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多彩な攻撃に正確なパス データで見るラグビー日本

ラグビーW杯
2019/11/15 3:00

多彩な攻撃パターンからトライを奪える。多くのパスを正確に届けられる――。今回のワールドカップ(W杯)で初の8強に進んだラグビー日本代表の特長は、数字にも表れていた。

データ会社STATS社と国際統括団体ワールドラグビーのデータを用いて、各チームや選手を比較した。

今回の日本の戦いをよく表しているのが、トライの起点となったプレーである。

アンストラクチャーからの攻めに成長の跡

起点にはスクラム、ラインアウト、ターンオーバー(攻守交代)、カウンター(キックからの逆襲)などがある。優勝した南アフリカ、準優勝のイングランドなど全20チーム中10チームはラインアウトからのトライが4~7割を占めた。ラインアウトは、ラインアウトに並ぶ人数を攻撃側が決められるうえ、ボールを獲得した時に防御ラインとの距離が10メートル離れているため、攻めやすい条件がそろっている。

南アフリカ戦の前半、倒れながら姫野(左)にパスを出すリーチ。パスの回数と正確性で日本は全チーム中、トップだった

南アフリカ戦の前半、倒れながら姫野(左)にパスを出すリーチ。パスの回数と正確性で日本は全チーム中、トップだった

これらを「ラインアウト型」と呼ぶとすれば、日本は「バラエティー型」と言えそうだ。ターンオーバーからのトライが31%と、ラインアウトと同率だった。カウンターからのトライも23%にのぼった。

日本のトライの過半数の起点となったターンオーバーやカウンターの局面は、「アンストラクチャー」と呼ばれる。ラインアウトなどのセットプレーと違い、お互いの陣形が乱れた状態という意味である。

4年前の日本は1次リーグで計9トライを挙げたが、アンストラクチャーからは0本だった。当時のエディー・ジョーンズ・ヘッドコーチ(HC)は大会前から「アンストラクチャーは日本の課題」と指摘。W杯本番では苦手分野を封印するような割り切った戦いで3勝を挙げた。

2016年に就任したジェイミー・ジョセフHCは、逆にアンストラクチャーからの攻撃を旗印に掲げ、キックを増やす戦いに挑戦した。その成果が今大会の多彩な攻めにつながった。

日本同様にアンストラクチャーからのトライが多かったのがジョセフHCの母国、ニュージーランド(NZ)である。今回の日本は同HCの指導の下、「ラグビー王国」に似たタイプのチームに変貌していた。

パスの数はトップ、セットプレーも健闘

日本がトップとなったプレーもある。それはパスの質と量だ。1試合当たりのパス回数は平均の123本を大幅に上回る174本で、全チーム中最多だった。パスミスの割合も3.3%と、1位アイルランドの3.2%に肉薄する2位だった。

今回の日本はアンストラクチャーを増やすため、キックの割合を高めていた。ただ、いったん展開するとなれば、速いパスを複数回使って大外まで回す場面が多かった。前回大会に続いて、正確なパスが日本の躍進を支えていた。

セットプレーの健闘も大きかった。全5試合を通して、ラインアウトの成功率は87%(全チーム中13位)、スクラムの成功率は93%(11位)と平凡な数字だった。ただ、これは準々決勝の南ア戦で大きく数字を落としたことが響いている。1次リーグ終了時点の成功率はラインアウトが4位、スクラムは7位だった。

アイルランド戦でスクラムを組む堀江(中央)と稲垣(手前)、具のFW第1列。日本のスクラムはこの4年間の進歩を示した

アイルランド戦でスクラムを組む堀江(中央)と稲垣(手前)、具のFW第1列。日本のスクラムはこの4年間の進歩を示した

4年前からの進歩の跡もみられた。相手ボールのスクラムで奪ったペナルティーやFKは前回大会の1度から4度に増えた。「今までなかなか相手ボールにプレッシャーを掛けてペナルティーを取れなかった。それをティア1(の強豪国を相手)にできたのは大きな喜び」とプロップ稲垣啓太(パナソニック)は話す。ラインアウトでも、相手ボールを奪った割合は4年前から倍増した。

密集戦での善戦も効いた。ラックができてからボールを出すまでに要した時間を見ると、相手の防御ラインが整う前に攻めていける「3秒以内」の割合が56%だった。全チーム中3位で、ゲームのテンポを速めたい日本にとっては追い風となった。

安全性を重視、レッドカード急増

日本は選手個々でも、複数の分野で突出した数字を残している。3試合以上出場した全チームの選手を対象に、1試合平均の数字で比較した。

タックル数は、フランカーのピーター・ラブスカフニ(クボタ)が16.8回で、ジョニー・グレイ(スコットランド)に次ぐ全選手中の2位だった。ロックのジェームス・ムーア(サニックス)も4位につけた。相手を後退させるようなドミナントタックルでは、ロックのトンプソン・ルーク(近鉄)が3.5回で2位に入っている。いずれも日本の土台となった堅守を表す数字である。

ナンバー8姫野和樹(トヨタ自動車)はブレイクダウンでのボール奪取を1試合平均で1回成功。1.4回のアーディー・サベア(NZ)に次ぐ2位タイだった。ボールを持って前進した距離では、WTB松島幸太朗(サントリー)が101メートルを走り、152メートルのセミ・ラドラドラ(フィジー)らに続く5位に入った。

ウェールズ戦の後半、レッドカードで退場するフランスのバハマヒナ(中央)

ウェールズ戦の後半、レッドカードで退場するフランスのバハマヒナ(中央)

全体のデータからは、W杯自体の変化も見える。日本ほど極端ではないが、アンストラクチャーを重んじる傾向は大会全体にも共通する。ラインアウトやキックオフからのトライが減った一方、ターンオーバーやカウンターのトライの割合は前回に比べ2倍近くに増えた。発達した組織防御を破るため、守備側が準備しにくいキックや攻守交代からの攻撃が増えているためだ。

スクラムの多い大会でもあった。1試合平均で18回と、4年前の13回から大きく増えた。高温多湿の環境やハイボールの多用によりノックオンが重なったことなどが原因だろう。重要性が高まったスクラムでの健闘は今大会の日本の躍進を支えた。

レッドカードの急増も今大会の象徴といえる。一時退場となるイエローカードの数は4年前から激減したが、一方で、レッドカードは1枚から8枚に増えた。大会序盤の基準が厳しすぎたとして、中盤以降はその数も減ったが、レッドカードが試合に与える影響は絶大だ。タックルの高さの規制など、安全性を重視する流れは今後も強まる方向。ラグビーのあり方も徐々に変わっていくのかもしれない。

(谷口誠)

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