組織のトップに立っていた人間が、知らなかったでは通らない。文部科学省で、'09年頃から人事課OBを通じた組織ぐるみの再就職の斡旋が行われてきたことが発覚した。
事務次官の前川喜平氏(62歳、'79年旧文部省入省)が引責辞任したが、退職手当5610万円は受け取るつもりだという。
官僚の退職金は「俸給月額」をベースに算出される。事務次官の俸給月額は、117万5000円。これに「勤続期間別支給率=43.413」が乗じられ、さらに役職に応じた「調整額」が上乗せされる。前川氏は局長や官房長を歴任してきており、それも加味されて5610万円もの高額退職金になったわけだ。
前川氏はこれを受け取り、このまま逃げ切るつもりのようだ。
官僚の再就職について、国家公務員法は省庁の斡旋や在職中の求職活動を禁じている。ところが、文科省はそんな法律などお構いなしに、組織的に官僚の天下り先を用意していた。
その仕組みを文科省関係者が明かす。
「人事課のOBが、文科省の退職予定者の求職情報と、学校法人や民間会社からの求人情報を人事課から入手し、そのOBが『マッチング』を行って、再就職先を斡旋していたのです。これらは明らかな法律違反です」
吉田大輔・前高等教育局長の早稲田大学教授への「天下り」斡旋も、こうした手口だった。
さらに悪質なのは、文科省側はこうした行為の違法性を認識しており、内閣府の再就職等監視委員会の調査に備えて、吉田氏や早稲田大学側に対して虚偽の仮想問答を準備。
そこには、実際には同省の人事課が早稲田大学に働きかけたにもかかわらず、吉田氏が退職後、自発的に面接を受けて、採用に至ったと記されていた。
なお、早稲田大学は吉田氏を年収1400万円で教授として迎えた。
この問題を追及する民進党代議士で元経産官僚の後藤祐一氏が言う。
「より問題が大きいのは、吉田前局長です。彼は文科省を定年退職したため、満額の5260万円をきっちり受け取っています。
その後、再就職が違法行為によるものだったことが認定されたのにもかかわらず、法的にこれを返還させる仕組みがないのです」
世の中のサラリーマンのほとんどは定年後、会社に再就職先を斡旋してもらえることなどない。仮に雇用延長をしたところで、現役時代に比べて大幅に安い給料になる。
ところが、文科省では組織が斡旋してくれるばかりか、高待遇が用意されていたのである。
「時代は変わったのに、役人の世界が何も変わっていなかった」
こう嘆くのは、天下り問題に詳しい千葉大学名誉教授の新藤宗幸氏だ。
「'07年に国家公務員法が改正され、天下りが原則禁止になりました。その後、監視委員会も作り、各省庁の人事課が天下りを斡旋することは禁じられたことになっています。
しかし、当時から私は『あれはザル法。見かけを整えただけで、抜け穴はいくらでもある』と繰り返し指摘してきました。
今回は人事課が直接天下りに関与していましたが、OBを使って外部に斡旋組織を作れば、法の目をくぐり抜けることは簡単です。
天下りの問題は、官庁の許認可権限の影響力を受ける団体に、権限を行使する側の重要ポストにいた人間が就任することにあります。今回は高等教育局長が、高等教育を行う早稲田大学に天下ったことが問題なのです。
同時に、自分たちに有利な取り計らいを期待して受け入れた側にも責任があります」