コラム

東京五輪の中高生ボランティア、問題は「動員」よりも「引率」

2019年11月14日(木)17時40分
東京五輪の中高生ボランティア、問題は「動員」よりも「引率」

来年の東京五輪開催に向けて準備は着々と進んでいるが Michael Madrid-USA TODAY Sports/REUTERS

<五輪ボランティアを中学・高校から動員するのも良くないが、それを教員が引率するというのではまったくの子ども扱い>

2020年の東京五輪・パラリンピックの開催が迫ってきました。すでにボランティアの研修もスタートしています。その一方で、東京都は観戦客などへの観光案内などをするボランティアとして、都内の中高生を募集する計画を立てているようです。

具体的には、対象学年は中学2年生から高校3年生で、人数としては約6000人を募集する計画だそうです。これに対して、NHKの報道によれば「具体的な人数が学校ごとに割り振られ」ており、学校によっては「半ば強制的に参加を求められている」ということが判明したそうです。

NHKは専門家に取材し、「ボランティアで大切なのは自発性や主体性」であり、それが「保証されずに行うのは奉仕活動」であるとか、「上から強制という形でやるとか、創意工夫がない形でやらされると、やらされた受動的な経験となってしまう」といったコメントを引き出しています。

どういうことかというと、実際は中学校の場合、5人の生徒と引率する教員1人が割り振られ、学校によっては半ば強制的に参加を求められていたようで、NHKは「関係者への取材」で判明したとしています。

確かにそうなのかもしれません。学校によっては内部での選考においても、任意性は無視され「成績のいい生徒から順に選ぶ」とか、「推薦入試の対象になって受験勉強が忙しくない生徒に割り振る」というケースがあるかもしれません。

さらに言えば、「受験校の生徒ばかり選ばれるのは不公平」だとか「底辺校の生徒ばかりでは役に立つのか?」などという「雑音」への防衛本能として「1校あたり5人」という枠が作られたのかもしれません。

そう考えると、様々な「大人の事情」が重なって「一律に1校5人」という判断になっていくことはあり得そうです。まったく良いことではありませんし、中高生という多感な時期に「ボランティアとは任意による善意の表現」だという人間社会の根幹の価値を実地で教えられないのであれば、極めて残念です。

それはそうなのですが、私は「任意性を無視した動員」よりも「教員の引率」という点が引っかかりました。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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