辞書作りの世界を描いた『舟を編む』、どれくらいリアルだったんです? 映画版制作に関わった『大辞林』編集長インタビュー (1/3)
というか、リアルの方が辞書愛が試される展開になってません?
制作期間10余年、数十人規模の制作チーム、かつて膨大な手作業により指紋が消失する者もいた。――― これは巨大な建造物ではなく、“辞書”という1冊の本の話です。2019年9月、大型国語辞書『大辞林』(三省堂)から、13年ぶりの全面改訂となる第4版が刊行。本記事は、映画『舟を編む』の制作にも関わった編集長・山本康一さんへのインタビュー企画となります。
ねとらぼのTwitterアカウントで質問募集を行ったところ、やはり多かったのは「本当に『舟を編む』のように辞書を作っているんですか?」というのもの。同作は辞書づくりの現場がリアルに描かれている一方、山場の「『血潮』という言葉が1つ抜けていたために作業を全て中断し、膨大な確認作業を始める」というシーンなどに関しては、時代の変化で少しだけ変わってしまった点もあるのだとか。
話題を集めた『舟を編む』、どれくらいリアルだった?
取材参加者
- 山本康一さん:『大辞林』第4版編集長
- ながさわさん:数百冊の辞書を保有する辞書コレクター。暇さえあれば辞書を引いている
- ねとらぼ編集部
――― ねとらぼ読者から質問を募った結果、『舟を編む』に関する質問が最多でした。やっぱり業界内でも有名な作品なんですか?
編集長:もちろんですよ、この業界の人は皆触れているでしょう。知らなかったらモグリですよ(笑)。
『大辞林』の初代編集長・倉島(節尚/くらしまときひさ)が辞書の制作過程などについて書いた本があるのですが、三浦しをんさん(原作小説の作者)はそういうのをよく読んでいて、非常にリアリティーのある作品だと思います。基本的にはあの通りですね。
ながさわ:映画版で取材協力してましたよね。
編集長:そうですね。小説のときは小学館さん、岩波さんに取材されていて、うちには声が掛からなくてガックリ来たんですが(笑)、映画は「ぜひやってほしい」ということで。当社にロケハンも来ましたし、私は脚本の初稿段階からミーティングに参加していました。
これはかつて当社で実際に使っていた「用例採集カード」、こちらは映画で使われたレプリカです。
――― 新しく見つけた言葉を記録するカードですよね。これって文房具メーカーが作っているんですか? 用例採集している人はかなり少ないと思うのですが
編集長:いえ、これは『大辞林』専用に作ってもらっていました。昔は、これが机にドカッと置かれていて。使い方はいろいろで言葉の意味を書いたり、出典資料をそのまま貼ったり。当時は、けい線を無視してメモ代わりにもしていましたね。
用例採集のやり方は今も昔も変わりませんが、デジタル化の流れでツールは変わってきています。今は社内データベースもあるし、私の場合はタブレット端末から「Evernote(エバーノート)」で。
ながさわ:(編集長のタブレットを見ながら)語や用例だけでなく、出典資料までちゃんと画像で保存してるんですね。
編集長:以前は新聞をパシャっと撮影していたんですが、『大辞林』の制作作業が忙しくなったとき「電子版なら電車内でも作業できるぞ」「スクリーンショットでいけるから、けっこう楽だな」と。おかげで会社に来る時間が早くなっちゃいましたよ。
ながさわ:私も用例採集しているのですが、原典までは記録できていないので参考にさせていただきます。
――― 「用例採集している人はかなり少ない」と言ったばかりなんですが、なぜ……?
ながさわ:趣味です。しっかりやりたいですね。
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