清義明(せい・よしあき) ルポライター
1967年生まれ。株式会社オン・ザ・コーナー代表取締役CEO。著書『サッカーと愛国』(イースト・プレス)でミズノスポーツライター賞優秀賞、サッカー本大賞優秀作品受賞。
【3】チャイナ・レイバー・ネット編集委員 區龍宇氏
ところで、香港の抗議運動で、若者は「カエルのぺぺ」のイラストを使用している。あれはもともとアメリカのオルタナ右翼がつかっていたインターネット・ミーム(ネット上の流行)だったはず。アメリカであれがオルタナ右翼がネットで使うイラストだということを知らないものはいないだろう。そのカエルのぺぺを使い始めたのは、オルタナ右翼の思想に共鳴する本土派が使いはじめたのではないか。
「そう考えるのが合理的でしょう。ただ、香港の若者はそういう背景をまったくわかっていないと思います。香港の若者たちの政治運動の経験は浅く、右翼であるとか左翼であるとか、そういう観念は彼らにありません。『独裁の味方か民主の味方か』『北京の敵か味方か』という観点しか彼らにはないのです。皆、香港の中だけで考えています。反北京中央政府以外はどうでもいいのです」
「先日、私は取材のためにドイツにいました。そこでドイツ人は、香港のプロテスターがドイツの国旗をふっているのを報道で見てびっくりしていました。ドイツでは、リベラルは国旗を振るのを嫌がります。日本のリベラルもそうでしょう」
このあと、區氏は日本の右翼政治勢力が香港であたかも日本人の代表のようにふるまっている姿についても苦言を呈している。また香港の本土派の一部が日本の極右ともいえる勢力と連携していることについても批判した。香港の若者は筋の悪いピーナッツをつまんでしまっている。
さて、その彼らが主張する「香港独立」についてどう思うか。また本土派のいう香港の民族主義についてどのように思うのか。
「北京の中央政府はこの運動を『香港独立運動』だと言いますが、これはまったく間違いです」
実際に、香港独立という可能性を本土派は最終目標としているが、その可能性は現状では非常に低いと言わざるを得ない。「水も軍隊もないのにどうやって独立するというのか?」。 香港独立と聞くと、ほとんどの香港人はそう答える。
「1980年代まで、香港には中華民族主義に強い親近感がありました。その頃『我是中国人(わたしは中国人だ)」というポップソングは香港で良く歌われていました。中国は改革開放されて良くなってきていると思っていたからです。では何がそれを変えたか。何が今の若者に中国人になりたくないと思わせるようになったのか。もちろんそれは北京政府です」
それでは、それに反発して香港に沸き上がる香港民族主義や独立論は今後どうなるのか。
「先日ある香港のある資本家が語ったという記事を読みました。彼はこう言うのです。『全ての預金をシンガポールに移してから、僕は座って泣き始めました。お金を持っても自分は何の価値もありません。結局だだの難民です。中国人にはなりたくありません。香港人になりたいのです。でも香港は中国の一部になってしまったから、僕は嫌でも中国人になってしまう。別の国にいたとしても、そこは母国ではありません。僕って何なのでしょうか?』と」
「私たちは、150年間アイデンティティーを剥奪されてきました。かつて私達は身分証を作る時、イギリス人にこう聞かれました。『国籍はどこですか?』。イギリス人だと答えたら違うと言われました。しかし私たちはその時、中国人ですらなかったのです。それでは、私は誰なのか?」
「この運動を『民族主義運動』で説明することを私はしません。でも香港人は自決を得る権利はあると思います。この自決主義を、ナショナリズムではなく、民主、平等と政治的な自由のもとで築くべきです。それが香港人がこれから選ぶべき道です。そして最終的に中国とのつながりを切るのは正しくありませんし、不可能です。香港では、中国にいる肉親や親せきがいる人はたくさんいます。家族は国境線を越えてつながっています。香港と台湾の違いはそれです」
かつてベネディクト・アンダーソンは、第二次世界大戦後にアジアの植民地がナショナリズムの高揚をきたした現象を分析し、そのナショナリズムがフィクション(『想像の共同体』)であるということを喝破した。ところが香港の民族主義者はこの『想像の共同体』概念を裏返した。そこから「香港民族論」は出来上がる。それを唱える本土派の香港での支持率はじりじりと上がり続け、若者の間ではすでに穏健民主派を上回っている調査もある。
その香港民族主義が、かつての高度成長時代の香港の経済を支えた輸出品、「香港フラワー」と呼ばれたプラスチックの造花のようなフェイクなのか、それとも香港島の岩肌ばかりの山々に根付いて、しっかりと花を咲かせるのか。その答えは香港の暴力が吹き荒れる夜の街路の風に舞っているように思える。(全3回終わり)
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