「ヤフー」の運営会社とLINE(ライン)が経営統合する方向だ。実現なら国内最大のIT企業が生まれる。米中の巨大ITへの対抗が狙いだが、個人情報保護など課題も指摘せざるを得ない。
検索サービス「ヤフー」を持つZホールディングス(HD)と無料通信アプリを手掛けるLINEは、経営統合することで月内合意を目指している。ZHDの筆頭株主のソフトバンク、LINEの親会社、ネイバーが半分ずつ出資して会社を立ち上げ、ヤフーとLINEをぶら下げる。
LINEは日常のやりとりができる無料通話サービスなどで、国内で八千万人、タイなど国外を合わせると一億六千万人の顧客を抱える。スマホ決済「LINEペイ」も展開しているが今年一~九月期連結決算は赤字だった。
携帯電話を軸とした事業から投資会社へと変貌を遂げるソフトバンクが、LINEの持つ顧客とそれに伴う膨大な個人データの活用に照準を合わせているのは間違いないだろう。同時に検索やネット販売を軸とするヤフーと通信中心のLINEは事業面で競合部分が少なく、統合効果という意味では高く評価できる。
だが不安もある。ソフトバンクは米国の共有オフィス運営会社ウィーカンパニーへの大型投資で損失を出し、グループ全体の九月中間連結決算で赤字に陥った。さらにZHDを通じ、ネット衣料品通販大手のZOZO(ゾゾ)も約四千億円で子会社化した。
巨額支出が続く中、海外の投資先の業績が悪化しているケースがある。七兆五千億円を超える有利子負債も抱えている。経営悪化が日本経済全体の重しになるレベルの企業なだけに、強気一辺倒の投資行動を省みる姿勢も必要ではないだろうか。
政府は内閣官房に「デジタル市場競争会議」を設置し巨大IT企業への規制に乗り出している。個人情報の行き過ぎた活用や、優越的立場を利用した顧客や取引業者への圧力防止が狙いだ。
主な規制の対象はグーグル、アマゾンなど「GAFA」と呼ばれる米国の巨大IT企業だ。しかし、IT企業をめぐる課題は国内企業についても公正取引委員会の調査で指摘されている。
ソフトバンクとLINEは人々をつなぐ通信事業を持っている。災害などが起きたとき、それは命を支え合うラインでもある。双方の経営者には公益事業を担うより強い意識を求めたい。
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