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【政治】ハンセン病 家族補償法成立 被害回復へ周知課題ハンセン病元患者家族への補償法と、名誉回復を図る改正ハンセン病問題基本法が十五日、成立した。元患者への謝罪、補償から十八年遅れで、家族の被害回復が前進した。二万四千人とみられる補償対象者への制度の周知が課題。政府はホームページやポスターなどで申請を呼び掛け、来年一月末にも支給を開始する。家族関係の修復や偏見差別の解消にも力を入れ、当事者らの意見を踏まえ具体的施策を策定する。 法成立を受け、加藤勝信厚生労働相は「私自身先頭に立ち、補償実施や偏見差別解消、家族関係回復に取り組む」と強調。家族訴訟弁護団は「被害の全面解決に向けて大きな前進をもたらす」とのコメントを発表した。 両法は議員立法。今月二十二日からの施行を目指しており施行日から補償金の受け付けを始める。補償法は国の強制隔離政策で家族が受けた苦痛や苦難に対し国会と政府による反省とおわびを前文に明記。精神的苦痛への補償金として元患者の親子や配偶者らに百八十万円、きょうだいらに百三十万円を支給する。六月の熊本地裁判決より、補償額と補償の対象とする「家族」の範囲が拡大された。 厚労省によると、補償金を受けるには、元患者の家族と証明する資料とともに国への申請が必要だ。資料で確認ができない場合は、外部有識者による認定審査会の審査を経て厚労相が認定する。委員には国立ハンセン病療養所長や裁判官の経験者らを想定している。 請求期限は法施行後五年以内で、早ければ来年一月末から支給開始。死亡した原告は補償対象に含めず、省令で同額の特別一時金を支払う。同省は必要経費を約四百億円と見込んでいる。 改正基本法では、差別禁止や名誉回復、福祉増進の対象に、元患者だけでなく家族も追加した。国立療養所の医療や介護の体制充実を努力義務とする。また高齢化が進む元患者の医療・介護環境を整備し、国立ハンセン病療養所に勤める医師の兼業規制を緩和する。 ◆「国が正しい知識広めて」 迫害の歴史、なお残る差別ハンセン病の元患者が身内にいることを理由に、差別に苦しんできた。法廷闘争の末補償を勝ち取った家族は安堵(あんど)できるのだろうか。「これが救済を求める運動の終わりになってほしい」と願う一方、なお残る差別の深刻さに、心から喜べない人もいる。 補償法は訴訟の原告以外も対象となる。福岡市在住の林力原告団長(95)は「これまで存在を隠して生きるしかなかった人も運動の成果を受けられる」と話し、差別被害を恐れて訴訟に参加できなかった元患者家族をおもんぱかった。 原告に加わらなかった宮崎県のある男性(70)は、補償を申請するかどうか決めていない。父と姉が元患者。子どものころ、家の前を通る近所の住民は鼻をつまみ、自身の就職でも差別された。刻まれた苦い記憶は拭い切れない。 「長い迫害の歴史があり、今も家族が元患者だと打ち明けられる環境ではない。社会の在り方が変わらなければ意味がない」。周囲の目を気にし、息子たちには家に来ないよう伝えていたが、今度の正月、五年ぶりに会って補償を受けるかどうか話し合うという。 林原告団長は「隔離政策で苦しめた国の罪が、これ(家族補償法の成立)であがなわれたわけではない」とも強調。「無知は差別の始まりだ。国はこれから、ハンセン病の歴史と正しい知識を国民に広めるよう、力を尽くしてほしい」と求めた。 PR情報
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