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 南米大陸のほぼ中央に位置するボリビアは、資源に恵まれながらも貧困に悩む国である。

 その国を14年間率いたモラレス大統領が辞任した。反対勢力のデモのうねりに追われるように、メキシコに亡命した。

 同国で初めての先住民出身大統領になり、貧困層の味方として一時は絶大な人気を誇った。だが政権が長びくにつれ、独裁色を強めてしまった。

 大統領の任期制限を定めた憲法の解釈をゆがめ、先月の大統領選挙では不正が指摘されていた。警察や軍も離反したのは、無理もあるまい。

 野党の上院副議長が暫定大統領就任を宣言したが、分裂した民衆が衝突しかねない情勢だ。早急に出直し大統領選を行い、国民和解を図る必要がある。

 モラレス政権は、反米左派を掲げていた。今回の政変について、トランプ米大統領は歓迎を表明した。同じく反米陣営を形つくるベネズエラやキューバにも影響が及ぶことを期待しているのだろう。

 だが、中南米の混迷を考える時に忘れてならないのは、米国の露骨な介入が歴史的に影響を及ぼしてきた責任である。

 西半球地域で圧倒的な存在である米国では、中南米のことを「裏庭」と呼ぶことがある。資源をほぼ独占し、冷戦期も内政にたびたび干渉した。

 今もトランプ政権は混乱が続くベネズエラで、親米化への圧力を続けている。オバマ前政権が国交を回復したキューバには一部の制裁を元に戻した。

 いまだに親米か反米かの踏み絵を迫る偏狭な米国の政策こそが、反米意識をあおっている現実を直視すべきだろう。

 この秋はボリビアに加え、隣のチリやアルゼンチンでも変動が広がっている。状況を見渡すと、右派か左派かという対立軸だけで語ることは難しい。

 チリでは、中道右派のピニェラ政権の下で格差が拡大した。これに国民の不満がデモで爆発し、今月に予定されていたアジア太平洋経済協力会議APEC)首脳会議の開催が中止される異常事態に至った。

 アルゼンチンの大統領選では、緊縮路線をとってきた右派から左派が政権を奪回した。

 振り子のように揺れる民意に共通するのは社会の矛盾に向き合わない政治への不信だろう。「政敵」ばかりを強調し、足元の格差や汚職、治安に真剣に取り組もうとしない政治が、政変の繰り返しを生んでいる。

 米国も中南米諸国も、まずは指導層が率先して不毛な対立をやめるべきだ。ラテンアメリカが秘める豊かな潜在力を、新たな地域協調で掘り起こす努力を強めたい。

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