あらゆるモノがAirbnb化する「サブレットエコノミー」の時代へようこそ

クルマ、プライヴェートジェット、裏庭アパートから昼寝用ベッドまで。ここ数年、米国では、使っていないスペースやモノを他人に有料で貸し出すためのプラットフォームが増えている。拡大する「サブレット(一時貸し)エコノミー」を考える。

 Yachts in harbor

WALTER BIBIKOW/GETTY IMAGES

ジャクリン・バウムガーテンは、ミシガン湖でセーリングをして育った。家族とボートに乗り、広い水の上で気ままに過ごした時間は最高の思い出だ。2人の兄は成人後、水上のアドヴェンチャーをさらに楽しもうとボートを買った。

その兄たちがあるとき、同じ週にそれぞれ電話をかけてきて、めったに使わないボートの維持費が高くて困ると話すのを聞いて、バウムガーテンはこの問題を解決しようと思い立った。

Airbnbから始まった「サブレットエコノミー」

バウムガーテンは兄たちの悩みを、「Boatsetter」というビジネスに変えた。いわば「ボート版Airbnb」だ。ボートの所有者がこのプラットフォームに自分のボートを登録しておくと、水の上で1日を過ごしたい人がそれを数百ドルでレンタルできる仕組みである。

Boatsetterはユーザーに対して、保険をグループで格安に購入できるピアツーピア(P2P)保険も提供している。また、セーリング経験のないユーザーのために、有料でボートを操縦してくれる船舶操縦士のネットワークも提供している。

Boatsetterのようなスタートアップは増えており、ボートや予備の寝室、裏庭のスペースなど、値の張るものを貸し借りする新たな市場を形成しつつある。「サブレット(一時貸し)エコノミー」といったところだろうか。自分の所有するものは何でも追加の収入源になり、借りたいものは何でも、親切な赤の他人からレンタルすることができる。

このビジネスモデルを生み出し広めたのは、Airbnbだ。いまや世界中で利用されるAirbnbだが、2008年の創業当時、自宅を宿泊所に提供したり、数百ドルを払って知らない人のゲストルームに寝泊まりしたりするというアイデアは斬新なものだった。住宅を丸ごとレンタルできる「VRBO」などのウェブサイトは当時から存在したが、ひと部屋単位で借りるというやり方は、主に安く旅行するバックパッカーや、お金のない大学生向けの選択肢だった。

しかし、いまやレンタル市場はあらゆる品を扱い、あらゆる人が利用するものになった。Airbnbに似たマーケットプレイスを通じて、自動車(Turo)から物置き(Spacer)、プライヴェートジェット(Jettly:)まで、さまざまなものを借りられる。昼寝用に誰かのベッドを借りたり(Globe)、誰かの家のプールで遊ぶことだって可能だ(Swimply)。

使われていない土地を資産に

「あまり使っていない資産を定期的な収入源に変えることに、高い関心がもたれています」と、スペンサー・バーリーは言う。バーリーは、住宅所有者が使っていない屋外スペースを賃貸住宅に変えるサーヴィス「Rent the Backyard」の共同創業者だ。

Rent the Backyardは、空いている裏庭にコテージスタイルのワンルームアパートを建て、それを単身者に貸し出す。建築費を負担する代わりに、同社が家賃の半分を受け取る仕組みだ。ウェブサイトは住宅所有者に対して、年間で最大12,000ドル(約130万円)の収入をもたらすとうたっている。

Rent the Backyardが目下、最初のアパート群を建設しているサンフランシスコのベイエリアは、住宅難で物件の価格が高騰している。住宅所有者にとっては、裏庭のスペースをお金に換えることで住宅ローン返済の足しになる。借りる側にとっては、家賃が高く空きが少ない従来のアパートに代わる選択肢となる。「同じ大きさのパイから分け前を奪い合うのでなく、全員に行きわたるようにパイを大きくしているのです」とバーリーは言う。

キャンプ場のAirbnbである「Hipcamp」も、似たようなビジネスだ。このプラットフォームでは、空いている裏庭や私有地をキャンパーに宿泊場所として貸し出している。50ドル(約5,400円)を支払うと、例えばサンフランシスコの北にあるマウント・タマルパイス州立公園の近くで、私有地の花壇にテントを張ることができる。そのほか、寝泊まりできるティピー(ネイティヴアメリカンのテント)、ツリーハウス、ゲル(モンゴルのテント)や、私有の農地、牧草地を米国各地で見つけられる。

Hipcampの創業者兼最高経営責任者(CEO)のアリッサ・ラヴァジオは言う。「米国の土地の50パーセントは私有地ですが、立ち入る人が少なく、手つかずのままの土地が多くなっています。キャンパーは新しいキャンプ地が使えて大喜びですし、土地の所有者は新しい収入源ができて大喜びです」

Hipcampを利用するキャンパーの多くは、都市部に住む若者たちだ。若者たちは都会を離れたひとときを、そしておそらくInstagramでシェアできる目新しい体験を求めている。「驚くのは、Hipcampに土地を貸し出すほうの土地所有者は、それと正反対の人々だということです。多くは典型的な田舎の人で、年齢層は高いです」とラヴァジオは話す。

Hipcampのホストは、Airbnbと同様に、ゲストをもてなす義務は特にない。それでもラヴァジオによると、ゲストの相手をするホストの多くが、自分の土地や暮らしについての知識を提供するのだという。

ビジネスはさらに「体験」重視へ

Hipcampはおしゃれなキャンプスポットを見つける手段というだけでなく、通常なら決して出会う機会のない人々を結びつける場所でもあると、ラヴァジオは考えている。

独創的な体験ができるという魅力は、サブレットエコノミーが人々の関心を引く要因のひとつになっている。Airbnbが提供する「体験」にも、料理教室やDJプレイ体験などのメニューはあるが、どこまでも広がる牧羊地にテントを張って夜を過ごすことができるのはHipcampだけだ。

また、クルージングはありきたりだが、Boatsetterを利用すれば、遠洋での釣りやスノーケリング、サンドバー(潮の満ち引きによって現れる浅瀬)ウォーク、水上スキーなどの1日を楽しめる。

こうした共有型の体験をビジネスにする流れは、さらに広がりを見せている。例えばボナペツアー(BonAppetour)シェフズフィード(ChefsFeed)といったスタートアップは、知らない人の台所に招かれ、その家庭のディナーに加わり、彼らと食事をともにするという体験を、高級レストラン並みの料金で提供している。

避けられないトラブルにどう対処するか

人々が進んで自分の家や自動車、ボート、生活を共有するようになるにつれ、そうした体験を仲介するスタートアップの側は、責任という問題に直面することになる。モノの貸し借りは、かつては信頼関係のなかだけで得られる特権だった。しかし、見知らぬ他人を受け入れる人が増えているいま、企業はその信頼が裏切られた場合に備えなくてはならない。

AirbnbやUberといった企業は長年、自分たちは単なるマーケットプレイスにすぎないとして責任を回避してきた。そんな両社も、プラットフォームを利用する人々を守る対策の強化に乗り出してはいるが、その保証の範囲はいまだ限定的だ。

Airbnbは、物件を貸すホスト向けに100万ドル(約1億860万円)の賠償責任保険を提供しているが、例えば高価な家財を盗まれた場合や、住宅所有者の不注意により死亡事故が発生した場合などには適用されない。

サブレットエコノミーに最近参入したスタートアップ各社は、信頼をどうやって管理するかという取り組みにも力を入れている。バウムガーテンはBoatsetterのサーヴィス構築にあたり、8カ月かけてボート保険のことを猛勉強したという。レクリエーション保険は、レンタルされたものには適用されないからだ。

「われわれはいまのところ、ボートシェアリング業界でP2P保険を提供する唯一の企業です。保険会社のガイコ・マリン(GEICO Marine)との提携を通じて、これを実現しています」とバウムガーテンは言う。さらに同社は緊急事態に備えて、24時間体制の水上支援も提供している。

万が一の事故も心配だが、裏庭やベッドルームなど、私的な空間を共有することは、ときに気まずい事態を招くという現実もある。『ニューヨーカー』誌のあるライターは先日、「プールのAirbnb」であるSwimplyを試した。プールで泳ぐのは気持ちがよかったが、プール脇のデッキが汚れていて、ビールのプラスティックカップが散乱していたという。しかも、家の持ち主は利用者のプライヴァシーを尊重すると約束したのに、家の裏手の窓からずっと姿が見えていた。

残念ながら、ホテルのプールとはやはり違う。しかし、サブレットエコノミーがもたらす「本物」の体験には、妥協がつきものなのだ。

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ドキュメンタリー「天才の頭の中:ビル・ゲイツを解読する」は、「1万時間の法則」を否定している:番組レヴュー

Netflixのドキュメンタリーシリーズ「天才の頭の中:ビル・ゲイツを解読する」。157分間に凝縮された彼の非凡ぶりは、「1万時間の法則」を真っ向から否定するものだった。ゲイツに35年にわたってインタヴューしてきた『WIRED』US版編集主幹、スティーヴン・レヴィによるレヴュー

TEXT BY STEVEN LEVY
TRANSLATION BY KAREN YOSHIHARA/TRANNET

WIRED(US)

Bill Gates

デイヴィス・グッゲンハイム監督による「天才の頭の中:ビル・ゲイツを解読する」。マイクロソフト共同創業者であるゲイツの頭のなかを深く掘り下げていく3部構成のドキュメンタリーだ。PHOTOGRAPH BY SAEED ADYANI/NETFLIX

もし“天才”が存在するのだとしたら、それはビル・ゲイツのことだ。Netflixでリリースされた3部構成のドキュメンタリー「天才の頭の中:ビル・ゲイツを解読する」は、その名の通り、マイクロソフト共同創業者であるビル・ゲイツの頭のなかを深く探っていく作品である。

しばらく観ていると、ゲイツがやはり常人ではないことに気づかされる。妻のメリンダは、ゲイツの頭のなかを「完全なカオス」と表現しつつも、ゲイツには自分の考えていることを体系化し、そこに膨大な量の情報を融合させて、“ダイソン”のごとく吸い込み(この比喩には一般的な“掃除機”という表現では弱すぎる)、それを実行に移すというやり方があるのだと説明した。

情熱を傾けていることについて惜しみなく説明するゲイツからは、実際にその脳が活発に働く様子を垣間見ることができる。ゲイツが最近情熱を傾けているのは、ポリオの撲滅、貧困国のための安価なトイレの開発、またメルトダウンを起こさない原子力発電所の設計といったことだ。

そうした活動が、いずれも崇高な探求であることは明白である。しかし、デイヴィス・グッゲンハイム監督(『不都合な真実』)が、それらの事業を興味深く見せるために全力を尽くしているにもかかわらず、観終わったあとにはゲイツが取り組んでいることをもっと知りたいという思いが募る。

「1万時間の法則」は正しいのか?

驚くべきことに、グッゲンハイムはゲイツに自由に質問することを許されていた。このため全編157分に及ぶシリーズで、ゲイツの考え方をほぼあらゆる側面から捉えることに成功している。

ゲイツはほかの誰とも間違えようのないあの単調なトーンで、自分自身の人生を率直に考察し、自分が下してきた重要な決断について、もの思いにふけりながら説明する。ゲイツの知性の高さは疑う余地はないし、変わり者であることも明らかだ。過去35年間にわたりゲイツにインタヴューしてきた経験から、わたしは証言できる。これは本物だ。

ただ、これはグッゲンハイムの意図するところではないものの、わたしの見る限り「天才の頭の中:ビル・ゲイツを解読する」には、もうひとつの側面がある。マルコム・グラッドウェルの著書『天才! 成功する人々の法則』の仮説を覆しているのだ。

グラッドウェルは、天才をつくる公式を解読したと公言し、必要なのは1万時間の練習と養育環境、タイミング、そして少しの運だと結論づけている。グラッドウェルは、ビートルズはハンブルクのいかがわしい酒場で何カ月も夜通し楽器を演奏し続けたと書いた。ほんの子どもだったビル・ゲイツも、四六時中プログラミングに明け暮れている。

だがわたしは、この法則を信じたことはない。何かの練習に1万時間を費やすことぐらい誰にでもできる。それなのに、あのビートルズの音楽を生み出すことができたのは、世界でたったひとつのバンドだけだ。

アデルは、あの歌声で1万時間以上歌ってきたはずだ(喉の問題を多数抱えているのはそのせいに違いない)。彼女は確かに優れた歌手ではあるが、天才ではない。対して、エイミー・ワインハウスは天才そのものだった。ワインハウスがこの世を去るまでにダップ・キングスと歌えた時間は、おそらく1万時間に満たなかったはずだ。

スティーブ・ジョブズはどうだろう? もしスティーブ・ジョブズのようになりたかったら、いったい何に1万時間を費やせばいいのだろうか?

ゲイツは地球に降り立った火星人だった

だからこそ、ビル・ゲイツ本人にグラッドウェルの『天才! 成功する人々の法則』について直接尋ねたとき、わたしは大きく失望した。

グラッドウェルは同書でゲイツについても記述しているのだが、わたしは見当違いな話だと感じていた。ゲイツという人間を公式に当てはめて説明することなど、とうていできないからだ。しかし、なんとゲイツはグラッドウェルに賛同した。そう、自分はプログラミングに1万時間をはるかに超える時間を費やしてきたし、ビジネスにも徹底して従事してきたうんぬんと並べ立て、グラッドウェルの仮説は正しいと結論づけたのだ。

だがわたしはいま、自分の正しさが立証されたように感じている。「天才の頭の中:ビル・ゲイツを解読する」が、グラッドウェルの法則を覆してくれたからだ。

グッゲンハイムは、ゲイツの幼少期を掘り下げながら、言ってみればビル・ゲイツは地球に降り立った火星人だったことを明らかにしている。裕福な一族に生まれた赤子のころから、ゲイツは自分の並外れた知性と、世間一般のそれとのあいだに極めて大きなインピーダンスの不整合があることに気づいていた。

ゲイツが驚きのエピソードを語っている場面がある。6年生のときに、両親の意向で難関私立校の入学試験を受けさせられたときのことだ。ゲイツはその学校に入りたいのかを自問し、入りたくなければ、わざと試験に失敗すればいいと考えていた。だが、当時から負けず嫌いだったため、わざと試験に落ちるなど無理だということを悟ったのだ。結果、試験では高得点を収めたという。

そう考えてみると、このように途方もない意欲、才能、ビジネス手腕を兼ね備えた天才が、やがてソフトウェア産業を生み出し、世界長者番付1位の座についたのは、意外なことではない。ゲイツは、1万時間を何らかの練習に費やせる年齢に達するはるか以前から、偉大になることが約束されていたとまでは言わないまでも、類いまれな人物となる片鱗をのぞかせていたのだ。

天才の法則ではなく、ゲイツの心のなかを知るために

グッゲンハイムは、興味深いアプローチでこの天才の人物像に迫っている。

ドキュメンタリーではゲイツの驚くべき知力を深く探っているわけだが、その真の意図はゲイツの心のなかを理解しようとすることにあるのだ。心に関して言えば、ゲイツもわたしたちと同じひとりの人間である。両親の束縛から逃げようとしたり、親しい人たちの死と向き合ったり、愛を追い求めたりしてきた。

パート1では高貴な母親との確執が取り上げられている。ゲイツはセラピストのサポートを得て、抵抗することは「最適ではない」という結論を論理的に導き出すことによって、ようやく母親との関係を取り戻した。

パート2では、少年時代の親友の死に、ゲイツがどのように折り合いをつけたのかが描かれている。この親友の死は、ゲイツの人生に空白を生み、それはポール・アレンやスティーヴ・バルマーでさえ完全に埋めることはできないものだった(このエピソードでは、アレンの死についても触れられている)。

続くパート3では、原子力エネルギー再興の正当性を説明する一方で、ビル&メリンダ・ゲイツ財団の2本柱を成すふたりのラヴストーリーに焦点が当てられている(ここではメリンダ・ゲイツが主役の座を奪っている)。

グッゲンハイムが、マイクロソフトを経営していたときの“企業殺し屋”としてのゲイツではなく、人類のために献身する円熟したビル・ゲイツと時間をともにできたのは幸運だった。当時のゲイツにインタヴューする際には、戦いへの身構えが必要だった。少しでも踏み誤れば、話題をブラウザー戦争の話に戻すために10分は要したものだ。

しかし、世界最大のソフトウェア企業の経営とは対照的に、世界最大の問題の解決に挑むようになったいま、ゲイツの徹底ぶりは健在ながらも、好戦的な姿勢は和らいでいる。また、ドキュメンタリー内でも説明されているように、現在のゲイツの快活さには、愛情も大きく関係している(これには3人の子どもをもったことも含まれるが、どういうわけか本番組では子どもたちについては触れられていない)。

ゲイツは、いまも変わり者ではあるが、そのようなイメージで見られていることを理解している。グッゲンハイムに他愛のない質問を立て続けに投げかけられたときにも、戸惑いつつも答えを返す。「朝食には何を?」との問いには、「食べない」という調子で。

また、ゲイツが運転をしたり、本を詰め込んだバッグをもって寝室に向かったりというありふれた行動をしている映像も収められている。それも楽しめる光景だ。わたしたちが日常的にするのと同じことを、ビル・ゲイツもしているなんて想像もつかないではないか。なんたって、ビル・ゲイツは天才なのだから。

「天才の頭の中:ビル・ゲイツを解読する」を観れば、ゲイツについて多くのことを知れる。しかしグッゲンハイム監督は、何が、あるいは誰が、ゲイツという超非凡な人間をつくりあげたのかは導き出していない。マルコム・グラッドウェルにだって、そんなことはできないのだ。

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