観衆が総立ちで自分の名を呼び、ジャンプで迎えてくれる。安打数では圧倒しながら2点差の9回。二ゴロ、三振でアウトを重ね、最後の球は得意のツーシームだった。空を切らせ、日本の守護神・山崎が毎回15奪三振の継投を締めくくった。
「うちの自慢のピッチャー、今永に始まって甲斐野くん、(山本)由伸くんとブルペンで見ていて勢いを感じたし、それに乗っかれました。僕が初めて参加したのもルーキー(前回のプレミア12)でしたが、僕からしたら考えられないくらい甲斐野くんは落ち着いている。みんなから受ける刺激が、僕自身の財産になります」
他の投手からすれば、彼がブルペンにいるからこそ、安心して投げられる。すさまじい重責と引き換えに得られる充実は、ひとときのことにすぎない。
「重圧のかかるポジションだとよくいわれますが、それだけやりがいのある仕事を与えられている。僕の使命だと思っています」
彼には「プロ野球選手」を目指した明白なきっかけがある。小学生のころ、親同士が付き合いのあった選手から、サインをもらった瞬間だ。
「森本稀哲さんです。サインだけじゃなく、いろんな夢をもらいました。だから僕も侍ジャパンとして、子どもたちに夢を与えていきたいんです」。投げる球は言うに及ばず、言動、ちょっとしたしぐさ。プロは常に見られている。弱い自分を閉じ込めて、仕事場に向かう。クローザーに最も必要なものは何か。彼に問うた。
「気持ち…。でしょうか。僕には大谷くんのような球があるわけじゃない。僕は大学(亜大)のころ、ジャパンでも抑えを任されていたんですが、その大会でタイブレークを経験しました。あそこに行けば、誰も助けてくれないんです」
マウンドでは孤独だが、この日は声援が後押ししてくれた。全勝のメキシコに土をつけた勝利は、野球を愛する子どもたちに夢を与えたはずだ。