という江戸文化とちょっとした都々逸の知識が必要なので、初心者にはオススメできない噺です。
ただ、この落語についてはすでにONE PIECEでもオマージュされてる感があるので、これを機に落語を聴こうとしている方がいたら一度聴いておいた方がいいかもしれません。
「──あのお金は あちきにくれるって言ったでしょ?」「全部使っちまったよ ありがとう♡」
──小紫 ONE PIECE92巻より
ONE PIECEには絶世の美女 花魁小紫が登場しています。初登場のシーンでは3人の男から大金を騙し取る悪女としての描写がありました。
落語に登場する花魁は80%の確率で悪女なので「その美貌と口先だけで客から金を騙し取る」という花魁のイメージ自体、落語の影響と言えそうなんですが…それはややこじつけに近いので一旦置いておきましょう。
余談ですが、この「小紫」という花魁は、かつて日本に実在した人物です。
この花魁に恋をしていたのが平井権八という男。彼女に逢うために100件を超える辻斬りを行い、そのせいで鈴ヶ森という処刑場で死刑になり、それを知った小紫はのちに彼の墓前で自害した…という壮絶な悲恋があったそうで、今でも歌舞伎・狂言などで権八小紫物というジャンルで語り継がれている話です。
落語でもちょいちょい彼の話は登場し、首提灯や鈴ヶ森という噺で「凄腕の剣士」として言及されたりします。先述した「鼻唄三丁矢筈斬りの使い手」がコイツです。
要するに小紫という名前自体が「剣士との恋物語」のフリになってたりするんですが、ちょうど最近のONE PIECE内ではロロノア・ゾロと小紫の関係性が密に描かれ始めているので、今後の展開に元ネタとしてダイレクトに絡んできそうな予感がします。
小紫がゾロに恋をする展開になったりしそうじゃないですか? これは落語とはちょっと遠い話なのですがあくまで余談として。
さて、三枚起請という噺では、
三千世界の鴉(からす)を殺し
ぬしと朝寝がしてみたい
という都々逸がキーワードになっています。
吉原のなかで一夜限りの恋をして、でも朝が来たらまた別れなくてはならない。いっそ世界中のカラスを殺して、朝を迎えることなくあなたとずっと寝ていたいわ…。
という意味の色っぽい都々逸です。昔は、ニワトリではなくカラスが鳴くことが夜明けの表現でした。
ONE PIECEでいうと、ゾロの必殺技の名前がまんま「三千世界」だったりします。
三千世界という単語自体は仏教用語なので、落語が元ネタという訳ではないのですが、花魁×剣士ときたら、このワードが登場している「三枚起請」という落語は聴いておいて損はないように思います。
ワノ国編が終わる頃にはゾロと小紫の別れのシーンが描かれることになると思うので、元ネタになりそうな三枚起請を通して
・花魁との結婚を約束する起請文
・三千世界の鴉を殺し…という都々逸
あたりを予習しておくといいかもしれません。
そうでなくても、花魁の手のひらでコロコロ踊らされる三枚起請という噺自体が痛快で面白い落語なので、これを機にぜひ触れてみてください!
以上です!
長々と失礼しました。
落語は「堅苦しい」「難しそう」「古臭そう」というイメージを持たれがちで、敬遠されやすいジャンルです。
ただ、尾田栄一郎先生をはじめ、藤子・F・不二雄から夏目漱石まで数々のクリエイターを魅了してきたエンタメでもあります。
考えてみれば、100年以上も昔に生まれた噺が現代でも面白いものとして伝わっているということは、その面白さには100年分の品質保証が付いているってことです。深く考えずに、一度その文化に触れてみてください。
落語聴いてるってだけでちょっとカッコいいでしょ? せっかくだから是非是非!
それでは、最後に尾田栄一郎先生の言葉を引用して終わります。
落語楽しいよ! みんなどうせ興味ないんでしょ(泣)
──尾田栄一郎 SBSにて
みんな興味持ってくれ!!
(おしまい)