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「#KuToo」石川優実さんはなぜTwitterのクソリプに反応し続けるのか

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「#KuToo」発起人の石川優実さん

 2019年10月、グラビア女優でライターの石川優実さんが、英BBCが選ぶ世界の人々に影響を与えた「100人の女性」に選出された。きっかけは今年1月、石川さんがTwitterで、女性が仕事中にヒールやパンプスを強要されることへの疑問をつぶやいたことだった。そのツイートは多くの女性たちの共感と「いいね!」を集め、「#KuToo」運動(「靴」と「苦痛」と「#MeToo」をかけ合わせた造語)が始まった。 

 6月、石川さんは1万8800の署名とともに「職場における女性に対するヒール・パンプスの着用指示に関する要望書」を厚生労働省へ提出。10月にはKDDIが社員の服装規定を廃止したことが報じられ、ソフトバンクやNTTドコモもパンプス以外の靴を認めるようになった。石川さんが発起人となった「#KuToo」は大きなうねりとなり、世の中を変えつつある。

 しかし一方で、石川さんのTwitterには「#KuToo」へのバッシングや、個人攻撃まがいのリプライ――いわゆる”クソリプ”が後を絶たない。「#MeToo」でも見られたようなフェミニズムへのバックラッシュともいえるが、石川さんは根気強く”クソリプ”に返答し続けている。Twitterのブロック機能を使って無視する、という選択肢もあるが、石川さんが立ち向かうのはなぜなのか。

 11月12日、その軌跡が記録された『#KuToo(クートゥー): 靴から考える本気のフェミニズム』(石川優実著/現代書館)が上梓された。同書には、石川さんとクソリプの闘いが100ページにもわたって収められていてまさに圧巻。石川さんはいったいどんな思いで、どんな理由で、この大量のクソリプに言葉を返してきたのだろう? ご本人に話を聞いた。

石川 優実(いしかわ・ゆみ)
1987 年生まれ。グラビア女優・フェミニスト。2005 年芸能界入り。2014 年映画『女の穴』で初主演。2017 年末に芸能界で経験した性暴力を#MeTooし、話題に。それ以降ジェンダー平等を目指し活動。2019 年、職場でのパンプス義務付け反対運動「#KuToo」を展開、世界中のメディアで取り上げられ、英BBC「100 人の女性」に選出される。

Twitterが可視化した「物言う女」への批判

――新刊『#KuToo(クートゥー): 靴から考える本気のフェミニズム』を上梓された経緯をお話いただけますか。

石川:版元の現代書館さんとは以前からお付き合いがあって、「女性向けのヌードがもっとあってもいいと思う」とお話したことをきっかけに、11月7日に発売された『シモーヌ(Les Simones)Vol.1』 で「ヌードになりませんか?」とお声がけいただいたんです。その撮影日が「#KuToo」の署名を厚労省に提出した直後くらいで、担当編集さんに「ブログやnoteなどとは違って収益につながらないのに、クソリプに返信して大変ですね」と声をかけていただき、その流れで「本を出しませんか?」というお話をいただきました。

――同書には膨大なクソリプが収録されていますが、クソリプへの応酬が起点となった本だったんですね。

石川:私が「女性にだけヒールのある靴を規定するのは女性差別だからやめて下さい」という活動を始めた時のTwitterの反応には、まさに女性差別が現れていて、それをクソリプたちが可視化してくれたなと思いますね。

――石川さんのTwitterを見ていると、まさに「#KuToo」がバックラッシュ(=男女平等や男女共同参画、ジェンダー運動などの流れに反対する運動・勢力)に遭っている状況がよく分かります。

石川:足を引っ張ろうとする人たちがたくさんいますよね。クソリプに書かれていることは、現状が変化しないでほしい、変わっていくのが怖いという人たちの気持ちでもあるのかなとも思うんですけれども。

――「ハッキリと物言う女」への批判が、石川さんにも向けられているように見えます。

石川:2017年に「#MeToo」にからめてグラビア時代の性接待の強要のことなどをnoteに書いた頃は、私もまだ自分のことを責めるような気持ちがあって、「私も悪かったんです」という感じで、謙虚に書いていたんです。ただ、今年になって「#KuToo」を始めたときは、それから時間が経っていたこともあって、態度が結構大きくなっていたんですよ(笑)。

 「#MeToo」の後、フェミニストの先輩たちに「被害者が悪いんじゃなくて、加害者が完全に悪いんだよ」と教えていただいて、私もフェミニズムについて勉強をしているうちに、これからも活動をしていくならいつまでも「自分が悪い」と思っていちゃだめだなと気づいたんです。それでTwitterでも度胸が据わったんです。

 「#KuToo」のきっかけとなったツイートに対しても、「男だって大変な思いをしている」「なぜわざわざ男の人の靴を比較対象に出すのか」とか言われたりしたので、私が「うるせえな」みたいな感じでリプライをしていたら、今度は「性格悪い奴が運動を始めた」「社会運動はそういう態度でやるものじゃない」みたいなことも言われましたね。でも、その態度は誰が決めるんだって話なんですよね。

「女性の足は大人になるとヒールを履ける形になる」というクソリプ

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クソリプにも真っ向勝負

――新刊では、100ページにも渡って実際に石川さんが受けたクソリプを紹介していて、さらに石川さんがそのひとつひとつを分析したうえで解説やコメントを入れているのがとても面白かったです。アカウントごと引用している点が画期的だなと思いました。

石川:クソリプはスクリーンショットに撮って保存しているんですが、本に載せるにあたっては約50種類のクソリプを厳選しました。推敲の時点では、倍の100種類近くはありましたね(笑)。

 公表された著作物は、引用して利用することができるという著作権法第32条を担当編集さんに教えてもらいました。今回の書籍はクソリプを飛ばす人たちのメンタリティを研究するという正当な範囲内で引用しています。最初は相手のアカウント名まで載せるのはどうなんだろうって話にもなったんですけど、引用のルールに則ると出典を明示することが必須なのでアカウント名を入れました。書籍からの引用も、著者を明記しますよね。私としては「責任を持って書き込みしないとこうやって使われることもあるぞ」と示したい気持ちもあって、最終的にはアカウント名も載せました。URLも載せていて、きちんと法に則って引用しているので、もし変に絡まれたとしても問題はありません。

――これまで有名人・芸能人の方は、バッシングや誹謗中傷され放題なのに、一般人相手だとアカウント名までは明かしにくいし、遠慮してしまうという空気があったと思うんですけど、もしかしたら今後、石川さんのようにアカウントを引用して反論する人も出てくるんじゃないかと思いました。

石川:ぜひそうしてほしいと思います。クソリプを送ってくる人は気軽に発しているかも知れませんが、当たり前ですけど何でもかんでも言っていいわけではないんです。クソリプの先には受け取る人間がいるということを、きちんと分かってほしいなと思います。

――石川さんが特に印象に残っているクソリプはどれですか?

石川:「女性の足は大人になるとヒールを履ける形になる」とか主張していたクソリプには参りましたね。このトンデモツイートは「何言ってんのw」って感じで反響も大きかったので、ベスト・オブ・クソリプとして認定させていただきました。

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「女性の足は大人になるとヒールを履ける形になる」と主張したベスト・オブ・クソリプ(『#KuToo(クートゥー): 靴から考える本気のフェミニズム』より、以下同)

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石川さんの解説&コメント

 ほかにも、「女性にはペニスがないため突起物であるハイヒールを身に纏いたいという潜在的な願望がある」と主張する男根至上主義的なクソリプもインパクトが強かったです。突起物って……(笑)。

 あと、私は葬儀場で働いていたので「故人様をお見送りするときにはパンプスを履くのが当たり前です」みたいなのもいくつかありました。男性はパンプスなんて履いてないし、私は失礼とされることに性差があるのがおかしいって言っているのに、勘違いされちゃってるんだなって。

 今でも見返していてイヤだなと思うのは、「石川優実じゃなくてもっと誠実な人がこの運動していたらもっと署名が集まったのではないかと思います」というクソリプ。 ほかにも「こんな運動しなければあなたが脱いでいたことは知られずにいたのに、親がかわいそう」というのもムカつきました。この人はきっと、私や私の親が脱ぐことを恥じていると勝手に思っているようですけど、それはこちらが決めること。勝手に決めつけられるのは本当にイヤだなと思います。

――「#KuToo」に対して「女尊男卑が目的なのか」と言っているのに対して、石川さんが<女性が平等を訴えるとなぜか女性優遇を求めていると解釈する人はとても多い。それは男女平等でない現状を理解できていないからじゃないのかなぁ>とコメントされていたのも印象的でした。もしかしたら、このように誤解している方も多いのかなと思います。

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「女尊男卑が目的だ」と主張するクソリプ

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石川さんの解説&コメント

石川:そう思います。女性専用車両について文句を言う人も同じなのかなと思うんですけど、女性専用車両は実際に痴漢問題があるから必要とされているものですよね。一部の人は、それを単に女性が楽するためにあるものだと思っているようなんですが、なぜ女性専用車両ができたのかってことが全然見えてなくて、「フェミニスト=女尊男卑や女性優遇を求めている人たち」と誤解しているんだと思います。

 また、「ヒールを履きたい女性の邪魔をするな」ということを言われたこともありました。でも、私はヒールを履きたい人にはもちろん履いてほしいし、履くか履かないかを選べるようにしたい、ということをずっと言ってきたんですけどね。クソリプの多くは私の主張への誤解からくるものですが、話を聞かない、聞けない人もたくさんいるんだなと思います。

クソリプに返信し続ける理由

――それにしても、日々これほど膨大なクソリプに返信し続けるのは容易なことではないですよね。石川さんは、なぜクソリプに返信し続けるんですか?

石川:グラビアの仕事をやってきて、これまで2ちゃんねるやAmazonのレビューにクソリプと同じような人格攻撃や侮辱の言葉をたくさん書かれてきたからです。以前は「私がグラビアの仕事をしているからだ」「売れないから仕方ない」「私が悪いんだ」と思い、黙って見過ごしていました。グラビアをやっていたけれど、誹謗中傷に傷ついて辞めちゃった子も見てきました。

 ただ、芸能人だからといって何を言われても我慢しなきゃいけないとか、言い返すのはみっともないとか言われたりするのは絶対おかしいとずっと思っていたんです。Twitterって、2ちゃんねるやAmazonレビューとは違って、やり取りができるじゃないですか。それもあって、今はちゃんと言い返していこうと思っています。

――精神的に辛い時はありませんでしたか?

石川:誹謗中傷まがいの言葉はグラビアの頃から受けていたのでそんなに辛くはなかったんですけど、「#KuToo」の運動が大きくなるにつれて、私の勤務先の葬儀場を特定しようという動きもありました。勤務先に迷惑がかかるといけないので、そのお仕事は辞めたんですが、その時は本当に辛かったです。

 ただ、クソリプと闘っているといいこともあって。たとえば、やっぱり最初は穏やかに物事を解決しようとして下手に出ちゃうんですけと、その時点で自らの立場を下げているようなものなんだということに気がついて、それからは自分のためにもきちんとブチギレていこうと決めることができました。あとは、こうしてインタビューなどでスラスラと回答できるようになったのは、クソリプに言葉を返すために自分の気持ちや疑問を言語化するトレーニングが生きているのかも。

――クソリプとのやり取りのおかげで、言葉の引き出しが増えた?

石川:そうなんです。たとえば「グラビアをやっているくせに」とクソリプを飛ばされた時、相手は私がグラビアをやっていることについて何がおかしいと言いたいのか、そして自分はその言葉の何に怒っているのか、すぐには分からなかったんです。でも、クソリプについてじっくり考えると、この人は「グラビアを仕事にしている人は社会運動しちゃいけないと思っている=グラビアを仕事にしている人は女性差別にあっても仕方がないと思っている=グラビアを仕事にしている人を差別している」ということになるのか……と分かったんです。

――石川さんが返答を続けることで、誤解が解けたり相手の考え方が変わったりした例はありましたか?

石川:うーん、匿名のクソリプで絡んでくる人にはいないですね。きっと、わかろうって気持ちもないんだと思います。

 ただ、悪意なくクソリプを飛ばすようなタイプの男性の友人から、「ヒステリーな言い方はよくないよ」と言われた時に、私もすぐには言い返せなかったんですけど、ちゃんと考えたうえで「前にそういうこと言ってたけど、よくないよ」って怒ったんです。彼は自分の母親に対しても「ヒステリーだから話を聞かない」と言うこともあったそうなんですが、私が怒った理由を理解してからは、「これも女性差別だったんだね」と改めてくれました。ただし、これは大前提として、友人としての関係性をつくっていく気持ちが互いにあったからこそ成立したのかも知れません。

 私もリアルでは、たとえば会話の中で誰かが差別的な発言をして「んん?」って感じても、やっぱり咄嗟に怒ることはまだできません。あと、これは昔のクセなんですが、相手を立てるような話を提供してしまったりすることもあります。

――石川さんのクソリプ対応を見ていると、一見すると言葉や態度は悪いのかもしれませんが、じつはとても真摯で丁寧な行動だなあと思います。

石川:ありがとうございます(笑)。ただ、相手に対して真摯でいたいというよりは、ただ自分のために、モヤモヤを解き明かしているという感じです。丁寧に説明したところでクソリプしてくる人には伝わらないかもしれないんですけど、自分が納得できることが一番大事なんです。

怒ること、楽しいことは両立する

――今回の著書で石川さんが、「怒るのがめっちゃ楽しい」と仰っていたのもとても印象的でした。

石川:怒ることによって自分の感情を表現できるので、気持ちが安定するんですよね。ストレス解消にもなりますし、健康にも良いと思う(笑)。

 あとは、女性はステレオタイプな女性像、たとえばおしとやかであることを求められているので、喜怒哀楽のなかでもとくに怒るという感情を表出することは良しとされていないと感じていて、違和感があります。

――石川さんを見ていると、イヤな言葉を浴びせられたり、軽んじられたりしたときは、ちゃんと怒ったほうがいいし、怒ってもいいんだよなって思えます。

石川:怒っているロールモデルを見せたいという気持ちはありますね。Twitterで酷いこと言ってくる相手には、わざと強く出たり、言葉遣いを相手に合わせて私もあえて悪くしたりしている側面もあります。もちろん、怒っているだけでは終われないので、きちんと結果を出していきたいとも思っていますね。

――石川さんのその姿に勇気づけられる女性は多いと思います。自分の怒りという感情をないがしろにしていた女性も多いと思います。

石川:私もこれまでは、自分の怒りという感情をちゃんと見てこなかったんですけど、こうやって怒ってみると意外と冷静な自分もいて、楽しいと感じている。この感覚を言語化するのは難しいんですが、怒ることと楽しいことは両立するんじゃないかなと思っているんです。私自身、怒ることができるようになった今の方が幸せなんですよ。

 もちろん、怒りたくない人は怒らなくていいんです。ただ、我慢をしている人には、怒るという選択肢もあるし、怒りを表明するこちら側にきても楽しいよ、と伝えたいです。

 あと、怒っていたら女性はモテない、というのは幻想だと思っています(笑)。私は怒るようになってからの方が男性ともうまくいくようになりましたし、そもそも女性が怒っているだけでイヤだなんていうようなつまらない男性にはモテなくてもいいって思えるようになりましたから。

――私も、怒ってもいい時は、怒れるようになりたいです。

石川:一番大切なのは、自分のために行動するということなんです。「自分を大事にする」という言葉は昔から言われてきたし、上辺だけの言葉は知っていましたけど、私が本当の意味を理解したのは30歳を超えてからなんです。もしどこかモヤモヤした思いを感じている方がいるなら、ジェンダーやフェミニズムのことについて自分なりに調べてみると、もしかしたら解決していくかもしれません。

 「#KuToo」を発信したことでクソリプもたくさん頂戴しましたが、私がすごく心強いなと思っているのは、「#KuToo」の運動を説明する場に呼ばれて行くと、いつも年上のフェミニストの方々がアドバイスをくださったり、優しく応援してくださったりすることなんです。フェミニスト同士が世代を隔てずにつながって、上の世代のフェミニストの先輩たちからもっと学んでいけるようになったらいいなと思いますね。

 怒ることも、フェミニズムについて勉強することも、自分が心地よく生きていくためには何をしたらいいのかという視点で考えてもらえたら嬉しいです。自分を本当に大切にするってどういうことなんだろうと考え始めてから、私は変わりました。

(取材・構成=雪代すみれ)

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